頼ってください!と教え子たちがうるさいので、ソロ討伐を引退した俺をもらってくれる奇特な誰かがいるそうです

波乃宮

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一途な恋へご褒美を②

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 日が暮れはじめて、特別企画に携わる実行委員たちは慌ただしく動き出す。
 安全監督という名の現場補助に入ったヴィユは、仲間をフォローしながら働く彼らの様子を見て頼もしく思った。
 放送関係を担う演劇部は、ナディルとベテラン教師2人がついているので、危なげなく進行を務めている。
 
「それではこれよりスペシャルプログラム『灯をつないで』がスタートします。お手持ちの『星灯ほしあかり』がある来場者の皆様、参加する生徒の皆さんは各自点灯を始めてください。それではこれから、カウントを始めます」

 10から始まったカウントダウンに皆の声が重なり空まで響く。
 薄闇から夜へと切り替わる頃、一斉に灯された光はあたたかい色をしていた。

 ゼロ!!
 重なった声と同時に空へ『星灯』がゆっくりと放たれる。
 引き換えコインの枚数は『恋灯』と比べて簡単に集まるように設定されていた。
 不足することはなかったが、残った数はかなり少ない。スペシャルイベントに協力してくれる人が多かったということだ。
 自分たちの企画をみんなが喜んでくれていることに、実行委員たちは感激する。
 補佐とはいえ、見守るだけだったヴィユは彼らの成功で肩の荷がおりた気持ちになる。

 夜空では向かって願いをこめた光がゆらゆらとただよい、地上にいる皆がそちらに視線を向けていた。
 幻想的な光景に周りが声を上げる中、ヴィユは目立たない場所で寄り添うノヴァクと恋人に気がついた。
 収まるところに収まった二人は、誰から見てもお似合いの一組である。
 傍にいられなかった年月が、愛情を成熟させたのかもしれない。
 お互いを見つめる表情は胸やけしそうなほど甘かった。

 雑音さえなければ、彼らの語らいが聞き取れるのだが、さすがに今夜は人が多すぎた。
 少し怒ったようなノヴァクの顔や拗ねたような振る舞いは、彼の前でなければ見せないものだろう。
 相手に合わせて若い姿に戻したわけでもないのに、慧眼のノヴァクと呼ばれる隙のない老爺はそこにいなかった。 

『近いうちにお疲れ様会を開かなきゃ。ラズくんは平気な顔するだろうけど、失恋の痛みは泣いてわめいて乗り越えなきゃ、いつまでも引きずっちゃうもの』

 事の顛末を聞いたナディルは、彼女なりの解決策を提示した。
 担当するクラスの子たちに囲まれて、何もなかったように笑うラザリオに必要なのは、弱みを晒せる場所なのだろう。

 浮遊魔法の効果はひと晩で消えてしまう
ものだが、風に流されていく前にヴィユを含めた教師たちが回収することになっていた。
 たくさんの灯が空を渡る光景を見つめながら、皆が思い思いに託したものを考える。
 ごく自然にキスをしようとする不埒な恋人に、人前でのマナーを説いているのだろう。あきれたような顔はしても見捨てないノヴァクは恋人に世話を焼きたがるタイプなのかもしれなかった。
 
 

 控室に置いてきた東華風衣装に着替えるのは、来場者を学園から送り出してからだ。
 面倒だからそのまま来たとルウェリンのところへ顔を出す程度なら、特別扱いにはならないだろう。
 ルーラントの件が皆に知られたおかげで、ルウェリンとの仲を邪推されることは減ったように思う。
 2人は叔父と甥の間柄で、見た目も似ていることから、複雑になった関係を面白がる生徒も増えたので、ヴィユが身を固めるまであることないこと言われるだろう。
 憶測と事実が中途半端に混じるからたちが悪い。
 そもそもヴィユがルウェリンをちゃんと突き放せていないのが問題なので、自業自得ではあった。

 ため息をつきながら、鉄柵に体重を預ける。人気のない中庭の奥まで歩いてきたせいか、『星灯』の光もヴィユにはあまり届いていない。
 こちらに近づいてくる誰かが小枝を踏んで音を立てる。あまり接点のない演技部の女子生徒はヴィユとの距離を一気に詰めてくる。
  
「こんなところにいたんですか? ヴィンバウム先生に見てもらいたいものがあるんです」

 笑みを浮かべてはいるけれど、瞳はどこか冷静で何かを企んでいるようだった。
 ステージ進行を任される部員たちは、制服の上から揃いのローブをまとっている。
 
 彼女が差し出してきた手鏡を覗き込むとヴィユとルウェリンが抱き合い、そのまま激しくもつれ合う様子が映されていた。

「偽造された画像だと調べれば分かる」
「……調べても分からなかったら、潔白判定が待ってますよ。本当に何もないならいいんですけど、お二人はいけないことしてますよね?」

 潔白判定は学園内の揉め事を公平に判断するために制定された質疑応答を元にした審議である。

「なんか学園では黙認されてますけど、年の差もあるし、先生と生徒でそういうのって気持ち悪いです」

 ぐさりと言葉で刺したあと、彼女はぎりぎりと傷口を広げてくる。

「ハイミアって性欲重視で頭空っぽですもんね。ソロ討伐引退したから年上の男の人に飼ってもらうんだろうなって思ってました。なのに、若い子とえっちなことしちゃうとか教師失格ですよぅ」

 恋に目が眩んでいるだけで、好意的にとらえてもらおうとするのは烏滸がましい。
 彼女の嫌悪感は大抵の人間が抱く感情だ。

 種族が違えば、老化の速度や寿命が大きく変わってくる。異種族同士の婚姻は実を結ばないことが多かったが、ノヴァクたちのような例も稀に起きている。
 血統を広くたどっていけば、どこかで他種との関わりがある場合も多い。
 誰がどんな特性を引き継いだかわからない以上、発言は配慮が求められるようになり、尊厳は守るべきだと社会は変わっていった。
 
 パートナーとなる二人の実際の年齢差や見た目の違和感を表立って非難する者は減ってきている。
 それでも年長者が未成熟な相手に手を出すのは、恥ずべき行為だとみなされる。

「言い返してこないんですか? ハイミアって好戦的だった聞きましたよ?」
「少し、黙ってくれ」
「ヒドい。ボクは純粋に貴方たちを思って言ってるのに。ルウェリンはボクとなら手をつないで歩けるし、これから夜の校舎でエッチなことしてもいい」


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