六華 snow crystal 8

なごみ

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法律事務所からの手紙

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休憩室で、夜勤のナース達が持ってきた弁当をつまみながら雑談する。



「ピザ頂きまーす!!」


デリバリーのピザは、食べ飽きている俺にとってはうんざりする物だけれど、夜勤のナース達には好評だ。



ナース達が持ってくる弁当のほうがずっといい。


卵焼きひとつとっても、それぞれの家庭の味があって面白い。


彼女たちが作る弁当は、万人ウケするような素晴らしい味ではない。だけどコンビニ弁当は、不味くはなくても食べ飽きてもううんざりだ。


一番美味そうに見えた卵焼きをとって口に運んだ。


ほんのり甘く、ふんわりとして美味しい。



「この卵焼きは本橋が作ったのか?」



「違いまーす! 私が作ったのはこっち。先生も食べて」



本橋が作ったという、形の悪い卵焼きは、ほとんど卵の味しかしなかった。


「な、なんだよ、これ? 味もそっけもないな」


「だって、卵そのものの味を楽しみたいんだもーん!」


「よく言うな。おまえのは単なる手抜きだろ」


「うははっ、バレたか。これってレンジでチンしてからラップで丸めただけ。でも、いいでしょう。お砂糖もお塩も入ってないから健康的よ」



こいつと結婚しても料理は期待できそうにないな。


かなりガッカリして、茄子とピーマンの味噌炒めみたいなものを食べた。



「これは誰が作ったんだ? めちゃくちゃ美味いな」



「はーい、わたくしでーす! 」


自慢げに手をあげたのは、俺のとなりに座っていた白髪混じりのババア。


もう五十も過ぎている痩せぎすのナースだ。



「やっぱりババアが作るものは年季が違うな」


「それって褒めてるんですかぁ? ババアは余計でしょ!」


年増のナースに思いっきり背中を叩かれて、持っていたお茶をこぼす。


「痛てーよ、まったくババアはすぐ若い男をさわりたがるからな」


「なにが若い男よ。先生もこの辺、薄くなってきたんじゃない?」


年増は嫌味ったらしく俺の頭頂部の髪をつまんで引っ張った。



「やめろって、抜けるだろう!」


かなりマジギレして睨んだ。



アッハハハッ~~!!



俺たちのやりとりを見て、他のナースたちが爆笑していた。


俺が遠慮がなくズケズケ言うので、相手もかなり辛辣に返してくる。


でも、そんなたわいもないやり取りが楽しい。


誰もいないマンションに帰ることには、いつまでたっても慣れない。


俺はそんなにヤワな人間だったのかな?






夜の九時もすぎてマンションに帰宅した。


エントランスに設置されている郵便受けから郵便物を取り出す。


どうでもいいチラシに混じって封筒が二通あった。


ひとつはクレジット会社からのもの。


もう一つは法律事務所からだった。



ーー○○○法律事務所?



上昇して行くエレベーターの中で考えた。


彩矢が子供のことで弁護士でも雇ったのかも知れない。


口約束しかしていなかった月二回の面会を、減らすつもりか?


それとも、養育費のことか?


雪花のためにも養育費くらい払ってやって構わないと思うけれど。



一体、いくら請求するつもりだ?




二十八階のフロアに着き、誰もいない廊下をコツコツと歩く。


カギを開けて真っ暗な玄関の電気をつけた。



家族のいない暗い家に帰るというのが本当にいやだ。


静まりかえったリビングのソファに座り、さっそく封書に目を通す。




な、なんだって!!



う、嘘だろう………



慰謝料を請求しているのは彩矢ではなかった。



訴訟を起こそうとしているのは、、



ゲオルク・エーリッヒ・フォン・マンシュタイン!!



あいつ、なんだって今頃。




確かに俺はあいつを殴った。


だけど、怪我をするようなパンチではなかったはずだ。


あの時、茉理に抱きついたあいつが許せなくて、思わず殴ってしまったけれど。



訴状を詳しく読んでみる。


殴られた際、倒れたはずみで後頭部を強く打ち、脳挫傷を発症。
○○総合病院で二週間の入院治療を受ける。
翌日に控えていた商談をキャンセルしたことによる損害。
目撃者三名。
現在はドイツに帰国し、治療を継続中。
示談が成立しない場合は、傷害事件として起訴することを検討。


医師の診断書があって、目撃者がいる。


俺に勝ち目はないのか?


それにしても、賠償金額一億円って、、



ありえないだろう………



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