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第二巻 Dear You
第10話「Dear You」
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今日は、学校の友達とお泊まり会。
ただし“恋人がいない”メンバー限定。
少しだけおしゃれをして、クリスマス一色の街へ繰り出す。
今日の予定は、スイーツビュッフェでランチして、ショッピングして、それからみんなでお泊まり会。
店内は、ふわふわでもこもこなパステルカラーが溢れていて、自然とテンションが上がる。
「えっ、このクマ耳やばくない?天才かも」
「うちら彼氏いないのに、こんなの着ようとしてるのウケる~~」
「むしろ彼氏いたら着れないよ、これはもう“自分のため”だよね」
笑い合いながらパジャマを選ぶ友達たちの中で、私は少し遅れて手を伸ばす。
淡いピンクの上下。
袖口と裾に小さなレースがついていて…… なんだか、あの人が好きそうな気がして。
「奏はどうする?これとか似合いそう~」
「てかさ、奏は見せたい人いないの~~~?」
「えぇぇぇ??パジャマを見せたい人???」
冗談交じりの問いに、思わず声が裏返る。
「もー奏、焦り過ぎだよー!」
「真面目すぎか!」
根拠のない想像で笑い合いながら、みんなと一緒にパジャマを選ぶ。
「……もー!」
そう言うと、また少し笑いが起きた。
袋に入ったパジャマをそっと抱きしめる。
誰にも見せる予定なんてないのに。 なのに、どうしてだろう。
今夜、その人の夢を見そうな気がした。
クリスマスも終わり、今度は年末年始……
久しぶりに、スターライトパレードのグループLINEが動いた。
椿翔平:カウントダウン終わったら会社の人らとそのまま初詣行くんだけど、朝から合流できそうなメンツいたら一緒に行かない?
井上信:いいね。朝からなら行けると思う
御影怜央:俺も行ける。甘酒あるとこ希望
柊真央:行く!てか絶対ぜんざい食べるからな。絶対な!!
豊田遊里:やった~~!ボクも行く~~ 着物着てこっかな~?
天野蓮:目立つからやめてくれ。一発でバレる
柊真央:てか草履なんか履いてきたら、また足痛い~とか言うんやろ?w
豊田遊里:うぅ……じゃあ耳あてだけでも可愛いのつけちゃう……
椿翔平:一応言っとくけど、SNS用の写真も撮るからそれなりの格好な
御影怜央:奏ちゃんも来年の“ヒット祈願”しにおいで?
え……行って……いいのかな?
でも、このグループで話が始まったってことはいいんだよね?
『行きたい』
少し緊張しながら、送信ボタンを押す。
……
一気に既読がつく。既読6。
まだ既読をつけていないのは……
少し「行きたい」と送ったことを後悔しかけたその瞬間。 スマホの画面に、新たな通知が表示される。
諏訪セナ:行く
……涙腺が緩みそうになる。
きっと、冬の気温のせいだ。
友達とお揃いで買ったジェラートピケのフードをかぶって、もう一度LINEの画面を見つめた。
朝からずっと、テレビをつけっぱなしにしていた。
年末特番で、どのチャンネルにも見覚えのある芸能人たちの顔が並んでいる。
その中に、スターライトパレードの名前も、いくつか。
お昼のバラエティ特番では、彼らが出演する姿も放送されていた。
「ねぇちょっと!セナ君、マシュマロ入れすぎ!!」
「うるせぇ!お前も負けずに詰めろよ!」
バラエティ慣れした椿さんとセナ君がノリノリでゲームに挑戦していて、信さんはツッコミ役に徹し、怜央さんは困ったように笑っている。
遊里君と真央君も、ゲームに参加しながら無邪気に笑ったり爆笑したり。
ふとした仕草や言葉のひとつひとつが、画面越しでも伝わってくる。
……なんか、すごいな。
あんなにふざけていたのに、ステージに立てば誰よりもかっこいいアイドルになる。
その“ふり幅”に、毎回驚かされる。
そして、夜。
番組のスタート時間に合わせて、夕飯もお風呂も全部済ませた。
私はひとり、ソファの上で毛布にくるまりながら、テレビの前に座る。
年越しカウントダウンライブが、いよいよ始まった。
煌びやかな照明、飛び交う歓声。
出演グループたちが次々に登場していく。
昼間のテンションとは打って変わって、キメた表情に、完璧に揃ったダンス。
熱を帯びた歌声が、画面いっぱいに広がっていく。
……ほんとに、同じ人たち?
スターライトパレードのパフォーマンスが始まった瞬間、私は思わずリモコンをぎゅっと握りしめていた。
さっきまでバラエティでおふざけしてた人たちと、今ステージの上にいる彼らが、どうしても結びつかない。
いや無理……かっこよすぎるでしょ!?
その衣装、反則すぎない……!?
しかも……まって……
ファンサ、すご……
椿さん、両手ハート乱発してるし。
真央君、ウィンク3回目!!
遊里君なんて、ステップ踏みながらお辞儀してる……なにそれ。
……ていうか信さん。
その笑顔、リアコ製造機すぎて罪じゃない!?
こっちは家で死んでるっていうのに!!!
そして……
え、え?
セナ君と怜央さん……今、目が合った?
あれ、絶対アドリブでしょ!?
打ち合わせなしで、あのタイミングであの目線合わせ!?
ふたりが、ステージの端から端までを全力で駆け抜ける。
もう、あんな神演出いいの!?
考えた人、天才なの!?いや、彼ら自身が天才なんだってば!
ド派手な炎の演出から、唐突に始まるコラボ曲。
え、この流れでこの選曲!?
ギラギラの衣装から一転、しっとりとしたバラードに切り替わって、私は息を呑む。
……これ、タダで観ていいやつなの?
どこかのグループのセンターが、ファンサでピースを送る。
その瞬間、カメラがぐらっと揺れた。
……まって、ファンサやば。
何この熱気。何このキラキラ。
本当に同じ人たち?夕方のバラエティでハンバーグの話してたのに?
番組の最後には、毎年恒例のカウントダウン。
「5、4、3、2、1……ハッピーニューイヤー!!」
ステージいっぱいに舞い上がる銀テープと紙吹雪。
笑顔を弾けさせるアイドルたち。
画面越しでも、彼らの多幸感がまるごと伝わってくる。
私のスマホにも、「あけおめ~!」の通知がぽんぽん届く。
あ……明日は初詣……早起きしなきゃ……
眠らなきゃ。
なのに、胸が高鳴って全然眠れる気がしない。
スマホをそっと開き、さっきのステージの余韻を、もう一度だけ思い返す。
……こんな夜が、あるんだな。
静かで、でも確かに胸が熱くなる夜。
窓の外では、誰かの笑い声と除夜の鐘が、遠くで交じり合っていた。
「……無理……起きれない……」
アラームの音で目を覚まし、天井を見つめたまましばらく固まる。
時刻は、午前5時。
カウントダウンの余韻がなかなか冷めなくて……眠れたのは2時過ぎ。
いつもなら、まだ夢の中にいる時間。
どうしよう……やっぱりやめて、このままベッドでぬくぬくしてようかな……
時間ギリギリまで寝てても、別にいいよね……?
いや!行くって決めたんだから、行く!
