11 / 41
島村さんに癒されて
しおりを挟む
*美穂*
「なんか、ありきたりなランチですみません。僕、こういう事に疎くて」
まだハンバーグセットを食べ終えてないわたしに、島村くんが申し訳なさそうに謝った。
「そんなことないですよ。とっても美味しいです。ハンバーグは飽きませんし、自分で作るときの参考にもなりますから」
幼少の頃から外食のような贅沢などなかったわたしにとって、お店の味や盛りつけ方などを学べるのは嬉しいことだ。
こんな風に作ってみたら、潤一さんは喜んでくれるかなと、ふと思ってしまって気が咎めた。
「多分そんな風に言ってくれるんじゃないかと思ってました。やっぱり美穂さんって優しいなぁ。手抜きをしてすみません。すっかり甘えてしまって」
「アルバイトやお勉強でお忙しいのでしょう。ランチのお店のことなんかで悩まないでくださいね」
どこのお店が美味しいのか食べ歩きをして探しまわるなど、骨の折れるようなことは本当にしないでもらいたい。
「美穂さんが作るハンバーグも美味しんでしょうね。料理得意なんですか?」
「お料理は好きですよ。美味しいって食べてもらえるって、とっても嬉しいものだから」
いつもモリモリと食べてくれる潤一さんの笑顔が浮かんだ。
「………その人は幸せな人だなぁ。美穂さんの手料理が食べられるなんて」
島村くんはなにかを悟ったかのように少し哀しげに呟くと、曇ったような顔をして目を伏せた。
「………あ、わたし今度お弁当を作ってきますね。いつもご馳走になってばかりで申し訳ないですし、お天気のいい日に近くの公園で食べませんか?」
「え、本当ですか? 美穂さんに誘ってもらえるなんて凄く嬉しいです」
少し希望の光を感じたかのように、俯いていた島村さんが顔をあげた。
「桜はもう散ってしまったけど、ポカポカしてきましたし、外で食べると美味しいですよね」
「それは楽しみだなぁ。でも、そんなに張り切らないでください。負担になるようなことはして欲しくないんです。……僕は食事より、こんな風に美穂さんと逢えるのが嬉しいから」
これは完全なる愛の告白だ。
気づかないフリをしている自分の卑劣さが哀しい。
「わ、わたし、ひとりっ子なので、島村さんは弟みたいで、なんだかとても可愛くて、、」
少し気が咎めて、弟のようだと誤解のないように釘を刺してみたけれど。
「……別に誤魔化さなくていいです。美穂さん、好きな人がいるんでしょう? 僕、なんとなくわかってしまって」
島村さんが感受性の高い人であることは気づいていた。こんな人を騙そうとするなんて………。
「ごめんなさい。わたし卑怯でした。はじめからちゃんとお断りしなきゃいけなかったのに」
「いえ、悪いのは僕のほうです。聞くのが怖かったんです。聞いてしまったら、誘ったり出来なくなると思ったものだから」
いい人すぎる。
島村さんは。
わたしには勿体ない。
善良で、優秀で、汚れがなくて。
この人にはこれからいくらでも優しく清らかで愛らしい、素敵な恋人が現れるだろう。
わたしは島村さんに似合わない。
「わたし、、今の彼にはそのうちフラれます。それはわかってるんです。だから、悲しくて、寂しくて、……島村さんに頼ってしまいたくなって、、騙していて本当にごめんなさい」
正直に言ってしまえて、かなりスッキリした。
「それでもいいです。弟でいいから、これからも時々逢ってくれませんか? 僕には他に楽しみなんてないんです。お願いします」
「わたしも楽しいです。島村さんとこうしているのが。癒されるというのか、なんだかとっても安心できて」
わたしは島村さんの恋人に相応しくないけれど、このまま終わるのは寂しかった。
「それはとても嬉しいな。僕は人畜無害ですから危険なことはありません。面白いことを言って笑わせたりは出来ないんですけど……」
「クスクスッ、面白いですよ。確かに島村さんは人畜無害って感じですね」
潤一さんとは正反対のこの人に、なぜこんなに惹かれるのだろう。
「退屈な男なんです。気の利いたことが言えなくて……」
「わたしのほうがもっと退屈ですよ。島村さんのような知識も教養もありませんし」
「そんなことないです。美穂さんはとてもステキな人です。話していて人柄が伝わってきます。知識は大切には違いないけど、物知りよりも大切なことってあるでしょう」
わたしを肯定してくれた人など、今まで一人もいなかった。
なんて幸福に満ちた時間なのだろう。
島村さんとこうしていると本当に気持ちが和らぐ。
ずっと殺伐とした不安な環境で育ってきたからだろうか。
だけど、、
わたしは島村さんを愛せるだろうか。
島村さんと教習所で別れてから、白石の潤一さんのご実家にむかう。
毎週、火曜と金曜に頼まれた食材などを購入し、簡単に部屋の掃除なども行う。
家がスーパーに近いので助かるのだが、卵や牛乳、お豆腐、それに大根や玉ねぎなどの野菜が入るとかなりの重量になる。お肉と焼けばいいだけの鮭の切り身も買ってスーパーを出た。
重い荷物を両手に下げ、松田家のインターホンを押した。
インターホンに出たのは、聞き慣れない若い女の声だった。
「はい? なんでしょう?」
「家事代行サービスの片山です」
「あ、はーい!」
明るい返事が返ってきて、すぐに玄関のドアが開けられた。
「お待ちしてました。どうぞ、お入りになって」
「あ、、はい、失礼します」
親戚の子なのだろうか?
