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「いやぁぁぁ!! やめてぇぇ!! 私の翼がぁぁ!!」
会議室に、ルルナの断末魔のような叫びが響いた。
私が彼女の背中にある「天使の羽」をむしり取ったからだ。
ブチブチッという音と共に、安っぽい綿と針金でできたそれは、哀れな残骸となって床に落ちた。
「……やはり。ただの小道具ですね」
私は羽の残骸をヒールの先で突いた。
「しかも、接着剤の匂いがします。百均……いえ、雑貨屋の手作りキットでしょうか? 工作の授業なら『Bマイナス』の出来栄えです」
「ひ、ひどい……! 私の聖なる力が……!」
ルルナはその場にへたり込み、涙目で私を睨みつけた。
その瞳には、先ほどまでの「慈愛」など欠片もなく、どす黒い憎悪が渦巻いている。
「あんた……よくもやったわね! この『悪役令嬢』風情が!」
口調が変わった。
猫が剥がれ落ちたようだ。
レジナルド殿下が、目を白黒させている。
「ル、ルルナ? 言葉遣いが……」
「うるさいわね、レジ! 今、取り込み中なのよ!」
「レ、レジ……?」
殿下がショックで後ずさる。
私はニヤリと笑い、ルルナの前にしゃがみ込んだ。
「さて、お嬢さん。さっきの言葉の続きを聞きましょうか。『シナリオ』とは何のことです?」
「……ふん! 知らないなら教えてあげるわよ!」
ルルナは開き直ったように叫んだ。
「あんたはね、本来なら婚約破棄されて、家を追い出されて、貧民街で野垂れ死ぬ運命なのよ! そして私がレジ様と結ばれて、この国の王妃になって、幸せな『ハッピーエンド』を迎えるはずだったの!」
「ほう。誰が決めたのです?」
「『運命』よ! そういうお話なの! なのに、なんであんたが隣国の公爵なんてSSRキャラ(超レア物件)とくっついてんのよ! おかしいじゃない!」
SSRキャラ。
聞き慣れない単語だが、文脈からして「最高級」という意味だろう。
後ろでアイザック公爵が「私は物件扱いか」と苦笑している。
「……なるほど。貴女は自分が『物語のヒロイン』で、世界は自分を中心に回っていると信じているわけですね」
「信じてるんじゃないわ、事実よ! 私は選ばれたの! だから、あんたは早く不幸になりなさいよ! 私の引き立て役として、惨めに這いつくばりなさいよ!」
ルルナの絶叫。
それはあまりに身勝手で、幼く、そして滑稽だった。
私はゆっくりと立ち上がり、彼女を見下ろした。
「……可哀想に」
「は? 何よ」
「貴女、自分の足で立ったことがないのですね」
「……え?」
「『運命』だの『シナリオ』だの、誰かが書いた筋書きに頼って、自分が努力することを放棄している。私が不幸になるはず? 私が野垂れ死ぬはず?」
私は扇子でピシャリと自分の掌を叩いた。
「笑わせないでください。私が今の地位を築いたのは、運命のおかげではありません。徹夜で書類を処理し、馬鹿な上司(元婚約者)の尻拭いをし、公爵という猛獣を手懐け、自分の力で勝ち取った結果です」
「な、なによ……」
「貴女のように『ヒロインだから幸せになれる』と口を開けて待っているだけの雛鳥とは、覚悟の量が違います」
私は一歩踏み出した。
ルルナが怯えて後ずさる。
「いいですか? 私の人生の脚本家は、私自身です。貴女の三流シナリオごときで、私のハッピーエンドが書き換えられると思ったら大間違いですわ!」
私の啖呵に、ルルナは言葉を失った。
反論できないのだ。
彼女の薄っぺらい「設定」では、私の積み上げてきた「現実(リアル)」には勝てない。
その時。
「……ルルナ」
低い声がした。
レジナルド殿下だ。
彼は呆然とした顔で、ルルナを見ていた。
「……君は、僕を愛していたんじゃないのか? 『運命』だから、僕を選んだのか? 僕が王子だから……王妃になりたいから、近づいたのか?」
「っ……!」
ルルナが焦ったように表情を取り繕う。
「ち、違うわレジ様! これは……そう、あの女が私に幻覚を見せているのよ! 私の心はいつだってレジ様一筋……」