布団をバッと蹴り飛ばして、勢いよく洗面台へ向かう。
午前6時20分。
なんとか時間通りに家を出て、まだ薄暗い道をタクシーで美容室へと向かう。
「初日の出……見られたらいいな」
車窓の外をぼんやり眺めながら、心の準備をしていく。
「おはようございます。音羽様ですね。こちらへどうぞ」
「あ……お願いしますっ」
名前を呼ばれ、奥の個室に案内される。
ドレッサーの前には、ずらりと並ぶコスメたち。
ふわりとした雰囲気のヘアメイクさんと、着付け師さんが迎えてくれる。
「髪型、どんな感じにされますか~?」
「は、はい……えっと……お任せで、お願いします……!」
普段は日焼け止めくらいしか使わない私の肌に、ファンデーションが丁寧にのせられていく。
スターライトパレードのみんながメイクを受けていた時のことを思い出して、なんだか少しだけ不思議な気分になる。
メイクが仕上がったあとは、いよいよ着付け。
髪をアップにまとめながら、白粉の香りがほんのり漂ってきた。
「帯締めの色は、こちらの珊瑚色で大丈夫ですか?」
「はい、それで……」
白と金を基調にした振袖に、優しいピンクの小物が差し色として添えられている。
その姿に、自然と背筋が伸びていく。
「うわ……」
鏡に映る自分を見て、思わず小さく声が漏れた。
「とってもお似合いですよ」
「……ありがとうございます」
このあと、みんなと合流して、初詣に行って……
お参りするだけのつもりだったけど。
みんな、どんな顔をしてくれるかな。
美容室を出るころには、空もすっかり明るくなっていた。
タクシーの窓越しに見える街は、朝の静けさを残しつつも、初詣に向かう人々で少しずつ活気づいている。
待ち合わせは、午前8時。神社近くの大通り沿い。
あっ……あれ……
あれって……みんなだよね?
「目立たないようにしよう」って言ってた気がするけど……
いや、めっちゃ目立ってる……!
明らかに等身が違うし、服も……カッコよすぎるってば!
チラチラと気づいている人、いるんじゃない……?
これ、絶対バレる……
タクシーを少し離れた場所に止めてもらって、そっと降りる。
胸の鼓動を落ち着けながら、みんなのいる場所へと歩みを進めた。
そのとき、一瞬だけセナ君と目が合った気がした……
でも、最初に声をかけてくれたのは遊里君だった。
「えーっ!!かーわーいーい!!お姫様じゃんっ!」
「ありがとう。せっかく着物あるから、着て来ちゃった」
「あけましておめでとう。すっごい似合ってるね」
「あけましておめでとうございます、怜央さん」
「後で、みんなで撮影開始しないとだね~!」
「揃ったから、行こっか」
椿さんの一言で、みんなで談笑しながら神社へと向かう。
けれど、神社は予想以上の混雑で……
進むたびに、ひとり、またひとりと、徐々に人の波に飲まれてはぐれてしまう。
「すみませーん!ベビーカー通しまーす!」
「うわっ、押さないで!」
「すみません、そちら側少し詰めてくださーい!」
着物のせいで身動きがとりづらくて、立ち止まることさえままならない。
やっぱり……着物、やめておけばよかったかな……
そんなことを考えていたそのとき、列の間をかき分けるように、一瞬だけ人の流れが大きく崩れた。
「奏!」
名前と同時に、手をグッと引かれる。
ふいに列から引き寄せられて
「セ……ナ君……」
ほんの一瞬、世界の音がすっと遠のいた気がした。
雪が降る直前みたいな、静かな静かな時間。
「……いこーぜ」
そのまま、繋いだ手を離さずに、彼は人混みの列へ戻っていく。
久しぶりに見たセナ君は、黒髪から以前に近い明るい髪色になっていて……
また、違う人のように見えて緊張してしまう。
何か話さなきゃって思うのに、伝えたいことはたくさんあるのに、言葉がうまく出てこない。
次のシングルのコンペの連絡が来たんだよ。
クリスマスは友達とお泊まり会して……
年末、みんなが出てた番組、いっぱい観たの。
カウントダウンコンサート……楽しかった、面白かった
ぜんぶ話したいのに、うまく言えない。
それでも、手のぬくもりだけは、たしかに伝わってきて……
どうしよう、手汗とかかいてないかな……!
