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「……爺や。もう一度読み上げてくれる?」
執務室。
私はこめかみを指で押さえながら、セバスチャンに命じた。
セバスチャンは震える手で、黒い封筒に入った手紙(のような樹皮)を読み上げた。
「はっ……。『拝啓、人間界の最強悪女、クリム・ベルベット殿。
我輩は魔王軍・第三師団将軍、ガルガ・ド・オルガである。
貴殿の「王子を監禁し、公爵を隷属させ、聖女を物理攻撃で粉砕した」という武勇伝は、魔界にまで轟いている。
その残虐非道な魂、まさに我が魔界の女王にふさわしい!
よって、今すぐ我輩の嫁になり、共に世界を恐怖のどん底に陥れようではないか!
追伸:結納品として、干しトカゲを大量に用意している』……以上でございます」
「……」
部屋に重苦しい沈黙が流れた。
「……ボス」
「なんだ、クリム」
「私の悪評、魔界では『高評価』として扱われているようですね」
「そうだな。ブランディング(印象操作)の方向性が、思わぬターゲット層に刺さってしまったようだ」
アイザック公爵は、いつもの優雅な笑みを浮かべているが、その目は笑っていなかった。
手に持っていた万年筆が、バキッと音を立ててへし折れた。
「……干しトカゲだと?」
公爵の声が、地獄の底から響くような低音になる。
「私のクリムを、爬虫類の干物ごときで買収できると思っているのか? 舐められたものだな」
「そこですか? 怒るポイントは」
私は呆れつつも、折れた万年筆を回収した。
「それより、どうします? 『嫁に行きます』と返事をして、干しトカゲで商売でも始めますか?」
「冗談でも言うな」
公爵が立ち上がった。
その全身から、凄まじい冷気(殺気)が噴出し、部屋の温度が一気に十度くらい下がった気がする。
「行くぞ、クリム。北の砦へ」
「え? 私たちも行くんですか? 軍に任せておけば……」
「任せられん。相手は私のパートナーを『嫁』と呼んだのだ。……その口を氷漬けにして、二度と寝言を言えないようにしてやる必要がある」
公爵は私の手を取り、強引に引いた。
「それに、君を置いていったら、また変な虫(あるいは魔物)が湧くかもしれない。私の目の届く範囲にいてくれ」
「……過保護が過ぎますよ、ボス。私は赤ん坊じゃありません」
「赤ん坊ならまだマシだ。君は『トラブル吸引体質』だからな」
否定できないのが悔しい。
こうして私たちは、休む間もなく北の国境へと向かうことになった。
◇
北の最果て、凍てつく大地にある「ノースゲート砦」。
そこには、すでにガレリア帝国の精鋭部隊が展開していた。
城壁の外には、地平線を埋め尽くすような黒い軍勢。
オーク、ゴブリン、オーガ……魔物の大群だ。
「……うわぁ。すごい数ですね。バーゲンセールの会場みたい」
砦の司令室から外を見下ろし、私は感想を漏らした。
普通なら恐怖で震える場面だが、レジナルド殿下の顔面アップや、ルルナのラメ攻撃に比べれば、魔物の顔など愛嬌があるように思える。
「閣下! よくぞご到着されました!」
現地の騎士団長が駆け寄ってくる。
「敵の指揮官、ガルガ将軍が『回答期限は日没までだ! それまでにクリムを出さねば総攻撃を仕掛ける!』と叫んでおりまして……」
「ほう。威勢がいいな」
アイザック公爵は冷ややかに笑い、マントを翻した。
「クリム。出るぞ」
「はい? 外にですか?」
「ああ。直接『お断り』を言いに行く。……私が通訳(物理)をしてやろう」
私たちは砦の門を開け、魔王軍の前に姿を現した。
ザワッ……!
