六華 snow crystal 4

なごみ

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年下の彼

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***沙織***



橋本慎也……。


慎ちゃんかぁ。


  うふふっ!



佐野さんに送られて、自宅マンションへ戻ってきた。


ひとりぼっちに恐怖を感じて、思わず佐野さんのところへ逃げ込んでしまったけれど。



私……もう大丈夫だわ。


橋本くんがいてくれたら。


橋本くんはもう、アパートへついた頃ね。



『お寿司とっても美味しかった。今日はありがとう』


早速、LINEを送ってみる。


『僕のほうこそありがとう。沙織さん、疲れてなかったら、明日も会えないかな?』



すぐに嬉しい返信が届いた。


『いいわよ、どこで待っていればいい?』


『沙織さんのマンションの駐車場まで迎えに行きます。行き先は会ってから決めましょう』


『わかったわ。じゃあ、待ってる。おやすみなさい』


おやすみの可愛いスタンプが届いたのを見て、スマホを閉じた。




年下の男の子。


陶器のような清潔感ただよう頬を思いだし、くすぐったい気持ちになる。



私がおばさんになったってこと?


クスクスッ。



なんか、めっちゃ楽しい。


この間まで、早く死んで楽になりたいという妄想に、取り憑かれていたというのに。


人生って、なにが起こるかわからないんだわ。


もしかしたら、これから沢山ハッピーなことが続くかも知れない。


有頂天になって浮かれていたら、不意に言い知れぬ孤独と恐怖に襲われた。



ずっと頭の隅に追いやり目をそむけていたある現実が、これ以上ひき伸ばしできないとでも言うように主張をはじめた。


……パパ。



パパは今どうなっているの?


ずっと無意識にそこから逃げていた。



パパのことを考えると怖くて。


この世にたった一人取り残されるという、現実を直視するのが怖くて。


無条件に私を愛してくれる人など、パパしかいないから。


明日こそ、お見舞いに行ってみよう。


もう、最期になってしまうかもしれない。






午前9時過ぎの列車に乗り、旭川の病院に着いたのはお昼に近かかった。


面会時間ではなかったけれど、札幌から来ていて、すぐに帰らなければいけない旨を伝えると、渋々承諾してくれた。


父はやはりまだ集中治療室に入れられたままだった。


生意気な若いナースに、処置が終わり次第呼ぶから、デイルームで待つように言われる。


デイルームには四、五名の家族か親族らしき人達がいて、なにか深刻めいた様子でヒソヒソと話をしていた。


自販機で無糖の缶コーヒーを買い、窓際のイスに腰をおろした。


全面の広い窓から、晴れ渡った明るい外の景色を眺めた。


市街の向こうに雄大な大雪山連峰が広がっていた。


六階にあるこの病棟からは旭川の市街がよく見える。


都心部と近接していながら豊かな自然と触れあえる北邦野草園は嵐山のふもとにある。


久しぶりの旭川の懐かしい風景を見つめていたら、


「沙織?  あらやだ、やっぱり沙織だわ」


聞き覚えのある声にギョッとして振り向くと、やはり継母だった。


十年ぶりに会った母はしわが増え、随分とやつれて見えた。


五十代後半と思えば、これでもまだマシな方かもしれない。


美貌が自慢だった継母もこんな風になってしまうのかと思い、少しだけ同情の気持ちが芽生えた。


“ 沙織ちゃんは、お母さんに似て美人ね ”


などと、よく担任の教師に言われて不愉快な思いをした。写真でみた実の母のほうがずっと綺麗だと思っていたから。



十年前と同じ感情がよみがえり、好戦的な態度でかまえる。



「この間もお見舞いに来たんでしょう? どうして連絡もくれないでさっさと帰ってしまったのよ? 色々相談しなきゃいけないことがあるっていうのに」


継母は十年ぶりに会ったというのに、元気だった? でもなく、早々に批判めいたことを口にして、隣の椅子に腰かけた。



「相談ってなによ? 」


ムッとしながらぶっきらぼうに返事をした。


「まぁ、いくつになっても相変わらずなのね」


母は目尻の小じわを一層深くして溜息をついた。


「知ってると思うけど、お父さんはもう長くないの。それでね、今からこんな話をするのも悲しいんだけど、亡くなってしまってからではバタバタして、落ち着いて話なんかしてられないわ。遺産のこととか、お墓のことなんかもあるでしょう?」


