10 / 69
法律事務所からの手紙
しおりを挟む休憩室で、夜勤のナース達が持ってきた弁当をつまみながら雑談する。
「ピザ頂きまーす!!」
デリバリーのピザは、食べ飽きている俺にとってはうんざりする物だけれど、夜勤のナース達には好評だ。
ナース達が持ってくる弁当のほうがずっといい。
卵焼きひとつとっても、それぞれの家庭の味があって面白い。
彼女たちが作る弁当は、万人ウケするような素晴らしい味ではない。だけどコンビニ弁当は、不味くはなくても食べ飽きてもううんざりだ。
一番美味そうに見えた卵焼きをとって口に運んだ。
ほんのり甘く、ふんわりとして美味しい。
「この卵焼きは本橋が作ったのか?」
「違いまーす! 私が作ったのはこっち。先生も食べて」
本橋が作ったという、形の悪い卵焼きは、ほとんど卵の味しかしなかった。
「な、なんだよ、これ? 味もそっけもないな」
「だって、卵そのものの味を楽しみたいんだもーん!」
「よく言うな。おまえのは単なる手抜きだろ」
「うははっ、バレたか。これってレンジでチンしてからラップで丸めただけ。でも、いいでしょう。お砂糖もお塩も入ってないから健康的よ」
こいつと結婚しても料理は期待できそうにないな。
かなりガッカリして、茄子とピーマンの味噌炒めみたいなものを食べた。
「これは誰が作ったんだ? めちゃくちゃ美味いな」
「はーい、わたくしでーす! 」
自慢げに手をあげたのは、俺のとなりに座っていた白髪混じりのババア。
もう五十も過ぎている痩せぎすのナースだ。
「やっぱりババアが作るものは年季が違うな」
「それって褒めてるんですかぁ? ババアは余計でしょ!」
年増のナースに思いっきり背中を叩かれて、持っていたお茶をこぼす。
「痛てーよ、まったくババアはすぐ若い男をさわりたがるからな」
「なにが若い男よ。先生もこの辺、薄くなってきたんじゃない?」
年増は嫌味ったらしく俺の頭頂部の髪をつまんで引っ張った。
「やめろって、抜けるだろう!」
かなりマジギレして睨んだ。
アッハハハッ~~!!
俺たちのやりとりを見て、他のナースたちが爆笑していた。
俺が遠慮がなくズケズケ言うので、相手もかなり辛辣に返してくる。
でも、そんなたわいもないやり取りが楽しい。
誰もいないマンションに帰ることには、いつまでたっても慣れない。
俺はそんなにヤワな人間だったのかな?
夜の九時もすぎてマンションに帰宅した。
エントランスに設置されている郵便受けから郵便物を取り出す。
どうでもいいチラシに混じって封筒が二通あった。
ひとつはクレジット会社からのもの。
もう一つは法律事務所からだった。
ーー○○○法律事務所?
上昇して行くエレベーターの中で考えた。
彩矢が子供のことで弁護士でも雇ったのかも知れない。
口約束しかしていなかった月二回の面会を、減らすつもりか?
それとも、養育費のことか?
雪花のためにも養育費くらい払ってやって構わないと思うけれど。
一体、いくら請求するつもりだ?
二十八階のフロアに着き、誰もいない廊下をコツコツと歩く。
カギを開けて真っ暗な玄関の電気をつけた。
家族のいない暗い家に帰るというのが本当にいやだ。
静まりかえったリビングのソファに座り、さっそく封書に目を通す。
な、なんだって!!
う、嘘だろう………
慰謝料を請求しているのは彩矢ではなかった。
訴訟を起こそうとしているのは、、
ゲオルク・エーリッヒ・フォン・マンシュタイン!!
あいつ、なんだって今頃。
確かに俺はあいつを殴った。
だけど、怪我をするようなパンチではなかったはずだ。
あの時、茉理に抱きついたあいつが許せなくて、思わず殴ってしまったけれど。
訴状を詳しく読んでみる。
殴られた際、倒れたはずみで後頭部を強く打ち、脳挫傷を発症。
○○総合病院で二週間の入院治療を受ける。
翌日に控えていた商談をキャンセルしたことによる損害。
目撃者三名。
現在はドイツに帰国し、治療を継続中。
示談が成立しない場合は、傷害事件として起訴することを検討。
医師の診断書があって、目撃者がいる。
俺に勝ち目はないのか?
それにしても、賠償金額一億円って、、
ありえないだろう………
0
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる