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それは嘘ではなく
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「高咲セオ、そいつを離せ。痛いというのは【嘘】だ」
玄関のほうから声がして、全員がそちらを見た。割って入ってきたのはミツキだった。彼はセオに銃を向けながらゆっくりとにじりよる。セオが近くに来たソウタを抱き寄せて盾のようにした。セオの手には折りたたみナイフがある。それを見てミツキが小さく舌打ちをした。セオはやれやれとばかりに頭を振る。
「えー……こいつにも色目使ったの? 困ったなあ。僕のことが好きなのに素直になれないなんて」
「……【嘘】を言え」
「嘘じゃないよ。ソウタさんは【痛く】ても僕を助けてくれたんだ、それって愛だろ?」
おどけるようにセオが肩をすくめた。やはりあの時、ソウタが助けたのがセオだったということか。それで一方的に好かれて拐われたと。「痛い」と言う言葉を聞いて、ソウタがびくりと体を震わせた。ミツキの奇言《カタラ》では、推定レベル4であるセオの奇言を全部ひっくり返すことはできない。
「それがおまえの愛なのか」
「好きな人といると【痛く】ないからね。気持ちよかったってことはお互い愛してるからだろ?」
「……一応聞く、どうしてここが?」
「リツさんの後つけてたら、まあ、分かるよね」
ミツキはそっと唇を噛む。うかつだった。
「そうか。ソウタさんを離せ」
「嫌だと言ったら?」
「それは【嘘】だ」
「嘘じゃないよ。嘘をつくと【痛い】ぞ」
「……わかった。お互い【嘘】はやめよう」
どちらも奇言により嘘をつけないと知ったセオは、気づいちゃったとばかりに可笑しそうに笑った。
「そうだ。ね、おまえ、ソウタさんのこと好きなの? 横恋慕はみっともないぞ」
ミツキはじろりとセオを睨みつける。そんなこと言うまでもなく。
「答えないの? 答えられないの?」
「……ああ、好きだよ。好きだとも」
リツの腕の中で、ソウタがはっと顔を上げた。
「はは、そうかあ。やっぱりなあ! でも残念、失恋だ」
セオは光るナイフをソウタに向ける。おそらく彼は、ソウタを傷つけることにためらわないだろう。彼にとってはそれが「愛している」ということなのだ。ソウタは顔をしかめて手を握りしめた。自分がセオに目をつけられたばかりに、こんな異常な愛にミツキもリツも巻き込んでしまった。
「愛してるからソウタさんは【痛み】だって平気なんだ。そうだろう? 僕たちの愛が【痛み】なんかに邪魔されることはない」
ナイフがソウタの首に薄く傷をつける。
「ソウタさん、一緒にいてください。僕の手に一生、【痛み】の感触を残して。僕の【痛み】として生きてくれ」
その瞬間、後ろから気配を「捨て」たヒナギがセオの手を掴み、静かに命じた。
「そのナイフを【捨てろ】」
ナイフが手から滑り落ちて床に転がる。一瞬、セオが目を見開き、聞いた言葉を理解してはあ……とため息をついた。
「奇言持ちかあ……」
「脅しで人を動かすのはやめろ」
「キミだって思ったことあるだろ? この力は好きに使うべきだって」
「……オレは、もう、そういうのはやらない」
「へえ、もう、やったんだね。気持ちよかっただろ? なら、僕だって許されるよね? これからはこんなことしないよ。こう言えば見逃してもらえるかな?」
ヒナギがすこし動揺を見せたので、ミツキが声を上げる。
「バカなことを。聞き【捨て】ならないな。ソウタさんを【捨て】置け」
「そんな脅し、【痛く】もかゆくもないよ」
「それは【嘘】だ!」
二人の奇言でセオの力がすこしだけ弱まる。その隙にヒナギがソウタを思い切りつき飛ばし、セオの首にがっちりと腕を回した。よろめきながらセオから離れたソウタはミツキに受け止められ、抱えられる。ヒナギがセオを後ろから蹴って床に押さえつけた。ミツキはソウタを抱えたままセオから離れる。
「ソウタさん、無事か」
「俺は【大丈夫】……だから……」
なるほど、セオの奇言にもかかわらず、ソウタに強い痛みがある様子はない。とりあえずほっとして、セオを見返す。
「どうして僕たちの邪魔をするんだ!」
「……なあ、セオ。おまえは間違えたんだ。それは好きだからやることじゃない」
