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5.王命、アイゼンベルク討伐 side国王
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side 国王
「兵を編成せよ。アイゼンベルク領に向かい、大公並びにルシアーナを捕らえよ。王命だ!!」
──やられた。
計画は、前々から練られていたに違いない。
ルシアーナ・アイゼンベルク
この私からの呼び出しも、最初から想定内だったのか。つくづく、大公そっくりで腹が立つ。
ルシアーナの祖父である大公は、私が幼い頃から、常に私を愚かだとでも言いたげな目を向けていた。
間違いなく、己の息子を次期国王として据えるつもりで画策していたのだろう。私が王になった後も、いつか取って代わろうとしていたに違いない。
しかし、息子夫妻は馬車の事故でこの世を去った。代わりに、ルシアーナを、と考えたのか──笑わせる。
我が父と大公は、幼少期から仲の良い兄弟だったと聞く。そして、父上は賢王だった。
そのせいもあって、私は、王の器を持たぬ凡庸と陰で囁かれた。そんなこと幼い頃から気づいていた。
しかし、それでも父は私を王太子に据えたのだ。
愛する弟と愛する息子の間で、私を選んでくれた。
私が十八のとき、父は病に倒れた。
王家の後ろ盾を確かなものとするため、父は侯爵家の令嬢との婚姻を望んでいた。だが私は、その婚姻を「父の病が癒えたのちに」と言い訳して、先延ばしにした。
それから幾ばくも経たぬうちに、父の容体は悪化し、ついには立つことも叶わなくなった。
やがて私は、王位を継ぐこととなる。
そして、国王となったその年、ようやく結婚した。もちろん、愛のない侯爵令嬢ではない。相手は、学院時代から互いに心を通わせていた子爵令嬢──今の王妃である。
その知らせに、大公をはじめ、父の忠臣たちは一斉に反対の声を上げた。だが、もはや王となった私に、誰が異を唱えられよう。
“私が、ドレイスブルグ国の国王だ。王命に背くというのか”
その一言で、彼らの口は一斉に閉ざされた。
孫である王太子が生まれて三年後、父は、ルシアーナとの婚約を整えたのち、そのまま崩御した。
その知らせを受けたとき、私は静かに思った。
――これで、すべてを自らの手で動かせる、と。
父の生前、「私を支えるため」と称して整えられた数々の“新制”を、私は一つ残らず見直した。そして、私に忠誠を誓う者たちだけで、王の座を取り巻く枠組みを新たに築いたのである。
「陛下! こんなこと、許されません!」
「そうです、厳罰を下すべきです!」
怒号のような声が、部屋を満たした。
ぼんやりと過去を思い返していた私の意識を、臣下たちの熱が引き戻す。
「……その通りだ」
私はゆっくりと立ち上がる。
「父が残したという“証文”の確認も必要だ。罪を問わないだと? そんな馬鹿げた話があるか。必ず見つけ出し、破棄しろ。ルシアーナの行動に裏づけを与えてはならん」
くだらない嘘を。
父上が、私に黙ってそんな狡猾な真似をするものか。……いや、待て。大公と内々に通じていた可能性も、捨てきれぬ。
大公は、息子夫婦が亡くなって以来、すっかり気力を失ったように見えた。
王宮にも顔を出さず、世を捨てたかのように静かに暮らしていた。
だが――その裏で、長い年月をかけて私を観察し、見極め、最後に一矢報いようとしていたのか。
なめやがって。
脳裏に、ルシアーナの顔が浮かぶ。ベールで口元を隠し、ただ瞳だけで感情を語る女。あの瞳が気に入らなかった。まるで大公の生き写しのように、何もかもを見透かす冷たい目。
その目に見据えられるたび、大公に監視されているような錯覚に囚われた。思い出すだけで、胸の奥に黒いもやが立ちのぼる。
だが――女神の使徒が現れ、息子が恋をした。
ルシアーナとの婚約を解消するには、これ以上ない大義名分だった。宰相が養女にと願い出てくれたおかげで、身分の問題も解決し、王妃も満足していた。
……なのに、ルシアーナもまた、女神の使徒だと?
しかも、サラよりも強い力を持つというのか。
くそ。
知っていたのなら使いようもあった。孫娘に女神の紋章が現れたことを、大公は黙っていたのだな。国への報告義務があるだろう、それを……!
……いや、まさか。父上は、それを知っておられたのか?