若い女の子のようだけれど、なにか堂々としていて大人っぽい。
それにドキッとするような美人だ。
「松田さん、こんにちは。お加減のほうは如何ですか?」
リビングのソファーに腰掛け、刑事モノのドラマを観ていたお母様に声をかけた。
「あらあら重い荷物をいつも悪いわね。茉理、その荷物を冷蔵庫の中にしまってあげて頂戴」
「えーっ、わたしが? 家事代行サービスの人の仕事を奪っちゃいけないでしょ」
茉理と呼ばれた女の子が憮然とした様子で言い返した。
「手伝って色々教えてもらいなさい! あなたの片付け方は滅茶苦茶だから。野菜はちゃんと野菜室に入れるのよ」
「わたしはここの嫁じゃないし。タダでこき使わないでよ!」
いかにも気の強そうな彼女は、お母様が相手でも少しもひるむ様子がなかった。
遠慮のない会話からして、やはり潤一さんの従姉妹《いとこ》なのかもしれない。
「なに言ってるの。こき使ってるんじゃないわよ。教えてあげてるの!! 自分でやったほうがどれだけ簡単で早いか知れないわ。まったく、トイレの掃除も満足に出来ないんだから」
「トイレの掃除くらい出来ます。オバサンとはやり方が違うだけでしょ。今どき雑巾を使って掃除する人なんていませんよ。洗った雑巾なんて気持ち悪くてさわれないし」
確かに、その気持ちは分からないではない。
「掃除の基本を教えてあげたんじゃないの。うちにだって流せるトイレクリーナーくらい置いてあるわよ。大体あなたは目上の者に対する言葉遣いからして成ってないわ!」
「仕方がないでしょう。わたしはずっとドイツで暮らしてたんだから。敬語みたいなややこしい文化はもう廃止にすればいいのに」
この発言が正しいとは思えないけど、彼女の態度には一貫性を感じる。
「まったく野蛮な国でなにを吹き込まれてきたんだか。あなたには日本人の奥ゆかしさってものがないわね」
呆れたようにお母様が言い放った。
「はぁ? なにが奥ゆかしさよ。オバサンに言われたくないし。オバサンみたいな怖い人、ドイツにはいないわよ!」
「黙りなさい! 居候のくせにさっきから言いたい放題のこと言って!!」
お母様がとうとうキレて、顔を赤くして怒鳴った。
「わかりました。わたしここを出て行きます」
茉理さんはそう言って、二階へ上がる階段を駆けていった。
「潤一ったら、あんな子を人に押し付けて。血圧が上がって死んでしまうわよ」
まだ興奮冷めやらぬ様子でお母様が呟いた。
「ご親戚じゃないんですか? 潤一さんが連れてこられたんですか?」
「昨日退院した患者らしいんだけど、ストーカーに追いまわされて、自分の家に帰れないんですって。まだ未成年の高校生なの。潤一がマンションに連れ帰るわけにはいかないから、預かってくれって急に頼まれてね。もっと可愛げのある子なら私だって優しくするのよ。あまりにも生意気すぎるのよ」
どんな事情があるにせよ、潤一さんが茉理さんの世話をするのはおかしなことだと思った。
どう考えても二人は特別な関係に違いない。
「あなた一人暮らしをしてるって言ってたわよね?」
考えあぐねていると、お母様に突然そんなことを聞かれて嫌な予感がした。
「えっ? あ、はい、、そうですが……」
家事代行サービスのわたしが、潤一さんと一緒に暮らしているとは言えない。
「悪いんだけどあの子の面倒を見てあげてくれないかしら。 預かった以上は私にも責任があるでしょう。 追い出したあとでストーカー被害にあったりしたら私だって気分が悪いわ。報酬は息子に払わせるわよ」
「え、、で、でも……」
「一週間でいいらしいの。あなたは年も近いし優しいから私より合うはずよ。お願いするわ」
こんな強引な人とやり合って、今まで勝ったためしがない。
一言も言い返すことができずに狼狽《うろた》える。
だけど一体どうしたらいいのだろう。
キッチンやお風呂など、水まわりのお掃除をしながら、これからのことを考えた。
真駒内にある祖母の家に行くしかない。
だけど、あんなボロボロの家に茉理さんは住めるだろうか。
水道と電気とガスの連絡をしないと。
ガステーブルの五徳を磨いていたら、茉理さんが両手に荷物を持って二階から降りて来た。
なんの挨拶もなしに玄関へ向かった茉理さんを、お母様が呼び止めた。
「茉理、ちょっと待ちなさい!」
「はぁ、またお説教? もう勘弁してよね」
ため息を吐き、唇を尖らせた。