「『うるさいわね、レジ』」
「えっ」
「さっき、そう言ったじゃないか。……僕に向かって」
殿下の目から、涙がツーッと流れた。
「僕、聞こえちゃったよ。……君の本音」
「あ、あれは……その……」
「君もか……。君も、僕の地位や顔だけが目的だったのか……。モモと同じで……」
殿下はガクリと膝をついた。
その背中は、この世の終わりかと思うほど小さく見えた。
「誰も……僕の中身なんて見てくれないんだ……」
「……」
見ていられない。
あまりの哀れさに、会場中が静まり返る。
私はため息をつき、殿下の肩を扇子でポンと叩いた。
「……殿下。落ち込む前に、学習してください」
「ク、クリム……」
「貴方の中身が空っぽだから、誰も見ないのです。中身を見てほしければ、まずは中身を詰めなさい。勉強をし、政務に励み、人の話を聞く。……そうすれば、いつか『ハエ』ではなく『蝶』が寄ってくるかもしれませんよ」
「……う、ううっ……クリムぅぅぅ!!」
殿下は私の足元にすがりつき、子供のように泣き出した。
「ごめんよぉぉ! 僕が馬鹿だったぁぁ! やっぱりクリムが一番いいぃぃ! 戻ってきてくれぇぇ!」
「絶対にお断りです。鼻水をドレスにつけないでください」
私が殿下を引き剥がしていると、置き去りにされたルルナが、狂ったように笑い出した。
「あは、あははは……! そう、失敗したのね。シナリオ崩壊ってわけね」
彼女はフラフラと立ち上がり、懐から何かを取り出した。
「だったら……無理やりにでもハッピーエンドにしてやるわよ!」
彼女が取り出したのは、赤黒い液体の入った小瓶だった。
「それは……?」
「『惚れ薬』よ! 闇市で大金はたいて買ったの! これを飲ませれば、誰でも私を好きになる……!」
ルルナは瓶の蓋を開け、アイザック公爵に向かって駆け出した。
「レジが駄目なら、そっちの公爵を奪ってやる! 飲みなさいよぉぉぉ!!」
「ボス! 避けて!」
私が叫ぶより早く、アイザック公爵が動いた。
ヒュッ。
公爵は最小限の動きでルルナの突進をかわし、足を引っ掛けた。
「きゃっ!?」
ズシャァァァ!
ルルナは盛大に転び、手に持っていた小瓶が宙を舞った。
そして、その中身が……。
バシャッ。
「……ぶっ!?」
あろうことか、泣いていたレジナルド殿下の顔面に、直撃した。
「……」
全員の動きが止まった。
殿下は顔中、赤黒い液体まみれだ。
甘ったるい、腐った果実のような匂いが漂う。
「……ぺろ」
殿下が、口元についた液体を舐めた。
次の瞬間。
カッ!!
殿下の目が、怪しく光った。
そして、ゆっくりと顔を上げ……。
目の前で転んでいるルルナを見た。
「……ああ、僕の天使(エンジェル)!!」
「えっ?」
「なんて美しいんだ! その泥にまみれた姿! 歪んだ表情! 最高だ! 愛してる! 結婚しよう!!」
殿下は猛獣のようにルルナに飛びついた。
「いやぁぁぁ!! 来ないでぇぇ!! 気持ち悪いぃぃ!!」
「照れるなよハニー! さあ、キッスをしよう! 濃厚なやつを!!」
「ギャァァァァァ!! 助けてぇぇぇ!!」
ルルナの悲鳴と、殿下の求愛の声が、会議室にカオスなハーモニーを奏でる。
惚れ薬の効果は、どうやら抜群だったようだ。
ただし、対象が最悪だったが。
国王陛下が、遠い目をして呟いた。
「……連れて行け」
「はっ!」
近衛兵たちが、絡み合う二人(主に殿下が一方的に絡んでいる)を拘束し、引きずっていく。
「離せぇ! 僕たちは愛し合っているんだぁ!」
「嘘よぉぉ! 誰か助けてぇぇ! シナリオと違うぅぅぅ!」
二人の声は、廊下の彼方へと消えていった。
残されたのは、疲れ果てた国王と、ドン引きしている私たちだけ。
「……クリム嬢」
国王が、深々と頭を下げた。
「……本当に、すまなかった」
「いえ。……お疲れ様です、陛下」
私は心からの同情を込めて言った。
「あの二人は、ある意味『お似合い』かもしれませんね。二度と離れられない『運命』で結ばれたようですし」
