スターライトパレード

木風

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第四巻 Only

第11話「クリスマスとケーキ」

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クリスマスなんて、子どもの頃はただのケーキの日だった。
いつからだろう、“誰と過ごすか”が特別な意味を持つようになったのは。

テレビの中には、スターライトパレードのトークコーナー。
サンタの帽子をかぶった女性タレントが、セナ君の肩に軽く触れて笑っている。

楽しそうな、その空気。
どうしても、まぶしく見えてしまう。

“共演者”って、こんなに近くにいられるんだ。
私は……きっと、その輪の中には入れない。

なんだか悔しくなって、昨日撮ってもらったパステルピンクのパジャマに、ふわふわのヘアバンド。
ちょっとだけ勇気を出して……
写真を、1枚だけ送ってみた。

すぐに既読が付いて、【諏訪セナ】の名前が通知に浮かぶ。

『……オマエ、また送ってきたな』

声が低い。
けど、少しだけ笑っているのがわかる。

「うん。……変だった?」
『変じゃねぇけど……』
「え?」
『……これ、誰にも見せてねーよな』
「え!?見せるわけないよ!?」

ほんの少しの沈黙のあと、電話越しに、吐息のような音が聞こえた気がした。

『今なにしてた?』
「起きてたよ。テレビ観ながら、課題してた」
『……あー……見た?オレ、変な帽子とかかぶらされてたやつ』
「似合ってた、と思う」

なんで今、こんなに胸がドキドキしてるんだろう。

『……んで、さ。なんか声、元気ないなって思って』
「え……そんなこと……ないし、なんなら、今元気出たかも」
『……そっか……』

……長めの沈黙が、二人の間を流れる。

会いたいって言えたら、どんなに楽かな。

『オレ、これから1本バラエティ収録あってさ……
少し、遅くなるかもだけど……オレんちで待ってて。ケーキ食おうぜ』
「え……?」
『帰りは、ちゃんとタクシー呼ぶからさ』

テレビの中では、女性タレントと笑い合うセナ君。
事前収録だってわかってる。
けど……
これからの収録だって、他の女性にセナ君は会うんだ。

私も、会いに行っていいの……?