「着物……」
不意にセナ君が口を開いた。
「え?」
「着物。……いーじゃん」
「でも……こんなに混んでると思わなかったし。みんなとはぐれちゃったし……やめとけばよかったかなって……」
「なんで?手ぇ繋いでりゃ、はぐれねーじゃん」
ずっと、繋いでてくれるってこと……?
胸がきゅっと鳴って、何も言えなくなる。
しばらくして、やっと拝殿前にたどり着く。
繋いでいた手が、そっと離れていって、その指先が名残惜しくて、目で追いかけた。
そっと手を合わせ、静かに目を閉じ、心の中でお願いごとを唱えた。
……みんなが健康でありますように。
スターライトパレードの曲が、たくさんの人に届きますように
薄く目を開け、隣を見ると……
横顔の美しさに、思わず息を呑む。
相変わらず、ずるいくらい綺麗な顔。
……よし、私も。
……………………
……あれ?
セナ君、お願い……長くない?
気になって、思わず小声で尋ねる。
「セナ君……大丈夫?何、お願いしてるの?」
ゆっくりと目を開けた彼が、こちらを向く。
「奏さんと仲直りできますよーに!」
「えっ……?」
「ん」
思わず見つめ返した私の手に、また彼の手が伸びてくる。
ぎゅっと差し出されたそのぬくもりに、自然と応えるように手を取った。
「奏さんと仲直りできますよーに!ってお願いしたの!」
「ぷっ……!」
こらえきれず、吹き出してしまう。
「神様に?そんなの……ふふっ、そんなお願い事……あははははっ!」
「おまっ……そんな笑うなよ!こっちは真剣なんだから……」
「だって……」
涙が出そうなくらい、嬉しくて。
少しだけ震える声で、言った。
「そんなお願い、もう叶ってるのに?」
ただし“恋人がいない”メンバー限定。
少しだけおしゃれをして、クリスマス一色の街へ繰り出す。
今日の予定は、スイーツビュッフェでランチして、ショッピングして、それからみんなでお泊まり会。
店内は、ふわふわでもこもこなパステルカラーが溢れていて、自然とテンションが上がる。
「えっ、このクマ耳やばくない?天才かも」
「うちら彼氏いないのに、こんなの着ようとしてるのウケる~~」
「むしろ彼氏いたら着れないよ、これはもう“自分のため”だよね」
笑い合いながらパジャマを選ぶ友達たちの中で、私は少し遅れて手を伸ばす。
淡いピンクの上下。
袖口と裾に小さなレースがついていて…… なんだか、あの人が好きそうな気がして。
「奏はどうする?これとか似合いそう~」
「てかさ、奏は見せたい人いないの~~~?」
「えぇぇぇ??パジャマを見せたい人???」
冗談交じりの問いに、思わず声が裏返る。
「もー奏、焦り過ぎだよー!」
「真面目すぎか!」
根拠のない想像で笑い合いながら、みんなと一緒にパジャマを選ぶ。
「……もー!」
そう言うと、また少し笑いが起きた。
袋に入ったパジャマをそっと抱きしめる。
誰にも見せる予定なんてないのに。 なのに、どうしてだろう。
今夜、その人の夢を見そうな気がした。
クリスマスも終わり、今度は年末年始……
久しぶりに、スターライトパレードのグループLINEが動いた。
椿翔平:カウントダウン終わったら会社の人らとそのまま初詣行くんだけど、朝から合流できそうなメンツいたら一緒に行かない?
井上信:いいね。朝からなら行けると思う
御影怜央:俺も行ける。甘酒あるとこ希望
柊真央:行く!てか絶対ぜんざい食べるからな。絶対な!!
豊田遊里:やった~~!ボクも行く~~ 着物着てこっかな~?
天野蓮:目立つからやめてくれ。一発でバレる
柊真央:てか草履なんか履いてきたら、また足痛い~とか言うんやろ?w
豊田遊里:うぅ……じゃあ耳あてだけでも可愛いのつけちゃう……
椿翔平:一応言っとくけど、SNS用の写真も撮るからそれなりの格好な
御影怜央:奏ちゃんも来年の“ヒット祈願”しにおいで?
え……行って……いいのかな?
でも、このグループで話が始まったってことはいいんだよね?
『行きたい』
少し緊張しながら、送信ボタンを押す。
……
一気に既読がつく。既読6。
まだ既読をつけていないのは……
少し「行きたい」と送ったことを後悔しかけたその瞬間。 スマホの画面に、新たな通知が表示される。
諏訪セナ:行く
……涙腺が緩みそうになる。
きっと、冬の気温のせいだ。
友達とお揃いで買ったジェラートピケのフードをかぶって、もう一度LINEの画面を見つめた。
朝からずっと、テレビをつけっぱなしにしていた。
年末特番で、どのチャンネルにも見覚えのある芸能人たちの顔が並んでいる。
その中に、スターライトパレードの名前も、いくつか。
お昼のバラエティ特番では、彼らが出演する姿も放送されていた。
「ねぇちょっと!セナ君、マシュマロ入れすぎ!!」
「うるせぇ!お前も負けずに詰めろよ!」
バラエティ慣れした椿さんとセナ君がノリノリでゲームに挑戦していて、信さんはツッコミ役に徹し、怜央さんは困ったように笑っている。
遊里君と真央君も、ゲームに参加しながら無邪気に笑ったり爆笑したり。
ふとした仕草や言葉のひとつひとつが、画面越しでも伝わってくる。
……なんか、すごいな。
あんなにふざけていたのに、ステージに立てば誰よりもかっこいいアイドルになる。
その“ふり幅”に、毎回驚かされる。
そして、夜。
番組のスタート時間に合わせて、夕飯もお風呂も全部済ませた。
私はひとり、ソファの上で毛布にくるまりながら、テレビの前に座る。
年越しカウントダウンライブが、いよいよ始まった。
煌びやかな照明、飛び交う歓声。
出演グループたちが次々に登場していく。
昼間のテンションとは打って変わって、キメた表情に、完璧に揃ったダンス。
熱を帯びた歌声が、画面いっぱいに広がっていく。
……ほんとに、同じ人たち?
スターライトパレードのパフォーマンスが始まった瞬間、私は思わずリモコンをぎゅっと握りしめていた。
さっきまでバラエティでおふざけしてた人たちと、今ステージの上にいる彼らが、どうしても結びつかない。
いや無理……かっこよすぎるでしょ!?
その衣装、反則すぎない……!?
しかも……まって……
ファンサ、すご……
椿さん、両手ハート乱発してるし。
真央君、ウィンク3回目!!
遊里君なんて、ステップ踏みながらお辞儀してる……なにそれ。
……ていうか信さん。
その笑顔、リアコ製造機すぎて罪じゃない!?
こっちは家で死んでるっていうのに!!!
そして……
え、え?
セナ君と怜央さん……今、目が合った?
あれ、絶対アドリブでしょ!?
打ち合わせなしで、あのタイミングであの目線合わせ!?
ふたりが、ステージの端から端までを全力で駆け抜ける。
もう、あんな神演出いいの!?
考えた人、天才なの!?いや、彼ら自身が天才なんだってば!
ド派手な炎の演出から、唐突に始まるコラボ曲。
え、この流れでこの選曲!?
ギラギラの衣装から一転、しっとりとしたバラードに切り替わって、私は息を呑む。
……これ、タダで観ていいやつなの?
どこかのグループのセンターが、ファンサでピースを送る。
その瞬間、カメラがぐらっと揺れた。
……まって、ファンサやば。
何この熱気。何このキラキラ。
本当に同じ人たち?夕方のバラエティでハンバーグの話してたのに?
