12 / 30
閃風祭の恋灯③
しおりを挟む「そういえば、この時期は閃風祭の準備が始まっているのでは? 今年は私も何とか時間を作って……」
「来なくていいです! どちらの姿でも、お祖父様が学園に来られたらパニックになるのは目に見えています!」
普段は穏やかなルウェリンが祖父に対して声を張る。
「ぴちぴちの学生がたくさんいるのに、私のような老爺に目を向けるものでしょうか?」
憂いを帯びた表情は、言い回しの古さも気品へと押し上げる。
意見を求められたラザリオはノヴァクの美しさを詩にして捧げ始める。
それなりの恋愛経験がある彼でこうなら、その手の免疫がない生徒たちには毒となる。
年相応の姿で訪れても、ちょっとどころではない騒ぎが起きるだろう。
「私の存在が恋の脅威となるのが心配なのですね。可愛いルウェリンからライバルとして疎まれたくないですし、困りましたね」
ふざけた言い回しも良い声と良い顔がそろっているせいで、理知的にしか聞こえない。
自分がどう見られているかわかったうえで、ノーブルもアンニュイも使い分けられるなら、これからも連勝が確定だった。
奔放なようで無垢なノヴァクを置いて戻らなかった男は罪深い。
祖父の演技に惑わされないルウェリンは、勇ましく宣言した。
「ヴィンバウム先生には、年下の方が合っていると思います」
「ルーラントともイチャイチャしてると聞きましたが?」
「先生を尻軽みたいに言うのはやめてください!」
祖父と孫の元気なやりとりを見守っているラザリオは完全に戦力外だった。
「なるほど、報告通り、まだ最後までは致していないようですね」
どこからどこまでが推測につなぐための言葉なのか、気取らせない彼は、孫に対して圧倒的に優位である。
「お祖父様、人の恋路を邪魔する者には報いがありますよ」
せめてもの意趣返しにそんなことを言うルウェリンは子供っぽくて可愛らしい。
「あなたたちがうらやましかっただけです。私の運命の人は、どこに行ったのかわかりませんし。そもそも運命じゃなかったのかもしれないですね」
拗ねるような口調やムスっとした顔こそがこの人本来のものなのかもしれない。
彼の元へは戻らなかった人がどうしてそんな選択をしたのか、納得できる理由があってくれと祈りたくなる。
「……あなたはやはり、優しい人ですね」
他人の心に入り込んで、何もかもを暴いていくノヴァクをもう怖いとは感じなかった。
「あなたが私の家族のひとりなってくれるのが楽しみです」
聞いていたラザリオがさめざめと泣き始める。
感情の抑制がおかしくなったのかと思ったけれど、ヴィユの良さをわかってくれたノヴァクに対するわかりみの涙らしい。
親友は間違いなく善性の持ち主だ。
そして、孫のために別邸を用意したり、学園での日々を気にかけるノヴァクも愛されるべき人なのだ。
生徒主体で動き出した今年の特別企画のことはまだ外部に告知していない。
閃風祭の報道は毎年、あらゆる媒体で世界中に届けられてきた。
どういう理由があって、彼の元へ帰ってこられないのか誰にもわからない。
事故で記憶を失ったのか、何かの誤解で彼から離れたのか。
知らないままで子供を育てて一人待つのは不安だったはずだ。
彼の人生の終盤は、愛情と幸福で満たされるべきである。
二段構えのサプライズならどうだろうか。
閃風祭の今年の特別企画は『灯をつないで』──ミッションクリア報酬のコインを集めると魔法のランタン『星灯』を受け取ることができる。
これを空中に放つと夜空をあたたかく照らす一夜限りの星となってくれる。
ミッションの難易度は様々で、浮遊型の『星灯』ではなく、転送型の『恋灯』も選択できる。
意中の相手へのロマンチックな恋文となる『恋灯』に必要な枚数を集めるなら、宝探しのように隠されたコインだけでは到底足りない。
飛翔レースの入賞やクイズ大会での高得点で大量にコインを獲得し、想い人へ『恋灯』を渡せる者は限られてくるだろう。
ルウェリンそっくりの澄まし顔が喜びでめちゃくちゃに崩れるのを見てみたかった。
それは、きっと誰もが望むハッピーエンドだ。
10
あなたにおすすめの小説
異世界に勇者として召喚された俺、ラスボスの魔王に敗北したら城に囚われ執着と独占欲まみれの甘い生活が始まりました
水凪しおん
BL
ごく普通の日本人だった俺、ハルキは、事故であっけなく死んだ――と思ったら、剣と魔法の異世界で『勇者』として目覚めた。
世界の命運を背負い、魔王討伐へと向かった俺を待っていたのは、圧倒的な力を持つ美しき魔王ゼノン。
「見つけた、俺の運命」
敗北した俺に彼が告げたのは、死の宣告ではなく、甘い所有宣言だった。
冷徹なはずの魔王は、俺を城に囚え、身も心も蕩けるほどに溺愛し始める。
食事も、着替えも、眠る時でさえ彼の腕の中。
その執着と独占欲に戸惑いながらも、時折見せる彼の孤独な瞳に、俺の心は抗いがたく惹かれていく。
敵同士から始まる、歪で甘い主従関係。
世界を敵に回しても手に入れたい、唯一の愛の物語。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!
永川さき
BL
魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。
ただ、その食事風景は特殊なもので……。
元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師
まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。
他サイトにも掲載しています。
冷徹勇猛な竜将アルファは純粋無垢な王子オメガに甘えたいのだ! ~だけど殿下は僕に、癒ししか求めてくれないのかな……~
大波小波
BL
フェリックス・エディン・ラヴィゲールは、ネイトステフ王国の第三王子だ。
端正だが、どこか猛禽類の鋭さを思わせる面立ち。
鋭い長剣を振るう、引き締まった体。
第二性がアルファだからというだけではない、自らを鍛え抜いた武人だった。
彼は『竜将』と呼ばれる称号と共に、内戦に苦しむ隣国へと派遣されていた。
軍閥のクーデターにより内戦の起きた、テミスアーリン王国。
そこでは、国王の第二夫人が亡命の準備を急いでいた。
王は戦闘で命を落とし、彼の正妻である王妃は早々と我が子を連れて逃げている。
仮王として指揮をとる第二夫人の長男は、近隣諸国へ支援を求めて欲しいと、彼女に亡命を勧めた。
仮王の弟である、アルネ・エドゥアルド・クラルは、兄の力になれない歯がゆさを感じていた。
瑞々しい、均整の取れた体。
絹のような栗色の髪に、白い肌。
美しい面立ちだが、茶目っ気も覗くつぶらな瞳。
第二性はオメガだが、彼は利発で優しい少年だった。
そんなアルネは兄から聞いた、隣国の支援部隊を指揮する『竜将』の名を呟く。
「フェリックス・エディン・ラヴィゲール殿下……」
不思議と、勇気が湧いてくる。
「長い、お名前。まるで、呪文みたい」
その名が、恋の呪文となる日が近いことを、アルネはまだ知らなかった。
嫌われ将軍(おっさん)ですがなぜか年下の美形騎士が離してくれない
天岸 あおい
BL
第12回BL大賞・奨励賞を受賞しました(旧タイトル『嫌われ将軍、実は傾国の愛されおっさんでした』)。そして12月に新タイトルで書籍が発売されます。
「ガイ・デオタード将軍、そなたに邪竜討伐の任を与える。我が命を果たすまで、この国に戻ることは許さぬ」
――新王から事実上の追放を受けたガイ。
副官を始め、部下たちも冷ややかな態度。
ずっと感じていたが、自分は嫌われていたのだと悟りながらガイは王命を受け、邪竜討伐の旅に出る。
その際、一人の若き青年エリクがガイのお供を申し出る。
兵を辞めてまで英雄を手伝いたいというエリクに野心があるように感じつつ、ガイはエリクを連れて旅立つ。
エリクの野心も、新王の冷遇も、部下たちの冷ややかさも、すべてはガイへの愛だと知らずに――
筋肉おっさん受け好きに捧げる、実は愛されおっさん冒険譚。
※12/1ごろから書籍化記念の番外編を連載予定。二人と一匹のハイテンションラブな後日談です。
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる