『ポンコツ主人は実は有能!?レギオン=アーク・オンライン裏戦記』

芥川まのん

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第十話 :そのキノコ、猛毒につき

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《ログ確認:完了》の通知が、ダイの視界にふわりと浮かぶ。

「……っ」

数秒の静寂。心臓が――もしもこの体に心臓があったなら――強く跳ねていただろう。

間違いない。
プレイヤー《リカ》は、自分の行動ログをチェックした。
そして、問い合わせまでしていた。
あの、ナイフを投げた「自分の行動」について。

「……そりゃ、気づくよな。目立つ動きなんてしちゃいけなかった」

そう呟く声に、自嘲めいたものが混じる。

自分が動いたあの瞬間。
“守りたい”という感情だけで咄嗟に投げたナイフが、かえって疑念を呼んだ。
(くそ……下手を打った。いや、でも、あからさまな誘導もあったような)
いろいろな思考が渦を巻く。

なんにせよ自我があることがバレたら自分はどうなってしまうか、わからない。

ゲームではとんでもなくポンコツだが、リカのログ解析能力は高い。そもそも彼女自身、製作者寄りの知識を持っている。

(動揺を見せたら終わりだ。ここは……何事もなかったように、振る舞うしか──)

 
『ししょー☆彡 なんかテンション低いよぉ?^^;』
 
唐突に、みるちんがメンタルに踏み込んでくる。

『これでも食べて元気出して☆彡』

インベントリーから取り出されたのは、謎のきのこ。しかも虹色に光っている。

『これ、さっきモンスターの死体はえてきたの!きっと超レアっ☆彡』
『師匠は料理スキル持ってたよね☆リアルでも料理得意なの?』

「……と、当然でしょ!?まずは私のキノコ料理みてて!」

先ほどまでの懸念も忘れ、リカもみるちんのペースに乗せられて普段通りになってきた。

(でもこれ……食べるのは俺なんだよな……)

キノコの件は置いておいて、ひとまずダイは内心ほっとしていた。

この空気はありがたい。
みるちんの、何も考えてないような……いや、実際何も考えてないかもしれない行動が、ダイの焦燥を中和してくれる。

(それでも……)

再び脳裏に浮かぶのは、リカの“視線”だ。

ゲームのプレイ画面越しではあるが、彼女の視線が、鋭く、静かにこちらを見ている気がしてならない。

――バレたのか?

――それとも、まだ“偶然”と思っているのか?

(……俺は、どうする?)

今までのように、ただのNPCとして振る舞うか。

あるいは、ゲーム内のやり取りを通して、何かメッセージを残すか。
もちろん、真正面から話すことなどできない。

だが、言葉を選び、間接的に「何か」を伝えることはできるかもしれない。
そう――
たとえば、「護る」という行動を、もう一度明確に見せることで。
それがただのAI的な反応ではなく、意思ある「誰か」だと、伝わる可能性に賭ける。

(……うーむ、リスクが大きいか)

思わず小さなため息が漏れる。

どうすべきか熟慮しようとした矢先、リカの操作によって、この世のものとは思えない蛍光色のキノコ料理が口に運ばれてくる。

毒キノコに料理失敗が合わさるという悪魔じみた相乗効果により、目の前が虹色にチカチカと明滅し、吐き気、幻覚、操作不能のコンボが襲いかかる。
ありとあらゆるステータス異常を受けたダイの意識は……遠のいていった。

「ふふん、やっぱり私の料理、インスタ映えするよね~」

のんきなリカの声は、ダイの耳には届かない。

***

「……ログ異常、か」

コンピュータールームの暗がりの中、複数のモニターが静かに明滅していた。

その中央――最も注目度の高い「監視対象」の一人として浮かび上がっているのは、キャラクター名、《ダイ》。

一度芽生えた疑念を確かめるため、白衣のGMは目を細め、行動ログをリアルタイムで監視することにした。

だが――

実際問題、行動のほとんどは《プレイヤー指示》と一致していた。
リカの操作にただ従い、それ以外は定型パターンの補助行動を取るだけの“モブ”。

「やはり気のせいだったか……いや、そもそも“問題”など最初からないはずだがな」

GMは椅子の背にもたれた。

「まったく、くだらない。心配しすぎるのは俺の悪い癖だ……」

溜息まじりにデータ記録を保存すると、監視ウィンドウを閉じた。
とりあえず、今は監視対象から除外――少なくとも「即時介入」の必要はない、と判断された。


***

【……はぁっ、よかった……っ】

静まり返った別の空間――

ゲーム内の“深層レイヤー”と呼ばれる領域で、シャルの耳は垂れ、額からは汗をにじませていた。
観測できる側――彼女にとって、GMの監視は何より恐ろしい脅威だった。

上層部に、ダイの“意志”の存在を知られてはいけない。

(ダイ……ごめん。苦しいよね、でも、今は……今だけは、意識を戻さないで……)

運よく(運悪く?)ダイが猛毒により意識を失っているおかげで奇跡的にこの絶体絶命な状況を回避している。

祈るように、彼女は薄く目を閉じる。

彼女自身、この世界で目覚めた理由はわからない。

数百万のキャラクターを管理しているシャルだからこそ、同じように、意志を得た彼の存在が、どれほどの奇跡か……誰よりも理解している。

だからこそ、守りたい。シャル自身のルーツを辿る手がかりになるかもしれない唯一の存在。

GMに“証拠”を掴ませないように、

リカに“気づかれすぎない”ように。

絶妙なバランスの上で、綱渡りのように彼の存在を支えるしかない。
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