頼ってください!と教え子たちがうるさいので、ソロ討伐を引退した俺をもらってくれる奇特な誰かがいるそうです

波乃宮

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学園では教えていない恋のこと②

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 ルザルア魔法学園の生徒があの場にいたとしたら、ルーラントとヴィユを観察する視線に気づかないはずがない。
 昨夜の食事会を目撃したのは、ヴィユから顔と名前を認識されていない学園関係者なのだろう。

 生徒と密会していたなら訓戒ものだが、教師の私的な交際にまで周りがとやかく言う権利はない。
 大人二人が合意の上で親密な仲に発展するなら、両者の性別種族に関わらず見守るべきなのである。

「背が高くてぇ、なんかこう王子様みたいにヴィー先生のことエスコートしてたんだって!」
「ヴィー先生もめずらしく気合いの入った服着てったみたいだねぇ。スタイル良くて肌もつやつやなのにもったいないなって思ってたけど、勝負に出たんかなぁ。髪もいつもなら適当なのに、しっかり編み込んで首元とか見せつけてたってさ」
「えぇ? それってかなりマジメロっぽいよね!」

 見てきたように話す女子生徒たちの情報源は、クラスで共有する外部メッセージツールへのカキコミらしい。
 誰もがイメージするような王子様像なら、ルーラントよりルウェリンの方がはまっている。
 
 アイスブルーの瞳、ふわっと揺れる金色の髪。
 青と白を基調とした学園の制服は、彼の凛々しさを際立てていた。
 ごてごてと飾り立てなくても皆が見惚れる立ち姿を思い描いて、ヴィユはすぐに思考を切り替える。

 昨夜は楽しい時間を過ごしたが、ルーラントとは手もつないでいない。
 初手から誘惑する気はなかったが、比較的きれいめな格好はしていたのでそういう流れも実は期待していた。
 彼の目が胸元やうなじに向けられても、不思議と気分は悪くなかった。
 色気を放出させ、確定で相手をよろめかせる技巧など使えないが、それでも動揺してくれるルーラントは可愛い。
 
 店を出てからも会話は弾んで、学園近くの職員寮近くまで送ってもらった。
 誰かと交際したことがないヴィユには、あれでベストだったのかわからないが、ルーラントは終始ご機嫌だったので初デートは成功したのだろう。

 次の約束も取り付けてきたから、順調にいけばひと月もたたない内に、ヴィユは彼と恋人らしいことを経験していく。
 穏やかで気遣いのできるルーラントに不満などないが、理由もなく本能が求め合う恋とはかけ離れている。

 教師としての責務を投げ出して、ルウェリンを選んだらどうなるだろうかと考えたことはあった。
 きっと彼はすべてを背負わされることに怯えて、ヴィユを持て余す。
 そうなってくれたら、ぬかるみから抜け出せるのに、彼は享受してきたすべてを捨ててこの手をつかんでしまうだろう。
 いちばん欲しいものが手に入るなら、何もいらないと叫べる若さは、年を経た者が食いつぶしてはならない尊いものだ。

 ヴァージンなんて、大事にとっておかず、そこらの男にくれてやればよかった。
 出会う前に誰とも寝なくて良かったとくだらない運命論を持ち出さないように。

 少し前まで十代だったルウェリンは、ヴィユと恋人関係になるには若すぎる。
 努力ではどうしようもない年齢差はお互いを傷つけるだけだ。
 
 噂が耳に入ったら、真っ先に事情を訊ねてくるだろうと思ったのに、朝から一度もルウェリンの姿を見ていない。
 専科の学生は、ヴィユが受け持つ一年生と違って、取得するべき単位が多く多忙を極める。
 それでも彼なら、時間を捻出しそうなものだが、今のところ音沙汰がない。

「なんか、今日のヴィー先生、そわそわしてたよな」
「あ、それ、オレも感じてた! もしかしたら、いよいよ今夜って感じなのかもな。今日もかっちり着こんでいたけど、あの中にやらしい下着とか隠してんのかな。やべ、鼻血でそ……」
「なんか先生たちのそういうの、想像しちゃダメっていうか、身内の恋愛話ってキツイものあるわ」

 声はひそめているつもりだろうが、男子生徒たちの会話もヴィユには筒抜けだった。
 自分では変わりなく授業をしているつもりだったが、他に気を取られていることを彼らは感じ取っていたらしい。
 まだまだ子供ではあるけれど、四年生の彼らにはこの学園で学び得たものと人生経験が折り重なっている。

「え、そうかぁ? ヴィー先生って気持ちいいことたくさん知ってそうなおにーさんって感じで、オレは全然抜けるけど?」
「お前の性癖どうなってんだよ。そりゃまぁ、近くで『今の良かったな』みたいなこと言われて笑いかけられた先輩がトイレ直行した話とか聞くけどさ。アレ、話を盛ってるだけじゃなかったのかよ!」
「職員寮の共同風呂に偵察球飛ばして、停学になったのもその先輩?」
「いや、それは別件。その時のムービー、実はまだ誰かがもってるらしいぞ」
「え、マジで? なぁ、お前らだったらいくらまで出す?」

 聞くに堪えない話が続きそうなので、ヴィユは聞こえが良すぎる頭の上の耳を少し伏せた。
 恋愛や性欲に振り回される時期は誰にでも訪れる。
 好奇心旺盛なのをとがめても仕方ないが、教師をその手の話題に巻きこまないでほしいものだ。
 元はと言えば、腑抜けた態度を見せてしまったヴィユのせいなので、今後は改めようと心に誓う。
 
 
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