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恋する猫はRTAの夢を見るか②
しおりを挟む論点をずらしたり、話題の方向を思うままに操ることなんてラザリオには容易い。
そうやってなだめられた生徒たちは、抱えていた熱情の形を変えられてしまうのだ。
たぐいまれなる話術やリスクマネジメントは、円滑な人間関係を築くため重要だったというだけで、親友は機械的に取捨選択できる性質ではない。
ノヴァクに向ける思いは本物だったし、これまでの恋もその時々で真剣だったはずだ。
初恋を捧げようとする生徒たちの未来を尊重しているだけで、彼らの気持ちを一過性の熱病だと決めつけることもしない。
誰に対しても優しく愛情深いラザリオのことをヴィユはずっと尊敬している。
だから、徹底的に特定の話題を避けようとする彼の態度には違和感しかなかった。
演劇部女子の兄がラザリオを引き抜こうと動いている事実以外にも語りたくない何かがあるはずだ。
煮詰めた果実酒はこの時期、店頭やマーケットでも提供されている。
スパイスで味を変えてみたり、別の産地のものと飲み比べたりとこの季節ならではの楽しみ方をするヴィユと違って、ラザリオの飲み方は豪快だった。
種類も濃度も気にせず、ガンガン飲んで陽気になる親友の酒への耐性はSSクラスと言っていい。
酔っ払っていても思考がぶれなきラザリオは、炒った木の実の殻をむきながら、休日の予定を聞いてくる。
「とりあえず明日は休みで時間あるし、俺はどんなものか見に行ってみるけど、ヴィユも来れそう?」
積極性の擬人化のような彼だが、押されると意外と弱い。
満更でもないなら、ノヴァクによろめく不義理はありえないから、おそらく相手の戦術がじわじわ効いてきた頃なのだろうか。
ラザリオに対しての理解は深く、解像度は高いと自負している。
ナディルから聞き出さなくても推測が進んだヴィユは、メニューを眺めながらラストオーダーの飲み物を考える。
「……あのさぁ、ヴィユが気にしてるみたいだから話すけど、テオドアが会うたびライラントに来てくれっていうのは俺に対する挨拶みたいなもんなんだよ」
言葉通りの関係だとしたら、ラザリオが狼狽えたり話題を避けようとするのは不自然である。
問い詰めることはせず、酒気で熱くなった頬を冷ますように手であおぐ。
しばらくの沈黙の後、基本が善良で誤魔化しがヘタクソな親友はポツポツと語りだす。
「……あっちが本気でスカウトしてたとしても俺はここ辞める気ないし、誰かに相談するほどのことじゃない。テオドアからもちょこちょこメシ食いに行こうとか連絡入ってたけど、あっちはまだ学生だし二人きりで会って変に期待させたら悪いだろ。あ! 違うからな。なつかれているだけでそういうんじゃない!」
全力で否定してきたけれど、ラザリオが相手の反応やそれらしいサインを見逃すはずがない。
学園の生徒たちと同じように、大人として適切な対応をとっていたら不意打ちを食らったのだろうか。
「へぇ、何もないなら話してくれるんだよな。ナディル先輩が言ってたあの夜のコトとか」
「べ、つに……何にも…」
あからさまに視線をそらすラザリオから答えを引き出すなら今が好機だ。
「お前、人の恋バナとやらには興味津々なのに自分のこととなると秘密主義なのか?」
ううと短くうなった後、ラザリオは目の前の酒器や皿を一部だけよけて、テーブルに伏せる。
「……俺は未成年に飲酒を勧めたりしないし、酒の提供をする場所に学生と二人きりで行くなんて行動は取らない」
「知ってるよ」
「舞台のチケットが余ってるからどうですかって声をかけられたんだ。開演時間は遅めで上演時間も長い。一緒に行くなら保護者にしとけって言ったんだが、もうすぐ誕生日が来るので未成年じゃないって論破されて」
ラザリオが興味あるジャンルで拘束時間が長くなりそうな催しを探したのだろう。
舞台鑑賞後の食事、そして飲酒。気を許してもらったところで好意を告げる。
正攻法ならかわされないとわかったうえで、テオドアは作戦を組み立てている。
「予約してくれてた店が何かの手違いがあったみたいで空席なくてさ。仕方なく俺が知っている店を紹介したんだ。ちょっと飲ませただけでフラフラしてたから家に連れ帰るしかないだろ? で、ひとつしかないベッドで一緒に寝ただけなのに、責任取るとか順番を間違えたとか言い出して大変だった」
何から何まで相手の筋書き通りなのに、甘え上手な年下にラザリオはすっかり騙されている。
「酒を飲むのは初めてだったんだし、ホントに何もなかったから気にするなって言ってんだけど。……テオドアは融通がきかないワンコみたいなとこあってさ」
完全に絆されていることに本気で気づいていないのだろう。
テオドア本人を見たことはないが、話を聞く限り虎視眈々と獲物を狩る狼にしか思えない。
顔を伏せたまま、ラザリオはため息をつく。
「ナディル姉さんにはテオドアの誕生日に何持っていきゃいいか相談したんだよ。期待するようなことは起きてないのに、泊めたって言ったら成立おめでとうとか言ってきて……」
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