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恋する猫はRTAの夢をみるか
しおりを挟む「で、結局、そっちのご褒美もやったのかよ」
バシバシと豪快にヴィユの肩を叩いてくるラザリオは、美しい音色を奏でるロマンチストと同一人物には思えなかった。
閃風祭の打ち上げは毎年の恒例になっており、教師陣が向かった店も行きつけの場所だった。
惚れっぽくて、フラれやすい。
それも親友の一面であるし、こんな風に遠慮のない部分も持ち合わせている。
演劇部女子やその兄との関係を吐いてもらおうと隣に座ったのに、言葉を巧みに操る彼がそう簡単にぼろを出すはずもない。
閉会式が無事終わり、生徒たちの輪に加わった時、ヴィユは皆の期待を裏切って普段通りの姿で現れた。
気が進まないのであれば強制はできませんとクラスメイトをなだめてくれるはずだった委員長は、おそろいがいいと騒ぎ始めた女子たちの先頭に立ち、にこりと笑って予備の衣装を押し付けてきた。
閃風祭でしか営業しない甘味茶屋のために、クラス全員分の衣装を用意した彼女たちの熱意には敵わない。
『お忙しかったみたいなので、着替えの時間を差し上げますわ。みんなの帰りが遅くなると寮監に怒られます。すみやかにお願いしますね」
嫌とは言わせない圧を感じて、奥に引っ込み着替えたヴィユは、先に手渡されていたものとの大きな違いに気がついた。
身体の線を拾うようなデザインではないが、短い丈のワンピースは煽情的で文化祭での着用にふさわしくない。
下にボリュームのある何かを履くならありかもしれないが、委員長はそんなものを用意してくれていなかった。
サイズがあるなら、こちらの形を男子が選んでも問題ないが、30過ぎのヴィユがあれを着るのはかなりの勇気が必要だった。
「いやぁ。お前の生足どころか全裸も知ってんのに、あの格好はちょっとドキドキしたわ」
堂々と出ていって笑い者になろう。
覚悟を決めて生徒たちの元へ戻ると彼らの反応は様々だった。
変に恥ずかしがるのは、これを好んで着用するどこかの誰かに失礼だろう。
各方面に配慮して、自虐的な言葉を使わなかったヴィユの教師らしい選択は、生徒たちの共感を得たようだった。
『え、やだ! めちゃカワイイ!』
『やっぱりヴィー先生にはブルー系だよね!』
『写真映えしそうだし、時間あるならメイクもしたかったなぁ』
いつも元気の良い女子たちが褒めてくれるのとは対称的に、男子たちは困惑を隠そうともしない。
『マジで着てきてくれるとか……、ヤバい夢に見そう』
『おい、写真絶対流出させんなよ! 絶対、妙なのわいてくるぞ』
『青、って特定方向に需要ありまくりじゃん。誰だよ、チョイスしたやつ。なんか裏で金とか握らされてんじゃね?』
さっさと撮ってくれと撮影係を促したので、衣装を着ていた時間は短かった。
ルウェリンには見せないでおこうと思ったのに、いつの間にか増えていたギャラリーの中、専科の生徒と一緒に彼もいた。
直接、感想を聞くことはなく、ヴィユはそのまま同僚たちと打ち上げに参加している。
「あいつのために着たわけじゃない」
「素直じゃないねぇ。お前、そういうサービスみたいなことしてこなかっただろ。生徒から頭を下げられたって、あんなカワイイ服、着てやらないじゃん。見せたい子がいるからって、お兄さんちょっとガードゆるすぎぃ」
酒臭い息を吐きながら、ぎゅっと抱きついてくるラザリオは、イベントの熱気に煽られた生徒の告白大会で何度か名前を呼ばれていた。
成就を望まず、好きですと一方通行な思いを叫ぶくらいなら、ほほえましい青春の一ページとして眺めていられる。
不適切だと問題視されるのは、その恋が始まってしまってからだ。
「お前もようやく気持ちが固まったってことだよな。まぁ、しばらくは現状維持が鉄則だぞ! ラザリオ君との約束だ!」
気持ちの整理はついたけれど、ソロ討伐に代わる効率的な欲の発散方法が見つかったわけでもない。
「でぇ、ルーラントさんはどうすんの? ヤりたい時だけ、手伝ってもらうとかってお前的にはアウトだろ?」
中途半端に期待させるようなことはしたくなかった。
性欲の解消に別の相手を見繕うことは、ルウェリンに対しても不義理だろう。どうにでもなれという気持ちはまだ残っているが、純粋に思ってくれるのなら何も知らない身体のままでいてやってもいい。
『ゆらぎ熱』がひとたび発生すれば、ひとり遊びによる置き換えの快楽では足りないと聞いている。
ひと晩中、触り続けて達したとしてもつながって満ちる感覚欲しさに身体はずっと疼くらしい。
ラザリオの機転でこの前はどうにかなったけれど、あれで毎回凌げるとは思えなかった。
「ソロ討伐にはもう手を出すつもりはないんだが、それに代わる運動量となるとなかなか……」
「ストリートファイト的なのは、厄介な連中と関わりそうだからアウトな。闘技大会みたいなのに出場するとかはどうだ?」
「やだ、面白そうな話をしてるのね。お姉さんも混ぜなさいよ」
カチンと酒器を軽く合わせて、ナディルも会話に入ってくる。
「他の学校のイベントだけど、学生たちのフィールド魔法と魔法装置を組み合わせた障害物タイムアタックがあるらしいわよ」
イメージを現実世界に反映させるフィールド魔法はかなり制御が難しい。
例えるならオーケストラをひとりで演るようなものだ。
創造力を基としたフィールドの緻密な構成には、実体化する万物への理解も必要となる。
それを展開しながら、他の魔法も使い、動き回ることも可能なラザリオがどれだけ有能か言うまでもない。
「学生の使うフィールド魔法には興味あるわ。見学の申し込みってまだ有効?」
「見学者だけでなく、参加希望者も募ってたわよ。ラズくんとVVくんでタッグ組んで出場してみたら?」
「魔法あり、ハンデ無しなら楽勝すぎじゃん。俺とヴィユが組んだら、負けないでしょ!」
むぎゅっと頬と頬をくっつけてくる酔っ払いは上機嫌だった。
「防犯ギミックのテストも兼ねてるんですって。そこの学校の卒業生は魔法工学大へ進んだ子も多いから、その子たちのバックアップもあるみたいよ。優勝賞金は君たちには物足りないでしょうけど、全力で取り組む目標が欲しいなら、ちょうどいいんじゃないかしら」
残っていた酒を一気に飲み干して、ナディルはフフンと笑った。
「あれから、ルーラントさんとはどうなの? 向こうには別の縁談もあるみたいだし、キープする気がないなら解放してあげたら?」
「ナディル姉さん、それどこからの情報なんです?」
「んー? おしえてあげなぁーい。それよりラズくん、テオドアくんとはあの夜……」
わあわあと騒いで会話を中断させたラザリオにも聞かれたくない色々があるのだろう。
話したくなる時期が来るまではそっとしておいた方がよさそうである。ヴィユは温めてもらった果樹酒をゆっくりとすすった。
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