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離婚届を突きつけられて
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*潤一*
つい売り言葉に買い言葉で、離婚にまで話が進んでしまった。
元々そういう話になるのだろうと予想はしていたが、自分から墓穴を掘るとは思わなかった。
大泣きしている子供をなだめながらオタオタしている彩矢を見て、やるせない気持ちになる。
いつまでも子供っぽく頼りげのない女。
こんな女に子供を一人で育てられるのだろうかと思う。
まぁ、そんなところが可愛らしく、放っておけない気持ちにさせているとも言えなくもないが……。
泣きやんだ子供に着替えさせ、身支度をすませると、さっさと家を出ていった。
何かといえばすぐに実家を頼りすぎるのも問題だ。平川の母親は娘を甘やかし過ぎる。まだ若いのにする事もなくて暇なのだろう。
そういう余計なお世話が、結果的には娘の幸せを台無しにするということに気づきもしない。
不満なことが起こる度に実家へ逃げこむ娘を、可哀想がってばかりいるのだ。
だから彩矢はいつまでたっても根性のない我儘なガキのままなんだ。
こんな頼りになる実家の両親がいれば、離婚してもやっていけないことはないのだろうが、俺にとってはた迷惑もいいところだ。
二日酔いで頭が痛く、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し、コップへ注ぐ。
昨夜は確かに飲みすぎた。
暇つぶしに大学の医局に顔を出すと、以前同じ病院で働いていた研修医の岡村と小島がいた。
奴らのことはあまり覚えてはいなかったが、仕事をよく教えてもらって有り難かったと言われ、よかったら今晩飲みに行きませんかと誘われた。
岡村がよく行くというススキノの居酒屋へ連れていかれた。
いつもの混み具合など知らないが、月曜の夜にしては店内は混んでいた。
道内各地から、おいしい食材が集まって来る札幌は、夜のまちに繰り出せば、新鮮な海の幸が存分に楽しめる。
好みの品を焼き網にのせて食べられるように、各テーブルに焼き台がセットされていた。
熱を入れても焼き縮みなしの、プリプリの牡蠣がうまい。濃厚な旨みがたっぷり詰まっているバフンウニ、ホタテ、北海しまえびなどを焼く。
厚みのある羅臼産しまほっけの干物も、脂がのっていて美味かった。
やはりこういったものは、スーパーでしか買い物をしない彩矢の料理からは、望むべくもない。
あちこちの病院で当直のアルバイトをしているらしく、岡村と小島の話は興味を引くものが多かった。
同期だった広岡の話もでた。2年前に結婚したことは知っていたが、子供が生まれていることまでは知らなかった。一歳になる娘がいるらしい。
まだ大学院に残って研究を続けているはずだ。すでに助教の広岡は同期の中では一番の出世頭と言えよう。
広岡を出し抜くためには、あいつ以上の論文を書かなければいけない。そんなことを考えると、どんどん気が滅入ってくる。
俺は完全に遅れをとっている。
広岡はどんな女と結婚をしたのだろう。俺が邪魔さえしなければ、花蓮は間違いなく広岡と結婚して、幸せに暮らしていたはずだ。
花蓮と航太をあんな目にあわせておきながら、また彩矢と子供を不幸にしようとしている。
俺はいったい何をやっているのか。
そんなことを考えていたら、つい飲みすぎて悪酔いをしてしまった。
その後、バーをはしごして、奴らがよく行くというキャバクラにも行ってみたが、商売女はどうも苦手だった。
岡村と小島を残して30分ほどで退散し、タクシーでマンションをへ帰った。
着替える元気もなくベッドへ倒れこみ、爆睡した。
「パパ、おはよう! 朝だよ、パパ起きて」
仕事も休みの二日酔いの朝に、無理やり悠李にゆり起こされた。
どこの父親だって不快に思うだろう。
「うるさいっ、あっちに行ってろ!」
そう怒鳴りつけてやったら、彩矢がヒステリーをおこして、わめき立てた。
あいつは悠李のこととなると、すぐムキになる。そんなに佐野のガキが可愛いのか。
いつまでたっても未練がましい女だ。
佐野が簡単に離婚など出来るわけがないだろう。いくら彩矢に自分の息子がいたとしても。
ズキズキする頭で起きあがり、リビングへ行った。
この俺が、わざわざ遊園地にまで連れて行ってやったというのに、いったいなんの文句があるというんだ?
