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学園では教えていない恋のこと③
しおりを挟む先ほどの男子3名とは別の学生たちもヴィユを見かけた途端、デート発覚について意見を交わし始める。
ほとんどは聞き流せるものだったけれど、ルウェリンの名を出した女子生徒の声だけは雑音にまぎれずしっかりと届いた。
「付き合ってる人がいるなら、ヴィー先生もルウェリンに、はっきり言ってあげたら良かったのに」
ルウェリンは報われない恋をしている。
ヴィユに対しての言動から、一部の女子たちが勝手に推測し、二人を見守る会を設立した。
いちいち訂正して回るのも面倒で放置している間に、彼女たちのコミュニティはひそかな影響力を持つようになった。
長年教師を続けていれば、生徒から慕われ、時に執着されることも珍しくはない。
ヴィユだけが特別なわけではなく、同僚たちも似たような経験はあったはずだ。
身近にいる大人に子どもたちは幻想を抱くものなのだから。
教師は教え子の勘違いを正して、恋心の種火を消して回る。教師と生徒の恋愛が成就することなど褒められたことではないからだ。
ヴィユが意識を向けた女子2人は三年生で、去年まで担当していた2年A組のメンバーである。
それぞれの得意教科と交友関係まで把握しているが、前年度はこの2人が一緒にいるところなど見たことがない。
「恋人じゃなくて、仲のいい友達かもしれないよ」
「ただの友達だったら、ヴィー先生は着飾ったりしないでしょ。無駄なところに労力使わないよ、あの人は」
「お似合いだったってカキコミされてたもんな。あ、でも相手の人、金髪で王子様タイプみたいだし、ルウェリンと雰囲気は似てたりするのかも?」
ルーラントの素性までは生徒たちに知られていないはずだ。
ルウェリンと親戚だとわかったら、噂は面白おかしく拡散されるだろう。
限られた情報から、その答えにたどり着く少女たちの想像力は恐ろしい。
「ヴィー先生ってさ、年上の人とか年の近い人には世話を焼かれる弟タイプなのに、年の離れた私たちの前じゃ、そういうとこ全然見せないでしょ?」
「そりゃあ、先生としてみんなを指導しなきゃいけないからじゃない?」
「うん。でも、ルウェリンの前だと構われたがってる猫ちゃんみたいになってるよね!」
「それ、わかる!」
だよねと顔を見合わせて微笑む彼女たちは、ヴィユをよく理解していた。
あんなキラキラした目で好意を浴びせられ続けたら、倫理観が揺さぶられる。
顔を見ないと物足りなくて、大勢の中からひとりを探してしまうのは、良くない傾向だ。
親友に指摘されて、そんなわけないと否定したけれど本当は自覚がある。
妄想や願望が混ざってはいても、ヴィユの思いを感じ取ってしまう生徒がいるなら、ルウェリンとは距離を置くべきだ。
ルーラントの存在が皆に広まったのも何かの啓示に思えてくる。
ヴィユたちが暮らす教師寮の壁は少し薄く配慮にかけるが、短時間なら防音魔法でどうにでもなる。
キスしたり、互いに触れ合うなら、人目を避けるために部屋に招くのが最初の一歩だ。
本当は向こうから誘われるのを待ちたいが、ルーラントは健全なデートに不満はないようなので、関係を深めるまでに時間をかけるだろう。
ソロ討伐で発散していた熱が溜まっていけば、その手の道具を使っても満足できない状態になる。
理性がグズグズにとけてなくなる『ゆらぎ熱』を体感してはいないが、どういうものかは教育されてきた。
気持ちよくなることしか考えられない発情期の獣になってしまえば、近くにいる相手に襲いかかる危険性もある。
そうなる前にルーラントと関係を深めて少しずつ欲を発散した方が合理的に思えた。
自分で触って昂った時、抑えきれず漏れる声は子猫のようで嫌いだった。
ハイミアの特性は理解しているし、身体能力の高さには感謝している。
それでも耳と尻尾を震わせて、快楽に染まる身体を好きにはなれない。
ルーラントは優しいが、ベッドの上では豹変する男もいると聞く。
激しくされても耐久力には自信があるが、求められたことに応えられるかわからなかった。
次の授業を知らせる予鈴が校内に響く。不埒なことを考えていては、生徒たちに合わせる顔がない。
雑念をはらうように頭を大きく振って深く息を吸う。
少し乱れた髪を整えた後、あわただしく動く生徒たちにまぎれるようにしてヴィユも教室へ向かった。
勤務時間が終わるまで、ヴィユがルウェリンを見つけることはなかった。
欠席報告はなかったので、避けられていると考えていい。
ルーラントのことを聞かれても、彼が欲しい答えをやれないのなら、しばらく会わないほうがいいのかもしれなかった。
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