スターライトパレード

木風

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第四巻 Only

第5話「雨とバスローブ」

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「いきなり降ってきたなー……!」

空が急に暗くなったと思ったら、バケツをひっくり返したような土砂降り。
さっきまで川ではしゃいでいたメンバーも、慌てて走り出す。

私たちも急いで、ホテルのロビーへと駆け込んだ。

濡れた髪を拭きながら、窓の外を見つめる。
止みそうにない……
このままじゃ、帰れないかも。

「奏」

声がして振り向くと、セナ君がスマホを片手に立っていた。

「わり、……この雨じゃ、車出すの危ねぇわ」
「あ……うん。大丈夫。じゃあ私、新幹線で……」
「ばっか」

きっぱり遮られる。

「だから新幹線なんか乗せねって。この雨で途中止まったらどうすんだよ」

え……えぇ……
今、頭の中はさっきの怜央さんの告白でいっぱいいっぱいなのに、なんで突然、セナ君にバカ扱いされてるんだろう。

「お前も、ホテル泊まれよ」
「……え?」
「明日ロケ終わったら、一緒に東京戻ろ。すぐ部屋取ってくっから」

有無を言わせない口調でそう言い切ると、濡れた髪をぐしゃっとタオルで拭いて、そのままフロントに向かって歩き出した。

私は……
ぽかんと立ち尽くすだけ。

「……あいつの行動力、俺にはできなくて。ちょっと、羨ましくなる」

そう、自嘲するように呟いた怜央さんも、セナ君のあとを追っていく。
ふたりが並ぶ姿を見ていると、なぜか胸がざわついた。

今日だけで……

セナ君とアウトレットモールで手を絡めて歩いて、教会で怜央さんから告白されて。
何もやましいことなんてしていないはずなのに。
とんでもなく、悪いことをしているみたいだった。

やがて怜央さんは、みんなのカードキーを受け取り、それぞれに渡しに行く。
セナ君だけが、私のもとに戻ってきた。

「はい。部屋カード、これ。オレの名前で取ってあるから」
「あ……ありがとう」
「お前、濡れてるから先に部屋行ってろ。
後で、アウトレットで買った服、届けるから」

手渡されたカードキーを握りしめ、私は部屋へ向かった。

フロントの大きなガラス戸を抜けると、石畳の小道が、森の奥へと続いている。
スタッフの方に案内されながら、奥の棟へと向かった。

客室の扉を開けると、ふわっと木の香りが鼻をくすぐった。

「……わあ……」

小さな土間を上がると、広いリビングとベッドルームが続いている。
天井は高く、和紙の照明がほんのり灯っていて、全体的に落ち着いたトーンの内装。
壁際にはソファとローテーブル、奥には書斎のようなデスクも。

まるで、誰かの別荘に招かれたみたいだった。

……すごい。
でも……すごすぎて、なんだか落ち着かない。

窓の向こうには、うっすらと川が見える。
さっきまでみんなが笑っていた小川が、まるで夢だったみたいに、静か。

……静かすぎる。

雨の音。
水の流れる音。
ときおり風に揺れる木の葉の音。

それだけが部屋の中にも届いてくる。

「……ひとりで、ここに?」

声に出してみても誰もいない。
ほんの少し前まであんなに賑やかだったのに。

「……くしゅん!」

いけない。濡れたままだった……

バスルームにはすでにお湯が張られていて。
窓を少しだけ開けると、ここでも川の音がほんのりと聞こえてきた。

湯船に身体を沈めると、ふわっとラベンダーの香りが広がる。

「……すごい。温泉、なのかな……」

湯気の向こうに見えるのは、月と、木の影。

誰もいないのに、声をひそめてしまうような……
そんな静けさだった。


コンコン……

「……奏、オレ」

ドアの向こうから、セナ君の声。
私はあわててバスローブの前を合わせて、髪をタオルで拭きながら扉を開けた。

「セナ君、ありがとう。わざわざ……」
「っ……ああ、うん……」

一瞬、セナ君の動きが止まった。
紙袋を手に持ったまま、視線が泳いでいる。

「……ありがとう。本当に助かった」

バスローブの袖をぎゅっと握ってお礼を言うと、セナ君はその動きに目を向けて、すぐに視線をそらした。

「……あー、気にすんな。多めに服、買っといて良かったよ。
晩飯、どーする?みんなで食うか……それとも」
「え!?みんなで食べれるの?いいの?」

BBQだけじゃなくて、晩御飯までみんなと一緒にいられるなんて……!

「ふっ……いーよ。時間なったらまた来るな」

少し微笑んで、そう言い終えると、セナ君は玄関の小道を足早に引き返していった。

……なんだか、その背中がいつもより少し早く感じた。

扉を閉めて、私は手に持った紙袋を見つめる。

中にはセナ君が買ってきてくれた服が上下三セット。
どれもママが選んでくれるような服とはちょっと違う雰囲気。

「……じゃあ、これにしようかな」

鏡の前でそっと身にまとってみる。
思ったよりも丈が短いけれど、サイズはぴったりで……
ちょっと悔しいくらい、似合っている気がした。

やがてスマホに「今から行くわ」のメッセージ。
ふたたびセナ君が迎えに来てくれて、私は少し緊張しながら部屋を出た。

食事は、施設内のレストランの一角を貸し切って用意されていた。

夕食も終盤に差し掛かる頃には、真央君と遊里君がふざけ合いながらデザートを取り合っていて、椿さんは半ば呆れ顔で見守り、信さんと蓮さんは、静かに談笑していた。

怜央さんは斜め向かいにいたけれど、私とはほとんど目が合わなかった。

きっと……気を遣ってくれてる。
でも、それが余計に気まずくて。

……さすがに、何もなかったように振る舞えるほど大人じゃない。
私もうまく顔を見られなかった。

セナ君は、ひとつ置いた隣の席。

話しかけてくることは少なかったけれど、料理を取ってくれたり、お茶を勧めてくれたり……
気遣いはいつもと変わらずだけど、目が合うとちょっとだけ気まずそうに逸らされるのが、不思議だった。

「ねぇ、奏~?服さっきのと違くない?」

遊里君の声に、私は小さく笑いながら頷いた。

「あ、みんなと合流する前にね、セナ君とアウトレットモールに立ち寄って。買ってもらったの」
「うわーーーセナ君、慣れ過ぎてるやん~~」

ぱっと会話が切り替わって、場の空気が少しだけ和んだ。

少しだけ気まずかったけど……
思っていたより、ちゃんと楽しかった。

食事を終えて部屋に戻る頃には、空気も少し、柔らかくなっていた。

部屋に戻って、今日の出来事を思い返しながらiPadのピアノをぽつぽつと鳴らしていたとき……



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