さっさと外人女と結婚してしまえだの、隠し子をどんどん作って、離婚を繰り返せだの、メチャクチャなことを言ってわめき散らす彩矢に、俺の堪忍袋のとうとうブチギレた。
「もう離婚だ! おまえのような母親が偉そうなことを言うな!」
彩矢たちは今晩、戻ってこないだろうな。
俺は明日にはロスへ行ってしまうっていうのに。
雪花もやっと俺に慣れたというのに。
午前中をダラダラと寝て過ごしていたら、いくらか気分も良くなった。
マンションにいても暇なので、白石の実家にでも行ってみようかという気になった。
なんのアメリカ土産もないが、母親に顔を見せるくらいのことはしてやろう。
まだ持病らしきものは無いようだが、還暦も過ぎて、ずいぶん年を取ったように思う。
親父のように、いつポックリ逝かないとも限らない。
地下鉄駅から徒歩10分ほどで家の前に着くと、お袋はかがんで庭の草をむしっていた。
庭と呼べるほど広くもないが、チューリップや水仙などの春の花がきれいに咲いていた。
「草むしりか、大変だな」
「わっ、なによ、いきなり、びっくりするじゃない!」
腰でも抜かしたかのように、のけぞって後ろへひっくり返った。
「はははっ、そんなに驚くなよ。ちょっと用があって、先週帰ってきたんだ。明日すぐ戻るけどな」
「あら、そうなの。電話でもくれたらよかったのに。買い物してないから、何もないのよ」
ぶつぶつ言いながら立ちあがり、玄関のドアをあけた。
この家は俺が中学に入る頃に建ったから、もう築20年にもなるだろう。
老朽化というほどではないが、琴似のマンションと比べると、やはり古めかしく、使い勝手がよくなさそうだった。
少しリフォームでもしてやりたいとは思うが、マンションのローンもあるし、研修中の身ではちょっと無理だ。
今後のことを考えると、家のリフォームよりは老人ホームの方がいいのかも知れない。
リビングの隣の和室へ向かい、仏壇の前に座った。
穏やかに微笑んでいる父の遺影を見つめる。
口元と骨格が俺とよく似ているが、子供の頃から母親似だと誰からもそう言われた。
ーー特に性格がそっくりだと。
親父はお袋とは違い、おおらかな人柄だった。ほとんど叱られたという記憶がない。
その分、お袋からは毎日叱られどおしだった。やんちゃな悪ガキだったのだから仕方がないが。
それでもひとりっ子の俺は、両親からかなり溺愛されていた方だとは思う。
仏壇のろうそくに灯をともし、線香に火をつけ、おりんを鳴らした。
この家には花蓮と結婚するまで暮らしていた。
親父は仕事人間で、朝は早く、夜も遅かった。親父には遊んでもらったような記憶はほとんどない。
だけど遊ぶ友達に不自由をした記憶がない俺にとって、父親に遊んでもらえないなどと不満に感じたことは一切なかった。
小学生の頃から地元のサッカークラブに所属していたこともあり、休日も忙しかったのだ。
仕事人間の俺も、そんな親父のDNAを受け継いだのかもしれない。
お袋が必要以上に口やかましかったから、あれで親父にまであれやこれやと言われていたら、多分グレていただろう。
忙しく、遊んではくれなかったが、いつも俺には寛容な理解を示してくれた。
幼稚園の頃からトラブルメーカーだったこともあり、お袋は呼び出しをくらうことが多かった。その度にあらゆるお仕置きを受けた。
ゲンコツなどは日常茶飯事で慣れっこだったが、いちばん恐ろしかったのは真っ暗な物置に閉じ込められたことだ。多分、1~2時間位のものだったと思うが、そのせいで今も閉所恐怖症気味なところがある。
虐待とまでは思っていないが、鬼の形相をしたお袋の罵倒は今思い出しても震えあがるほどの迫力だった。
殴られた級友の親が騒ぎ立てて学校へ怒鳴り込んでくるので、お袋はしょっちゅう学校から呼び出しをくらった。
仕事から帰った親父は、怒り狂ったお袋から呼び出し報告なんかを聞かされても、特に動じるようすも見せなかった。
「男はそのくらい元気な方がいい。こいつは中々見どころのある奴だ」