魔物の群れがざわめく。
その中から、巨大な影が進み出てきた。
身長三メートルはある巨体。
漆黒の鎧に身を包み、頭には巨大な角。
そして、顔は……意外にも、つぶらな瞳をしたライオンのような獣人だった。
「ぬおっ! 貴様がクリム・ベルベットか!?」
ガルガ将軍が、野太い声で叫んだ。
「写真(似顔絵)で見るより小さいな! だが、その目! 獲物を屠るような冷徹な眼差し! 素晴らしい! 一目惚れしたぞ!」
「……どうも。殺意が高いと褒められたのは初めてです」
私は冷静に答えた。
「で、用件は手紙の通りですか? 私を魔界に連れて行くと?」
「いかにも! 我輩は婚活歴五十年! 強くて、怖くて、尻に敷いてくれそうな嫁を探していたのだ! 魔界の女どもは淑やかすぎて退屈でな!」
「魔界の淑やかの基準が気になりますが……お断りします」
私は手でバツ印を作った。
「第一に、私は人間です。生活環境が合いません。第二に、干しトカゲは嫌いです。第三に……」
私は隣の公爵を親指で指した。
「この人がうるさいので」
ガルガ将軍が、アイザック公爵に目を向けた。
「ぬ? なんだそのヒョロヒョロした男は。貴様のペットか?」
ピキッ。
公爵の笑顔に亀裂が入った。
周囲の気温が、さらに下がる。
地面がパキパキと音を立てて凍り始めた。
「……誰がペットだ、毛玉」
公爵の声は、もはや絶対零度だ。
「クリムは私のものだ。貴様のような暑苦しい毛皮ダルマに渡すつもりはない」
「なにィ!? 毛皮ダルマだと!?」
ガルガ将軍が激昂し、巨大な斧を振り上げた。
「人間風情が! 我輩の愛の邪魔をするなら、叩き潰してくれるわ! かかれ、野郎ども!」
「ウオォォォォ!!」
魔物の群れが一斉に襲いかかってくる。
数千対二。
圧倒的な戦力差だ。
普通なら、絶体絶命。
しかし。
「……はぁ。面倒だな」
アイザック公爵は、ため息交じりに右手を掲げた。
「クリム。少し下がっていてくれ。……氷像の展示会を始める」
公爵の手から、青白い光が放たれた。
「極大氷結魔法(ダイヤモンド・ダスト・ストーム)」
ヒュオオオオオオオオッ!!
猛吹雪が、爆発的に広がった。
襲いかかってきたゴブリンやオークたちが、一瞬にしてカチンコチンに凍りつく。
動きを止めた魔物たちは、まるで芸術的な氷の彫刻のようだ。
「な、なにっ!?」
ガルガ将軍が目を見開く。
「わ、我輩の部隊が……一撃で……!?」
「次はお前だ、将軍」
公爵は氷の剣を生成し、ゆっくりと歩き出した。
その姿は、魔王よりもよほど恐ろしい「氷の魔王」そのものだ。
「私のクリムに『嫁になれ』と言った罪……万死に値するが、せめてそのふざけた角をへし折って、剥製にしてやろうか?」
「ひ、ひいいっ!?」
将軍が後ずさる。
「ま、待て! 話せば分かる! 我輩はただ、寂しかっただけで……!」
「問答無用」
公爵が剣を振り上げた、その時。
「……ストップ、ボス」
私が声をかけた。
「ん? どうしたクリム。まだ足りないか? なら粉々に砕くが」
「いえ、やりすぎです。環境破壊になります」
私は凍ったゴブリンの頭をコツコツと叩きながら、ガルガ将軍の前に進み出た。
「将軍。貴方、婚活中と言いましたね?」
「は、はい……」
「強い女がお好みだと?」
「はい……我輩を罵倒し、踏みつけてくれるような……」
「特殊な性癖ですね。……なら、いい場所がありますよ」
私はニヤリと笑い、懐から一枚の地図を取り出した。
「ここです。帝都の西にある『アマゾネスの里』。あそこの女性たちは、求婚者を力尽くでねじ伏せるのが流儀です。貴方の求めている『強くて怖い嫁』が、売るほどいますよ」
「ほ、本当か!?」
「ええ。ただし、生きて帰れる保証はありませんが」
「望むところだ! 我輩、そういう命がけの恋に燃えるタイプなのだ!」
ガルガ将軍の目がハートになった。
単純だ。
魔族というのは、ここまで単純な生き物なのか。
「では、今すぐ部隊を引き連れてそちらへ向かいなさい。ここでの戦闘は時間の無駄です」
「おお! 分かった! ありがとう、人間の悪女よ! 貴様は嫁にはならんかったが、愛のキューピッドだ!」
将軍は感動して涙を流し、大声で号令をかけた。
「野郎ども! 撤収だ! 目指すは西のアマゾネスの里! そこで合コンだァァァ!!」
バキバキバキッ!