知らぬは、私だけだったというのか。
「陛下、ご報告いたします。兵は、一週間の準備の後に出立可能でございます」
「一週間だと!? アイゼンベルク領に着くだけでも一週間はかかるのだぞ。二週間も猶予を与えれば、向こうは迎え撃つ準備を整えてしまうではないか!」
側近の声がわずかに震え、室内の空気が凍りついた。
「そ、そうおっしゃられましても──」
「ならば、有力な者を数名、転移魔法で先行させろ。現地の情報を集め、兵が到着するまでの作戦を立てさせるのだ」
命を下した矢先、別の報告が返る。
「試みましたが……なぜか弾かれ、転移が成立しませんでした」
「何だと!? 魔法が遮られたのか?」
「いいえ、そのような反応ではなく……何か、柔らかな力に押し返されるような感触で──」
体中の血が一気に冷えた。
ちっ、と舌打ちが無意識に漏れる。
ルシアーナの力だ。可能性は高い。女神の使徒の力を用い、術そのものを弾き返しているのだろう。
「三日だ。準備期間を三日に短縮しろ。夜も休むな。可能な限り速く出立せよ!」
命じ終え、私は深く椅子にもたれかかった。窓の外では、遠くの雲が重く垂れ込めている。
行く手を阻む、見えぬ壁。
――ルシアーナ。この王国の歯車に深く、食い込もうというのか。絶対に許さん。
「兵を編成せよ。アイゼンベルク領に向かい、大公並びにルシアーナを捕らえよ。王命だ!!」
──やられた。
計画は、前々から練られていたに違いない。
ルシアーナ・アイゼンベルク
この私からの呼び出しも、最初から想定内だったのか。つくづく、大公そっくりで腹が立つ。
ルシアーナの祖父である大公は、私が幼い頃から、常に私を愚かだとでも言いたげな目を向けていた。
間違いなく、己の息子を次期国王として据えるつもりで画策していたのだろう。私が王になった後も、いつか取って代わろうとしていたに違いない。
しかし、息子夫妻は馬車の事故でこの世を去った。代わりに、ルシアーナを、と考えたのか──笑わせる。
我が父と大公は、幼少期から仲の良い兄弟だったと聞く。そして、父上は賢王だった。
そのせいもあって、私は、王の器を持たぬ凡庸と陰で囁かれた。そんなこと幼い頃から気づいていた。
しかし、それでも父は私を王太子に据えたのだ。
愛する弟と愛する息子の間で、私を選んでくれた。
私が十八のとき、父は病に倒れた。
王家の後ろ盾を確かなものとするため、父は侯爵家の令嬢との婚姻を望んでいた。だが私は、その婚姻を「父の病が癒えたのちに」と言い訳して、先延ばしにした。
それから幾ばくも経たぬうちに、父の容体は悪化し、ついには立つことも叶わなくなった。
やがて私は、王位を継ぐこととなる。
そして、国王となったその年、ようやく結婚した。もちろん、愛のない侯爵令嬢ではない。相手は、学院時代から互いに心を通わせていた子爵令嬢──今の王妃である。
その知らせに、大公をはじめ、父の忠臣たちは一斉に反対の声を上げた。だが、もはや王となった私に、誰が異を唱えられよう。
“私が、ドレイスブルグ国の国王だ。王命に背くというのか”
その一言で、彼らの口は一斉に閉ざされた。
孫である王太子が生まれて三年後、父は、ルシアーナとの婚約を整えたのち、そのまま崩御した。
その知らせを受けたとき、私は静かに思った。
――これで、すべてを自らの手で動かせる、と。
父の生前、「私を支えるため」と称して整えられた数々の“新制”を、私は一つ残らず見直した。そして、私に忠誠を誓う者たちだけで、王の座を取り巻く枠組みを新たに築いたのである。
「陛下! こんなこと、許されません!」
「そうです、厳罰を下すべきです!」
怒号のような声が、部屋を満たした。
ぼんやりと過去を思い返していた私の意識を、臣下たちの熱が引き戻す。
「……その通りだ」
私はゆっくりと立ち上がる。
「父が残したという“証文”の確認も必要だ。罪を問わないだと? そんな馬鹿げた話があるか。必ず見つけ出し、破棄しろ。ルシアーナの行動に裏づけを与えてはならん」
くだらない嘘を。
父上が、私に黙ってそんな狡猾な真似をするものか。……いや、待て。大公と内々に通じていた可能性も、捨てきれぬ。
大公は、息子夫婦が亡くなって以来、すっかり気力を失ったように見えた。
王宮にも顔を出さず、世を捨てたかのように静かに暮らしていた。
だが――その裏で、長い年月をかけて私を観察し、見極め、最後に一矢報いようとしていたのか。
なめやがって。
脳裏に、ルシアーナの顔が浮かぶ。ベールで口元を隠し、ただ瞳だけで感情を語る女。あの瞳が気に入らなかった。まるで大公の生き写しのように、何もかもを見透かす冷たい目。
その目に見据えられるたび、大公に監視されているような錯覚に囚われた。思い出すだけで、胸の奥に黒いもやが立ちのぼる。
だが――女神の使徒が現れ、息子が恋をした。
ルシアーナとの婚約を解消するには、これ以上ない大義名分だった。宰相が養女にと願い出てくれたおかげで、身分の問題も解決し、王妃も満足していた。
……なのに、ルシアーナもまた、女神の使徒だと?
しかも、サラよりも強い力を持つというのか。
くそ。
知っていたのなら使いようもあった。孫娘に女神の紋章が現れたことを、大公は黙っていたのだな。国への報告義務があるだろう、それを……!
……いや、まさか。父上は、それを知っておられたのか?
知らぬは、私だけだったというのか。
「陛下、ご報告いたします。兵は、一週間の準備の後に出立可能でございます」
「一週間だと!? アイゼンベルク領に着くだけでも一週間はかかるのだぞ。二週間も猶予を与えれば、向こうは迎え撃つ準備を整えてしまうではないか!」
側近の声がわずかに震え、室内の空気が凍りついた。
「そ、そうおっしゃられましても──」
「ならば、有力な者を数名、転移魔法で先行させろ。現地の情報を集め、兵が到着するまでの作戦を立てさせるのだ」
命を下した矢先、別の報告が返る。
「試みましたが……なぜか弾かれ、転移が成立しませんでした」
「何だと!? 魔法が遮られたのか?」
「いいえ、そのような反応ではなく……何か、柔らかな力に押し返されるような感触で──」
体中の血が一気に冷えた。
ちっ、と舌打ちが無意識に漏れる。
ルシアーナの力だ。可能性は高い。女神の使徒の力を用い、術そのものを弾き返しているのだろう。
「三日だ。準備期間を三日に短縮しろ。夜も休むな。可能な限り速く出立せよ!」
命じ終え、私は深く椅子にもたれかかった。窓の外では、遠くの雲が重く垂れ込めている。
行く手を阻む、見えぬ壁。
――ルシアーナ。この王国の歯車に深く、食い込もうというのか。絶対に許さん。
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