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一途な恋にご褒美を⑤
しおりを挟む理想的な舞台を用意されたからには、ルウェリンにご褒美として思い出を作ってやるべきなのだろう。
生徒からの好意には、毅然とした態度で。つけ入る隙を与えず、ラザリオのように受け流しやり過ごす。
相手の心情に寄り添う賢いやり方を身につけてきたつもりだった。
唯一の相手だという思い込みで、共に嵐の中を行くのは愚かだとわかっている。
ルウェリンの気持ちもいつか揺らぎ、自分の判断を後悔する日が来るかもしれない。
それでも、彼の中に灯るものは眩かった。
互いの手は重なり、向き合うことで視線が交わる。背中側に添えられた手に優しく引き寄せられて、吐息がかかりそうなか距離までぐっと近づいた。
ワルツにおいての抱擁は基本の形で、これは学校行事から逸脱した行いではない。
それでも生まれる高揚感に、ヴィユの余裕は剥がされそうになる。
くるりとターンしても美しく広がるドレスはない。でもそれは、異性であるナディルも同じだった。
代役の奏者が響かせる音楽は、中庭をきらびやかなダンスホールに変えていく。
ステップのたびに水は跳ね、いくつも輪を描いた。空へ上がった『星灯』が遠ざかっても、水面には光が溶けて星の花びらみたいに散らばっていた。
「夢みたいです」
口元が一番近づいたポジションでルウェリンがつぶやく。
手をつなぐより、特別で親密な時間を過したことは忘れがたい思い出になる。
恋が終わったら、生徒をうまく手懐て心を奪った悪い大人を憎む日が来る。
危うさに気づきながら、自分を擁護する理由を並べ立てる人間を社会は許容しなきだろう。
様々な種族が共生する世界で、寛容な価値観が求められるようになった。
それでも教師が生徒を恋愛対象にするのは叱責されるべきである。
「僕は周りがすべて味方だと思っていませんし、どんな風に受け止められても構いません。ただ貴方には傷ついて欲しくない」
「……俺はお前にでかい傷を残すかもしれないのに?」
「きらいにならないでって思うなら、もっと素直に言ってください」
「そういう意味じゃ!」
こう近くては本音も隠せない。やわらかなメロディーを乱すような声は、取り繕えてない証拠だ。
「そう聞こえました。僕には」
身体を後ろへ軽く倒され、覗き込んできたルウェリンの目に射抜かれる。
「貴方がうだうだ悩んでくれるのは、僕への愛だと思うとうれしいです」
臆面もなくそんな事を言ってくるルウェリンに不安を掬い上げられる。
「……能天気すぎないか」
「まあ、そこも長所だとよく言われます」
立ち止まって辛くなったり、駆け出したのに迷ったり、それは誰もが経験する衝動なのかもしれない。
嫌になるほど情けない自分をこの年ではじめて知った。
「ただいまをもちまして、すべてのプログラムが終了しました。お帰りの際は……」
閉幕を告げるアナウンスが校内に響く。
この後、生徒は講堂に集合して閉会式が行われる。
その後にある撮影会までの流れは、昨年までとさほど変わっていない。
服を着替えてルウェリンにサプライズをしかけるつもりだったけれど、プレゼントはひとつあれば充分だろう。
色々、協力してくれた彼らに感謝しながら、ヴィユは気持ちを教師仕様に切り替えた。
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