凍っていた部下たちが無理やり氷を割って復活し(頑丈だ)、歓声を上げて西へと走り去っていった。
あっという間に、地平線から魔物の姿が消えた。
「……」
残されたのは、剣を振り上げたまま固まっているアイザック公爵と、呆気に取られている砦の兵士たち。
「……解決、しましたね」
私が手をパンと払うと、公爵がガクリと肩を落とした。
「……クリム。君は……戦わずして敵を排除する天才か?」
「戦ったら服が汚れますから。それに、恋に飢えた猛獣を別の餌場に誘導するのは、猛獣使いの基本です」
「……私は猛獣扱いなのか?」
「貴方は『特別な』猛獣ですよ、ボス」
私は公爵に近づき、その冷たい頬にそっと手を添えた。
「……私だけが手懐けられる、世界で一番手のかかる猛獣です」
公爵は目を見開き、それから……氷が解けるように優しく微笑んだ。
「……参ったな。また君に惚れ直してしまった」
彼は私の手を握り、キスを落とした。
「帰ろうか、クリム。今度こそ、平和なティータイムが待っているはずだ」
「どうでしょうね。貴方のことだから、また明日には変なトラブルを持ってくるんじゃありませんか?」
「否定はしない」
私たちは笑い合い、砦を後にした。
北の風は冷たかったが、繋いだ手だけは温かかった。
こうして、「魔王軍襲来」という危機も、私の口先一つで(物理的な被害もありつつ)解決したのであった。
執務室。
私はこめかみを指で押さえながら、セバスチャンに命じた。
セバスチャンは震える手で、黒い封筒に入った手紙(のような樹皮)を読み上げた。
「はっ……。『拝啓、人間界の最強悪女、クリム・ベルベット殿。
我輩は魔王軍・第三師団将軍、ガルガ・ド・オルガである。
貴殿の「王子を監禁し、公爵を隷属させ、聖女を物理攻撃で粉砕した」という武勇伝は、魔界にまで轟いている。
その残虐非道な魂、まさに我が魔界の女王にふさわしい!
よって、今すぐ我輩の嫁になり、共に世界を恐怖のどん底に陥れようではないか!
追伸:結納品として、干しトカゲを大量に用意している』……以上でございます」
「……」
部屋に重苦しい沈黙が流れた。
「……ボス」
「なんだ、クリム」
「私の悪評、魔界では『高評価』として扱われているようですね」
「そうだな。ブランディング(印象操作)の方向性が、思わぬターゲット層に刺さってしまったようだ」
アイザック公爵は、いつもの優雅な笑みを浮かべているが、その目は笑っていなかった。
手に持っていた万年筆が、バキッと音を立ててへし折れた。
「……干しトカゲだと?」
公爵の声が、地獄の底から響くような低音になる。
「私のクリムを、爬虫類の干物ごときで買収できると思っているのか? 舐められたものだな」
「そこですか? 怒るポイントは」
私は呆れつつも、折れた万年筆を回収した。
「それより、どうします? 『嫁に行きます』と返事をして、干しトカゲで商売でも始めますか?」
「冗談でも言うな」
公爵が立ち上がった。
その全身から、凄まじい冷気(殺気)が噴出し、部屋の温度が一気に十度くらい下がった気がする。
「行くぞ、クリム。北の砦へ」
「え? 私たちも行くんですか? 軍に任せておけば……」
「任せられん。相手は私のパートナーを『嫁』と呼んだのだ。……その口を氷漬けにして、二度と寝言を言えないようにしてやる必要がある」
公爵は私の手を取り、強引に引いた。
「それに、君を置いていったら、また変な虫(あるいは魔物)が湧くかもしれない。私の目の届く範囲にいてくれ」
