スターライトパレード

木風

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第二巻 Dear You

第1話「黒髪とレモン」

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「あれとー……これと……あ、あれも必要じゃね?」
「え?え??あの……ちょ……」

セナ君が次々と店員さんに指示して、買い物カゴがどんどん商品で埋まっていく。私は止めるタイミングが掴めないまま、ただ後ろをついていくばかりだった。

……なんでこんな事態になっているかというと、3日前……

「「「「「あれ生ピアノなの!!??」」」」」

「え?何どうしたの?」

ゲームに集中していた遊里君が、思わずヘッドホンを外して私を見つめる。

うぅっ!?突然イケメンたちに注目されて、思わず目を逸らしてしまう。

何度か会って、ビジュアルには慣れてきたと思っていたけれど、いっせいに見つめられるとやっぱり眩しくてびっくりする。

「いや、最初に聴かされた『shooting stars』って自分のピアノ録音した音やったんやって」
「は?え?ありえなくない?」
「だろ?スゲーだろ?」
「なんでセナがドヤるんだよ」

『shooting stars』の発売は急遽ねじ込まれたそうで、スケジュール調整がとても大変だったとマネージャーの八神さんがぼやいていた。

次の曲は、椿さんが出演するドラマの主題歌で、すでに収録済み。

今後控えているシングル・アルバムのコンペは私も参加できるかもしれないと教えてもらった。
次の曲がもう決まっていると聞いて少し残念だったけど、コンペに参加できるのはやっぱり嬉しい。


「アレンジやった人が言ってたよな。ピアノで再現できない部分があって、奏ちゃんの音源まんま使ったって」
「言ってた言ってた!!」

椿さんと信さんが声を揃える。私も初めて完成を聞いた時は「あれ?」と思っていたけど、技術の進歩ってすごいな~で納得していた。

「でもさ、冗談抜きで、そろそろ機材は必要になると思うよ?」

怜央さんが私に向かって穏やかに話す。

『shooting stars』でもらった5万円…キーボードなら買えるかも。

正面でコーヒーを飲んでいたセナ君がスマホを見ながら、私と怜央さんの間に入ってきた。

「あー、オレ3日後の土曜午前空いてる。学校休みだろ?一緒に行ってやろうか?」
「え?一緒に来てくれるの?他のみんなは……?」

他のメンバーは取材や撮影、地方ロケで不在らしく。

「ボクも学校休みだし行けるよ~」
「ユーリはいつもオフは寝てんだろ」

貴重なオフ?を私に使ってくれるのは申し訳ないけど、せっかくの申し出を断るのも良くないよね…

「セナ君、お願いしてもいいかな?」
「ん」

小さく頷いた彼を見て、私もスマホに予定を入力した。

「珍しいな。随分余裕ないことするね」
「さー?なんのことか分かんねーな」

部屋を出ていくセナ君を見送った怜央さんが私に優しく微笑む。

……何のことだったんだろう。

そして迎えた約束の朝。
私は少し緊張しながら待ち合わせ場所に向かっていた。

スマホで時間を確認すると、ちょうど10時。いい頃合い。

「奏!」

名前を呼ばれて顔を上げると、キャップを深く被り、サングラスをかけた男性が。

「セナ君!……っ!?あれ?髪の毛……黒い!!?」

3日前はたしか金髪だったのに、帽子の下から覗いたのは綺麗な黒髪だった。

「あー、今日から映画の撮影でさ。キンパじゃ合わないって」

キャップを外し、前髪をかき上げる仕草が自然すぎて、心臓がぐらっと揺れた。

「車で行くから」

電車じゃなくて車。そうか、アイドルだもんね。電車なんて、簡単に乗れないよね。
助手席のドアを開けてくれた彼に導かれて乗り込む。

「ベルト、してな」

セナ君に言われてシートベルトを探すけど、焦ってモタモタしてしまう。

「ぷっ、何やってんだよ。……こーこ」

運転席から身を乗り出してシートベルトを引っ張ってくれるセナ君。

その瞬間、ふわっと香った。
レモンみたいで、でもそれだけじゃない、太陽に溶けるような明るくあたたかい香り。
胸の奥がズクンと揺れる。
まるで覆いかぶさるみたいな体勢になって、彼の顔がすぐそこにある、予想外の近さ。
見慣れない黒髪。 すぐそばで感じる息遣いと、車内の密室感。
車内でこれから行くお店の話をしてくれているけど、まったく頭に入ってこない。

同じ空間にいるだけで、香りまで自分のものになってしまった気がして。
……やっぱり、電車集合にしてもらえばよかったかもしれない。

そして冒頭に戻る。

「あとさー、やっぱ机と椅子!長時間作業なら良いのいるだろ?」

机!?椅子!?というか、入ったこのお店って……

あ!また何か入れられてる!?
キーボードだけのつもりだったのに、ヘッドホン、スピーカー、マイク……いろんなものが次々とカートへ。

「PCは持ってる?」
「あ、高校の入学祝いでMacのノートを……」
「だよな。お前使ってるのiPhoneだったし。じゃ、他もMacに合わせてもらうかー」

え?合わせる?予算5万円なんだけど……!