「息子に頼まれた手前、私には責任があるのよ。なにか事件にでも巻き込まれたら気分が悪いでしょ。家事代行の美穂さんがあなたと暮らしてもいいって言ってくれたの。だからしばらくは彼女の家に泊めてもらいなさい」
「えーっ! 本当ですか?」
満面の笑顔で見つめられて憂鬱な気分に苛まれた。もしかしたら茉理さんが断ってくれるのでは、と期待していたから。
「あ、あの、わたしの家はとても古くて不便ですけど」
「大丈夫です! 一週間だけだしマジで助かります。ありがとうございます!」
なんてサバサバしてるんだろう。
わたしとは正反対のタイプだ。
仲良く暮らせるだろうか………。
「なんか、ありきたりなランチですみません。僕、こういう事に疎くて」
まだハンバーグセットを食べ終えてないわたしに、島村くんが申し訳なさそうに謝った。
「そんなことないですよ。とっても美味しいです。ハンバーグは飽きませんし、自分で作るときの参考にもなりますから」
幼少の頃から外食のような贅沢などなかったわたしにとって、お店の味や盛りつけ方などを学べるのは嬉しいことだ。
こんな風に作ってみたら、潤一さんは喜んでくれるかなと、ふと思ってしまって気が咎めた。
「多分そんな風に言ってくれるんじゃないかと思ってました。やっぱり美穂さんって優しいなぁ。手抜きをしてすみません。すっかり甘えてしまって」
「アルバイトやお勉強でお忙しいのでしょう。ランチのお店のことなんかで悩まないでくださいね」
どこのお店が美味しいのか食べ歩きをして探しまわるなど、骨の折れるようなことは本当にしないでもらいたい。
「美穂さんが作るハンバーグも美味しんでしょうね。料理得意なんですか?」
「お料理は好きですよ。美味しいって食べてもらえるって、とっても嬉しいものだから」
いつもモリモリと食べてくれる潤一さんの笑顔が浮かんだ。
「………その人は幸せな人だなぁ。美穂さんの手料理が食べられるなんて」
島村くんはなにかを悟ったかのように少し哀しげに呟くと、曇ったような顔をして目を伏せた。
「………あ、わたし今度お弁当を作ってきますね。いつもご馳走になってばかりで申し訳ないですし、お天気のいい日に近くの公園で食べませんか?」
「え、本当ですか? 美穂さんに誘ってもらえるなんて凄く嬉しいです」
少し希望の光を感じたかのように、俯いていた島村さんが顔をあげた。
「桜はもう散ってしまったけど、ポカポカしてきましたし、外で食べると美味しいですよね」
「それは楽しみだなぁ。でも、そんなに張り切らないでください。負担になるようなことはして欲しくないんです。……僕は食事より、こんな風に美穂さんと逢えるのが嬉しいから」
これは完全なる愛の告白だ。
気づかないフリをしている自分の卑劣さが哀しい。
「わ、わたし、ひとりっ子なので、島村さんは弟みたいで、なんだかとても可愛くて、、」
少し気が咎めて、弟のようだと誤解のないように釘を刺してみたけれど。
「……別に誤魔化さなくていいです。美穂さん、好きな人がいるんでしょう? 僕、なんとなくわかってしまって」
島村さんが感受性の高い人であることは気づいていた。こんな人を騙そうとするなんて………。
「ごめんなさい。わたし卑怯でした。はじめからちゃんとお断りしなきゃいけなかったのに」
「いえ、悪いのは僕のほうです。聞くのが怖かったんです。聞いてしまったら、誘ったり出来なくなると思ったものだから」
いい人すぎる。
島村さんは。
わたしには勿体ない。
善良で、優秀で、汚れがなくて。
この人にはこれからいくらでも優しく清らかで愛らしい、素敵な恋人が現れるだろう。
わたしは島村さんに似合わない。
「わたし、、今の彼にはそのうちフラれます。それはわかってるんです。だから、悲しくて、寂しくて、……島村さんに頼ってしまいたくなって、、騙していて本当にごめんなさい」
正直に言ってしまえて、かなりスッキリした。
「それでもいいです。弟でいいから、これからも時々逢ってくれませんか? 僕には他に楽しみなんてないんです。お願いします」
「わたしも楽しいです。島村さんとこうしているのが。癒されるというのか、なんだかとっても安心できて」
わたしは島村さんの恋人に相応しくないけれど、このまま終わるのは寂しかった。