「そんなはずないよねえ、ソウタさん。僕のこと好きって言ってくれたもんね。【痛く】なくて気持ちいいもんねえ?」
にっこりと笑うセオ。こう言って四年間ずっと縛り付けていたわけだ。ミツキの横に座りながら、ソウタはまっすぐセオを見返した。ミツキといれば痛くないことに気づいた。そうか、それならもう、痛みに怯えて嘘を言うこともない。彼には、ちゃんと本当のことを伝えないと。
「嫌だ」
「へえ? 僕とそいつ、どっちを取るの?」
「セオ、俺は君のものじゃない」
それははっきりとした、拒絶だった。セオが叫んだ。
「そんな嘘をつくなら【痛み】にうめいて死んでくれ! そんなことを言うソウタさんなんか、嫌いだ! 大嫌いだ!」
その言葉通り、痛みにうめいたのはソウタではなかった。ヒナギに押さえつけられていたセオのほうだ。
「……ひっ……ぐぁ……【痛い】、【痛い】!」
ヒナギの手の下で身を捩って痛みに暴れている。それは思わずヒナギが手を離してしまうほどの力の強さだった。けれどもセオは逃げなかった。逃げられるような状況ではなさそうだ。「【痛い】」と叫びながら床をのたうちまわる。
「痛い?」
どういうことだ? ミツキとヒナギが顔を見合わせる。その間も、セオはうめいてもがき苦しんでいる。
「【痛い】!」
セオはのたうちまわって痛がっている。ミツキが何かの罠ではないかと警戒しながら近づいて、声をかけた。
「どうした。落ち着け、痛いのは【嘘】じゃないか?」
「嘘なものか、こんなに【痛い】のに。ああ、【痛い】、【痛い】んだ」
「その奇言を使うな、おまえがそう思い込むとよけい痛くなる。それは【嘘】だ」
ヒナギに視線を送る。どうも、なんらかの策略ではないらしい。自分の奇言により痛みが起こり、「痛い」と叫ぶことでなお痛みが増幅されている……ということのようだ。いや、だとしたら発端は彼の「嘘」なのだろう。
「おい、痛みを【捨てろ】。それは、おまえの奇言のせいだ」
ところがセオはそれを聞いて目を見開き、必死の形相で拒否した。
「嫌だ、【痛い】のは僕のものだ。僕だけのものだ。僕の愛が本物だから【痛い】んだ。捨ててやるものか」
セオは胸を掻きむしる格好のまま、びくりと跳ねて、動かなくなった。
「【痛い】、死ぬほど【痛い】よ……」
それっきり、セオは動かなくなる。手を取ったミツキがその死を確認した後、眉間に深い皺を刻んだ。
玄関のほうから声がして、全員がそちらを見た。割って入ってきたのはミツキだった。彼はセオに銃を向けながらゆっくりとにじりよる。セオが近くに来たソウタを抱き寄せて盾のようにした。セオの手には折りたたみナイフがある。それを見てミツキが小さく舌打ちをした。セオはやれやれとばかりに頭を振る。
「えー……こいつにも色目使ったの? 困ったなあ。僕のことが好きなのに素直になれないなんて」
「……【嘘】を言え」
「嘘じゃないよ。ソウタさんは【痛く】ても僕を助けてくれたんだ、それって愛だろ?」
おどけるようにセオが肩をすくめた。やはりあの時、ソウタが助けたのがセオだったということか。それで一方的に好かれて拐われたと。「痛い」と言う言葉を聞いて、ソウタがびくりと体を震わせた。ミツキの奇言《カタラ》では、推定レベル4であるセオの奇言を全部ひっくり返すことはできない。
「それがおまえの愛なのか」
「好きな人といると【痛く】ないからね。気持ちよかったってことはお互い愛してるからだろ?」
「……一応聞く、どうしてここが?」
「リツさんの後つけてたら、まあ、分かるよね」
ミツキはそっと唇を噛む。うかつだった。
「そうか。ソウタさんを離せ」
「嫌だと言ったら?」
「それは【嘘】だ」
「嘘じゃないよ。嘘をつくと【痛い】ぞ」
「……わかった。お互い【嘘】はやめよう」
どちらも奇言により嘘をつけないと知ったセオは、気づいちゃったとばかりに可笑しそうに笑った。
「そうだ。ね、おまえ、ソウタさんのこと好きなの? 横恋慕はみっともないぞ」
ミツキはじろりとセオを睨みつける。そんなこと言うまでもなく。
「答えないの? 答えられないの?」
「……ああ、好きだよ。好きだとも」
リツの腕の中で、ソウタがはっと顔を上げた。
「はは、そうかあ。やっぱりなあ! でも残念、失恋だ」
セオは光るナイフをソウタに向ける。おそらく彼は、ソウタを傷つけることにためらわないだろう。彼にとってはそれが「愛している」ということなのだ。ソウタは顔をしかめて手を握りしめた。自分がセオに目をつけられたばかりに、こんな異常な愛にミツキもリツも巻き込んでしまった。
「愛してるからソウタさんは【痛み】だって平気なんだ。そうだろう? 僕たちの愛が【痛み】なんかに邪魔されることはない」
ナイフがソウタの首に薄く傷をつける。
「ソウタさん、一緒にいてください。僕の手に一生、【痛み】の感触を残して。僕の【痛み】として生きてくれ」
その瞬間、後ろから気配を「捨て」たヒナギがセオの手を掴み、静かに命じた。
「そのナイフを【捨てろ】」
ナイフが手から滑り落ちて床に転がる。一瞬、セオが目を見開き、聞いた言葉を理解してはあ……とため息をついた。
「奇言持ちかあ……」
「脅しで人を動かすのはやめろ」
「キミだって思ったことあるだろ? この力は好きに使うべきだって」
「……オレは、もう、そういうのはやらない」
「へえ、もう、やったんだね。気持ちよかっただろ? なら、僕だって許されるよね? これからはこんなことしないよ。こう言えば見逃してもらえるかな?」
ヒナギがすこし動揺を見せたので、ミツキが声を上げる。
「バカなことを。聞き【捨て】ならないな。ソウタさんを【捨て】置け」
「そんな脅し、【痛く】もかゆくもないよ」
「それは【嘘】だ!」
二人の奇言でセオの力がすこしだけ弱まる。その隙にヒナギがソウタを思い切りつき飛ばし、セオの首にがっちりと腕を回した。よろめきながらセオから離れたソウタはミツキに受け止められ、抱えられる。ヒナギがセオを後ろから蹴って床に押さえつけた。ミツキはソウタを抱えたままセオから離れる。
「ソウタさん、無事か」
「俺は【大丈夫】……だから……」
なるほど、セオの奇言にもかかわらず、ソウタに強い痛みがある様子はない。とりあえずほっとして、セオを見返す。
「どうして僕たちの邪魔をするんだ!」
「……なあ、セオ。おまえは間違えたんだ。それは好きだからやることじゃない」
「そんなはずないよねえ、ソウタさん。僕のこと好きって言ってくれたもんね。【痛く】なくて気持ちいいもんねえ?」
にっこりと笑うセオ。こう言って四年間ずっと縛り付けていたわけだ。ミツキの横に座りながら、ソウタはまっすぐセオを見返した。ミツキといれば痛くないことに気づいた。そうか、それならもう、痛みに怯えて嘘を言うこともない。彼には、ちゃんと本当のことを伝えないと。
「嫌だ」
「へえ? 僕とそいつ、どっちを取るの?」
「セオ、俺は君のものじゃない」
それははっきりとした、拒絶だった。セオが叫んだ。
「そんな嘘をつくなら【痛み】にうめいて死んでくれ! そんなことを言うソウタさんなんか、嫌いだ! 大嫌いだ!」
その言葉通り、痛みにうめいたのはソウタではなかった。ヒナギに押さえつけられていたセオのほうだ。
「……ひっ……ぐぁ……【痛い】、【痛い】!」
ヒナギの手の下で身を捩って痛みに暴れている。それは思わずヒナギが手を離してしまうほどの力の強さだった。けれどもセオは逃げなかった。逃げられるような状況ではなさそうだ。「【痛い】」と叫びながら床をのたうちまわる。
「痛い?」
どういうことだ? ミツキとヒナギが顔を見合わせる。その間も、セオはうめいてもがき苦しんでいる。
「【痛い】!」
セオはのたうちまわって痛がっている。ミツキが何かの罠ではないかと警戒しながら近づいて、声をかけた。
「どうした。落ち着け、痛いのは【嘘】じゃないか?」
「嘘なものか、こんなに【痛い】のに。ああ、【痛い】、【痛い】んだ」
「その奇言を使うな、おまえがそう思い込むとよけい痛くなる。それは【嘘】だ」
ヒナギに視線を送る。どうも、なんらかの策略ではないらしい。自分の奇言により痛みが起こり、「痛い」と叫ぶことでなお痛みが増幅されている……ということのようだ。いや、だとしたら発端は彼の「嘘」なのだろう。
「おい、痛みを【捨てろ】。それは、おまえの奇言のせいだ」
ところがセオはそれを聞いて目を見開き、必死の形相で拒否した。
「嫌だ、【痛い】のは僕のものだ。僕だけのものだ。僕の愛が本物だから【痛い】んだ。捨ててやるものか」
セオは胸を掻きむしる格好のまま、びくりと跳ねて、動かなくなった。
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