いつだって見られている

なごみ

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交通事故

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 翌朝、和樹の事件はまだ 報道されていなかった。


なぜなのだろう?


お昼のニュースにも和樹の事件は何もない。


犯人を警戒させないための作戦なのだろうか。


 犯人がまだ捕まっていなくても、殺人事件が発生したなら、ニュースで報道されるものだと思っていたけれど。


自分が容疑者として連行され、報道カメラマンのフラッシュで目がチカチカしている姿を想像した。


そして、愕然として死んだようにテレビを見つめている家族の姿を。


ーーとても耐えられない。


なぜ、すぐにも死んでしまわなかったのだろう。


なぜ、和樹はあのとき殺してくれなかったのだろう。


ーーー逃げなければ、刑事が来る前に。


普段から物はあまりため込まないほうで、身辺整理にはさほど時間はかからなかった。


自殺するなら凍死が一番美しいと誰かが言っていたけれど。


誰にも発見されずに死ねるなら、それが一番いい。


今の時期は誰も行くことのない海がいいかも知れない。


以前から大島家の墓に入るよりは、海に散骨されるのがいいと思っていたのだ。


遺体が打ち上げられたりせずに、ちゃんと魚の餌にでもなればいいけれど。


この時期、午後4時にもなると外は真っ暗だった。


金槌で叩き壊した和樹のスマホをポケットに入れた。


和樹のダウンコートは今朝すでに、古着のゴミとして捨てた。






玄関を出ると、車に雪がうっすらと積もっていた。


スノーブラシでサッと雪をはらい、日産ノートに乗り込む。


家族へ書置きくらいはした方が良かったのだろうか。


だけどなんて?


猫のように人知れずに死ぬのが一番では
ないか。




住宅街から国道5号線に入り、小樽方面に
 向かう。


チラチラと細かな雪が降っている。


今夜はかなり冷え込みそうだ。


海水の冷たさを思い、背筋が寒くなる。


朝里海岸あたりでいいだろうか。


あまりに国道沿い過ぎて、すぐに発見されてしまいそう。


家のそばのドリームビーチのほうが良かったかも知れない。


 帰宅時間帯ではないので、道路は空いていた。


すべりやすいアイスバーンだというのに、後続車がすごいスピードで追い越しをかけていく。


カーブの多い上り坂にさしかかる。


スピードを緩めて慎重に運転していたら、前方から大型トラックが対向車線をはみ出して下って来た!


「えっ!  うそ、そんな!!」



ハンドルを切る間もなく、スピンしたトラックが目前に迫る。



「………うっ!!」



激しい衝撃音と激痛。




その後はなにも覚えていない。









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