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大切なひとのために
しおりを挟むヴィユとラザリオのイベント出場時間を確保するため、同僚たちはこころよく役割分担の再編成してくれた。それ以外にも協力的だった彼らへの感謝は言葉だけでは足りない。
生徒たちが企画から運営まで携わった模擬店はテイクアウトのドリンクやフードを販売している。売上貢献しながら、差し入れの購入ができるなら一石二鳥だ。
人数分買うための荷物持ちとして連れてきたルウェリンにあれこれ指示を出しながら、ヴィユは閃風祭のにぎやかな雰囲気を1年ぶりに味わった。
プロに指導を受けたというアメ細工やパッケージにも工夫が見られる焼き菓子の数々。網の上で焼いたパル貝、特製タレの肉串。たくさんの店が並ぶ中、お目当てを見つける来場者たちの熱意にあてられそうになる。
匂いだけでも食欲を刺激するものばかりで、昼休憩を取っていなかったことにヴィユは思い至った。
買って戻るより、交代してゆっくり食事を取らせた方がいいだろうか。
ルウェリンの希望を聞いておこうと振り向いたヴィユは、両腕に二つずつ袋をさげ、胸の前で大きな箱を平行に保っている姿を見て口もとをゆるめた。
「学園内では授業以外の魔法使用が原則的に禁止ってのは建前だ。違反検知に引っかからない程度の軽微な魔法くらいみんな使ってるぞ」
運搬のための重力操作や物体浮遊くらいなら、気づかれても見逃してもらえる。テストや授業で不正に使うのならともかく、かさばってしまった買い物を軽くするくらい、学園側も見て見ぬふりだ。
「品数が多く種類がバラバラな分、かさばってしまうだけで重くはありません」
フタ付きのドリンクは持ち帰り用の箱にセットされていたが、その他のフードは紙や何かでざっくり包んだだけで提供されている。
こぼれないように、斜めにして中身がかたよらないようにして歩いてきたのだろう。真面目で融通のきかない性格が表れている。
専科の生徒にも運動や戦闘などの授業は組まれている。それでも、ヴィユのクラスの子たちほど体力が有り余っている風に見えない。
クイズでの疾走でルウェリンは平均的なタイムは出せていた。けれど、瞬発力や持久力には疑問が残る。
ハイミアであるヴィユの体力を消耗させるため、教え子たちは戦闘訓練に付き合うと言ってくれた。
彼らが相手では束になってかかってきてもらってちょうど良い。それでも専科所属のルウェリンよりは対戦者として見込みがある。
ベッドに誘ったのはこちらだが、今のルウェリンがハイミアの成人男子の欲求に応えられると思えない。
生徒に手を出すこと事態が許されないのだから、この判定には意味はないけれど。
「それなら、もうちょい買っていっても平気だな」
「ま、まだ買うんですか?」
「余ったら閃風祭みやげとして持って帰ってもらえばいい。テトのとこは家族が多いから、たくさんあっても無駄にはならん。荷物持ちで腕がつらいなら、俺が軽量化魔法で楽にしてやろうか?」
教師であるヴィユが、指導や業務の一環として魔法を行使することは何のルールにも抵触しない。
頭が硬いタイプのルウェリンにできないなら、代わってやろうと思っただけなのに、わかりやすく表情が暗くなる。
「ラザリオ先生から言われました。あなたは周りに頼るのがヘタクソだから、気づいてやってくれると助かるって。でも実際は気を遣われてばかりですね」
ルウェリンはしっかりしてるし、周りからの信頼も厚い。年長者で、指導者側のヴィユにとっては心を配るべき相手というだけだ。
何を言えばフォローになるか考えていると自分の胸元に飾られた花に指で触れ、こちらをじっと見つめてくる。
「ところで、ヴィンバウム先生のクラスは東華風の甘味茶屋をやってるんですよね」
「ん? ああ。衣装も店の内装も気合入ってたぞ」
「どうして、ラザリオ先生みたいに着替えてないんですか?」
押し切るような問いかけから、内に秘めた熱情がほとばしる。
「用意してくれたものを断ったからな」
「試着はしたって聞きました! 僕も当日には見られるかもって思ってたのに」
「見たかったのか?」
ルウェリンはしばらく迷って、頷いた。さっきまで色々グダってたというのに若者は切り替えが早い。
「そういや、さっきのクイズでバシッと答えてくれたの、かっこよかったぞ」
雑な褒め方だったのに、ルウェリンは照れて目を逸らした。
「……まあ、簡単でしたし」
最後の問題はこれまでの得点数2倍という後出しルールが加わって、5位までのグループに逆転勝利の道が開けた。
盛り上げるためにそのくらいはあってもいいと思うが、首位を死守していたグループにとっては面白くなかったはずだ。
フラッグをヴィユが勝ち取り、ルウェリンが答える。
クイズバトルの王道の展開に観客は大いに沸いた。
ラザリオは勢いよくヴィユに抱きついて勝利を喜んだ。ルウェリンもあの場でハグくらいしても良かったのに、ひとりだけ冷静に記者の取材に対応していた。
教職員も何かと忙しいが、専科の生徒だって準備や当日の進行で駆け回っている。
祖父のために皆が協力してることを心苦しく思っているルウェリンは、ヴィユたち以上に気を回していた。
コインの目標数まで、あと42枚。
参加者全員にコイン配布のイベントやスタンプラリーでのコインプレゼントの分を3人分集めればノルマはクリアできるはずだ。
閉会式前の点灯イベントに間に合うように来てほしいとルウェリンからノヴァクへ招待メッセージは送ってもらった。
後は彼らの選択次第だ。
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