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16 へい、親方!
しおりを挟むもぞもぞと兄様からの脱出を試みるが、彼の腕が緩む気配はない。
どうしたものか、と考えていると、兄様の手が私の頭の上の方に伸びてきた。え、何?
「キュッ!!」
あぁ、ハクトか。兄様がガッチリとハクトを掴んで興味深そうに見つめている。
ハクトがうるうると目を潤ませながら私の方を見ているが、自分で何とかしてくれ。
私では、獲物をグーパンで沈める兄様には到底適わない。
「これ、魔物だよね?
どこで拾ったの?」
「かってにちゅいてきたってアーシュしゃんがいってまちた
なまえはハクトでしゅ」
ちぎってもちぎっても張り付いてくる、このリス君。頑固な油汚れ並にしつこい。
「んー、アレシュさんが放ったらかしにしているってことは害はないんだろうね。
はい、返すよ。」
「キューッ!!」
ハクトは、猛ダッシュで私の髪の中に隠れた。兄様には近づかぬべしと判断したようだ。賢明な判断だと思うよ。
「リヴはどこか見に行きたいところある?
無ければ、近場から案内するけど。」
兄様の言葉で、城に着いたら1番に行かないといけないなと思っていた場所があったのを思い出した。
「これをちゅくってくれたひとのところにいきたいでしゅ」
木の腕輪を兄様の前に掲げると、彼は少しの間腕輪を見つめていたが、すぐに首をかしげた。
「うーん。見ただけじゃあ、誰が作ったかわからないや。
とりあえず鍛治部隊に行こうか。そこで聞こう。」
「ありがとーごじゃいます」
「どういたしまして」
兄様は私を抱えたまま上機嫌に廊下を進む。
1度下ろして欲しいと頼んだのだが、''リヴは俺に抱っこされるの嫌?''と哀愁に満ちた顔をして言われてしまった。そんなこと言われたら首を振るしかないだろう。
爽やか青年にあんな顔させたらダメだ、罪悪感がすごい。
「鍛冶部隊はね、防具や武器から城で使う備品まで何でも作っている部隊だよ。
頑固な人が多いけど、皆すごい技術を持っているんだ。」
「なめてんのかテメェ!!」
「みょっ」
兄様とほのぼの話すという穏やかな時間を過ごしていると、近くからもの凄い剣幕の怒号が聞こえた。
吃驚した私は変な声を上げて、兄様の首に抱きついてしまった。
「あはは、またやってる。」
言葉のキャッチボールならぬ、怒号のキャッチボールが聞こえる中、兄様は実に爽やかに笑っておられた。
私?怖くて兄様の腕の中で縮こまってますけど?どうせ私はチキンなんで。コケー。
「リヴ、耳を塞いで。」
兄様は、ある部屋の前で立ち止まるとそう言った。そして、私が両手で耳を塞ぐのを確認すると、目の前の重厚な扉に手をかけた。
ギギギ、と嫌な音を立てる扉と、それに負けないくらいの大声が階段の下から聞こえる。
なるほど、こりゃ耳塞いでないと鼓膜破れるわ。
「何度言ったらわかるんだ、バッキャローッ!!!」
薄暗い階段を兄様は私を抱えて降りる。少し長めの階段を降りた先にも重厚な扉が。これだけ防音対策の扉あってあの声の大きさってどんだけなのよ。
「リヴ、心の準備は?」
心の準備!?
私は扉の先の未知なる世界に恐怖しながらも、耳をしっかりと塞いで、頷いた。
「こんな重い防具で動けるわけねぇだろうが!!ふざけてんのかぁ!!!」
耳がキーンとした。
私は咄嗟に兄様の服に顔を押し付けた。
「もう少しの辛抱だから。」
兄様は、私の頭を優しく撫でた後、近場にあったフライパンを声の主向けてブォンと投げた。
辺りに鈍い音が響き渡り、一気に静かになる室内。
えぇ…嘘でしょ。方法が物理的過ぎる。
私は思わず両手を耳から離した。
「痛ぇなぁ!!
誰だっ!!」
奥から出てきたのは、立派な髭を蓄えた、小柄な割に筋肉隆々なおじいちゃんだっだ。もしかしてドワーフかな?焦げ茶の瞳の中で怒りの炎が燃えている。
「なんでぃ、ラー坊か。
おめぇは、呼び出し方が違うと何度言ったらわかるんだ!!
フライパンは投げるんじゃなくて、鳴らせと言っとるだろーが!!」
やっぱり兄様の方法は正当法じゃなかったのね。
「いやぁ、鳴らすだけじゃ、ゴル爺絶対気づかないって。
それより、この子が腕輪作った人探しているんだけど、誰かわかる?」
おじいちゃんの説教を爽やかな笑顔で笑い飛ばし、話を続ける兄様は凄いと思う。
兄様が私の腕をおじいちゃんに見せたので、彼と目が合った。
「おぉ、お前さんがアレシュの言ってた子供か!」
おじいちゃんは、私の腕をそのまま引っ張って私を頭上に掲げた。所謂高い高いである。
「アレシュが可愛い可愛い言うからどれほどかと思っていたが、この可愛さならあいつがデレデレになるのも分かる。
こんなことなら、もっと色んな服を作ってやりゃあ良かったな!」
「わたちのふく、おじいちゃんがつくってくれたの?」
「あぁ、そうだ。
オレはゴトベル・ジャンディ。好きに呼んでいいぞ。」
「リヴ・フロルでしゅ
おようふくいっぱいありがとーごじゃいましゅ、おやかた」
この人の呼び方はは親方一択だ。頭のハチマキがここまで似合う人はそうそういない。
じいちゃんは、グウォンさんがいるしね。
「ガハハハッ!
親方か!お前さんに言われて悪い気はしねぇなぁ!」
「あぅぅ」
親方は、ガシガシと乱暴に私の頭を撫でた。
「それで、リヴの腕輪を作ったのは誰かわかる?
いるなら、ここかなと思ったんだけど。」
「あぁ、それなら作ったのはオレだ。
気に入ったか?」
「ちいさいお花がいっぱいあるのがかわいいでしゅ
ありがとーごじゃいます」
「喜んでもらえたんなら、職人冥利に尽きるってもんよ!
お前素直にお礼が言えて可愛いなぁ!」
「きゃー」
頬に立派なお髭をぐりぐりと擦り付けられる。うおお、ジョリジョリする。
「目的は果たしたから、次の場所案内しないきゃ。ということで、リヴは返してもらいます。」
兄様は、軽々と親方から私を奪い取り、その逞しい腕に抱いた。
相変わらずカチカチの腕だが、何故か抱かれ心地はそこまで悪くない。むしろ心地良いぐらいだ。
「何じゃい。
せっかく癒されておったのに。まぁ、案内途中なら仕方ないか。
また遊びに来いよ、リヴ」
「あい」
親方に手を振って、鍛冶場を後にする。
「ここからだったら、食堂が近いから次はそこに行こうか。」
始まったばかりの城探検。
次なる目的地は食堂のようです。
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