「……過保護が過ぎますよ、ボス。私は赤ん坊じゃありません」
「赤ん坊ならまだマシだ。君は『トラブル吸引体質』だからな」
否定できないのが悔しい。
こうして私たちは、休む間もなく北の国境へと向かうことになった。
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北の最果て、凍てつく大地にある「ノースゲート砦」。
そこには、すでにガレリア帝国の精鋭部隊が展開していた。
城壁の外には、地平線を埋め尽くすような黒い軍勢。
オーク、ゴブリン、オーガ……魔物の大群だ。
「……うわぁ。すごい数ですね。バーゲンセールの会場みたい」
砦の司令室から外を見下ろし、私は感想を漏らした。
普通なら恐怖で震える場面だが、レジナルド殿下の顔面アップや、ルルナのラメ攻撃に比べれば、魔物の顔など愛嬌があるように思える。
「閣下! よくぞご到着されました!」
現地の騎士団長が駆け寄ってくる。
「敵の指揮官、ガルガ将軍が『回答期限は日没までだ! それまでにクリムを出さねば総攻撃を仕掛ける!』と叫んでおりまして……」
「ほう。威勢がいいな」
アイザック公爵は冷ややかに笑い、マントを翻した。
「クリム。出るぞ」
「はい? 外にですか?」
「ああ。直接『お断り』を言いに行く。……私が通訳(物理)をしてやろう」
私たちは砦の門を開け、魔王軍の前に姿を現した。
ザワッ……!
魔物の群れがざわめく。
その中から、巨大な影が進み出てきた。
身長三メートルはある巨体。
漆黒の鎧に身を包み、頭には巨大な角。
そして、顔は……意外にも、つぶらな瞳をしたライオンのような獣人だった。
「ぬおっ! 貴様がクリム・ベルベットか!?」
ガルガ将軍が、野太い声で叫んだ。
「写真(似顔絵)で見るより小さいな! だが、その目! 獲物を屠るような冷徹な眼差し! 素晴らしい! 一目惚れしたぞ!」
「……どうも。殺意が高いと褒められたのは初めてです」
私は冷静に答えた。
「で、用件は手紙の通りですか? 私を魔界に連れて行くと?」
「いかにも! 我輩は婚活歴五十年! 強くて、怖くて、尻に敷いてくれそうな嫁を探していたのだ! 魔界の女どもは淑やかすぎて退屈でな!」
「魔界の淑やかの基準が気になりますが……お断りします」
私は手でバツ印を作った。
「第一に、私は人間です。生活環境が合いません。第二に、干しトカゲは嫌いです。第三に……」
私は隣の公爵を親指で指した。
「この人がうるさいので」
ガルガ将軍が、アイザック公爵に目を向けた。
「ぬ? なんだそのヒョロヒョロした男は。貴様のペットか?」
ピキッ。
公爵の笑顔に亀裂が入った。
周囲の気温が、さらに下がる。
地面がパキパキと音を立てて凍り始めた。
「……誰がペットだ、毛玉」
公爵の声は、もはや絶対零度だ。
「クリムは私のものだ。貴様のような暑苦しい毛皮ダルマに渡すつもりはない」
「なにィ!? 毛皮ダルマだと!?」
ガルガ将軍が激昂し、巨大な斧を振り上げた。
「人間風情が! 我輩の愛の邪魔をするなら、叩き潰してくれるわ! かかれ、野郎ども!」
「ウオォォォォ!!」
魔物の群れが一斉に襲いかかってくる。
数千対二。
圧倒的な戦力差だ。
普通なら、絶体絶命。
しかし。
「……はぁ。面倒だな」
アイザック公爵は、ため息交じりに右手を掲げた。
「クリム。少し下がっていてくれ。……氷像の展示会を始める」
公爵の手から、青白い光が放たれた。
「極大氷結魔法(ダイヤモンド・ダスト・ストーム)」
ヒュオオオオオオオオッ!!
猛吹雪が、爆発的に広がった。
襲いかかってきたゴブリンやオークたちが、一瞬にしてカチンコチンに凍りつく。
動きを止めた魔物たちは、まるで芸術的な氷の彫刻のようだ。
「な、なにっ!?」
ガルガ将軍が目を見開く。
「わ、我輩の部隊が……一撃で……!?」
「次はお前だ、将軍」
公爵は氷の剣を生成し、ゆっくりと歩き出した。
その姿は、魔王よりもよほど恐ろしい「氷の魔王」そのものだ。
「私のクリムに『嫁になれ』と言った罪……万死に値するが、せめてそのふざけた角をへし折って、剥製にしてやろうか?」
「ひ、ひいいっ!?」
将軍が後ずさる。
「ま、待て! 話せば分かる! 我輩はただ、寂しかっただけで……!」
「問答無用」
公爵が剣を振り上げた、その時。
「……ストップ、ボス」
私が声をかけた。
「ん? どうしたクリム。まだ足りないか? なら粉々に砕くが」
「いえ、やりすぎです。環境破壊になります」
私は凍ったゴブリンの頭をコツコツと叩きながら、ガルガ将軍の前に進み出た。
「将軍。貴方、婚活中と言いましたね?」
「は、はい……」
「強い女がお好みだと?」
「はい……我輩を罵倒し、踏みつけてくれるような……」
「特殊な性癖ですね。……なら、いい場所がありますよ」
私はニヤリと笑い、懐から一枚の地図を取り出した。
「ここです。帝都の西にある『アマゾネスの里』。あそこの女性たちは、求婚者を力尽くでねじ伏せるのが流儀です。貴方の求めている『強くて怖い嫁』が、売るほどいますよ」
「ほ、本当か!?」
「ええ。ただし、生きて帰れる保証はありませんが」
「望むところだ! 我輩、そういう命がけの恋に燃えるタイプなのだ!」
ガルガ将軍の目がハートになった。
単純だ。
魔族というのは、ここまで単純な生き物なのか。
「では、今すぐ部隊を引き連れてそちらへ向かいなさい。ここでの戦闘は時間の無駄です」
「おお! 分かった! ありがとう、人間の悪女よ! 貴様は嫁にはならんかったが、愛のキューピッドだ!」
将軍は感動して涙を流し、大声で号令をかけた。
「野郎ども! 撤収だ! 目指すは西のアマゾネスの里! そこで合コンだァァァ!!」
バキバキバキッ!
凍っていた部下たちが無理やり氷を割って復活し(頑丈だ)、歓声を上げて西へと走り去っていった。
あっという間に、地平線から魔物の姿が消えた。
「……」
残されたのは、剣を振り上げたまま固まっているアイザック公爵と、呆気に取られている砦の兵士たち。
「……解決、しましたね」
私が手をパンと払うと、公爵がガクリと肩を落とした。
「……クリム。君は……戦わずして敵を排除する天才か?」
「戦ったら服が汚れますから。それに、恋に飢えた猛獣を別の餌場に誘導するのは、猛獣使いの基本です」
「……私は猛獣扱いなのか?」
「貴方は『特別な』猛獣ですよ、ボス」
私は公爵に近づき、その冷たい頬にそっと手を添えた。
「……私だけが手懐けられる、世界で一番手のかかる猛獣です」
公爵は目を見開き、それから……氷が解けるように優しく微笑んだ。
「……参ったな。また君に惚れ直してしまった」
彼は私の手を握り、キスを落とした。
「帰ろうか、クリム。今度こそ、平和なティータイムが待っているはずだ」
「どうでしょうね。貴方のことだから、また明日には変なトラブルを持ってくるんじゃありませんか?」
「否定はしない」
私たちは笑い合い、砦を後にした。
北の風は冷たかったが、繋いだ手だけは温かかった。
こうして、「魔王軍襲来」という危機も、私の口先一つで(物理的な被害もありつつ)解決したのであった。
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