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2 金色の風
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「はいっ!三分五!」
「調子戻ってきたんじゃない?かなた!」
ちょっと待って‥今呼吸整えてるから‥
息を整えながらゆっくり歩く。
大きく吸ってゆっくりはく。
目線を遠くに顎を引く。
ここで体を折ってしまうとだめなんだ。
今すぐにでも手を膝について頭を下げてしまいたいが、そうすると内臓や心肺が鍛えられないらしい‥って香奈がうるさく言っている。
首から肩が重たい。走るのに上半身なんか使うか?って走らないやつらは言うけど、信じられないくらい上半身を使うし重要なんだな。コーチからは肘で走れって言われるくらいだし。それにしても絞ったら相当な汗がでるんじゃないかってくらいランシャツが重い。まあ一番重いのは臀部からハムストリングスにかけてか。その上ランパンが汗でまとわりつく。ランパンから足の筋肉に従って汗が伝い落ちると金色のランニングシューズに染み込む。
「はい。心拍数いくよ。」
左手首に右の人差し指と中指を当ててはかる。
2、3分歩いて呼吸を整えると心拍数も落ち着いてきた。トラックの内側にまとめて置いてあるボトルから自分のを拾い上げ水を少し口にふくみ喉を湿らせる。
「さあ!次のラップ行くよ!」
香奈の耳にうるさい声が呼んでいる。ボトルを芝の上に放り投げる。
「はいはい。四本目ね。行きますよ。」
「はいは一回!」
って、お尻叩かれたよ。まったくお前はオレの母ちゃんか。
練習がおわる頃には肌寒い。部室棟でシャワーを浴びて、大学名と陸上部という刺繍の入ったジャージを肩に羽織り、ドアを開けると、日は暮れて空には星が輝いている。なんか食べて帰ろうかななんて考えていると、後ろから腰辺りに体当たりをくらった。いきなりだったのでブホォって変な声が出た。
「なんだあ。香奈。猪かと思ったよ。」
「へへ。かなた。一緒に帰ろ。」
「かなた。最近調子上がってきたね。」
「まあね。休みは8つ先の山手駅まで軽く走ってる。」
「往復20kかあ。まあ。LSDには丁度いいかな。」
「そう言えば、香奈。お前もう走らないの?」
「ん~。私はもういいかなかな。」
「そうか。まあ。それはお前の自由だけど。これだけは言っとくぞ。あれはお前のせいじゃないんだからな。気にすんなよ。」
「うん。ありがと。五十嵐かなたは優しいなあ。」
こいつはもう三年も前のことに囚われている。あんなに走るのが好きだったのに。今だって結局走ることから離れられずに陸上部のマネージャーなんかをやってる。おれは中学校の頃からお前の走る姿が好きだったんだぜ。理想的で無駄のないフォーム。一定のリズムで羽の生えたように一人スイスイ進んで行くピッチとスライド。足元には金色のランニングシューズ。風みたいに走るお前に憧れて金色のシューズを履いているなんて口が裂けても言えないけどね。
「ねえ。どこ見てんの!」
「痛って!耳ひっぱんな!」
「かなた。あの女の人のことじっと見てたでしょ!綺麗な人だからって見過ぎだよ。通報されるよ。」
「えっ?」
ふりかえると良くとかしてある髪を蝶の形を模したヘアクリップでまとめたスプリングコートの女性の背中があった。耳元には金色のピアスが揺れていた。すれ違ったことにも気づかなかった。
「ねえって!見過ぎだよ。ば~か。」
隣で歩く憧れの女の子の笑顔にはどんなアクセサリーも叶わない。口には出せないけど。
「調子戻ってきたんじゃない?かなた!」
ちょっと待って‥今呼吸整えてるから‥
息を整えながらゆっくり歩く。
大きく吸ってゆっくりはく。
目線を遠くに顎を引く。
ここで体を折ってしまうとだめなんだ。
今すぐにでも手を膝について頭を下げてしまいたいが、そうすると内臓や心肺が鍛えられないらしい‥って香奈がうるさく言っている。
首から肩が重たい。走るのに上半身なんか使うか?って走らないやつらは言うけど、信じられないくらい上半身を使うし重要なんだな。コーチからは肘で走れって言われるくらいだし。それにしても絞ったら相当な汗がでるんじゃないかってくらいランシャツが重い。まあ一番重いのは臀部からハムストリングスにかけてか。その上ランパンが汗でまとわりつく。ランパンから足の筋肉に従って汗が伝い落ちると金色のランニングシューズに染み込む。
「はい。心拍数いくよ。」
左手首に右の人差し指と中指を当ててはかる。
2、3分歩いて呼吸を整えると心拍数も落ち着いてきた。トラックの内側にまとめて置いてあるボトルから自分のを拾い上げ水を少し口にふくみ喉を湿らせる。
「さあ!次のラップ行くよ!」
香奈の耳にうるさい声が呼んでいる。ボトルを芝の上に放り投げる。
「はいはい。四本目ね。行きますよ。」
「はいは一回!」
って、お尻叩かれたよ。まったくお前はオレの母ちゃんか。
練習がおわる頃には肌寒い。部室棟でシャワーを浴びて、大学名と陸上部という刺繍の入ったジャージを肩に羽織り、ドアを開けると、日は暮れて空には星が輝いている。なんか食べて帰ろうかななんて考えていると、後ろから腰辺りに体当たりをくらった。いきなりだったのでブホォって変な声が出た。
「なんだあ。香奈。猪かと思ったよ。」
「へへ。かなた。一緒に帰ろ。」
「かなた。最近調子上がってきたね。」
「まあね。休みは8つ先の山手駅まで軽く走ってる。」
「往復20kかあ。まあ。LSDには丁度いいかな。」
「そう言えば、香奈。お前もう走らないの?」
「ん~。私はもういいかなかな。」
「そうか。まあ。それはお前の自由だけど。これだけは言っとくぞ。あれはお前のせいじゃないんだからな。気にすんなよ。」
「うん。ありがと。五十嵐かなたは優しいなあ。」
こいつはもう三年も前のことに囚われている。あんなに走るのが好きだったのに。今だって結局走ることから離れられずに陸上部のマネージャーなんかをやってる。おれは中学校の頃からお前の走る姿が好きだったんだぜ。理想的で無駄のないフォーム。一定のリズムで羽の生えたように一人スイスイ進んで行くピッチとスライド。足元には金色のランニングシューズ。風みたいに走るお前に憧れて金色のシューズを履いているなんて口が裂けても言えないけどね。
「ねえ。どこ見てんの!」
「痛って!耳ひっぱんな!」
「かなた。あの女の人のことじっと見てたでしょ!綺麗な人だからって見過ぎだよ。通報されるよ。」
「えっ?」
ふりかえると良くとかしてある髪を蝶の形を模したヘアクリップでまとめたスプリングコートの女性の背中があった。耳元には金色のピアスが揺れていた。すれ違ったことにも気づかなかった。
「ねえって!見過ぎだよ。ば~か。」
隣で歩く憧れの女の子の笑顔にはどんなアクセサリーも叶わない。口には出せないけど。
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