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一途な恋へご褒美を
しおりを挟む必要コイン数を7個上回る形で、ヴィユたちの『恋灯』獲得ミッションは完遂した。
余ったコインは協力してくれた学友に譲ってしまったらしく、この作戦でルウェリンは何も得ていない。
それなのに、満ち足りているのは祖父のために力を尽くした充実感からであろう。
接客の時間は捻出できないと判断して、ハイミア仕様の給仕服は不要だと事前に伝えたはずだった。
けれど、意志を曲げない生徒たちはここでも食い下がり、担任を輪の中に引きずりこもうとする。
『閉会後の記念撮影で先生だけおそろいじゃないのは不自然です!』
委員長のリィンから、衣装の入った大きな袋を押し付けられたのはついさっきだ。
思い出づくりになるなら、彼らの意向をくんでやっても構わない。動きやすいように入ったスリットや尻尾のためのすき間が気になるけれど、ハイミアは元々きっちりした衣服を好まないのだ。
着たところを見たがっている物好きがひとりいるのだから、似合わないと笑いの種になっても構わなかった。
転移式を組み込んで作られた『恋灯』は、複雑な機構を気取らせない軽さと瀟洒なデザインをうまく調和させていた。
紙や木の葉かと思うほど、軽量化した灯篭にどれほどの思いがこめられるのか、ヴィユは思案する。
コインの必要枚数がやたらと多かったのも頷ける精巧な魔道具は素人目に見ても美しかった。
メッセージを届けるなら、もっと手軽な方法があるのだが、プロポーズやサプライズのような特別な場面に『恋灯』は人気が高いのも納得できる。
ノヴァクを呼び出した場所には、事情を知っているヴィユたちしか来ていない。
大切なひとへの伝言を吹き込む時は、彼をひとりにしておいた方がいいだろう。
使用方法を簡単に説明したら、自分たちはここから離れよう。そう考えていたヴィユに、戦利品を受け取ったノヴァクは穏やかに告げた。
「気を遣っていただけるのなら、皆さんはここにいてください。あなたたちには知る権利があるし、私も心の内を明かしておきたいんです」
小さな窓を開けることで、一度しか使えないロマンチックな伝令機が動き出す。
「言いたいことはたくさんあったんですが、あなたが元気ならそれでいい」
噛みしめるような声からは諦めた人の潔さを感じずにはいられなかった。
それでいて愛情深さが滲んでいたのは彼にも制御出来ていないからだろう。
健気に恋人を待ち続けて、泣き言ひとつ伝えない美しい人。
相手を追い詰めることも責めることもせず、必要とされないならそれでいいと身を引く。
そんなのは、古い物語でしか例のない献身で彼を大事に思う人からすれば捨てるべき思いだ。
ルウェリンの祖父としてのイメージを優先したのか、孫を持つ老爺にしては麗しい見た目を今日は貫くつもりらしい。
この前よりもはかなげに見えるのは、心の揺れが影響しているからだろう。
恋物語を終わらせようとする彼は、十数年しか生きていない若者が知らない複雑な感情と向き合っている。
ふっと『恋灯』の輪郭がぶれて、瞬く間に形が消える。
彼の恋人はさっきのメッセージにいつか答えをくれるだろうか。
祖父を見守るルウェリンの横に控えたヴィユは、区切りがついたことを感謝するノヴァクの憂いが晴れることを祈った。
「さて、これからは私も新しい人生を……」
断られることは前提でプロポーズしてみるとラザリオは意気込んでいた。
よくて保留の告白劇が始まると知っているヴィユはふうと呼吸を整える。
その時、空間が大きく揺らいで、幾重にも広がる魔法陣の中から、知らない青年が現れた。
ゆるやかに肩へ流れる髪は赤みを帯びたベリーブロンド。知性が輝く瞳はルウェリンやルーラントと同じ青色だった。
ノヴァクとほぼ同じ体型の美形は、ヴィユたちを見つけ視線で威嚇してくる。
「今のは、どういう意味だ? もう必要ないと切り捨てたのは君の方だと思っていた」
「オーディ?」
この再会はノヴァクにも予兆をとらえられなかったらしい。
ぽかんとした表情は彼らしくない幼さが前面に出ている。
「捨てられたのは、私の方です。何の連絡もなく、あなたは帰ってこなかった……」
さすがに恨みはあるらしく、ノヴァクの声にはなじるような響きがあった。
「違う! 色々と片付けて君のところへ帰ったら、住んでいる場所は変わっていたし女の子を抱き上げていただろう。優しそうなご婦人も隣にいた。君にそっくりの利発そうな子供を奥方との間に授かったのだと理解した。待たせている間に心変わりがあったのだろうと……」
「……その話が本当なら、戻ってくるまでに3年かかっていませんか?」
「それくらいは、経っていたかもな」
「あなたの種族って、時間の感覚がおかしいですよ。普通は恋人を数年単位で連絡もなしに放ってはおかないものです」
ピシャリと言い切ったノヴァクの前で、青年はしおれた花のようになる。
「今さら、会いに来てどうしたんです? 私はようやく吹っ切れそうで清々しています」
「届いた声から、君の愛を感じた。今からでも君のそばにいる権利がほしい。毎日愛を囁き、美しさを歌にしよう。君の家族のことは尊重するし、自分の立場もわきまえる。もちろん、君の家族の意見が一番だが」
ノヴァクの飾り羽が揺れ、色合いが鮮やかで明るいものに変わっていく。
瑠璃鳥種を恋人にしなければ見ることが少ない光景だが、彼らは求愛にそれぞれの形で応えるのだ。
「どうでしょうね。私の娘はあなたを恨んでますし……。でもあなたの子どもなんですから、努力して歩み寄るべきでは?」
しれっと事実を突きつけたノヴァクに、青年が悲鳴をあげた。
「な! なんだと!? 知らなかったのは僕だけか?」
「あの頃の私は、あなたに一途でしたよ?」
父親になれる相手は貴方だけだったと言われて、青年は見ていられないほど動揺していた。
今の貴方の貞節はどうなんですと思ったけれど、ルウェリンとラザリオの前で聞くべきではない。
家族のこういう場面を直視したくないルウェリンはさりげなく目を逸らし、会話も聞かないようにしていた。
プロポーズまでしようとした人が他の相手とうまく行きそうなのに、涙を流して喜んでいる親友にヴィユは高い酒をおごってやろうとひそかに決意した。
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