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一途な恋にご褒美を④
しおりを挟む「じゃあ私たちは、このあたりで撤収しましょ! 邪魔しちゃ悪いものね」
舞台役者のように手を叩いて解散を促すナディルに、女子生徒は懸念を口にする。
「ナディル先生、いいんですか? 二人きりにしちゃったら、お祭りの熱気にあてられて、そういう雰囲気になったりとか……」
「大丈夫でしょ。学園内で淫らな行為にふけるほど色ボケしてるなら、こんな風にお節介してあげてないわ」
わきまえてるわよね?
否とは言わせない視線に、ヴィユは深くうなずいた。
ここは職場で、これほど来客もいるのだから、抑制出来なければ社会的立場が崩れ落ちる。
良識ある大人として、誘惑によろめいてはならないのだ。
「保留型の両片思いなら、規律違反とは言えないんじゃね? で、俺たち教師は指導で必要とされる場合であれば、多少の接触もやむなしってことになってる」
悪い抜け道を教えてくれたラザリオに、ナディルは目を輝かせて加担する。
「昔の話だけどね。閃風祭のラストになると生演奏が始まって、それが聞こえたら周りの人と手を取り合って踊ったそうよ。来年のスペシャルイベントの参考にするために、ここいるメンバーで実演をやってみましょうか」
手をつなぐことさえ、躊躇われる二人にナディルが無茶苦茶な理由をこじつけてくる。
「でもナディル先生、音楽はどうするんです? 今から小型の機材を準備してたら……」
「いらないわよ。ここには何でもやれちゃうラズくんがいるじゃない!」
ナディルは状況が飲み込めていない生徒の手を取り、必要な距離まで身を寄せる。
広い音域と魅力的な声を持つ彼女が歌い始めたのは、ワルツ調にアレンジされた流行歌だった。
教養としてではなく、表現やコミュニケーションを学ぶため、ダンスは授業に取り入れられている。
基礎が身についているだけあって、相手のエスコートに合わせるだけでダンスは絵になるものへと変わっていく。
ラザリオが得意とするフィールド魔法が発動し、足元は薄く水を張った鏡面へと変わっていった。
夜空の光がそこへぼんやりと映り込み、
不思議な空間が生み出される。
湖面で踊っているような幻想的な光景は、ラザリオのロマンチックな趣味を反映している。
呼び寄せたバイオリンでナディルの歌に音を重ねて、水面を輪を描きながら動き回る彼は物語の世界の住人のようだった。
ナディルがヴィユとラザリオの成立を考えたように、2人がうまく行けばいいと願った時期もあった。
ノヴァクへの恋は玉砕したけれど、素敵な人との出会いや幸せな体験とか、そういうものが親友には押し寄せてほしかった。
複雑な魔法を同時処理する能力が突出してるとはいえ、ラザリオの出力量にも限度がある。
ナディルの無茶振りに応えすぎたのはラザリオだが、イベント演出と保安関連にも魔力の大半を引っ張られているはずだ。
「ラザリオ先生、魔力提供させてもらいます。少し触れてもいいでしょうか? 先生方はまだ魔力を温存しておいた方が良いでしょうし」
疲労を感じさせない演奏をしていた親友に声をかけた女子生徒は、状況の判断が早いようだ。
非常時の魔力共有に、面倒な申請をしていては間に合わない。
手のひらを背中にそっと押しつけ、ゆるやかに魔力を流し込む彼女は公平に皆のことを見つめ、できることを果たしてきたのだろう。
「たかがこのくらいで、心配されちゃうななんて、俺も年食ったってコトだ。生徒にカッコ悪いとこ見せちゃったな」
可愛い子ぶって片目をつぶったラザリオに、女子生徒は怪訝な顔で答える。
「こんなにすごい魔法を生み出せる天才が謙遜すると嫌味にしか聞こえません。先生をライラントに招致しようと画策してるあきらめの悪い兄にも謝ってください」
「執念深いよなぁ、お前の兄ちゃん」
女子生徒が自分から距離を詰めていったのは、ラザリオと兄の関係性を知っていたからなのだろう。
今の話を聞く限りでは、以前から引き抜きの話があったようだが、ヴィユはラザリオからはその件を教えてもらっていない。
「知らなかったんですか? うちの兄は昔から頑固でワガママなんですよ」
「みたいだな。でも、俺はここが気に入ってるし、変わる気はないかな。え、もしかしてアイツ、俺を懐柔するために妹を入学させたの?」
「ここに来たのは私の希望ですけど、渡りに船だとはしゃいでいましたね」
想像できたのか、ラザリオは肩を震わせて笑い始める。
演奏を再開しない彼に代わって、女子生徒がバイオリンを慣れた様子でさっと構えた。
「そこのお二人さん。さっさと踊ってくれませんか? 閉会式後は撮影会ラッシュですよ」
彼女は何度か弓を大きくスライドさせた後、深呼吸してワルツの穏やかな三拍子を中庭という舞台に響かせる。
お手本を見せるように、ラザリオがナディルに会釈し、手を差し伸べてダンスに誘った。
やわらかく身体を使って、作曲家の技巧的な旋律を正確に弾きこなす彼女の瞳はラザリオのみを追っていた。
ヴィユが気づいたくらいなら、ラザリオ本人だってわかっているのだろう。
けれど、決して叶わない恋だと悟らせる親友は優しくて正しい。
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