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第五巻 Prisoner
第1話「エプロンと制服」②
しおりを挟む「これ、本当に出来合いなの……?」
思わずつぶやくと、セナ君はレンジの前で肩をすくめた。
「いや……一応、盛りつけはした。あと、グラタンだけ自分で焼いた」
「……え、すごい……」
「いや、冷凍のやつだし。チーズ足したくらいだって」
ちょっと照れたように笑うその声が、いつもより少し優しくて。
私の胸の奥に、じんわり温かいものが広がっていく。
「ワインはお前、まだお預けな。……スープあるから。こっち来て」
案内されたキッチンの奥にあった、小さな鍋。
蓋を開けると、湯気と一緒にコンソメの香りがふわっと広がる。
じゃがいも、人参、玉ねぎ……
小さく切られた具が、たっぷり入っていた。
「これ、もしかして……」
「うん。これは作った。レシピ見ながらだけど。……たぶん、食えるとは思う」
なんでだろう。
泣きそうになった。
すごく手の込んだ料理じゃない。
どこかのレストランの特別なメニューでもない。
だけど、あったかくて、優しくて。
ちゃんと“私のため”に用意されたって、それがわかってしまって。
「……いただきます」
スプーンを握る手が震えそうで、気づかれないように指先に力をこめる。
ひとくち、スープを口に運ぶと、やさしい塩気と、野菜の甘さがじんわり染み渡ってきて。
「……美味しい」
ぽろっと、言葉がこぼれた。
その瞬間、涙までこぼれそうになって、慌てて目をそらす。
「ほんとかよ、ちゃんと飲んでから言ったか?」
「ちゃんと飲んだもん……」
笑うように責める声。
笑いながら返す自分の声。
この感じ、懐かしい……
そして、嬉しい。
やっぱり私は、この人が好きなんだ。
……こんなふうに、思わせてくれるのも、あなただけだよ。
仕事で疲れてるはずなのに、こんなに準備してくれて。
「あの……私、セナ君に誕生日プレゼントしか用意してなくて……」
「え、マジ?なになに?」
「今は……まだダメ」
「何それ、いつならいいの?」
ソファの背もたれに寄りかかって、いたずらっぽく笑う。
「えっと、お料理のお礼!片付けは私がするから!!
ほかに、何かしてほしいことある?」
「してほしいこと?」
「なんでもいいよ!」
「……なんでもって言ったな?」
含み笑いの気配に、ぞわっとする。
「わ、私でできることなら!」
「……じゃさ、奏からキスしてよ」
…………は?
私から?
この人、なに言い出すの……
「えっと……もっと他のでも……」
「だーめ」
これ、絶対面白がってる……!
「どうしても……?」
「自分の誕生日なのに、こんなに準備したのにな……」
……ズルい。
その言い方、ズルすぎる。
ていうか、そんな甘えるような言い方するキャラだったっけ、この人……?
そんな顔されたら……もう……
改めて、正面からセナ君の顔を見る。
格好良すぎて……目を合わせ続けられない。
「あの……せめて、目をつぶってほしいかも」
「ん」
あっさり目をつむるの、なんなのこの人……
意を決して、セナ君の前に膝をつく。
改めて見れば見るほど、整いすぎてる顔。
まつ毛長いし、肌も綺麗すぎるし、髪もふわふわしてて……
こんな人と……キスしたりしてるなんて……セナ君は、どうして私なんかと……?
頬に手を添えて、そっと顔を近づける。
……そして。
セナ君の頬に、キスを落とした。
「……これで、いい?」
もうダメ。絶対顔真っ赤。
セナ君の顔なんて見れないし、視線を逸らすしかない。
自分からキスするって……
こんなに恥ずかしいことなんだ……
そ、それをこの人、しょっちゅうしてるって……もう!
「お前さぁ!」
「わっ!」
ぐいっと腰に腕をまわされて、そのままセナ君に抱きしめられる。
「ははははっ」
「むーっ、頑張ったのに……笑うなんて!」
「わりぃわりぃ……」
でもその目が……
熱を宿して、私を見上げてくる。
やばい、キスされちゃう……
そう思ったときにはもう、セナ君の顔が近づいてきて、唇を奪われていた。
髪に触れて、肌に触れて、声を塞いで……
そのキスは、やさしく始まり、ゆっくりと、でも確かに深くなっていく。
頭の中が、真っ白になる。
何も考えられなくなっていく。
ねぇ、セナ君……
私は、セナ君にとって何なんだろう。
「付き合おう」って、言われてない。
だから私は、彼女じゃない。
なのに、セナ君は……彼女じゃない女の子に、こんなふうにキスをするの……?
私は、セナ君が好きで。
求められたら、嬉しくて……
もう、拒めるわけなんてないのに。
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