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閃風祭の恋灯②
しおりを挟むルウェリンの母はルーラントの姉であり、ノヴァクの長子である。
家系図としてはシンプルなのだが、そこにヴィユ絡みの矢印を付け加えるとややこしいことになってしまう。
昨夜の件を孫から聞いていないだろうが『慧眼のノヴァク』と呼ばれる彼ならば、同席した相手から欲しい情報を引き出すことなど容易いだろう。
ルウェリンを送るついでに挨拶させてもらう気でいた時とは、状況が大きく変わってしまった。
人間関係を円滑にするテクニックは様々だ。ヴィユは親友の巧みな話術や機転にあらゆる場面で救われてきた。
ラザリオがいるなら、どんな質問をされても乗り切れるだろう。
邸の主人であるノヴァクからの誘いを断る理由も見つからず、ヴィユは身構えしながら席についた。
ルウェリンの祖父ノヴァクは、息子であるルーラントより年若い孫のルウェリンとよく似た面差しをしていた。
銀に近い髪や目元の皺が経てきた年数を語りはしても、見惚れるほどに美しい人という事実に変わりはない。
ヴィユも自己評価は低い方だが、自身を老爺と位置づけるノヴァクには驚かされた。
朝焼けの色をもらったような青紫の瞳に見つめられて、話の先を促されたら誰もが心の奥底まで曝け出してしまうだろう。
透明感のある容姿のせいか、実年齢を聞いていたとしても冗談だと受け取ってしまいそうだった。
初対面の相手でもすぐに打ち解け意気投合するラザリオは序盤からペースを乱され、ノヴァクのやわらかな声音にすっかり魂を抜かれてしまった。
高嶺の花でも果敢に口説き落としてきた色男もこうなると哀れである。
食事会は表向き和やかに進んでいるが、このまま終われるとは思えなかった。
御しやすいラザリオから、欲しい情報を散々引き出した後、ノヴァクがヴィユに標的を変える。
「ルーラントと交際しているそうですね」
彼との関係が知られても大人同士の交際なのだから問題はない。
「何度か一緒に過ごしたのは事実です。はっきりとお答えしたわけではないので、私たちの関係に名前はまだありませんが……」
用意しておいた受け答えが出来たのに、操られたようにくちびるが先を紡いでいく
「彼を……ルウェリンの代わりとして愛するべきか、私にはわかりません」
魔術行使の気配などまったく感じなかった。促すような視線に見つめられているだけなのに、自然と舌が動いた。
「あなたは正直な方だ。寓話なら女神が嘘をつかなかった方にふたつともくれるのでしょうが、ルウェリンとルーラントを共に差し出すことはできません」
言葉にしていないものまで深く読み取ってくるノヴァクは、慧眼の名にふさわしい表情をしていた。
「そんな顔をしないでください。私はあなたを追い詰めたいわけではありません。わからないふりをなさって、この子を惑わせることに関しては、まぁ色々と思うところはありますが……」
片側だけ編んだ髪は色合いのせいか銀細工の飾りにも見える。
絵になるため息をついた後、ノヴァクは茶目っ気のあるウインクをしてみせた。
「いじめるのはこのくらいにしておきましょう。自宅以外でことに及ぶ時は、どこからか見られている可能性を考えた方がよろしいかと……」
「み、見ていたって、ことですか?」
「大切な孫のそういう場面を鑑賞する趣味はありません。バトラーから報告を受けただけです」
言い逃れができない状況にヴィユの胃はキリキリと締め上げられた。
ルウェリンは未成年ではないが、生徒に手を出す淫行教師は糾弾されるべきだろう。
「魔法監視システムのことを知っていなければ、ルウェリンも流されてくれたかもしれませんね」
「え?」
くちびるに指をあて、ふわりと微笑んだノヴァクに魅入られそうになる。
それを阻止したのはルウェリンだった。
「お祖父様、ヴィンバウム先生をからかって遊ぶのはやめてください。監視システムはあの部屋にはありません。祖父は昔からこういう人なんです」
ノーブルな賢人の皮をかぶっていたノヴァクが表情を崩す。
白銀に見えていた髪は金に変わり、ルウェリンの兄としか思えない青年がその場に現れる。
髪の内側に隠していた長い二本の飾り羽を引っ張り出して、彼はにこりと笑った。
「あの姿でいた方が周りには好評なんですけどね」
ナディルと同じ瑠璃鳥種なら、数十年は見た目が老いることはない。
彼の伴侶は他種族なのだろう。
ルウェリンとルーラントにはラピセラの特性らしきものは発現していなかった。
「ラザリオ君は、この姿になった私に興味がなくなりましたか?」
真正面に座ったノヴァクからそう問われて、ラザリオは立ち上がり意見を述べた。
「いっ、いいえ! どんなあなたも素晴らしいです」
全力で否定し、賞賛する男にノヴァクは高圧的な笑みで応じる。
会話の邪魔をしないよう運ばれてきた次の料理に誰も関心を向けていない。
彩りを散らした肉料理にラザリオは手をつけず、邸の主の美しい所作から目を離そうとしなかった。
「良い答えです。可愛らしく鳴く犬は嫌いではありません」
完全に手の内に収められてしまった親友は放置して、ヴィユは隣に座るルウェリンに話しかける。
「おそろしい人だな」
「そうなんです。興味本位で若い男の人をたぶらかしてしまうので、恋人候補者が山程います」
「大変そうだな」
恋愛観が違いすぎて理解不能だが、生徒の祖父を貶すことなどできない。
「添い遂げる予定だった相手が行方不明になった後、僕の母をお腹に宿していることが判明したそうです」
情報量が多くて、ヴィユは混乱する。
「その言い方だと、ノヴァクさんが産んだみたいなんだが……」
「合ってますよ」
「は?」
「異種族恋愛では奇跡が起こりがちなので……」
こうやって存在しているルウェリンが言うのなら、信じてやらなくてはならないのだろう。
生徒の言葉を受け止めてやれるのが教師である。
じゃあ、ルーラントさんは誰の子なんだと疑問はあったが、ナイーブな話題かもしれないと聞くことはやめておいた。
「祖父は得られなかった幸福を今でも探しているそうです」
「お眼鏡にかなう人が見つかるといいな」
「ええ、祖父を捨ててどこかへ行った男のことは一回殴ってやりたいって母はいつも言っています。でも、祖父はその人が帰ってくるのを待っているのかもしれません」
ルーラントやルウェリンがロマンチストなのは、祖父の思いを継いだからなのだろうか。
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