などと言って褒めるので、お袋はついに報告することをやめてしまった。
だから、俺と親父の関係は悪くはなかった。
医大に行くようになってからは、さらに顔を合わせる機会は減って、親父とは出勤前の朝に少し顔を合わせたくらいだった。
医学生の頃は、それくらい公私ともに忙しかったのだと思う。
航太が生まれて数ヶ月を過ぎた頃、呆気なく心筋梗塞であの世へ旅立ってしまい、呆然とした。
お互いにもっと時間に余裕が出来たら、酒を酌み交わしながら、話したいことは山ほどあったはずなのに……。
こんな風に感傷的になっているのは、俺が年をとったせいなのか。
リビングへ戻りソファへ腰を下ろすと、お袋がコーヒーをふたつ持ってきて、ローテーブルにおいた。
「研修の方はどうなの? やっぱり大変なんでしょ?」
「目が回りそうなくらい忙しいよ。さっさと辞めて帰りたいくらいだ」
サイドボードの上に花蓮と航太の写真がいくつも飾られていた。
初孫だった航太は、お袋にとってかけがえのない存在だった。俺にそっくりなうえに、誰に似たのかいつもおどけては人を喜ばせる陽気さがあった。
「そうなの? じゃあ、帰ってらっしゃいよ。アメリカで一人暮らしなんて心配だわ。あなたの方が病人になっちゃうわよ」
「まぁ、もう少し考えてから決めるよ」
お袋に帰ってこいなどと言われると、なぜかもう少し頑張ってみようかという気になる。
「彩矢さんだって、子供を保育所に預けて仕事なんかして、なにもかも実家のお母さんにまかせっきりじゃないの。あれじゃあ、子育てを放棄してるのと一緒だわ」
「仕事より子育ての方が辛いらしいからな」
「呆れるわね、最近の母親は。そんな考えじゃ、先が思いやられるわ。子どもをないがしろにするなんて。そういう手抜きは後でしっかりとしっぺ返しされるんだから」
孫に中々会えなくなったからだろう。お袋の不満は嫁の彩矢に向けられた。
「雪花ちゃんはまだ一歳なのよ。大勢の子ども達と一緒におおざっぱな扱いを受けさせて、不憫に思わないのかしら」
「まぁ、俺も今は仕送りしてないからな。だから働いてもらってる。研修が終わったら辞めさせるよ」
「働かなくたって、うちに来ればいいんだわ。部屋はたくさん余ってるんですもの。彩矢さんにだってそう言ったのに知らんぷりよ。自分の実家に入り浸ってばかりいて」
「………」
結局、久しぶりに実家に寄ってもこんな話ばかりだ。女ってのはどうしようもないな。
彩矢と離婚することになったと言ったら、お袋はなんと言うのだろう。
いくら彩矢の悪口を言っていても、離婚には反対をするだろう。まして、ジェニファーみたいな女と再婚するなどと言ったら、腰を抜かすかも知れない。
夕食前にマンションへ帰ろうと思ったが、いつも一人で食事をしているお袋がかわいそうに思えて、晩飯を一緒に食べた。
身欠きニシンをフキやタケノコと一緒に煮た懐かしい郷土料理や、焼いた干しガレイにほうれん草のおひたしなど、年寄りの好む料理ばかりだったが、アメリカでの食生活に辟易していたので、とても美味しく感じられた。
夜の8時を過ぎてマンションに戻った。
彩矢は今朝、激怒して出て行ったので、今日は帰ってはこないのだろう。
そう思って玄関のドアを開けると、部屋に灯がついていた。
「パパ、おかえり!」
悠李が走って出迎えた。
「悠李帰ってたのか。今日はバァバのところに泊まるんじゃなかったのか?」
「だって、パパは明日アメリカへ行っちゃうんでしょ。悠李も行きたいな、アメリカに」
「そうか、そのうち連れてってやるよ」
「本当? いつ連れてってくれるの? ねぇ、いつ?」
「まぁ、そのうちな、小学校に行ってからだな」
悠李は喜びを隠せないようすで、目を丸くして俺を見つめた。靴を脱いで悠李の頭を撫でた。
憎らしいほど佐野にそっくりなだけあって、可愛らしい顔立ちをしている。
こいつも将来は女にモテるだろう。
性格まで佐野に似ているから、女泣かせにはならないのだろうな。
たった一人の女をいつまでも想い続けるロマンチストになるのか、おまえも。
リビングへ入ると仏頂面をした彩矢が、キッチンでフライパンを洗っていた。
「ただいま。あ、俺の晩飯はいらないぞ、お袋のとこで食べてきたから」
「………。」
彩矢からは ” おかえり ” の返事もなく、無視された。
脱いだジャケットをソファの背もたれに引っ掛け、どさりと腰を下ろす。
雪花は人形の口にオモチャの哺乳瓶を差し込んで、ミルクを飲ませるマネをしていた。
「ポポちゃん、ミルクどうじょ。はいネンネしましょ」
まわらない口でおしゃべりする雪花は可愛らしかった。
抱きあげて頬ずりでもしたいところだが、遊んでいるのを邪魔などしたら、また泣きだすに違いない。
「ママ、パパがね、悠李をアメリカへ連れてってくれるって言った」
悠李がキッチンにいる彩矢に話しかけた。
彩矢はそれには返事もせずに、俺のそばまでやって来た。
「出来もしない約束ばかりしないで!」
目をつり上げながら、いきなり切り口上でそう言った。
「なんで出来ないんだよ。アメリカくらいそのうち連れて行くよ」
今どきアメリカなんぞ、連れていこうと思えばすぐにでも行けるだろ。
「離婚届の用紙を出して。サインするから!」
平謝りでもしないと許さないといった勢いだ。
「届け出用紙なんてもらって来てないよ。今朝のことははずみで言ったことだろ。本気にするなよ」
「ほら、あなたの言うことはいつだってあてに出来ないんだわ」
そう言って寝室へ向かうと、手に紙を持って戻ってきた。
「そんなことだろうと思って、昼休みに役所へ行ってもらって来ました。ここへサインして」
彩矢はそう言うと、離婚届の用紙をローテーブルに広げた。
「……彩矢、、なんだよ、おまえも気の短いヤツだな。まぁ、今朝は俺も言いすぎたよ、悪かったな」
「謝ってくれなくて結構です。サインお願いします」
「………本気で言ってるのか? 二人の子連れじゃ再婚は難しいと思うけどな。私ならまだまだイケるとでも思ってるのか?」
「余計なお世話です。そんな心配しなくていいから、早くサインをして」
ーーマジで本気か?
あるひとつの疑念が湧いた。
「もしかして佐野か? 佐野と駆け落ちでもするつもりか?」
「……駆け落ちなんてしなくても、佐野さんは去年離婚してます」
彩矢は少し動揺してうつむいた。
「そうか、、なんだ、そういうことか。それなら早くそう言えよ! じゃあ、おまえはとっくに離婚するつもりでいたって事だな。俺とジェニファーのことをとやかく言える立場じゃないだろう!」
ふざけた話だ。二人の間ではもう色々な準備が出来ていたということか。俺の突然の帰国は好都合だったというわけだ。
「私はやりなおそうって思ってたわ。この間まで本当にそう思ってたわ。隠し子のことを聞くまでは!」
目に涙をためて彩矢はそう訴えた。
「出来てしまったものはどうしようもないだろう。じゃあ、堕ろさせろって言うのか?」
「そんなこと思ってません。彼女と幸せに暮らしてください」
「彩矢、、認知してやるだけじゃないか、許してくれよ。マジで騙されたんだよ。それに、もしかしたら俺の子じゃないかも知れないんだ」
「…………バカみたい。とにかく離婚します。あなたがいい父親になどなれるわけがないわ。それがわかったから」
軽蔑したような憐れんだ目で見つめられ、鬱積していた怒りが爆発した。
「自分はそんなに立派な母親だって言えるのか。俺がロスでどれだけ苦労して勉強していたか、おまえは考えたこともないだろう。亭主のいないのをいいことに、佐野と結婚の準備なんかを進めてたんだろっ! 騙されていたのは俺の方だな。おまえ達の方がずっと陰険で悪どい!」
「…………。」
絶句してシクシク泣き出した彩矢に、もうなにも言えなかった。
「ケンカしないで、、ママ、泣かないで……」
さっきから悲しげな顔で俺たちのバトルを見ていた悠李が、泣いている彩矢の頭をなでた。
やりきれない思いでテーブルの上の離婚届に黙ってサインをした。
つい売り言葉に買い言葉で、離婚にまで話が進んでしまった。