「いく」
『ん。待ってて。あ、来るときはタクシーな』

電話を切って、慌てて準備する。

やっと慣れてきたお化粧をして、着替えをして……

そして。
セナ君から誕生日にもらったピアス。
あまりにもキレイで、見ているだけで嬉しくて、落とすのが怖くて……
ずっと、開けては閉まってだけを繰り返してた。

初めて、自分の耳に付けてみる。

「やっぱり……キレイ」

なんだか、一気に大人になったような気がしてしまう。

外はもう真っ暗。
昨日、友達と見たイルミネーションもキレイだったけど、タクシーから見えるイルミネーションは、なんだか特別に見えた。

「寒っ……」

タクシーから降りた外は、こんなに寒かったんだ……
セナ君の部屋の合い鍵を使って、足早にマンションに入る。

そっとドアノブを回して、中を覗き込むように開ける。

「お……お邪魔します……?」

なんか……前回来たときと、まったく同じことしてる気がする。

人の気配はない。
セナ君から連絡を受けて、もう1時間半……まだ帰ってないのかな。

靴を揃えて、玄関にあがる。

ここに来るのは、2回目。
前回は、私の誕生日だった。
まさか、クリスマスに来れるなんて……想像もしてなかった。

そっとソファに腰を下ろす。

やっぱり、忙しいのかな……
前回来た時より、服が放り投げてあったりして。
それがなんだか、セナ君の“私生活”に触れられた気がした。

しばらくすると、玄関の鍵が開く音。
急いで玄関まで出迎えに向かう。
ドアが開いて、目が合う。

「おかえりなさ……い!?」
「奏!!」

突然抱きしめられて、びっくりする。
外の空気の影響か、コートはひんやりしてる。

「ちょ……セナ君!?」
「あ……わりぃ……ホントにいたから、テンションあがった」
「そ、そーいうもの……?」
「ん。ただいま」

……セナ君でも、そんなことあるんだ。
クリスマスだから、かな。

「コート置いてくるから、ソファで待ってて」

何だろう……いつもよりセナ君が凄い楽しそうに見えて、こっちまで嬉しくなる。

リビングに入ってきたセナ君は、私の顔を見るなり少しだけ目元を緩めて……
そのまま無言でキッチンの方へ向かった。

「……?」

私はソファの背もたれ越しにその背中を見送る。

コン、と冷蔵庫のドアを開ける音。
中を覗き込んで、何かを取り出す。
小さな箱。白地に金の縁があしらわれたケーキの箱。

「え……それ?事前に買ってたの?」

セナ君は軽く片眉を上げながら、当たり前みたいな顔で答える。

「ん、念のため……な」

そう言って、無造作に食器棚から皿を二枚取り出しながら、冷蔵庫の上の引き出しを開けて……

なんてことない夜。
でも、今日はクリスマス。
そのために……この人は、ケーキを買っておいてくれたんだ。

「……ありがとう」

思わず漏れた声に、ケーキの箱を開けながら、ちらりとこちらを見て、

「礼はあとでいくらでももらうから」

って、いたずらっぽく笑った。

箱を開けると、白いホイップの上に真っ赤な苺がいくつも並んだ、小さなショートケーキが現れた。
甘い匂いがふわりと広がって、一瞬で部屋が“クリスマスの夜”の空気に染まる。

セナ君はさっそくフォークを構えて、ケーキに手を伸ばそうとする。

「待って!」

思わず声が出た。

「写真、撮っておきたい……かも」

ケーキの前に手を差し出すと、セナ君はフォークを止めて、少し驚いたように私を見る。

「へぇ、珍しいじゃん。お前が写真撮りたいなんて」
「……うん。だって……凄いかわいいケーキなんだもん」

少し意外そうに笑いながらも、セナ君は素直に手を引っ込めてくれた。

私はスマホを取り出して、ケーキにピントを合わせる。
白いクリームの上に赤い苺がのった、いかにも“クリスマスらしい”ケーキ。
小さな箱にきゅっと収まってる姿が、なんだか可愛くて。

「……撮れた?」
「うん。ありがと」

スマホを下ろしかけたとき、ふいに横から声がかかった。

「じゃあ、どーせなら一緒に撮っとこーぜ」
「えっ?」

返事をする間もなく、セナの手が伸びてきて、ぐいっと肩を抱き寄せられる。

「わっ!?」
「ほら笑って」
「……うん……」

声が小さくなってしまった。

カメラの画面には、ケーキと、私と、セナ君の顔が並んで映っている。
あたたかい腕の感触と、近すぎる距離に、鼓動がひとつ跳ねた。

「ふふっ……」
「どした?」
「早めのお年玉だな……って」

フッと笑うセナ君が、誕生日の時と同じようにフォークに刺したイチゴを目の前に差し出す

「お年玉もいーけど、今はケーキじゃね?」

あの時は、みんなの視線があって緊張しちゃったけど……
2人きりでもやっぱり緊張しちゃうな……なんて考えながら……そっとイチゴを口に含んだ。

ケーキを食べながら、大学進学を決めた話……
受験に向けた毎日の課題に、ピアノの練習……でも、昨日は友達と恒例のお泊り会が出来た話。
セナ君からは年末進行の過密スケジュールを聞いたり……
クリスマス関係の撮影は11月から始まっていて、当日は意外とそこまでではなく、だからこそ記者も張っていることが多いらしく……
本当に忙しくなってヤバいのはこれから先年末だと教えてくれた。

去年も……ケンカしてなかったら……一緒に過ごせたのかも……と思うと、少し胸が痛んだ。

何気なくつけていたテレビから、速報が流れる。

「東京23区に大雪警報が発表されました」

ふと窓の外を見ると、いつの間にか雪が降っているのが目に入る。

「セナ君……雪が降ってる!」
「は?え、マジ??」
「ホワイトクリスマスだねぇ!」

呑気な私の声が耳に入っていないのか、セナ君はスマホを操作しながら何かに焦っている様子。

「わりぃ……タクシー、ぜんっぜん捕まんねぇ……」
「あ、だ、大丈夫だよ。電車で帰れば……駅前だし、うち……」

タイミングを見計らったように、テレビから続報が流れる。

「大雪の影響で、都心各線の運転を見合わせています」

……電車も、止まるの?

「……でも、大丈夫……歩けない距離じゃないしっ!」

1時間くらい、かな……歩けば帰れる、はず。
でもセナ君は、何かを考え込んでいる。

「……歩いて帰るのは、絶対ダメ」

再び黙り込んでは、ため息をついたり、頭を抱えたり。
私のせいで、困らせてる……そう思うと、胸がチクリと痛んだ。

数分後、セナ君が私の方を見て、ぽつりと呟いた。

「奏……今日、ウチ泊ってけ」

……泊まる? セナ君の家に?



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