頼ってください!と教え子たちがうるさいので、ソロ討伐を引退した俺をもらってくれる奇特な誰かがいるそうです

波乃宮

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大切なひとのために②

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「ヴィー先生! クイズバトル優勝おめでとー!」
「せんせ~、すごかった~!」

 姿を見つけて駆け寄ってきた生徒たちが担任の勝利を祝ってくれる。
 いつもはうるさいくらい質問攻めをするのに、ルウェリンと行動を共にしている理由を聞いては来ない。
 ラザリオやナディルが協力していることで、何か事情があるのだと察した委員長あたりが根回しをしてくれたのだろう。

「ヴィー先生が学園長先生に関する問題でミスった時は、どうなるかとハラハラしたんだけどね!」
「でも、フラッグレースで挽回って感じでぇ! ヤバかった!」
「わかる!」

 個性豊かな感想をぶつけてくる教え子たちの若さに、ヴィユは圧倒された。
 ダンスバトルでいいところまでいった達成感を報告する女子、チーム戦での不甲斐なさを嘆く男子。
 素直な感情を隠すことなく伝えてくれる彼らから、日々活力をもらっている。
 自分を取り囲む輪が大きくなっていき、つながりが増えていく。それはこれからのヴィユの生きがいとなるものだろう。
 


 差し入れはそれぞれに渡し終えたので、ルウェリンの両手は空いている。
 皆の目がどこにあるか分からない公共の場でいちゃつくなんて正気ではない。
 これがラザリオやクラスの子たちなら、親愛ゆえの接触だと言い切れるが、ルウェリンと手をつなぐのは特別な行為に判別されるだろう。
 並んで歩きながら、試すようにスッと指先や手の甲を触れ合わせた。
 見咎められたら即アウトなのは自分だけではないのに、イベントの浮かれた空気に影響されすぎた。
 未成年ではないからと言い訳を並べて、一過性の熱を受け入れたがっている大人は汚い。
 平行線のまま、何もないまま時を過ごせばいいのに、今のヴィユにはそれが難しかった。
  
 教師だけでコインの取得はできないと決められてなければ、こんな風に共闘する機会は訪れなかった。
 恋にとらわれているノヴァクを解放したくて始めたことなのに、ルウェリンを巻き込んで共にいられるような策を練ったのはお前だと内側から声が響く。
 発情はきっかけとなっただけで、ヴィユはルウェリンをずっと求めていたのかもしれない。

 多機能通信機構《ホロウアジェンダ》を起動させ、教師間の回覧ツールを確かめると連絡事項が上から下へと流れてくる。
 大きなトラブルの通達はなく、メインステージの進行が予定より遅れていることや通行ルートの一部変更などが新着としてあがっていた。
 一通り確認した後、ヴィユは個人のメッセージボックスへ切り替え、慣れた動作でボードに文字を打ち込んだ。

「祖父はこちらに向かっているとバトラーから連絡がありました。僕はこの後専科に一度戻ります。あとのコインはこちらで何とかなりそうなので、先生たちは少し休憩をとってください。昼食もまだですよね」

 ルウェリンの報告と指摘に、ヴィユは教師らしく対応する。
 
「お前だって食べてないだろ。自分の面倒をみるのが先だ」
「ロッカーに栄養ソリッドがいくつかあります。発表の場で腹の音を聞かせるようなことはしません」
「せっかくのイベントなんだし、携行食以外を食べてもらいたいね。コインは俺たちとグループになって参加した方が効率よく入手できる。時間の無駄もなくなるだろ」
「それは、そうですが……」

 眉を寄せ、苦そうに言葉を吐き出すルウェリンは憂いを帯びて美しかった。

「今日が終わってしまったら、先生がこんな風に一緒にいてくれることはなくなりますよね」
「ん、まぁそうかもな……」
「祖父のために力を貸してくれているだけなのに、僕は愚かにも勘違いをしそうになる。離れたくないのは僕だけじゃないって」

 昂った感情がルウェリンの瞳になめらかな光膜を貼る。頬を伝うものを目にした時、欲しい言葉をくれてやりたいと心から思った。
 相手を深く想うからこそ、言えなくなることもある。
 ノヴァクが思いを閉じ込めてしまった気持ちにヴィユは今こそ同調できる。
 弱さと、そして強さを。

「俺に先生なんて務まるのか不安だったよ。最初の頃は、要領悪くて持ち帰りの仕事も多かったし、ソロ討伐の方が自分に合ってるって思ってた」

 潤んだ瞳に見つめられながら、ヴィユは独白として言葉を続けた。

「でも、今は違う。俺は今の在り方を誇らしく思ってる。だから、何も言えないし誓いもやれない」

 ルウェリンは自分で涙を拭いながら、不敵に笑ってみせる。

「いいですよ。卒業後は確実に言わせますし、あなたは自分の言葉をそのうち守れなくなるでしょうから」

 正確に真意を読み取ってくれた彼に、ヴィユは安堵し軽口を叩く。

「自信過剰だな。ポジティブシンキングなダメ男はきらわれるぞ」
「意外とチョロかったですねって、ベッドで聞くことになりますよ」

 ルーラントに惹かれた気持ちも嘘ではない。
 十数年後のルウェリンは彼ほど落ち着いてないかもしれない。それでも、彼の向こうに未来を思い描いてしまった。


「あのさぁ……、俺をこっちに呼んだこと忘れてた感じなんでしょーか?」

 目を片手で塞ぎ、見てないよのポーズを取るノリの良い親友にヴィユは答えた。

「いや、お前を呼んでなかったら俺の理性がヤバい時に困るだろ」
「なんで来たんですか! もうちょっとだったのに!」

 ルウェリンから理不尽に責められて、ラザリオはシクシク泣く演技をはじめる。

「お前ら、俺のこと振り回して楽しい?」

 ラズくんって、無茶振りに応えてくれる時が一番カワイイのよねぇ。
 完璧な仕上がりのネイルを見つめながらつぶやくナディルは正しい。
 健気カワイイ親友に、ヴィユは目を細めながら嘘偽りない答えを返す。

「そりゃあ、もう」
 
 
 
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