元々そういう話になるのだろうと予想はしていたが、自分から墓穴を掘るとは思わなかった。
大泣きしている子供をなだめながらオタオタしている彩矢を見て、やるせない気持ちになる。
いつまでも子供っぽく頼りげのない女。
こんな女に子供を一人で育てられるのだろうかと思う。
まぁ、そんなところが可愛らしく、放っておけない気持ちにさせているとも言えなくもないが……。
泣きやんだ子供に着替えさせ、身支度をすませると、さっさと家を出ていった。
何かといえばすぐに実家を頼りすぎるのも問題だ。平川の母親は娘を甘やかし過ぎる。まだ若いのにする事もなくて暇なのだろう。
そういう余計なお世話が、結果的には娘の幸せを台無しにするということに気づきもしない。
不満なことが起こる度に実家へ逃げこむ娘を、可哀想がってばかりいるのだ。
だから彩矢はいつまでたっても根性のない我儘なガキのままなんだ。
こんな頼りになる実家の両親がいれば、離婚してもやっていけないことはないのだろうが、俺にとってはた迷惑もいいところだ。
二日酔いで頭が痛く、冷蔵庫からミネラルウォーターのボトルを出し、コップへ注ぐ。
昨夜は確かに飲みすぎた。
暇つぶしに大学の医局に顔を出すと、以前同じ病院で働いていた研修医の岡村と小島がいた。
奴らのことはあまり覚えてはいなかったが、仕事をよく教えてもらって有り難かったと言われ、よかったら今晩飲みに行きませんかと誘われた。
岡村がよく行くというススキノの居酒屋へ連れていかれた。
いつもの混み具合など知らないが、月曜の夜にしては店内は混んでいた。
道内各地から、おいしい食材が集まって来る札幌は、夜のまちに繰り出せば、新鮮な海の幸が存分に楽しめる。
好みの品を焼き網にのせて食べられるように、各テーブルに焼き台がセットされていた。
熱を入れても焼き縮みなしの、プリプリの牡蠣がうまい。濃厚な旨みがたっぷり詰まっているバフンウニ、ホタテ、北海しまえびなどを焼く。
厚みのある羅臼産しまほっけの干物も、脂がのっていて美味かった。
やはりこういったものは、スーパーでしか買い物をしない彩矢の料理からは、望むべくもない。
あちこちの病院で当直のアルバイトをしているらしく、岡村と小島の話は興味を引くものが多かった。
同期だった広岡の話もでた。2年前に結婚したことは知っていたが、子供が生まれていることまでは知らなかった。一歳になる娘がいるらしい。
まだ大学院に残って研究を続けているはずだ。すでに助教の広岡は同期の中では一番の出世頭と言えよう。
広岡を出し抜くためには、あいつ以上の論文を書かなければいけない。そんなことを考えると、どんどん気が滅入ってくる。
俺は完全に遅れをとっている。
広岡はどんな女と結婚をしたのだろう。俺が邪魔さえしなければ、花蓮は間違いなく広岡と結婚して、幸せに暮らしていたはずだ。
花蓮と航太をあんな目にあわせておきながら、また彩矢と子供を不幸にしようとしている。
俺はいったい何をやっているのか。
そんなことを考えていたら、つい飲みすぎて悪酔いをしてしまった。
その後、バーをはしごして、奴らがよく行くというキャバクラにも行ってみたが、商売女はどうも苦手だった。
岡村と小島を残して30分ほどで退散し、タクシーでマンションをへ帰った。
着替える元気もなくベッドへ倒れこみ、爆睡した。
「パパ、おはよう! 朝だよ、パパ起きて」
仕事も休みの二日酔いの朝に、無理やり悠李にゆり起こされた。
どこの父親だって不快に思うだろう。
「うるさいっ、あっちに行ってろ!」
そう怒鳴りつけてやったら、彩矢がヒステリーをおこして、わめき立てた。
あいつは悠李のこととなると、すぐムキになる。そんなに佐野のガキが可愛いのか。
いつまでたっても未練がましい女だ。
佐野が簡単に離婚など出来るわけがないだろう。いくら彩矢に自分の息子がいたとしても。
ズキズキする頭で起きあがり、リビングへ行った。
この俺が、わざわざ遊園地にまで連れて行ってやったというのに、いったいなんの文句があるというんだ?