「いいわよ、そんなこと。お兄さんと話し合って決めればいいわ。あなたは結局いつだって最後は自分のしたいようにするんじゃないの!」


幼少の頃はうまく言えなかった恨みを晴らすかのようにまくしたてた。


「あら、そう。じゃあ、あなたは遺産相続拒否ってことでいいのね?」


ほくそ笑むように継母は私を上目づかいに見つめた。


「どうしてわざわざ拒否なんかして、あなたを喜ばせなきゃならないのよっ!」


「あなたはちっともお父さんの面倒なんか見なかったじゃないの」


寝たきりの老人を長いこと世話してきたかのように、継母は主張した。


くも膜下で倒れるまで父は病気などしたことはなかったのだ。


元気なときは散々父の稼ぎで養ってもらっていたくせに、なんという言いぐさなのだろう。


こんな女と一緒に暮らしていたから父は頭に血がのぼって、くも膜下になどなったのだ。


「あなたみたいな人と再婚なんかしたから、早死にするんだわ!」


椅子から立ち上がって叫ぶと、さっきからデイルームで神妙な話し合いをしていた親族が、ギョッとしたように私たちを見つめた。


「沙織、ちょっと待ってちょうだい!」


立ち上がった私を継母が慌てて引き止めた。


父が死にそうだって言うときに、こんな話しかできない継母の顔など二度と見たくない。



「北村さんのご家族の方いらっしゃいますかぁ~」


さっきの生意気なナースがデイルームを見渡しながら呼んでいた。


「はい、いま行きます!」





ICUの入り口でガウンやマスクを渡される。


アルコールで手を消毒して中へ入ると、ピコピコ鳴り響く部屋の八つあるベッドは、すべて重症患者で埋まっていた。


父の心電図モニターは特に問題ないように見えたけれど、血圧は上が80台とかなり低い。


人工呼吸器につながれ、口腔内に挿管チューブが入れられている。父の唇はひどく荒れて乾燥していた。


手足のむくみがひどく、すでに全身から異臭まで放たれているようだった。


まだ温もりの残っている頬にふれた。


父のひざに抱かれて頬擦りをされ、髭剃りあとがチクチクと痛かったことを覚えている。



パパ、ありがとう。


いつも我が儘ばっかり言っててごめんね。


私、もう大丈夫よ。パパと一緒に行こうかと思ったけど、やっぱりもう少し頑張ってみる。


パパみたいに優しくて、ステキな人を見つけたから。


沙織、きっと幸せになるわ。


だからもう、安心して逝っても大丈夫よ。


水風船のように浮腫んだ父の手にふれながら心の中で会話した。


パパ、お疲れ様。


本当にありがとう。





継母は病院に待機しているので、十年ぶりに旭川の実家に寄ってみた。


私の部屋は物置がわりにされていたけれど、クローゼットには私物がまだ残されていた。


生まれた時からのアルバムや、思い出の品などをデニムのトートバッグに入れた。


父が内緒で貯めてくれた、私名義の貯金通帳が机の引き出しの裏側に、伝えられていた通りに隠されていた。


継母はこの通帳の在処を知りたかったのだろう。


札幌駅に予定時刻の五時半に着き、橋本くんにはマンションではなく、札幌駅でと連絡を入れておいた。


六時を少し過ぎて、橋本くんの車が駅の南口あたりで停まった。


助手席に座った私を気遣うように橋本くんは尋ねた。


「待たせちゃってすみません。お父さんの具合はどうだったんですか?」


「予想どおりよ。血圧も下がってしまって、今週中に逝ってしまうかもしれないわ」


「旭川にいなくていいんですか? 連絡が来ても間に合わないかもしれませんよ」


「もう、お別れして来たからいいの。パパはわかってくれるわ。意識があるならずっとついていてあげたいけど……」


