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19話
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私が会場の注目を独り占めしている状況が、よほど気に入らなかったのだろう。
追い詰められたセシリー嬢が、ヴァルモン公爵に促される形で、最後の悪あがきを始めた。
「皆様、お聞きくださいまし!」
セシリーは、楽団の演奏を止めさせると、震える声で叫んだ。
会場の視線が、再び彼女に集まる。
「そこにいるミリアーナさんは、かつてわたくしの食事に毒を盛ろうとした、恐ろしい方なのです! わたくしには、証人がおります!」
彼女が合図をすると、青白い顔をした若い侍女が、前に進み出た。
かつてセシリーに仕えていた侍女だ。
「わ、わたくしは、見ました! ミリアーナ様が、セシリー様のお食事に、怪しい小瓶から粉を振りかけているのを……!」
会場が、ざわめきに包まれる。
アルフ王子は「そうだ、ミリアーナはそういう女なのだ!」とでも言いたげな顔をしている。
ヴァルモン公爵は、満足げに頷いていた。
しかし、私は冷静だった。むしろ、待ってました、とさえ思っていた。
「まあ、大変。わたくしが、毒を?」
私はゆっくりと、彼らの前へ進み出た。
「それで、その侍女の方。あなたがそれをご覧になったのは、いつのことかしら?」
「え、ええと……た、確か、去年の春の、女王陛下のお茶会の時でございます……!」
「なるほど。去年の春のお茶会、ね」
私はグレイソンに目配せをした。彼は恭しく一礼すると、一枚の公文書を取り出した。
「陛下、失礼いたします。こちらは、リール公爵家の領地への渡航記録でございます。ミリアーナお嬢様は、そのお茶会が開かれた一週間、公務のためずっと領地におり、王都にはいらっしゃいませんでした。ここに、領地管理官の署名もございます」
グレイソンの言葉に、侍女の顔がサッと青くなる。
「そ、そんなはずは……わ、わたくしは確かに……」
「それに」と、今度はカイルが前に進み出た。
彼の後ろには、王宮薬師長の姿があった。
「薬師長。セシリー嬢が、その時飲んだとされるお茶の成分を、先日調べさせていただきましたな。結果は?」
「はい。調査の結果、セシリー様のお茶からはいかなる毒物も検出されませんでした。含まれていたのは、安眠効果のある、ごく普通のハーブのみでございます」
薬師長の言葉が、決定打となった。
「さあ、もう一度聞くわ。あなた、本当に見たの?」
私が鋭く問い詰めると、追い詰められた侍女は、ついに泣き崩れた。
「う、嘘でございます……! ヴァルモン公爵様に仕える、伯爵様からお金を渡されて、嘘の証言をするようにと……!」
侍女の絶叫が、大広間に響き渡る。
会場は、水を打ったように静まり返った。
全ての視線が、ヴァルモン公爵と、顔面蒼白のセシリー嬢、そして怒りと羞恥で顔を真っ赤にしたアルフ王子に突き刺さる。
計画は、完璧に破綻した。
この空虚なパーティーは、彼らの完全な失墜を、満天下に示す舞台となったのだった。
追い詰められたセシリー嬢が、ヴァルモン公爵に促される形で、最後の悪あがきを始めた。
「皆様、お聞きくださいまし!」
セシリーは、楽団の演奏を止めさせると、震える声で叫んだ。
会場の視線が、再び彼女に集まる。
「そこにいるミリアーナさんは、かつてわたくしの食事に毒を盛ろうとした、恐ろしい方なのです! わたくしには、証人がおります!」
彼女が合図をすると、青白い顔をした若い侍女が、前に進み出た。
かつてセシリーに仕えていた侍女だ。
「わ、わたくしは、見ました! ミリアーナ様が、セシリー様のお食事に、怪しい小瓶から粉を振りかけているのを……!」
会場が、ざわめきに包まれる。
アルフ王子は「そうだ、ミリアーナはそういう女なのだ!」とでも言いたげな顔をしている。
ヴァルモン公爵は、満足げに頷いていた。
しかし、私は冷静だった。むしろ、待ってました、とさえ思っていた。
「まあ、大変。わたくしが、毒を?」
私はゆっくりと、彼らの前へ進み出た。
「それで、その侍女の方。あなたがそれをご覧になったのは、いつのことかしら?」
「え、ええと……た、確か、去年の春の、女王陛下のお茶会の時でございます……!」
「なるほど。去年の春のお茶会、ね」
私はグレイソンに目配せをした。彼は恭しく一礼すると、一枚の公文書を取り出した。
「陛下、失礼いたします。こちらは、リール公爵家の領地への渡航記録でございます。ミリアーナお嬢様は、そのお茶会が開かれた一週間、公務のためずっと領地におり、王都にはいらっしゃいませんでした。ここに、領地管理官の署名もございます」
グレイソンの言葉に、侍女の顔がサッと青くなる。
「そ、そんなはずは……わ、わたくしは確かに……」
「それに」と、今度はカイルが前に進み出た。
彼の後ろには、王宮薬師長の姿があった。
「薬師長。セシリー嬢が、その時飲んだとされるお茶の成分を、先日調べさせていただきましたな。結果は?」
「はい。調査の結果、セシリー様のお茶からはいかなる毒物も検出されませんでした。含まれていたのは、安眠効果のある、ごく普通のハーブのみでございます」
薬師長の言葉が、決定打となった。
「さあ、もう一度聞くわ。あなた、本当に見たの?」
私が鋭く問い詰めると、追い詰められた侍女は、ついに泣き崩れた。
「う、嘘でございます……! ヴァルモン公爵様に仕える、伯爵様からお金を渡されて、嘘の証言をするようにと……!」
侍女の絶叫が、大広間に響き渡る。
会場は、水を打ったように静まり返った。
全ての視線が、ヴァルモン公爵と、顔面蒼白のセシリー嬢、そして怒りと羞恥で顔を真っ赤にしたアルフ王子に突き刺さる。
計画は、完璧に破綻した。
この空虚なパーティーは、彼らの完全な失墜を、満天下に示す舞台となったのだった。
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