さっさと外人女と結婚してしまえだの、隠し子をどんどん作って、離婚を繰り返せだの、メチャクチャなことを言ってわめき散らす彩矢に、俺の堪忍袋のとうとうブチギレた。
「もう離婚だ! おまえのような母親が偉そうなことを言うな!」
彩矢たちは今晩、戻ってこないだろうな。
俺は明日にはロスへ行ってしまうっていうのに。
雪花もやっと俺に慣れたというのに。
午前中をダラダラと寝て過ごしていたら、いくらか気分も良くなった。
マンションにいても暇なので、白石の実家にでも行ってみようかという気になった。
なんのアメリカ土産もないが、母親に顔を見せるくらいのことはしてやろう。
まだ持病らしきものは無いようだが、還暦も過ぎて、ずいぶん年を取ったように思う。
親父のように、いつポックリ逝かないとも限らない。
地下鉄駅から徒歩10分ほどで家の前に着くと、お袋はかがんで庭の草をむしっていた。
庭と呼べるほど広くもないが、チューリップや水仙などの春の花がきれいに咲いていた。
「草むしりか、大変だな」
「わっ、なによ、いきなり、びっくりするじゃない!」
腰でも抜かしたかのように、のけぞって後ろへひっくり返った。
「はははっ、そんなに驚くなよ。ちょっと用があって、先週帰ってきたんだ。明日すぐ戻るけどな」
「あら、そうなの。電話でもくれたらよかったのに。買い物してないから、何もないのよ」
ぶつぶつ言いながら立ちあがり、玄関のドアをあけた。
この家は俺が中学に入る頃に建ったから、もう築20年にもなるだろう。
老朽化というほどではないが、琴似のマンションと比べると、やはり古めかしく、使い勝手がよくなさそうだった。
少しリフォームでもしてやりたいとは思うが、マンションのローンもあるし、研修中の身ではちょっと無理だ。
今後のことを考えると、家のリフォームよりは老人ホームの方がいいのかも知れない。
リビングの隣の和室へ向かい、仏壇の前に座った。
穏やかに微笑んでいる父の遺影を見つめる。
口元と骨格が俺とよく似ているが、子供の頃から母親似だと誰からもそう言われた。
ーー特に性格がそっくりだと。
親父はお袋とは違い、おおらかな人柄だった。ほとんど叱られたという記憶がない。
その分、お袋からは毎日叱られどおしだった。やんちゃな悪ガキだったのだから仕方がないが。
それでもひとりっ子の俺は、両親からかなり溺愛されていた方だとは思う。
仏壇のろうそくに灯をともし、線香に火をつけ、おりんを鳴らした。
この家には花蓮と結婚するまで暮らしていた。
親父は仕事人間で、朝は早く、夜も遅かった。親父には遊んでもらったような記憶はほとんどない。
だけど遊ぶ友達に不自由をした記憶がない俺にとって、父親に遊んでもらえないなどと不満に感じたことは一切なかった。
小学生の頃から地元のサッカークラブに所属していたこともあり、休日も忙しかったのだ。
仕事人間の俺も、そんな親父のDNAを受け継いだのかもしれない。
お袋が必要以上に口やかましかったから、あれで親父にまであれやこれやと言われていたら、多分グレていただろう。
忙しく、遊んではくれなかったが、いつも俺には寛容な理解を示してくれた。
幼稚園の頃からトラブルメーカーだったこともあり、お袋は呼び出しをくらうことが多かった。その度にあらゆるお仕置きを受けた。
ゲンコツなどは日常茶飯事で慣れっこだったが、いちばん恐ろしかったのは真っ暗な物置に閉じ込められたことだ。多分、1~2時間位のものだったと思うが、そのせいで今も閉所恐怖症気味なところがある。
虐待とまでは思っていないが、鬼の形相をしたお袋の罵倒は今思い出しても震えあがるほどの迫力だった。
殴られた級友の親が騒ぎ立てて学校へ怒鳴り込んでくるので、お袋はしょっちゅう学校から呼び出しをくらった。
仕事から帰った親父は、怒り狂ったお袋から呼び出し報告なんかを聞かされても、特に動じるようすも見せなかった。
「男はそのくらい元気な方がいい。こいつは中々見どころのある奴だ」
などと言って褒めるので、お袋はついに報告することをやめてしまった。
だから、俺と親父の関係は悪くはなかった。
医大に行くようになってからは、さらに顔を合わせる機会は減って、親父とは出勤前の朝に少し顔を合わせたくらいだった。
医学生の頃は、それくらい公私ともに忙しかったのだと思う。
航太が生まれて数ヶ月を過ぎた頃、呆気なく心筋梗塞であの世へ旅立ってしまい、呆然とした。
お互いにもっと時間に余裕が出来たら、酒を酌み交わしながら、話したいことは山ほどあったはずなのに……。
こんな風に感傷的になっているのは、俺が年をとったせいなのか。
リビングへ戻りソファへ腰を下ろすと、お袋がコーヒーをふたつ持ってきて、ローテーブルにおいた。
「研修の方はどうなの? やっぱり大変なんでしょ?」
「目が回りそうなくらい忙しいよ。さっさと辞めて帰りたいくらいだ」
サイドボードの上に花蓮と航太の写真がいくつも飾られていた。
初孫だった航太は、お袋にとってかけがえのない存在だった。俺にそっくりなうえに、誰に似たのかいつもおどけては人を喜ばせる陽気さがあった。
「そうなの? じゃあ、帰ってらっしゃいよ。アメリカで一人暮らしなんて心配だわ。あなたの方が病人になっちゃうわよ」
「まぁ、もう少し考えてから決めるよ」
お袋に帰ってこいなどと言われると、なぜかもう少し頑張ってみようかという気になる。
「彩矢さんだって、子供を保育所に預けて仕事なんかして、なにもかも実家のお母さんにまかせっきりじゃないの。あれじゃあ、子育てを放棄してるのと一緒だわ」
「仕事より子育ての方が辛いらしいからな」
「呆れるわね、最近の母親は。そんな考えじゃ、先が思いやられるわ。子どもをないがしろにするなんて。そういう手抜きは後でしっかりとしっぺ返しされるんだから」
孫に中々会えなくなったからだろう。お袋の不満は嫁の彩矢に向けられた。
「雪花ちゃんはまだ一歳なのよ。大勢の子ども達と一緒におおざっぱな扱いを受けさせて、不憫に思わないのかしら」
「まぁ、俺も今は仕送りしてないからな。だから働いてもらってる。研修が終わったら辞めさせるよ」
「働かなくたって、うちに来ればいいんだわ。部屋はたくさん余ってるんですもの。彩矢さんにだってそう言ったのに知らんぷりよ。自分の実家に入り浸ってばかりいて」
「………」
結局、久しぶりに実家に寄ってもこんな話ばかりだ。女ってのはどうしようもないな。
彩矢と離婚することになったと言ったら、お袋はなんと言うのだろう。
いくら彩矢の悪口を言っていても、離婚には反対をするだろう。まして、ジェニファーみたいな女と再婚するなどと言ったら、腰を抜かすかも知れない。
夕食前にマンションへ帰ろうと思ったが、いつも一人で食事をしているお袋がかわいそうに思えて、晩飯を一緒に食べた。
身欠きニシンをフキやタケノコと一緒に煮た懐かしい郷土料理や、焼いた干しガレイにほうれん草のおひたしなど、年寄りの好む料理ばかりだったが、アメリカでの食生活に辟易していたので、とても美味しく感じられた。
夜の8時を過ぎてマンションに戻った。
彩矢は今朝、激怒して出て行ったので、今日は帰ってはこないのだろう。
そう思って玄関のドアを開けると、部屋に灯がついていた。
「パパ、おかえり!」
悠李が走って出迎えた。
「悠李帰ってたのか。今日はバァバのところに泊まるんじゃなかったのか?」
「だって、パパは明日アメリカへ行っちゃうんでしょ。悠李も行きたいな、アメリカに」
「そうか、そのうち連れてってやるよ」
「本当? いつ連れてってくれるの? ねぇ、いつ?」
「まぁ、そのうちな、小学校に行ってからだな」
悠李は喜びを隠せないようすで、目を丸くして俺を見つめた。靴を脱いで悠李の頭を撫でた。
憎らしいほど佐野にそっくりなだけあって、可愛らしい顔立ちをしている。
こいつも将来は女にモテるだろう。
性格まで佐野に似ているから、女泣かせにはならないのだろうな。
たった一人の女をいつまでも想い続けるロマンチストになるのか、おまえも。