番組の最後には、毎年恒例のカウントダウン。
「5、4、3、2、1……ハッピーニューイヤー!!」
ステージいっぱいに舞い上がる銀テープと紙吹雪。
笑顔を弾けさせるアイドルたち。
画面越しでも、彼らの多幸感がまるごと伝わってくる。
私のスマホにも、「あけおめ~!」の通知がぽんぽん届く。
あ……明日は初詣……早起きしなきゃ……
眠らなきゃ。
なのに、胸が高鳴って全然眠れる気がしない。
スマホをそっと開き、さっきのステージの余韻を、もう一度だけ思い返す。
……こんな夜が、あるんだな。
静かで、でも確かに胸が熱くなる夜。
窓の外では、誰かの笑い声と除夜の鐘が、遠くで交じり合っていた。
「……無理……起きれない……」
アラームの音で目を覚まし、天井を見つめたまましばらく固まる。
時刻は、午前5時。
カウントダウンの余韻がなかなか冷めなくて……眠れたのは2時過ぎ。
いつもなら、まだ夢の中にいる時間。
どうしよう……やっぱりやめて、このままベッドでぬくぬくしてようかな……
時間ギリギリまで寝てても、別にいいよね……?
いや!行くって決めたんだから、行く!
布団をバッと蹴り飛ばして、勢いよく洗面台へ向かう。
午前6時20分。
なんとか時間通りに家を出て、まだ薄暗い道をタクシーで美容室へと向かう。
「初日の出……見られたらいいな」
車窓の外をぼんやり眺めながら、心の準備をしていく。
「おはようございます。音羽様ですね。こちらへどうぞ」
「あ……お願いしますっ」
名前を呼ばれ、奥の個室に案内される。
ドレッサーの前には、ずらりと並ぶコスメたち。
ふわりとした雰囲気のヘアメイクさんと、着付け師さんが迎えてくれる。
「髪型、どんな感じにされますか~?」
「は、はい……えっと……お任せで、お願いします……!」
普段は日焼け止めくらいしか使わない私の肌に、ファンデーションが丁寧にのせられていく。
スターライトパレードのみんながメイクを受けていた時のことを思い出して、なんだか少しだけ不思議な気分になる。
メイクが仕上がったあとは、いよいよ着付け。
髪をアップにまとめながら、白粉の香りがほんのり漂ってきた。
「帯締めの色は、こちらの珊瑚色で大丈夫ですか?」
「はい、それで……」
白と金を基調にした振袖に、優しいピンクの小物が差し色として添えられている。
その姿に、自然と背筋が伸びていく。
「うわ……」
鏡に映る自分を見て、思わず小さく声が漏れた。
「とってもお似合いですよ」
「……ありがとうございます」
このあと、みんなと合流して、初詣に行って……
お参りするだけのつもりだったけど。
みんな、どんな顔をしてくれるかな。
美容室を出るころには、空もすっかり明るくなっていた。
タクシーの窓越しに見える街は、朝の静けさを残しつつも、初詣に向かう人々で少しずつ活気づいている。
待ち合わせは、午前8時。神社近くの大通り沿い。
あっ……あれ……
あれって……みんなだよね?
「目立たないようにしよう」って言ってた気がするけど……
いや、めっちゃ目立ってる……!
明らかに等身が違うし、服も……カッコよすぎるってば!
チラチラと気づいている人、いるんじゃない……?
