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一件落着?
しおりを挟む“ なにをバカなこと言ってるんだよっ! ”
俺は口まで出かかった言葉を、やっとの思いで飲み込んだ。
こいつは一体なにを考えているのか?
なにか戦略でも練っているのか?
俺としては茉理がこのままドイツに帰ってくれたら、やっと肩の荷が降りる。
だけど、この先ずっとうしろめたい気持ちに苛まれるだろう。
俺はもっと冷めた人間だと思っていたけどな。
「結婚ッテ、二人ガデスカ? 」
レオンは俺に不審な目を向けた。
俺はどう言っていいのかわからなかったので、黙っていた。
「そうなの。私たち結婚することにしたの。今、妊娠一ヶ月よ。わたし、絶対に産むから!」
茉理の奴、そう出たか。
このまま大人しく、レオンに着いて行くとは思わなかったけれど。
それにしても結婚って、、
二人の間に恋愛感情があって、婚約ということになれば、17歳でも淫行だのわいせつだのってことにはならないはずだ。
だけど、一時的な嘘だとしても婚約なんてことになれば美穂は傷つくだろう。
ボンヤリとそんな事を考えていたら、
「本当ニ茉理ト結婚スルツモリデスカ?」
レオンはまるでウソ発見器みたいに不審極まりない目で俺を見据えた。
「あ、、いや、まぁ、そうだな。そういう事だ」
俺の嘘はなぜかいつも見破られるから、レオンにもバレるかも知れない。
レオンは少し考え込むような、虚ろな目をして立ちすくんでいた。
茉理は俺の腕にしがみついたまま、うつむいている。
仕方がないな。今はこいつのために一芝居《ひとしばい》うつしかないんだろう。
「チョット、電話ヲシテキマス」
レオンは少し離れた場所へ移動し、スマホを耳に当てた。
切羽詰まっていたとはいえ、咄嗟に思いついた嘘は信じてはもらえないだろう。
妊娠など、調べればすぐにわかることだ。
離れて電話をしているレオンを横目に未だにしがみついている茉理の腕を振り払った。
「一体どういうつもりだ? なにが結婚だ、ふざけるな!」
俺はそこまで怒ってなかったが、かなり不機嫌な声を出した。
「ごめんなさい。話を合わせてくれてありがとう」
「突然、びっくりするだろう。なんで車の中で言わなかったんだよ?」
「だって、絶対に反対されると思ったから」
「そんな嘘はすぐにバレるぞ。あまりにも短絡的だ」
「急場をしのげればいいのよ。レオンは明日帰ってしまうでしょう。いま一緒にドイツへ行っちゃったら、絶対に断れないんだから………」
多分、レオンは上層部の連中と話をしているのだろう。
どうするつもりだ?
簡単に諦めるはずもないと思うが。
妊娠までさせたとなると、本当に責任を取って結婚しないと訴えられるのか?
話はどうなったのか電話を終えたレオンがこちらに歩いて来た。
「茉理、コングラッチュレーションズ! 会長カラ、オ祝イノメッセージデス。元気ナベビーヲ産ンデ、日本デ幸セニ暮ラシナサイト言ッテマシタ」
「えっ! パパが? 本当に? 本当?」
キツネにつままれた様な顔をしている茉理だったが、俺自身もにわかには信じられなかった。
「ワタシノ役目モ無事ニ終ワリマシタ。近々、茉理ノ母親ガ日本ニ帰ッテ来ルデショウ」
「えっ、ママが………」
「茉理ハモウ自由デス。ワタシハ明日ドイツへ帰ルノデコレデ失礼。茉理、グッバイ!」
「………レオン」
あっさり自由放免と告げられて、茉理と二人で面食らい、スタスタと去っていくレオンの後ろ姿を無言で見つめていた。
「ずいぶんとあっさりしたものだな。兄とは言っても、所詮は血の繋がりもない赤の他人だからな。まぁ、良かったじゃないか。これで念願かなって自由の身だ」
もっと手放しで喜ぶのかと思っていたら、茉理はうつむいて、なぜか塞ぎ込んでいるようにみえた。
「どうしたんだよ! なんで喜ばない?」
「うん、、嬉しいんだけど………」
突然で、まだ実感がわかないのかも知れない。
また一緒に車に乗り、茉理が住んでいたマンションに送ることとなった。
大通りにある利便性のいい、洒落たレディースマンションだった。
やはり富豪の愛人の娘だけのことはある。
だけど、結局シュルツ氏の会社はどうなるのだろう。
七代続いたワイナリーはどこかの傘下に入るのか。
それとも買収されてしまうのだろうか。
「頭のケガも良くなったし、明日からは普通の高校生に戻れるな。じゃあ、頑張れよ!」
マンション前に着き、車から降りた茉理にそう言って勇気付けたつもりだけれど。
「なによ、今日でおしまいってわけ? ずいぶん冷たいのねっ! 居候がいなくなって清々したって顔ね。私がいなくなってそんなに嬉しい!?」
さっきまでなんとなく意気消沈しているように見えた茉理だったが、何故かいきなりブチギレた。
「なにを怒ってるんだ? おまえの願いが叶ったんだろ? さっきからずっと仏頂面して、一体なにが不満なんだ? それがずっと面倒みてきた俺に対する態度なのかっ!!」
「もういいよっ、美穂さんとお幸せに!!」
下唇を噛んだ茉理は、目に涙をためてマンションへ入っていった。
まったく、なんなんだよ。
礼儀知らずめ!!
時計を見ると、もうすぐ11時になろうとしていた。
俺は暇人じゃないんだぞ、貴重な時間を返せ!
翌日の夜、真駒内にある幽霊屋敷に美穂を迎えにいった。
夜の7時半だというのに家には電気がついてなく、真っ暗だった。
玄関のブザーを押してみたが、なんの応答もない。
まさか、留守とは思わなかったな。
美穂のLINEに電話をすると、なんとブロックされていた。
どういうことだ?
美穂、おまえは何処にいるんだ?
幽霊屋敷にいなくて、LINEで連絡も取れないとなると、どうにもならない。
一体、どこにいるのだろう。
まさか、自殺じゃないだろうな。
美穂ならそんなことがあっても不思議じゃない気もして、落ち着かない日々を過ごした。
美穂がいなくなると、あっという間に家の中は足の踏み場がなくなった。
食後の後片づけや、洗濯たたみなどの慣れない雑用にいらだつ。
茉理になにを言われたか知らないけど、黙って出ていくことはないだろう。
どいつもこいつも礼儀を知らない。
美穂に出ていかれてみると、良いところばかりが思い出される。
考えてみれば美穂ほど俺に向いてる女はいないように思えた。
なんといってもあいつは我慢強い。
育ってきた環境が悪過ぎたせいだ。
あんな父親と長いこと暮らせていたくらいだから、辛いことに対する耐性が半端じゃない。
亭主の浮気を咎めたり、子育てに協力しないだの家族サービスがないだのとアレコレ不満を並べ立てる女ではない。
なにより、料理上手だからな。
それはかなりポイントが高いだろう。
それにあの爆弾ボディ。
色っぽいランジェリーを身につけて、恥じらっていた可愛い美穂を思い出す。
そう思うと、未練たらしい想いがどんどん膨らむ一方だった。
美穂がいなくなってから、一ヶ月ほど過ぎた7月初旬の夜、仕事から家に戻ると玄関に女物の靴があった。
「美穂!!」
慌てて靴を脱ぎ、リビングのドアを開けた。
リビングは相変わらず乱雑なままだった。
そして、ソファに寝そべってくつろいでいたのは茉理だった。
「先生、お帰り~ お久しぶりでーす!!」
「ま、茉理! おまえ、ここで何してるんだ!!」
ーー驚きと落胆。
「怒んないでよ。スペアキーを返してなかったでしょう。だから、返しに来たの」
「勝手に人の家に上り込むな! 不法侵入で訴えるぞ!!」
「美穂さんがいたら、ポストに入れて帰ろうと思ったんだよ。でも、いなかったから、ちょっと懐かしくなっちゃって、、だけど、すごい散らかりようだね。まるでゴミ屋敷じゃん!」
脱ぎ散らかした下着類が床に散乱し、ハンガーに掛けていない服は、椅子の背もたれなどに掛けられていた。
キッチンはもっとすごい事になっている。
「そう思うなら掃除でもしてくれたらいいだろう。無断で入ってなにくつろいでるんだよ! 料理もダメなら掃除も出来ないのか、おまえは!」
「料理はあんまりだけど、お掃除は得意よ。ねぇ、美穂さんはどうしたの? 別れちゃったの?」
茉理は少しは責任を感じてるのか、申し訳なさそうな顔をした。
「おまえが余計なことを言ったからだろう! 」
そうだ、こいつが夜のサービスまでしているなんてヌカすから、美穂は出て行ったんだろう。
「えーっ! じゃあ、あの日以来、美穂さんはずっと戻ってないってこと?」
「………そうだよ、なんの音沙汰もない。一体どこに行ってしまったんだか」
まったく、どこで何をしてるんだよ。
「…ごめんね。………じゃあ、茉理を雇ってくれないかな? 家事代行サービス」
「目玉焼きも満足に焼けないような代行サービスなんていらないよ。どうしたんだ? バイトしないといけなくなったのか?」
「うん、、ママがね、ドイツから戻って来てるの。もう、シュルツさんの愛人じゃなくなっちゃったから」
まぁ、そうなるだろうな。
金の切れ目が縁の切れ目ってやつだな。
「そうか、それで仕送りは無しになったってワケなんだな。まぁ、変態と結婚しなくて済んだんだから、貧乏は我慢するんだな。そのくらいのことは覚悟で断ったんだろう?」
「茉理は貧乏くらい平気だよ。もう、高校も辞めちゃったの。昼間も飲食店で働いてる」
「……マ、マジか?」
高校を辞めなきゃいけないくらい、切羽詰まってたのか。
もしかして、シュルツ氏の復讐か?
「母親は何をしてるんだ? まだ若いだろう、働いてないのか?」
「……働いてるよ。またススキノのクラブで」
「だったら高校を辞めることはなかっただろう? なんで簡単に高校を辞めたりしたんだよ」
高卒だって仕事など中々見つけられないってのに、今どき高校中退などありえないだろう。
「ママは贅沢が身につき過ぎてしまってて、私とママの二人の稼ぎじゃ全然足りないの。だから、家事代行サービスさせてくれないかな? それとここに泊めて欲しいの。茉理、………夜のサービスもするから」
茉理はひどく哀しげな目で俺を見つめた。
「ま、茉理!!」
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