リビングへ入ると仏頂面をした彩矢が、キッチンでフライパンを洗っていた。
「ただいま。あ、俺の晩飯はいらないぞ、お袋のとこで食べてきたから」
「………。」
彩矢からは ” おかえり ” の返事もなく、無視された。
脱いだジャケットをソファの背もたれに引っ掛け、どさりと腰を下ろす。
雪花は人形の口にオモチャの哺乳瓶を差し込んで、ミルクを飲ませるマネをしていた。
「ポポちゃん、ミルクどうじょ。はいネンネしましょ」
まわらない口でおしゃべりする雪花は可愛らしかった。
抱きあげて頬ずりでもしたいところだが、遊んでいるのを邪魔などしたら、また泣きだすに違いない。
「ママ、パパがね、悠李をアメリカへ連れてってくれるって言った」
悠李がキッチンにいる彩矢に話しかけた。
彩矢はそれには返事もせずに、俺のそばまでやって来た。
「出来もしない約束ばかりしないで!」
目をつり上げながら、いきなり切り口上でそう言った。
「なんで出来ないんだよ。アメリカくらいそのうち連れて行くよ」
今どきアメリカなんぞ、連れていこうと思えばすぐにでも行けるだろ。
「離婚届の用紙を出して。サインするから!」
平謝りでもしないと許さないといった勢いだ。
「届け出用紙なんてもらって来てないよ。今朝のことははずみで言ったことだろ。本気にするなよ」
「ほら、あなたの言うことはいつだってあてに出来ないんだわ」
そう言って寝室へ向かうと、手に紙を持って戻ってきた。
「そんなことだろうと思って、昼休みに役所へ行ってもらって来ました。ここへサインして」
彩矢はそう言うと、離婚届の用紙をローテーブルに広げた。
「……彩矢、、なんだよ、おまえも気の短いヤツだな。まぁ、今朝は俺も言いすぎたよ、悪かったな」
「謝ってくれなくて結構です。サインお願いします」
「………本気で言ってるのか? 二人の子連れじゃ再婚は難しいと思うけどな。私ならまだまだイケるとでも思ってるのか?」
「余計なお世話です。そんな心配しなくていいから、早くサインをして」
ーーマジで本気か?
あるひとつの疑念が湧いた。
「もしかして佐野か? 佐野と駆け落ちでもするつもりか?」
「……駆け落ちなんてしなくても、佐野さんは去年離婚してます」
彩矢は少し動揺してうつむいた。
「そうか、、なんだ、そういうことか。それなら早くそう言えよ! じゃあ、おまえはとっくに離婚するつもりでいたって事だな。俺とジェニファーのことをとやかく言える立場じゃないだろう!」
ふざけた話だ。二人の間ではもう色々な準備が出来ていたということか。俺の突然の帰国は好都合だったというわけだ。
「私はやりなおそうって思ってたわ。この間まで本当にそう思ってたわ。隠し子のことを聞くまでは!」
目に涙をためて彩矢はそう訴えた。
「出来てしまったものはどうしようもないだろう。じゃあ、堕ろさせろって言うのか?」
「そんなこと思ってません。彼女と幸せに暮らしてください」
「彩矢、、認知してやるだけじゃないか、許してくれよ。マジで騙されたんだよ。それに、もしかしたら俺の子じゃないかも知れないんだ」
「…………バカみたい。とにかく離婚します。あなたがいい父親になどなれるわけがないわ。それがわかったから」
軽蔑したような憐れんだ目で見つめられ、鬱積していた怒りが爆発した。
「自分はそんなに立派な母親だって言えるのか。俺がロスでどれだけ苦労して勉強していたか、おまえは考えたこともないだろう。亭主のいないのをいいことに、佐野と結婚の準備なんかを進めてたんだろっ! 騙されていたのは俺の方だな。おまえ達の方がずっと陰険で悪どい!」
「…………。」
絶句してシクシク泣き出した彩矢に、もうなにも言えなかった。
「ケンカしないで、、ママ、泣かないで……」
さっきから悲しげな顔で俺たちのバトルを見ていた悠李が、泣いている彩矢の頭をなでた。
やりきれない思いでテーブルの上の離婚届に黙ってサインをした。
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