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恋する猫はRTAの夢を見るか③
しおりを挟む弱った声でぼやいていたラザリオがむくりと身体を起こす。
あれだけ飲んでも、スッキリした顔をしている彼には酒精もかたなしだ。
「何回否定しても、信じてくれなくてさ。酔ってあなたの意に沿わないことを……とか、ひとりで反省会始めちゃうし。たぶん、アレまだ酒の影響抜けてなくて、やらかした架空の記憶作っちゃってたな。あんなふにゃふにゃで、わけわからん状態になった子に、俺が手を出すわけないんだけど」
喋り倒した喉を潤したかったのか、ラザリオは手をあげて追加の酒を注文する。
ふにゃふにゃもわけのわからない状態もおそらく演技だろう。テオドアも酒に弱くはなさそうだが、ラザリオの代謝は常人離れしている。
自分は手を出す側と決めつけているが、総合的に判断して、親友は手を出される側に配置されている。
恋愛経験において、ラザリオはヴィユを大きくリードしているのだが、自分にどういう需要があるか理解が足りていない。
親友は、年上の慎ましやかな正統派美人が好みらしい。
そこに穏やかさや知性がプラスされたら、相手のことをよく知る前に恋に落ちてしまう。
直感に全振りした恋愛は賭けの要素しかないのだが、ラザリオの勘は侮れない。
ノヴァクは油断ならない人物ではあったが、何十年も恋人を待ち続けた健気さは本物で、彼にだけ見せる可愛らしさを内包していた。
「ノヴァクさん、……幸せそうだったよなぁ」
ヴィユが思い浮かべたひとの名をラザリオが愛おしげにつぶやく。
魔術の才があり、知力も抜きん出ている親友は器用なくせに、損な役回りを引き当てる。
彼をとことん甘やかして、幸せに酔わせてくれる相手が、きっと近くまで来ているはずだ。
「ルウェリンはヴィユといると生意気で幼いだろ。だから意識したことなかったけど、あのノヴァクさんのお孫さんだけあって綺麗なんだよな。あのまま成長していったらルーラントさんみたいな上品な感じになるんだろうな」
ノヴァクとルウェリンが似ているという話のついでに出てきた名前と記憶が結びつく。
『あれから、ルーラントさんとはどうなの? 向こうには別の縁談もあるみたいだし、キープする気がないなら解放してあげたら?』
ヴィユ側に偏った発言をしがちなラザリオと違い、ナディルは時に辛辣な問いを投げかける。
彼に対して誠実でありたいなら、ルウェリンと思いを交わしたことを告げた方が良い。
年の開きが大きく、学生である甥に恋愛感情があると聞かされた彼の気持ちを考えると胃がきりりと痛くなる。
言わなければならないことを隠し通して、都合の良い関係を温存するのも可能だろう。
けれど、それでは優しい人を傷つけしまうだけだ。
深刻な顔をしてしまっていたのか、ラザリオがおろおろしはじめる。
「待ってろ、気分悪いなら冷たい水もらってくる。動けそうなら、外の空気でも吸って……」
「いや、別に具合が悪いわけじゃ」
事情を知っているラザリオに話を聞いてもらおうとしたのに、ナディルと校医のエイミアの歌声が場の空気を一変させる。
合わせる気もハモる気もない二人の自由な歌唱に皆も適当な手拍子で盛り上げる。
「閃風祭、おつかれさまでしたー!」
間奏の間に呼びかけてくるナディルに皆が答える。
「おつかれさまですー!」
「乙です!」
「いやー、楽しかった!」
生徒たちのために尽力した教師たちは脇役に徹していたけれど、やり遂げた笑顔は主役級に輝いていた。
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