「それはとても嬉しいな。僕は人畜無害ですから危険なことはありません。面白いことを言って笑わせたりは出来ないんですけど……」
「クスクスッ、面白いですよ。確かに島村さんは人畜無害って感じですね」
潤一さんとは正反対のこの人に、なぜこんなに惹かれるのだろう。
「退屈な男なんです。気の利いたことが言えなくて……」
「わたしのほうがもっと退屈ですよ。島村さんのような知識も教養もありませんし」
「そんなことないです。美穂さんはとてもステキな人です。話していて人柄が伝わってきます。知識は大切には違いないけど、物知りよりも大切なことってあるでしょう」
わたしを肯定してくれた人など、今まで一人もいなかった。
なんて幸福に満ちた時間なのだろう。
島村さんとこうしていると本当に気持ちが和らぐ。
ずっと殺伐とした不安な環境で育ってきたからだろうか。
だけど、、
わたしは島村さんを愛せるだろうか。
島村さんと教習所で別れてから、白石の潤一さんのご実家にむかう。
毎週、火曜と金曜に頼まれた食材などを購入し、簡単に部屋の掃除なども行う。
家がスーパーに近いので助かるのだが、卵や牛乳、お豆腐、それに大根や玉ねぎなどの野菜が入るとかなりの重量になる。お肉と焼けばいいだけの鮭の切り身も買ってスーパーを出た。
重い荷物を両手に下げ、松田家のインターホンを押した。
インターホンに出たのは、聞き慣れない若い女の声だった。
「はい? なんでしょう?」
「家事代行サービスの片山です」
「あ、はーい!」
明るい返事が返ってきて、すぐに玄関のドアが開けられた。
「お待ちしてました。どうぞ、お入りになって」
「あ、、はい、失礼します」
親戚の子なのだろうか?
若い女の子のようだけれど、なにか堂々としていて大人っぽい。
それにドキッとするような美人だ。
「松田さん、こんにちは。お加減のほうは如何ですか?」
リビングのソファーに腰掛け、刑事モノのドラマを観ていたお母様に声をかけた。
「あらあら重い荷物をいつも悪いわね。茉理、その荷物を冷蔵庫の中にしまってあげて頂戴」
「えーっ、わたしが? 家事代行サービスの人の仕事を奪っちゃいけないでしょ」
茉理と呼ばれた女の子が憮然とした様子で言い返した。
「手伝って色々教えてもらいなさい! あなたの片付け方は滅茶苦茶だから。野菜はちゃんと野菜室に入れるのよ」
「わたしはここの嫁じゃないし。タダでこき使わないでよ!」
いかにも気の強そうな彼女は、お母様が相手でも少しもひるむ様子がなかった。
遠慮のない会話からして、やはり潤一さんの従姉妹《いとこ》なのかもしれない。
「なに言ってるの。こき使ってるんじゃないわよ。教えてあげてるの!! 自分でやったほうがどれだけ簡単で早いか知れないわ。まったく、トイレの掃除も満足に出来ないんだから」
「トイレの掃除くらい出来ます。オバサンとはやり方が違うだけでしょ。今どき雑巾を使って掃除する人なんていませんよ。洗った雑巾なんて気持ち悪くてさわれないし」
確かに、その気持ちは分からないではない。
「掃除の基本を教えてあげたんじゃないの。うちにだって流せるトイレクリーナーくらい置いてあるわよ。大体あなたは目上の者に対する言葉遣いからして成ってないわ!」
「仕方がないでしょう。わたしはずっとドイツで暮らしてたんだから。敬語みたいなややこしい文化はもう廃止にすればいいのに」
この発言が正しいとは思えないけど、彼女の態度には一貫性を感じる。
「まったく野蛮な国でなにを吹き込まれてきたんだか。あなたには日本人の奥ゆかしさってものがないわね」
呆れたようにお母様が言い放った。
「はぁ? なにが奥ゆかしさよ。オバサンに言われたくないし。オバサンみたいな怖い人、ドイツにはいないわよ!」
「黙りなさい! 居候のくせにさっきから言いたい放題のこと言って!!」
お母様がとうとうキレて、顔を赤くして怒鳴った。
「わかりました。わたしここを出て行きます」
茉理さんはそう言って、二階へ上がる階段を駆けていった。
「潤一ったら、あんな子を人に押し付けて。血圧が上がって死んでしまうわよ」
まだ興奮冷めやらぬ様子でお母様が呟いた。
「ご親戚じゃないんですか? 潤一さんが連れてこられたんですか?」
「昨日退院した患者らしいんだけど、ストーカーに追いまわされて、自分の家に帰れないんですって。まだ未成年の高校生なの。潤一がマンションに連れ帰るわけにはいかないから、預かってくれって急に頼まれてね。もっと可愛げのある子なら私だって優しくするのよ。あまりにも生意気すぎるのよ」