目をぐるぐるさせていたら、案内されたフロアにPCがずらり。
セナ君が店員さんと話すそばで、私はキーボードを見つけて試しに弾いてみる。
……音が伸びない。軽すぎる。跳ね返りがない。

これで本当に作曲できるのかな……?作曲できる気がしないんだけど……

「奏!こっち!」

呼ばれて移動すると、そこには別のキーボード。

「こっち!弾いてみ?」

弾いた瞬間、リアルなグランドピアノの音が響いて、思わず鳥肌が立つ。

「え……?なにこれ凄い!!!」
「スゲーだろ?音出してんのはコイツ」

セナ君が隣の四角い箱をコツンと指で叩く。

「……この四角いのが、パソコン……?」
「そ。中身バケモンだぞ」

しゃがんで眺めていると、ふと疑問が浮かぶ。

「セナ君って詳しいんだね。PC好きなの?」
「……あー……まぁそんな感じ」

少し目をそらした彼が店員さんを呼ぶ。

「じゃ、この辺一式も」

ん?いっしき……?一式って……一式……!?これ、買うの!?!?

「セナ君!!ちょっと待って……!!ごめん、もっと早く言わなきゃだったんだけど……
私、曲でもらったお金で、キーボードだけ買うつもりで……」
「は?」
「予算は5万円なの……」
「5万って……おま……はぁーーーー」

大きなため息。うぅ……呆れられた……

「ま、いいや。全部まとめてお会計お願いします」

は?買えないって言ったのに!?
スタスタとレジに向かうセナ君を慌てて追いかける。

「セナ君……!」
「あのさ、オレが誘ったんだよな?」
「え……うん」
「連れて来たよな?」
「はい……」
「そんで、オレがお前に金出させるわけなくね?」
「え……?」
「ん、配送先書けよ」

そう言ってボールペンを渡される。

「これは、オレらからミリオンのお祝い」

ミリオン…?

八神さんから、私には印税が入らないこと、『shooting stars』は買い切りだったこと、それでもミリオンを達成したお礼をしたいと、みんなが話し合ってくれていたことを聞かされた。

そして、私が帰ったあとに、みんなで作曲の機材一式をプレゼントしようと決めてくれていたことも。

「あと、5万って安すぎ!」

セナ君からまさかのデコピン。思わず額を押さえる。

「だって…私は実績も何もないし…」

ただ、みんなのことを思って曲を作っただけなのに。

「だって、じゃねぇ。デビュー曲以上に売れた曲って初めてなんだぜ。しかもオレたちにとっても初のミリオン」

そう言いながら、セナ君が優しく私の頭に手を置く。
さっきのデコピンと同じ手とは思えないくらい、やさしくて温かくて。

「お前のおかげなんだ。もっと誇れよ」

その言葉が嬉しくて、目が潤む。
離れていく手が名残惜しくて、渡されたボールペンを急いで手に取った。

「あ」

黙っていたセナ君が何かに気づいたようで、店員さんに話しかける。

「あの、こいつ多分セッティングできないと思うんで、配送と一緒にお願いできますか?」
「可能ですよ。お日にちのご希望はございますか?」

セナ君がスマホを確認する。

「学校終わって家にいんのって6時くらい?」
「あ、うん。何もなければそれくらいには家にいるかも」

「じゃ、ちょっと時間開くけど5日後の6時にお願いします」

不思議に思って彼を見ると、さらっとこう言った。

「オレも立ち会うから」
「業者さんがいれば大丈夫だよ?」
「お前だけだと危なっかしいし。ほら会計すっから向こうでも見てこい」

なんだか無理やりごまかされた気がする。

お店を出ると、セナ君が腕時計を見てタクシーを探し始める。

「オレこれから雑誌の打ち合わせと撮影で行かないとなんだ。送ってやれなくてわりぃけど、タクシーで帰ってくれる?」
「え?電車で帰るよ!?」

私の声を無視して、空車のタクシーを止めてくれる。

「学校に行くのに毎日電車に乗ってるのに」
「…本当は電車なんか乗せたくねーよ」
「ぷっ。何それ。私、何にもできない女子みたいじゃん」

「いんだよ。何にもできなくて。お前が好きな曲を、オレらの曲を、隣で笑って作ってくれてればさ」

そう言って、財布から1万円を取り出し運転手さんに渡す。

「じゃ、こいつよろしくお願いします」
「……あ、セナ君!」
「またな」

ドアが閉まり、走り出すタクシー。後ろを振り返ると、手を上げてるセナ君が少しずつ小さくなる。
まだ12時。たった2時間しか経っていないのに、頭の中はジェットコースターに乗ったみたいで……
まだ、セナ君の車の匂いが自分に残ってる気がした。

「今度…なんの香水か聞いてみようかな…」
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