「……そうだな。国の恥だが、責任を持って隔離施設で幸せに暮らさせるよ」
国王はヨロヨロと立ち上がった。
「貿易摩擦の件も、鉱山利権の件も、全てそちらの条件を飲む。……だから、もう許してくれ」
「承知いたしました。……お体、ご自愛ください」
国王は背中を丸め、トボトボと去っていった。
その背中には、一国の王の威厳はなく、ただの「苦労人の父親」の哀愁だけが漂っていた。
「……終わったな」
アイザック公爵が、大きく息を吐いた。
「ああ、面白い見世物だった。チケット代を払ってもいいくらいだ」
「悪趣味ですね、ボス」
私は呆れつつも、肩の荷が下りるのを感じた。
これでようやく、本当に、あの泥沼のような因縁から解放されたのだ。
「さて、帰ろうかクリム。我々の城へ」
「ええ、帰りましょう。……あ、でもその前に」
私は公爵に手を差し出した。
「ん?」
「先ほどの『SSRキャラ』発言。……少し嬉しかったので、帰りの馬車では膝枕くらいしてあげてもいいですよ?」
「……!」
公爵が目を輝かせた。
「本当か!? 言ったな? 撤回はなしだぞ!」
「はいはい。ただし、寝言で変なポエムを呟いたら、即座に突き落としますからね」
「善処する!」
私たちは手を繋ぎ、迎賓館を後にした。
空は青く澄み渡り、私の未来のように晴れやかだった。
……はずだったのだが。
城に帰った私を待っていたのは、平穏な日常ではなく。
「閣下! クリム様! 大変です!」
セバスチャンが、血相を変えて飛び出してきた。
「今度は何よ、爺や! もう驚かないわよ!」
「それが……! 帝国の北の国境に、魔物の大群が出現しました!」
「……は?」
「しかも、その指揮官を名乗る魔族が……『クリム・ベルベットを嫁に寄越せ』と言っているそうです!」
「……」
私はアイザック公爵を見た。
公爵は真顔になり、そして静かに剣の柄に手をかけた。
「……どうやら、害虫駆除の規模が『国家レベル』になったようだな」
「……ボス。残業手当、弾んでくださいね?」
私の戦いは、まだまだ終わらないらしい。
会議室に、ルルナの断末魔のような叫びが響いた。
私が彼女の背中にある「天使の羽」をむしり取ったからだ。
ブチブチッという音と共に、安っぽい綿と針金でできたそれは、哀れな残骸となって床に落ちた。
「……やはり。ただの小道具ですね」
私は羽の残骸をヒールの先で突いた。
「しかも、接着剤の匂いがします。百均……いえ、雑貨屋の手作りキットでしょうか? 工作の授業なら『Bマイナス』の出来栄えです」
「ひ、ひどい……! 私の聖なる力が……!」
ルルナはその場にへたり込み、涙目で私を睨みつけた。
その瞳には、先ほどまでの「慈愛」など欠片もなく、どす黒い憎悪が渦巻いている。
「あんた……よくもやったわね! この『悪役令嬢』風情が!」
口調が変わった。
猫が剥がれ落ちたようだ。
レジナルド殿下が、目を白黒させている。
「ル、ルルナ? 言葉遣いが……」
「うるさいわね、レジ! 今、取り込み中なのよ!」
「レ、レジ……?」
殿下がショックで後ずさる。
私はニヤリと笑い、ルルナの前にしゃがみ込んだ。
「さて、お嬢さん。さっきの言葉の続きを聞きましょうか。『シナリオ』とは何のことです?」
「……ふん! 知らないなら教えてあげるわよ!」
ルルナは開き直ったように叫んだ。
「あんたはね、本来なら婚約破棄されて、家を追い出されて、貧民街で野垂れ死ぬ運命なのよ! そして私がレジ様と結ばれて、この国の王妃になって、幸せな『ハッピーエンド』を迎えるはずだったの!」
「ほう。誰が決めたのです?」
「『運命』よ! そういうお話なの! なのに、なんであんたが隣国の公爵なんてSSRキャラ(超レア物件)とくっついてんのよ! おかしいじゃない!」
SSRキャラ。
聞き慣れない単語だが、文脈からして「最高級」という意味だろう。
後ろでアイザック公爵が「私は物件扱いか」と苦笑している。
「……なるほど。貴女は自分が『物語のヒロイン』で、世界は自分を中心に回っていると信じているわけですね」
「信じてるんじゃないわ、事実よ! 私は選ばれたの! だから、あんたは早く不幸になりなさいよ! 私の引き立て役として、惨めに這いつくばりなさいよ!」
ルルナの絶叫。
それはあまりに身勝手で、幼く、そして滑稽だった。
私はゆっくりと立ち上がり、彼女を見下ろした。
「……可哀想に」
「は? 何よ」
「貴女、自分の足で立ったことがないのですね」
「……え?」
「『運命』だの『シナリオ』だの、誰かが書いた筋書きに頼って、自分が努力することを放棄している。私が不幸になるはず? 私が野垂れ死ぬはず?」
私は扇子でピシャリと自分の掌を叩いた。
「笑わせないでください。私が今の地位を築いたのは、運命のおかげではありません。徹夜で書類を処理し、馬鹿な上司(元婚約者)の尻拭いをし、公爵という猛獣を手懐け、自分の力で勝ち取った結果です」
「な、なによ……」
「貴女のように『ヒロインだから幸せになれる』と口を開けて待っているだけの雛鳥とは、覚悟の量が違います」
私は一歩踏み出した。
ルルナが怯えて後ずさる。
「いいですか? 私の人生の脚本家は、私自身です。貴女の三流シナリオごときで、私のハッピーエンドが書き換えられると思ったら大間違いですわ!」
私の啖呵に、ルルナは言葉を失った。
反論できないのだ。
彼女の薄っぺらい「設定」では、私の積み上げてきた「現実(リアル)」には勝てない。
その時。
「……ルルナ」
低い声がした。
レジナルド殿下だ。
彼は呆然とした顔で、ルルナを見ていた。
「……君は、僕を愛していたんじゃないのか? 『運命』だから、僕を選んだのか? 僕が王子だから……王妃になりたいから、近づいたのか?」
「っ……!」
ルルナが焦ったように表情を取り繕う。
「ち、違うわレジ様! これは……そう、あの女が私に幻覚を見せているのよ! 私の心はいつだってレジ様一筋……」
「『うるさいわね、レジ』」
「えっ」
「さっき、そう言ったじゃないか。……僕に向かって」
殿下の目から、涙がツーッと流れた。
「僕、聞こえちゃったよ。……君の本音」
「あ、あれは……その……」
「君もか……。君も、僕の地位や顔だけが目的だったのか……。モモと同じで……」
殿下はガクリと膝をついた。
その背中は、この世の終わりかと思うほど小さく見えた。
「誰も……僕の中身なんて見てくれないんだ……」
「……」
見ていられない。
あまりの哀れさに、会場中が静まり返る。
私はため息をつき、殿下の肩を扇子でポンと叩いた。
「……殿下。落ち込む前に、学習してください」
「ク、クリム……」
「貴方の中身が空っぽだから、誰も見ないのです。中身を見てほしければ、まずは中身を詰めなさい。勉強をし、政務に励み、人の話を聞く。……そうすれば、いつか『ハエ』ではなく『蝶』が寄ってくるかもしれませんよ」
「……う、ううっ……クリムぅぅぅ!!」
殿下は私の足元にすがりつき、子供のように泣き出した。
「ごめんよぉぉ! 僕が馬鹿だったぁぁ! やっぱりクリムが一番いいぃぃ! 戻ってきてくれぇぇ!」
「絶対にお断りです。鼻水をドレスにつけないでください」
私が殿下を引き剥がしていると、置き去りにされたルルナが、狂ったように笑い出した。
「あは、あははは……! そう、失敗したのね。シナリオ崩壊ってわけね」
彼女はフラフラと立ち上がり、懐から何かを取り出した。
「だったら……無理やりにでもハッピーエンドにしてやるわよ!」
彼女が取り出したのは、赤黒い液体の入った小瓶だった。
「それは……?」
「『惚れ薬』よ! 闇市で大金はたいて買ったの! これを飲ませれば、誰でも私を好きになる……!」
ルルナは瓶の蓋を開け、アイザック公爵に向かって駆け出した。
「レジが駄目なら、そっちの公爵を奪ってやる! 飲みなさいよぉぉぉ!!」
「ボス! 避けて!」
私が叫ぶより早く、アイザック公爵が動いた。
ヒュッ。
公爵は最小限の動きでルルナの突進をかわし、足を引っ掛けた。
「きゃっ!?」
ズシャァァァ!