どんな事情があるにせよ、潤一さんが茉理さんの世話をするのはおかしなことだと思った。
どう考えても二人は特別な関係に違いない。
「あなた一人暮らしをしてるって言ってたわよね?」
考えあぐねていると、お母様に突然そんなことを聞かれて嫌な予感がした。
「えっ? あ、はい、、そうですが……」
家事代行サービスのわたしが、潤一さんと一緒に暮らしているとは言えない。
「悪いんだけどあの子の面倒を見てあげてくれないかしら。 預かった以上は私にも責任があるでしょう。 追い出したあとでストーカー被害にあったりしたら私だって気分が悪いわ。報酬は息子に払わせるわよ」
「え、、で、でも……」
「一週間でいいらしいの。あなたは年も近いし優しいから私より合うはずよ。お願いするわ」
こんな強引な人とやり合って、今まで勝ったためしがない。
一言も言い返すことができずに狼狽《うろた》える。
だけど一体どうしたらいいのだろう。
キッチンやお風呂など、水まわりのお掃除をしながら、これからのことを考えた。
真駒内にある祖母の家に行くしかない。
だけど、あんなボロボロの家に茉理さんは住めるだろうか。
水道と電気とガスの連絡をしないと。
ガステーブルの五徳を磨いていたら、茉理さんが両手に荷物を持って二階から降りて来た。
なんの挨拶もなしに玄関へ向かった茉理さんを、お母様が呼び止めた。
「茉理、ちょっと待ちなさい!」
「はぁ、またお説教? もう勘弁してよね」
ため息を吐き、唇を尖らせた。
「息子に頼まれた手前、私には責任があるのよ。なにか事件にでも巻き込まれたら気分が悪いでしょ。家事代行の美穂さんがあなたと暮らしてもいいって言ってくれたの。だからしばらくは彼女の家に泊めてもらいなさい」
「えーっ! 本当ですか?」
満面の笑顔で見つめられて憂鬱な気分に苛まれた。もしかしたら茉理さんが断ってくれるのでは、と期待していたから。
「あ、あの、わたしの家はとても古くて不便ですけど」
「大丈夫です! 一週間だけだしマジで助かります。ありがとうございます!」
なんてサバサバしてるんだろう。
わたしとは正反対のタイプだ。
仲良く暮らせるだろうか………。
0
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
🥕おしどり夫婦として12年間の結婚生活を過ごしてきたが一波乱あり、妻は夫を誰かに譲りたくなるのだった。
設楽理沙
ライト文芸
2026.1.4 73話見直した際、瑛士の台詞《本音/懺悔》を加筆しました。😇
☘ 累計ポイント/ 200万pt 超えました。ありがとうございます。
―― 備忘録 ――
第8回ライト文芸大賞では大賞2位ではじまり2位で終了。 最高 57,392 pt
〃 24h/pt-1位ではじまり2位で終了。 最高 89,034 pt
◇ ◇ ◇ ◇
紳士的でいつだって私や私の両親にやさしくしてくれる
素敵な旦那さま・・だと思ってきたのに。
隠された夫の一面を知った日から、眞奈の苦悩が
始まる。
苦しくて、悲しくてもののすごく惨めで・・
消えてしまいたいと思う眞奈は小さな子供のように
大きな声で泣いた。
泣きながらも、よろけながらも、気がつけば
大地をしっかりと踏みしめていた。
そう、立ち止まってなんていられない。
☆-★-☆-★+☆-★-☆-★+☆-★-☆-★
2025.4.19☑~
日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー
黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた!
あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。
さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。
この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。
さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる