六華 snow crystal 5

なごみ

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第1章

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タクシーを呼び、とりあえず札幌駅まで来たけれど………。


抱っこした美冬とどこへ行けばいいのか悩み、途方にくれる。


今は実家には帰りたくなかった。


だけど美冬と二人っきりでホテルに泊まるというのも、なんだか塞ぎ込んでしまいそうで、想像しただけで気が滅入る。


理香のアパートに泊めてもらおうか。


サバサバしている理香は気楽ではあるけれど………。


ゴシップ好きであることを思い出し、なんとなく躊躇われた。


しばらく連絡が途絶えてはいたけれど、以前勤めていた同僚の加奈にLINEしてみた。


加奈は子供好きで優しいし、まだ彼氏がいなかったら一人暮らしなはずだ。





『ヤッホー!  加奈、元気だった? 今日の勤務はなに? 久しぶりに会わない?』


返信はすぐに届いた。


『有紀、めっちゃ久しぶり~~! 沖縄にいるって聞いてたけど、帰ってたんだ。今日は日勤だから6時過ぎなら会えるよ~』


『今、札幌駅なんだけど、どこで待ってたらいいかな? それと私、子連れなの』


『へ?  子連れって、、佐野さんの子じゃないよね?』


『遼介の子じゃないんだけど、私の子なの。まだ一歳になったばかりよ』


『マジで、、そうなんだ。うーん、じゃあ、どこがいいのかな?  有紀が決めていいよ』


『急で悪いんだけど、加奈のアパートに泊めてもらえないかな?』


『いいよ。じゃあ、帰りに拾っていくから、車の停められやすいとこで待ってて。出るときにまた連絡するね!』


『加奈、ありがとう!』


泊まれるところが決まってホッとする。


加奈は信頼のできる友達だ。


あんなショックをな出来事があったばかりでも、子連れだとメソメソしている余裕もない。大丸デパートの化粧室で美冬のオムツを取り替えた。


待ち合わせまで1時間以上あったので、6階にある授乳室でミルクも飲ませ、併設されているキッズコーナーで美冬を遊ばせた。





仕事帰りの加奈の車に拾われ、途中いつも立ち寄るというスーパーへ行った。


しばらく居候させてもらうので、遠慮する加奈を説き伏せ、食材の代金は私が支払った。


加奈は私の友人の中では静かで女らしい。おしゃべりな私の話をいつも楽しげに聞いてくれる。


とてもおっとりしていて、何もかもがスローペースだ。 急ぎの仕事のときはイラッとさせられることもあるけれど。


うわさ話などにはあまり興味を示さないし、とにかく一緒にいるだけで癒されるタイプ。


「どうしちゃったの?  突然連絡くれたと思ったら居候させてくれなんて。親子ゲンカでもした?」


加奈は買ってきた食材を冷蔵庫にしまいながら微笑んだ。


「う、うん、まぁ、そんなところ……」


美冬を抱っこ紐からはずして降ろす。


1DKのアパートは手狭ではあるけれど、加奈は物を上手く収納していて、中々すきっきりとしている。


観葉植物があちこちに置かれていて、部屋の空気まで新鮮に感じられた。





「だけど、有紀がシングルマザーなんて、ちょっと意外ね。でも可愛い~ 美冬ちゃん」


「うん、、遼介と結婚して中々子供ができなかったでしょ。不妊症なのかなって諦めてたんだよね。そしたら、ポコって簡単にできちゃって、ビックリしちゃった。だから絶対に産もうと思って……」


「やっぱり授かりものなんだね、子供って。佐野さんにはもう会ったりはしてないの?」



加奈はちょっと遠慮深げに聞いた。


「会ってないよ。夫婦から友達に戻るのって、私たちにはちょっと難しい気がして。今頃どうしてるのかなって、思い出すことはあるけど」


「そうなんだ。横田は佐野さんに時々会ってるみたいよ」


「あの二人昔から仲よかったもんね。横田くん懐かしいな、元気なの?」


「う、うん、元気よ。……実は私たち今、付き合ってるの」


加奈はかなり恥じらったようすで打ち明けた。


「え~~っ、マジで!!」



「そんなに驚かないでよ。私もそろそろ適齢期だし、横田でいいかな、なんて思っちゃってさ……」


「ビックリしただけよ。いいじゃない、横田くん。優しいし、サービス精神旺盛だもん、幸せになれると思うよ。私も会いたいな、横田くんに」


「嘘ばっかり。横田なんて絶対に嫌って言ってたくせに」


加奈は少し拗ねたような顔をした。


記憶力がいいな、加奈は。確かにそんなことを言っていたと思う。


「よく覚えてるね、そんなこと。あの頃は若かったからさ、横田くんのいいところがよく分からなかったの、うははっ」


「まぁ、いいわ。今度アパートに呼んでもいい? 和希もね、有紀のこと心配してたのよ、" あいつ今頃どこで何やってんのかな ” って」


そういえば横田くんの名前は和希だったと懐かしく思い出した。


加奈は特売だった豚こま肉で、照りマヨ豚丼なるものを作り、サラダと一緒にテーブルへ運んだ。


「簡単だけど、こんなんでいい? 昨日作ったチャウダーの残りもあるからさ」


「わぁ、美味しそう!  十分よ、美冬も今は刻めばなんだって食べられるし」


夕食をとりながら加奈と昔話で盛り上がり、修二さんから受けたショックを、少しだけ紛らわせることができた。



だけどホテルで思いっきり泣いていたほうが、案外スッキリしたのかも……。



ーーもういいよ、修二さん。



知佳さんと幸せになって。



私と美冬のことは忘れていいから。







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