『ポンコツ主人は実は有能!?レギオン=アーク・オンライン裏戦記』

芥川まのん

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第十三話:決死のSOS

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――俺は、もう“夢”から目覚めていた。

草の揺れる感触。
遠くで鳴くモンスターの声。
うっすらと赤く染まりはじめた空。
ゲーム内の風景が、現実よりも鮮明に感じる。

それが、たぶん――俺が“戻ってきてしまった”証だった。

(記憶が……本物なら。俺は、死んだはずの人間だ。開発チームの一員、シナガワ・ジュン)

わずかに指先を動かしてみる。違和感はない。
キャラクター「ダイ」の身体は、きちんと“演じてくれる”。
俺の中に目覚めた意識は、このアバターに宿ってしまったのだ。

けれど、それを知られてはいけない。

ここはまだ“彼”の目の届く世界――
開発者の頂点、《オギノ》の手の中だ。

(俺とアキコはあの後どうなったんだ?ラボの天井、倒れかけた梁、あの時の叫び声――それらは、夢ではなく“さっき起きたばかり”のように感じられた。しかし、意識があるということは最悪の事態は回避できている可能性が高い。)

(とはいえ、俺が誰なのか、気づかれたら……間違いなく消される。今度こそ、完全に)

* * *

『よかった☆ダイのステータス異常なおったよぉ^^』

みるちんの明るい声が響き、彼女の操作キャラがぴょんぴょんとエモーションで喜びを表現する。

俺はリカの操作にしたがって、うなずく仕草のエモートを返した。
自らの意思で会話などはできない。

だが――それこそが、今の俺にとって最も都合がよかった。

(話す必要がない。むしろ、話してはいけない。ログに“異常なテキスト”が記録されるリスクがある)

今は、“ただのキャラ”でいる。
それを装いながら、状況を探り、打開の糸口を見つけるしかない。

* * *

翌日。

俺たちは地味な採集クエストを繰り返していた。
記憶が戻った今、現状を打破したい気持ちはある。

けれど、ゲームキャラクターとして“演じている”ことが、あまりに――もどかしい。
(焦るな。この世界に戻ってきて、まだ一日しか経っていない。手がかりはない。けれど、何かできるはずだ)

それには、協力者が必要だ。

オギノ側ではない人間で、この異常に気づき得る人物。

(リカ……君は、違和感を覚えているよな)

根拠はない。ただの勘にすぎない。
でも、彼女のある“言葉”が、今も引っかかっている。

「うーん、なぜかやっちゃんの関連ログがないなぁ……」

あの後、彼女はそのことを運営に問い合わせはしていないし、みるちんにも話していない。
彼女の真意はわからない。けれど、何かを……保留している。

(……それにしても。音声が外部ソフトで助かったな。ログに残っていたら、さすがに今頃、誰かが気づいていたかもな)

レギオンのチャット機能はテキストのみ。
ボイスチャットは他のアプリを介していることが幸いしている。

……リスクはあるが、リカにメッセージを送ってみる価値はある。
仮に声をあげたとしても、オギノ側に気づかれる心配はない。

俺は、行動を起こすことを決意した。


* * *

冒険の小休憩中。
焚火のそばに、俺とみるちんのキャラクターが座っている。

この状態のNPCには、定型エモーションがある。
焚火の端に落ちている「焼けた木片」を一本拾い、火をつつくというものだ。

俺はそれを――利用することにした。

本来なら、焚火の中心を小突くはずの棒。
だが、俺の動きは、わずかにそれていた。
まるで“焚火の横の地面”を、引っかくような挙動。

ほんの少しだけ“溜め”を入れ、

あくまでラグに見えるような自然さを装いながら――
俺は地面に描いた。

 ・ ・ ・ ―  ―  ― ・ ・ ・

焚火の横、黒ずんだ地面の土をこすったような、些細な跡。
ゲーム的には、単なるオブジェクトの物理挙動の一環。偶然の産物に見えるはず。

けれど、この配置はモールス信号の「SOS」。

説明するまでもなく世界的に有名な遭難信号だ。

(注意深い人間なら、これをみて“何かを伝えようとしている”と感じるだろう)

俺の声は届かない。ログにも残せない。
でも、見つけてくれると信じている。

これが――今の俺に許された、最大限の“叫び”だった。

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