ルルナは盛大に転び、手に持っていた小瓶が宙を舞った。
そして、その中身が……。
バシャッ。
「……ぶっ!?」
あろうことか、泣いていたレジナルド殿下の顔面に、直撃した。
「……」
全員の動きが止まった。
殿下は顔中、赤黒い液体まみれだ。
甘ったるい、腐った果実のような匂いが漂う。
「……ぺろ」
殿下が、口元についた液体を舐めた。
次の瞬間。
カッ!!
殿下の目が、怪しく光った。
そして、ゆっくりと顔を上げ……。
目の前で転んでいるルルナを見た。
「……ああ、僕の天使(エンジェル)!!」
「えっ?」
「なんて美しいんだ! その泥にまみれた姿! 歪んだ表情! 最高だ! 愛してる! 結婚しよう!!」
殿下は猛獣のようにルルナに飛びついた。
「いやぁぁぁ!! 来ないでぇぇ!! 気持ち悪いぃぃ!!」
「照れるなよハニー! さあ、キッスをしよう! 濃厚なやつを!!」
「ギャァァァァァ!! 助けてぇぇぇ!!」
ルルナの悲鳴と、殿下の求愛の声が、会議室にカオスなハーモニーを奏でる。
惚れ薬の効果は、どうやら抜群だったようだ。
ただし、対象が最悪だったが。
国王陛下が、遠い目をして呟いた。
「……連れて行け」
「はっ!」
近衛兵たちが、絡み合う二人(主に殿下が一方的に絡んでいる)を拘束し、引きずっていく。
「離せぇ! 僕たちは愛し合っているんだぁ!」
「嘘よぉぉ! 誰か助けてぇぇ! シナリオと違うぅぅぅ!」
二人の声は、廊下の彼方へと消えていった。
残されたのは、疲れ果てた国王と、ドン引きしている私たちだけ。
「……クリム嬢」
国王が、深々と頭を下げた。
「……本当に、すまなかった」
「いえ。……お疲れ様です、陛下」
私は心からの同情を込めて言った。
「あの二人は、ある意味『お似合い』かもしれませんね。二度と離れられない『運命』で結ばれたようですし」
「……そうだな。国の恥だが、責任を持って隔離施設で幸せに暮らさせるよ」
国王はヨロヨロと立ち上がった。
「貿易摩擦の件も、鉱山利権の件も、全てそちらの条件を飲む。……だから、もう許してくれ」
「承知いたしました。……お体、ご自愛ください」
国王は背中を丸め、トボトボと去っていった。
その背中には、一国の王の威厳はなく、ただの「苦労人の父親」の哀愁だけが漂っていた。
「……終わったな」
アイザック公爵が、大きく息を吐いた。
「ああ、面白い見世物だった。チケット代を払ってもいいくらいだ」
「悪趣味ですね、ボス」
私は呆れつつも、肩の荷が下りるのを感じた。
これでようやく、本当に、あの泥沼のような因縁から解放されたのだ。
「さて、帰ろうかクリム。我々の城へ」
「ええ、帰りましょう。……あ、でもその前に」
私は公爵に手を差し出した。
「ん?」
「先ほどの『SSRキャラ』発言。……少し嬉しかったので、帰りの馬車では膝枕くらいしてあげてもいいですよ?」
「……!」
公爵が目を輝かせた。
「本当か!? 言ったな? 撤回はなしだぞ!」
「はいはい。ただし、寝言で変なポエムを呟いたら、即座に突き落としますからね」
「善処する!」
私たちは手を繋ぎ、迎賓館を後にした。
空は青く澄み渡り、私の未来のように晴れやかだった。
……はずだったのだが。
城に帰った私を待っていたのは、平穏な日常ではなく。
「閣下! クリム様! 大変です!」
セバスチャンが、血相を変えて飛び出してきた。
「今度は何よ、爺や! もう驚かないわよ!」
「それが……! 帝国の北の国境に、魔物の大群が出現しました!」
「……は?」
「しかも、その指揮官を名乗る魔族が……『クリム・ベルベットを嫁に寄越せ』と言っているそうです!」
「……」
私はアイザック公爵を見た。
公爵は真顔になり、そして静かに剣の柄に手をかけた。
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