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6話
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私が悠々自適ライフの準備を着々と進めている頃、王宮では私とアルフ殿下の婚約破棄騒動が、大きな波紋を広げていた。
場面は、王宮内にある貴族たちのサロン。
数人の貴婦人たちが、扇で口元を隠しながら、ひそひそと噂話に花を咲かせている。
「ねえ、お聞きになって? リール公爵家のご令嬢のこと」
「ええ、もちろんよ。アルフ殿下に婚約を破棄されたのでしょう? なんでも、子爵家のセシリー様を苛めていたとか……」
「それが、どうも話が違うようなのよ」
一人の伯爵夫人が、声を潜めて言った。
「うちの夫が、あの謁見の間にいたのだけれど、ミリアーナ様は少しも動じず、逆に殿下へ慰謝料を請求なさったんですって!」
「まあ、慰謝料ですって!?」
「しかも、その額が金貨170万枚! そして陛下は、その支払いを命じる勅令をお出しになったそうよ」
その場にいた貴婦人たちの間に、驚きの声が広がる。
「待ってちょうだい。もし本当にミリアーナ様に非があったのなら、陛下がそのような大金の支払いを命じるはずがないのではなくて?」
「そうよ! むしろ、アルフ殿下の方が、あの可憐なセシリー様に誑かされて、ミリアーナ様を一方的に断罪してしまった、と考える方が自然だわ」
「わたくしもそう思うわ。そもそもミリアーナ様は、昔から冷静で聡明な方。嫉妬から嫌がらせをするような、浅はかなお方とは思えないもの」
風向きは、明らかに変わり始めていた。
最初は私を「悪役令嬢」と見ていた貴族たちも、事の真相が見えてくるにつれ、アルフ殿下とセシリー嬢に疑いの目を向け始めたのだ。
一方、そのアルフ殿下はというと。
「なぜだ! なぜ皆、ミリアーナの肩を持つようなことばかり言うのだ!」
自室で、アルフは苛立ちを隠せずにいた。隣には、不安そうな顔で彼を見上げるセシリーがいる。
「アルフ様……」
「ミリアーナが悪女で、お前が被害者だということは、明白な事実ではないか! それなのに、父上までが慰謝料の支払いを認めるとは……!」
アルフは、自分の思い通りにならない状況に、ただただ腹を立てていた。
彼は、自分が世間からどのように見られているのか、全く理解していなかった。
婚約者がいながら他の令嬢にうつつを抜かし、証拠もないまま公の場で婚約者を断罪した愚かな王子。それが、今の彼の評価だった。
「大丈夫ですわ、アルフ様。真実は、いつか必ずわかってもらえます」
セシリーはそう言ってアルフを慰めるが、彼女の瞳の奥には、隠しきれない不安の色が浮かんでいた。ミリアーナのあの、全てを見透かすような冷たい瞳が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。
その頃、国王陛下は、執務室で宰相とチェスを指していた。
「ふむ。ミリアーナ嬢、なかなか面白い手を使う」
陛下はチェスの駒を一つ進めながら、満足そうに呟いた。
「アルフの奴には、良い薬になりましょう。王族たるもの、私情で物事を判断し、一方的に人を断罪するなど、あってはならんことですからな」
「いかにも。しかし、リール公爵令嬢のあの胆力と頭脳、大したものでございますな」
宰相の言葉に、陛下は深く頷いた。
「うむ。彼女はただの公爵令嬢ではない。あれは、国を動かす器やもしれんぞ」
陛下は窓の外を見やり、楽しそうに目を細めた。
彼の視線の先では、王都が夕焼けに染まっている。
嵐の前の静けさ。
いや、嵐はもう、始まっているのかもしれない。ミリアーナ・リールという、美しくも猛々しい嵐が。
場面は、王宮内にある貴族たちのサロン。
数人の貴婦人たちが、扇で口元を隠しながら、ひそひそと噂話に花を咲かせている。
「ねえ、お聞きになって? リール公爵家のご令嬢のこと」
「ええ、もちろんよ。アルフ殿下に婚約を破棄されたのでしょう? なんでも、子爵家のセシリー様を苛めていたとか……」
「それが、どうも話が違うようなのよ」
一人の伯爵夫人が、声を潜めて言った。
「うちの夫が、あの謁見の間にいたのだけれど、ミリアーナ様は少しも動じず、逆に殿下へ慰謝料を請求なさったんですって!」
「まあ、慰謝料ですって!?」
「しかも、その額が金貨170万枚! そして陛下は、その支払いを命じる勅令をお出しになったそうよ」
その場にいた貴婦人たちの間に、驚きの声が広がる。
「待ってちょうだい。もし本当にミリアーナ様に非があったのなら、陛下がそのような大金の支払いを命じるはずがないのではなくて?」
「そうよ! むしろ、アルフ殿下の方が、あの可憐なセシリー様に誑かされて、ミリアーナ様を一方的に断罪してしまった、と考える方が自然だわ」
「わたくしもそう思うわ。そもそもミリアーナ様は、昔から冷静で聡明な方。嫉妬から嫌がらせをするような、浅はかなお方とは思えないもの」
風向きは、明らかに変わり始めていた。
最初は私を「悪役令嬢」と見ていた貴族たちも、事の真相が見えてくるにつれ、アルフ殿下とセシリー嬢に疑いの目を向け始めたのだ。
一方、そのアルフ殿下はというと。
「なぜだ! なぜ皆、ミリアーナの肩を持つようなことばかり言うのだ!」
自室で、アルフは苛立ちを隠せずにいた。隣には、不安そうな顔で彼を見上げるセシリーがいる。
「アルフ様……」
「ミリアーナが悪女で、お前が被害者だということは、明白な事実ではないか! それなのに、父上までが慰謝料の支払いを認めるとは……!」
アルフは、自分の思い通りにならない状況に、ただただ腹を立てていた。
彼は、自分が世間からどのように見られているのか、全く理解していなかった。
婚約者がいながら他の令嬢にうつつを抜かし、証拠もないまま公の場で婚約者を断罪した愚かな王子。それが、今の彼の評価だった。
「大丈夫ですわ、アルフ様。真実は、いつか必ずわかってもらえます」
セシリーはそう言ってアルフを慰めるが、彼女の瞳の奥には、隠しきれない不安の色が浮かんでいた。ミリアーナのあの、全てを見透かすような冷たい瞳が、脳裏に焼き付いて離れないのだ。
その頃、国王陛下は、執務室で宰相とチェスを指していた。
「ふむ。ミリアーナ嬢、なかなか面白い手を使う」
陛下はチェスの駒を一つ進めながら、満足そうに呟いた。
「アルフの奴には、良い薬になりましょう。王族たるもの、私情で物事を判断し、一方的に人を断罪するなど、あってはならんことですからな」
「いかにも。しかし、リール公爵令嬢のあの胆力と頭脳、大したものでございますな」
宰相の言葉に、陛下は深く頷いた。
「うむ。彼女はただの公爵令嬢ではない。あれは、国を動かす器やもしれんぞ」
陛下は窓の外を見やり、楽しそうに目を細めた。
彼の視線の先では、王都が夕焼けに染まっている。
嵐の前の静けさ。
いや、嵐はもう、始まっているのかもしれない。ミリアーナ・リールという、美しくも猛々しい嵐が。
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