「夜中にもし連絡が来たら僕に知らせてください。仕事中じゃなかったら旭川まで送りますから」


「……あ、ありがとう」


あまりに優しすぎる言葉に涙が出てきて、慌てて指でぬぐった。


「沙織さん?  大丈夫ですか?」


「ねえ、今日は楽しいこと沢山しましょうよ。なんか暗くて嫌だわ」


ROUND1に行って、クタクタになるまで遊んだ。







「あー、楽しかった。じゃあ、おやすみなさい」


午前零時過ぎにマンションまで送られ、車から降りようとしたら手を握られた。


橋本くんが照れたように拗ねて、口をとがらせた。


「ああ、酔っちゃって忘れちゃったぁ」


本当は忘れていたわけでもなかったけど、いつも私からキスしてあげるのも寂しい気がしたから。


少し焦らして、ほっぺにだけ ” チュッ ” としてあげた。


「慎ちゃんのほっぺはゆで玉子みたいにきれい。クスクスッ、おやすみなさ~い!」


慎ちゃんは子供扱いをされたと思ったのか、不機嫌に私の肩を押さえつけた。


そして、とっても情熱的なおやすみのキスをくれた。


「おやすみ」


「………」


 熱っぽい目で微笑んだ慎ちゃんに、ドギマギして返事もできず、慌てて車から降りた。



なによ、まるで私のほうがうぶな年下の女の子みたいじゃない。


ドキドキと胸をときめかせてエレベーターに乗り込んだ。



部屋に入り一息ついたところで、また言い知れぬ孤独と恐怖に襲われた。



慎ちゃんは信頼のできる人だ。



だけどまだ若い。


これからだって色々な女の子と付き合いたいはずだ。


遊びではないにしても、この先もずっと一緒にいてくれるはずなんてないんだ。



私、こんなに本気になってしまって……。


慎ちゃんがいなくなったら、もしいなくなってしまったら、一体どうすればいいの?







翌日は土曜日で、橋本くんの仕事は午前だけだったから、小樽へ行く予定だった。


午後一時を過ぎ、橋本くんの愛車、HONDAのCR-Zが駐車場に停まったのがベランダの窓から見えた。


もう7月に入り、外は少し暑くなってきた。


優しい花柄の、シフォンのワンピースを着てマンションを出た。


ふふっ、慎ちゃんはこのコーデを気に入ってくれるかな?


ドアを開けて助手席に座ると、橋本くんにいつものような笑顔はなかった。


「ねぇ、似合う?  このワンピース、ステキでしょ?」


気に入った洋服を着ていると、私はいつもご機嫌になる。


「そうだね。沙織さんは何を着ても似合うから」


いま気づいたというように、橋本くんはワンピースを見つめた。


「それにしては浮かない顔ね? どうしたの?」


「あ、いや、やっぱり今日は小樽じゃなくて旭川に行くべきじゃないかなって思って……沙織さんがどうしても小樽へ行きたいならそうするけど、旭川からはますます遠くなってしまうから」


常識のある橋本くんがそう考えるのは無理もない。


私はいつでも常識からはずれている。


いつ死んでもおかしくない父のそばに少しでも長くいたい。


そう思うのが家族なら普通なのだ。



「ありがとう。心配してくれて。……私、怖くて。父の死に直面するのが怖いの。父の死んだ顔なんて見たくないの。見なかったらパパはまだ旭川で生きていてくれてるような気がするの……」


ぎゅっと握った手に力がはいる。


私はいつも現実から目を逸らそうとしている。だけど、そうすればそうするほど、恐怖は執拗に追いかけて来る。


「沙織さん、僕がついてるよ。ずっとついていてあげるから」


「嘘よ、橋本くんなんて、半年か一年もしたら私に飽きてしまうわ。男なんてみんなそうよ。優しいのはいつも初めだけだわ」



お願い、私を現実に引き戻さないで!



「沙織さんは僕が信じられない?」


少し蒼ざめたように橋本くんは私を見つめた。


「信じてないわけじゃないわ。だけど橋本くんはまだ若いもの。……でもいいわ、いつか離れたっていいわ。だから、だから、今はそばにいて」


「いるよ、僕は。ずっとそばにいるから信じて」


震える手を両手で握ってくれたけれど、私には慎ちゃんの言葉が信じられなかった。


信じるほうが怖かった。


またいつか、失望することになるのだから。



「今日は小樽に行かなくてもいい。なんだか、そんな気分じゃなくなったわ」


「ごめん、せっかく楽しみにしてたのに、余計なことを言ってしまって。じゃあ、どこか他に行きたいところありますか?」


「し、慎ちゃんのそばにいられるなら、どど、どこだっていいわ」



私、一体どうしちゃったの?


さっきから震えが止まらない。


橋本くんはそばにいるのに、こんなにそばにいるのに、怖くてたまらない。


「さ、沙織さん、大丈夫ですか? 顔色が……」


鬱病はまだ治っていなかったのかもしれない。


目の前が突然真っ暗になり、心臓がばくばくして息苦しくなる。



「なんだか、なんだか息が苦しいの、苦しい、、」


「沙織さん、過呼吸になってますっ、ゆっくり呼吸して!」


橋本くんがダッシュボードをあけて、袋になりそうなものを探しだした。


説明書が入れられたビニール袋を取り出し、私の口にかぶせた。



「ゆっくり、そう、ゆっくり息をして、」


橋本くんの指示に従って、ゆっくり呼吸をしているうちに、動悸とパニックは次第におさまってきた。




「僕のアパートへ行きましょう。こんなんじゃ、沙織さんを一人でマンションへは帰せないから」


「……… 」


その言葉にホッとしたけれど。


また人の厄介にならなければいけないんだ。


やっと回復して佐野さんのアパートから出られるようになれたと思ったのに。



橋本くんのアパートも、いま勤めている病院に近い北区にあった。


佐野さんのアパートと同じ1DKの間取りで、二階の207号室。


男にしては部屋がきちんと片付けられているところも二人は似ていた。


部屋に入り、震えていた私を落ちつくまでずっと抱きしめてくれた。


十五分ほどしてやっと震えはおさまった。


「暑いけど、ホットでいい?」


「そうね、なんだか寒気がするからホットがいいわ」


橋本くんはキッチンへ向かうと、食器棚から簡易コーヒーのバッグを取り出し、カップに乗せた。


電気ポットで沸かしたお湯をポコポコと注ぐ。


「ミルクも砂糖もいらないんだったよね?」


ブラックコーヒーをソファの横の、サイドテーブルに置いてくれた。


「ありがとう、、」


「落ち着いたらまたマンションに戻って、着替えなんかを取りに行こう。それとも、やっぱり自分のマンションのほうがいい?」


「……慎ちゃんが迷惑でなかったら泊めてくれる?  一人だとやっぱり不安で、、ごめんなさい。もう良くなったとばかり思ってたのに」



「いいよ、いつまでいたって」


温かなコーヒーと慎ちゃんの優しい言葉で、少し恐怖と緊張感が薄らいだ気がした。


来週からは仕事に戻ろうと思っていたのに、こんな状態で職場復帰などできるのか。



一時間ほど休んでからマンションへ戻った。


着替えなどをバッグに詰め、途中買い物をしてアパートへ戻ってきた。


今日はお料理をする気力もなくて、お互いに食べたいものをコンビニで選んで買ってきた。


私はサンドイッチとジュースで、慎ちゃんはカルビー弁当。


二人でいると安心ではあるけれど、私たちはまだ、同じ部屋にいるということに慣れていないので、なんとなく気まずい空気が流れている。



自分のアパートなのに、慎ちゃんのほうが気疲れしているようで、申し訳なく思う。


テレビを見ても、スマホでネットサーフィンをしていても落ち着かず、集中できなかった。


いつもは陽気な慎ちゃんも、言葉少なに文庫本なんかを読んでいた。


二人の間になんとなく張りつめた空気を感じた。




夜の十時も過ぎて、慎ちゃんがお風呂にお湯をだしている音が聞こえて、緊張感はさらに増してくる。


私、どうしちゃったの?


バージンってわけでもないのに、どうして緊張などしているのだろう。


やっぱり、病気だからなのか。


「沙織さん、お風呂先にどうぞ」


バスルームから戻った慎ちゃんがバスタオルをくれた。


「わ、わたし、後のほうがいいわ。慎ちゃんが先に入って」



「え、僕の後でいいんですか?  気持ち悪くないですか?」


「大丈夫よ、私は居候だし、気を遣わないで」


「そんな、居候だなんて言わないでくださいよ。僕、遠慮なんかする沙織さんは嫌だなぁ」


「そう?  じゃあ、一緒に入ろうかぁ~!」


緊張していることを悟られないように、わざとおちゃらけてみたけれど、顔は引きつっていたかも知れない。


そのジョークは、慎ちゃんにもいささかキツかったのか、なんともいえない不穏な空気に包まれた。



「じゃ、じゃあ、すみません。僕、先に入らせてもらいます」


言葉に詰まった慎ちゃんが逃げるようにバスルームへ向かった。


慎ちゃん……キスくらいしてくれたらいいのに。


こんなに緊張しているのは、慎ちゃんの緊張が私に伝わるからだ。



慎ちゃん……もしかして初めてなの?



私がリードしないといけないってこと?



お風呂からあがったパジャマ姿の慎ちゃんを見るのが恥ずかしくて、すぐにバスルームへ逃げた。


もしかしたら慎ちゃんは、私とはそういう関係になりたくないのかも知れない。


本当に私の病気だけが心配で、助けてあげたいだけなのかも。


真面目な慎ちゃんは、私と深い関係になどなってしまったら、別れることも大変になると思ってるんだわ。


こんな病気の年上女にしがみつかれたら、迷惑なんだ。


湯船につかりながら、そんなことを考えていると気が滅入ってきて、涙がでてきた。


多分、ううん、きっと慎ちゃんは私にはなにもしない。



佐野さんがもう私を抱いてはくれなかったように。






タオルドライした髪にドライヤーを当て、よく乾かした。


化粧ポーチから出した美容液とクリームをよくすり込む。


歯をよく磨き、仕上げにマウスウォッシュもしてバスルームを出た。



体にはバスタオル一枚巻いただけ……。


慎ちゃんは怒るかもしれない。


そして、軽蔑されるかも。


別にずっと繋ぎとめておきたいわけじゃない。


いつか別れたっていい。


慎ちゃんと少しの間だけでも愛し合いたいから。


洗面台がある脱衣所の引き戸をガラガラと、思いきって開けた。


二人がけソファに座ってテレビを観ていた慎ちゃんが、私に気づいてバネのように立ちあがった。



「沙織さん!!」



……拒まないで、拒まないで、お願い。




呆然として立ちすくんでいる慎ちゃんに、なんて言っていいのかわからないくて泣きたくなる。



「恥ずかしいわ。電気消してくれる?」


うろたえている私に向って、怖い顔をした橋本くんが照明を消して近づいてきた。



目の前にいる橋本くんに殴られるのかと思い、パニックを起こしそうになる。


「本当に、……本当にいいの?」


震える声でつぶやいて、慎ちゃんは私の肩に手をかけた。


「いいに決まってるでしょ。遊びなんかじゃないわ、だから、だから、軽蔑しないで……」


強く抱きしめられて、唇をふさがれる。



「好きだ、沙織さんが、、」


夢中でキスをしているうちに、前で簡単に留めていたバスタオルが、ハラリと床に落ちた。



「すごく綺麗だ、沙織さん。ビーナスよりも……」


待ちきれないように慎ちゃんは、私を抱き上げ、ベッドへ下ろした。





私のリードなど必要なかった。


スイッチの入ってしまった慎ちゃんを止めることなどできない。


ムードもなく、器用とは言えない慎ちゃんの荒々しい愛撫に、今までにない心の高ぶりを感じた。



夢中で求めてくる若さと激しさに、切ない愛おしさが込みあげた。

















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