これ、絶対バレる……
タクシーを少し離れた場所に止めてもらって、そっと降りる。
胸の鼓動を落ち着けながら、みんなのいる場所へと歩みを進めた。
そのとき、一瞬だけセナ君と目が合った気がした……
でも、最初に声をかけてくれたのは遊里君だった。
「えーっ!!かーわーいーい!!お姫様じゃんっ!」
「ありがとう。せっかく着物あるから、着て来ちゃった」
「あけましておめでとう。すっごい似合ってるね」
「あけましておめでとうございます、怜央さん」
「後で、みんなで撮影開始しないとだね~!」
「揃ったから、行こっか」
椿さんの一言で、みんなで談笑しながら神社へと向かう。
けれど、神社は予想以上の混雑で……
進むたびに、ひとり、またひとりと、徐々に人の波に飲まれてはぐれてしまう。
「すみませーん!ベビーカー通しまーす!」
「うわっ、押さないで!」
「すみません、そちら側少し詰めてくださーい!」
着物のせいで身動きがとりづらくて、立ち止まることさえままならない。
やっぱり……着物、やめておけばよかったかな……
そんなことを考えていたそのとき、列の間をかき分けるように、一瞬だけ人の流れが大きく崩れた。
「奏!」
名前と同時に、手をグッと引かれる。
ふいに列から引き寄せられて
「セ……ナ君……」
ほんの一瞬、世界の音がすっと遠のいた気がした。
雪が降る直前みたいな、静かな静かな時間。
「……いこーぜ」
そのまま、繋いだ手を離さずに、彼は人混みの列へ戻っていく。
久しぶりに見たセナ君は、黒髪から以前に近い明るい髪色になっていて……
また、違う人のように見えて緊張してしまう。
何か話さなきゃって思うのに、伝えたいことはたくさんあるのに、言葉がうまく出てこない。
次のシングルのコンペの連絡が来たんだよ。
クリスマスは友達とお泊まり会して……
年末、みんなが出てた番組、いっぱい観たの。
カウントダウンコンサート……楽しかった、面白かった
ぜんぶ話したいのに、うまく言えない。
それでも、手のぬくもりだけは、たしかに伝わってきて……
どうしよう、手汗とかかいてないかな……!
「着物……」
不意にセナ君が口を開いた。
「え?」
「着物。……いーじゃん」
「でも……こんなに混んでると思わなかったし。みんなとはぐれちゃったし……やめとけばよかったかなって……」
「なんで?手ぇ繋いでりゃ、はぐれねーじゃん」
ずっと、繋いでてくれるってこと……?
胸がきゅっと鳴って、何も言えなくなる。
しばらくして、やっと拝殿前にたどり着く。
繋いでいた手が、そっと離れていって、その指先が名残惜しくて、目で追いかけた。
そっと手を合わせ、静かに目を閉じ、心の中でお願いごとを唱えた。
……みんなが健康でありますように。
スターライトパレードの曲が、たくさんの人に届きますように
薄く目を開け、隣を見ると……
横顔の美しさに、思わず息を呑む。
相変わらず、ずるいくらい綺麗な顔。
……よし、私も。
……………………
……あれ?
セナ君、お願い……長くない?
気になって、思わず小声で尋ねる。
「セナ君……大丈夫?何、お願いしてるの?」
ゆっくりと目を開けた彼が、こちらを向く。
「奏さんと仲直りできますよーに!」
「えっ……?」
「ん」
思わず見つめ返した私の手に、また彼の手が伸びてくる。
ぎゅっと差し出されたそのぬくもりに、自然と応えるように手を取った。
「奏さんと仲直りできますよーに!ってお願いしたの!」
「ぷっ……!」
こらえきれず、吹き出してしまう。
「神様に?そんなの……ふふっ、そんなお願い事……あははははっ!」
「おまっ……そんな笑うなよ!こっちは真剣なんだから……」
「だって……」
涙が出そうなくらい、嬉しくて。
少しだけ震える声で、言った。
「そんなお願い、もう叶ってるのに?」
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「痛くはしない。……お前が私のことしか考えられなくなるまで、何度でも教え込もう」
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それは、愛するがゆえに彼女を嫉妬と絶望で壊し、「帝なしでは息もできない」状態へ作り変えるための、狂気じみた遊戯だった。
「一生、私の腕の中で溺れていろ」
守るために壊し、愛するために縛る。
冷酷な仮面の下に隠された、
一途で異常な執着を知った時、香子の心もまた甘い猛毒に溶かされていく――。
★最後は極上のハッピーエンドです。
※AI画像を使用しています。
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