勇者召喚に巻き込まれた(?)私、魔族の元で華咲かす

斑鳩 鳰

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6 side アレシュ・ハインズ 後編

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飯を器によそってやったが、子供は手をつけようとしなかった。
最初は初めて見る飯に戸惑っているのかと思ったが、そうではないらしい。
腹の虫の大合唱の中、スプーンを握りしめ、眉を八の字にしてじっと器を見つめている。
ちらっと鍋の方を見て、また自分の器に目線を落とす。
毒が入ってるとでも思っているのだろうか。
そんなはずはない、と思いながら観察していると、何故か子供は唸り始めた。
腹の音とデュエットを織り成し始めた子供に、堪えきれなくなった俺は、ついに吹き出した。

訝しげに俺を見上げる子供に、目の前で同じ鍋からよそったものを食べて見せれば、暫し俺を見つめた後、恐る恐る口に入れた。
そして、ポロポロと涙を零し始めた。
顔をクシャクシャに歪めて、声も出さずに泣く子供を見て、人間に殺意が湧いた。
首まで出かかった''俺が守ってやる''という言葉を飲み込む。
まだそれは言えない。言うのは全てがわかったあとだ。

「擦ると、後で赤くなるぞ。」

タオルを渡せば、子供はタオルに顔を押しつけて、さらに泣き出した。
怖かったよな。
触れたら壊れてしまいそうで、少し躊躇したけれど、不安が和らぐように、と俺はその小さな背中を優しく撫でた。

少しして、落ち着いたら恥ずかしくなったのか、子供はタオルを顔にグルグルと巻き始めた。
悪戯心でそのタオルを取ってみれば、ぱっと手で顔を隠した。
…動作が一々可愛い。やはり捨てた人間の気持ちが知れない。
緩みそうになる頬を引き締めて、本題に入ろうとした時、子供が地面すれすれまで頭を下げた。どこか体調が悪いのかと焦ったが、子供はすぐに顔を上げて、パクパクと口を開閉していた。
何か言いたいことがあるみたいだが、声が全く出ていない。
おかしい。【通訳インタープレテーション】はきちんとかかっているはずなのに。

「お前、喋れないのか?」

子供は驚いた顔をした。自分ではしっかり言葉を発しているつもりらしい。

「そんなことが…いやでも、まさか…。」

記憶が無いから。
原因があるとしたらこれだろう。【通訳インタープレテーション】は記憶を頼りに言語能力を引き出す。だから、話した記憶が無い子供は喋れないのかもしれない。

「もう一度喋ってくれないか?」

子供はハクハクと口を動かすだけで、やはり声は聞こえない。
声帯が潰れている可能性も考えて、発音を促すと、たどたどしくはあるが、子供らしい高めの声がきちんと出ていた。
これならば、この先きちんと話せるようになるだろう。

そうと決まれば、後は白か黒かの確認だけだ。
実は飯を作る際に、鍋に白状薬を入れたのだ。子供に対して使いたくはなかったが、やむを得なかった。
念の為、シマリリスに''拘束''の魔法をかけ、身動きが取れないようにする。
何をするつもりだ、と目で訴えてくるシマリリスを無視して、子供の方を向く。

「これから、イエスかノーで答えられる質問をいくつかする。」

子供はコクリと頷いた。
記憶が無い時点で黒である可能性は低いが、隠蔽しているということも無きにしも非ず。白状薬は、与えられた質問に対して嘘を答えることが出来ない。
ひどい方法だと思うかもしれないが、許して欲しい。
心の中で子供に謝罪してさらに続ける。

「まず、俺の名前はアレシュ・ハインズ。
お前は俺のことを知っているか?」

子供はすぐに首を横に振った。

「…そうか。」

俺を知らない奴は、産まれたばかりの赤ん坊とかでない限り、この世界にはいないはずだ。自意識過剰というわけではなく、''魔王''という肩書きのおかげで人間でさえ名前だけは知っている。
これでもうこの子は人間のまわし者でないと証明されたようなものだ。
俺は無意識にほっと安堵の息を漏らしていた。
子供は悪いことをしたと思ったのか、バツが悪そうに頭を下げた。

それから、当たり障りのない質問をいくつかしてみるが、透視の結果と矛盾するようなことは無かった。
質問を続けてくにつれ、子供の顔色がどんどん悪くなって行く。
その様子は自分の置かれている状況を危惧しているように見えた。
本当に不思議な子供だと思う。記憶が無いのにどうして最悪の状況だと判断出来るのか。
悶々と考え込んでいると、隣からすんすん、と鼻をすする音が聞こえた。視線を移せば、涙を流すまいと歯を噛みしめる子供の姿があった。
その姿を見て考えていること全てがどうでもよくなった。この子は敵じゃない、それだけで十分ではないか。
年端もいかない子供が自分の感情を押し殺そうとしている。子供は沢山食べて、遊んで、寝て、泣いて育つものだ。

「大丈夫、お前が自分で生きられるようになるまでは面倒見てやるから。」

頭を撫でながら、そう言えば子供は驚いたように俺を見つめた。
子供は少し悩む様子を見せた後、俺の手をぎゅっと握った。俺の手のひらにすっぽり収まってしまうほどの小さな手。握り返してやれば、子供は笑顔で俺に抱きついた。
その笑顔はさながら太陽のようだった。
生きてきた中で、子供に怯えた表情は向けられども、笑顔を向けられたことはほとんどなかった。
胸の内から湧き上がってくるような、言葉にしがたいむず痒くも温かい感情が体内を駆け巡った。
これからは俺の全てを使ってでもこの子を守ってやる、そう俺が決意した時、腕の中から健やかな寝息が聞こえ始めた。まだ体が本調子ではないのだろう。
心做しか微笑んでいるその寝顔に自然と俺の口角も上がった。寒くないようローブで子供をくるんでいると、足に小さな衝撃を感じた。見れば、シマリリスがゲシゲシと俺の足を蹴っていた。

「ほう。
魔王に攻撃を仕掛けるとはいい度胸だな。」

首の後ろを掴んで持ち上げてやれば、じたばたと暴れ出した。そのまま子供の顔元に下ろしてやれば、想定していなかったのかきょとんとしていた。

「拘束したのは悪かった。
ほんの少しこの場を離れるから見ててくれ。」

シマリリスは俺の顔をじっと見つめた後、ふんすと鼻息を吐き出すと、子供の胸元で丸くなった。
それを確認して、子供をそっと地面に下ろし、その場から離れた。
ポケットから出した紙にささっと文字を書いて呪文をも唱える

「【クロウ】」

手のひらに乗せた紙は真っ黒な鴉となって、飛んでいった。
きちんと飛んだのを見送って、子供の元へ戻る。

「精一杯生きろよ。」

顔にかかる髪をそっと払って、抱き抱える。

子供の寝顔というものはずっと見ていても見飽きないものらしい。
そんなことを思いながら、感じる温かい体温に眠気を覚えていると、バサッと翼を羽ばたかせる音が聞こえた。
顔を上げると、眉を吊り上げた女が俺の前で仁王立ちになって立っていた。

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