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恋する猫はRTAの夢を見るか⑤
しおりを挟む直視しづらい行為を見せつけてしまったが、そもそも教師の自宅へ転移魔法で忍び込んできたルウェリンが悪い。
近くにあった掛布を引き寄せ身体を隠した後、ヴィユは自分たちの間に枕を置いて気持ち程度の柵を作った。
「……落ち着いたみたいなので状況を説明させてください。僕は今夜、外泊許可をもらっていて祖父の別邸で過ごす予定でした。ですが、もう一人の祖父はなんというか自由な方で、帰らずしばらく滞在すると言い出しました。僕を理由に追い出そうとする祖父をあの人がかき口説いていましたが平行線で……」
祖父が二人いてごちゃごちゃするが、ルウェリンもまだ色々と飲み込めてない。細かいことはスルーでいいだろう。
「何十年も会いに来なかった人なんで、祖父はまだ困惑してる風なんですが、あちらからの愛情表現が激しくて……。僕の部屋と祖父の寝室は離れているから色々聞こえてしまうことはないでしょうけど、避難した方が良さそうじゃないですか。だから友人宅へ泊まると言って邸を出ました」
転移はかなり高度な魔法で、ルウェリンに使いこなせるような代物でない。
とりあえず話を聞かなければ、状況がつかめそうになかった。
「閃風祭の前後は宿屋も埋まってるので、仕方なく寮に戻れるか確認をとろうと学園まで来たら、ラザリオ先生とばったり会って、あなたに伝えておくから後で会いに行ってやれよと複製箱を預かったんです」
複製箱は任意の魔法を封じ込め、魔力消費なしに発動できる優れたアイテムだ。
複製可能な魔法の範囲があまりにも狭いため、実用性の低い残念な発明品とも言われている。
「もしかしなくても、ラザリオ先生から話が伝わってないんですね。時間指定までされたんですけど」
「知ってたら、こんなところ見せるわけがないだろ!」
苛立ちをにじませるルウェリンに言い返すと、掛布にくるまった姿が新鮮なのか目を潤ませて気まずそうにうつむかれた。
「一応、言っておくが俺は普段こういうことばかりしてるわけじゃない」
一人で楽しむ行為が習慣づいてないし、年単位で何度やったか自己申告できる程度には性に対して意欲が希薄なのだ。
ソロ討伐と教職で雑念を散らしていなければ、ハイミアの特性に振り回されていた可能性は高い。
「じゃあ、なんで今夜はしてたんですか?」
聞きづらいことを平気で聞ける素直さが若さというものなのだろう。
お前の近くにいたからかもなと言ってやりたいけれど、この状況で煽るようなことはやめるべきだ。
ラザリオが何を思ってルウェリンをここに送ってきたかわからないが、あれだけ飲めばマトモな判断ができなくてもおかしくはない。
「僕の名前を呼んでくれましたよね?」
「……呼んでない」
「じゃあ、叔父の名前を呼ぼうとしてたんですか? ひどい人ですね。僕はあなたのことしか考えないですよ」
してる時は、とわざわざ言わなくてもそのくらいニュアンスから補える。
未成年でなくても学生であるルウェリンをはしたない妄想に登場させたくないヴィユと違って、若い彼は自由に想像を広げていく。
枕で隔てたベッドの向こうにルウェリンが手を置き、スプリングをきしませる。
隣室との壁は少し薄い。両隣の住人は教師なので、互いによく知っている。
誰かを連れこむことを想定してない一人用の住居なので仕方ないが、事に及ぶなら防音魔法は必須だった。
衣服も下着も身につけてない自分は生徒を誘惑する悪い教師のように思えて、ヴィユは気をそらす言葉を投げつけた。
「俺が同意しなかったら、そっちが罪に問われることになるぞ」
「服を脱いで待ってたあなたに言われたくないですね」
「勝手に転移してくるやつが悪いだろ!」
「文句は連絡を怠ったラザリオ先生に言ってください」
「ちょっと待て。それ、ホントにラザリオだったのか?」
「え?」
サプライズプレゼントのつもりで伝えなかったというのは考えにくい。
教師寮にルウェリンを転移させるなんて無茶をあいつがやるだろうか。
ラザリオも転移魔法は使えるが、あの時見た術式と酷似していた。
「今夜、宿に空きがないのも、お前の学友なら寮生活だというのも、ノヴァクさんなら、すぐ気づいただろうな。お前を追い出す形になったのは本意じゃなかったはずだ。俺たちの事情を聞かされたあの人がお詫びも兼ねて、お節介な道具を渡しに来てくれたんじゃないのか?」
「ありえますね。よくよく考えたら、祖父は長い間待ってたんですから、あの人に我慢してもらうべきなのでは?」
「そこはノヴァクさんが考えて手綱をひくんだろ」
種族が違えば、年齢が持つ意味も変わる。ノヴァクが実際に生きた年数は、ルウェリンから逆算すると六十は確実に越えていそうだ。
「……あの人のこと、自分本位だとあきれてましたけど、今ならちょっとわかります。先生のそういう姿を見せられたら、理性的な生徒でいるのが難しくなりますね」
そういう欲があるとはっきり言われて、ヴィユは掛布を頭からかぶった。顔に熱が集まりすぎて、思考まで煮え立つ。
「……お前がひとりでしてる時、頭の中で俺はどうされてんの?」
「答えなきゃ、だめですか?」
「俺だけ恥ずかしい思いしてるだろ。お前も同じ気持ちを味わってくれ」
無茶苦茶な言い分に、ルウェリンがふうと諦めたように息を吐く。ため息にまで品があるなと思ってしまったのは、惚れた欲目というやつだろう。
「良いところで中断させてすみませんでした。そうやって掛布に隠れていたら僕には見えないので再開してもらって構いませんよ。ここから一歩も動きませんけど、僕がどういう妄想しているか話してあげます」
そんな倒錯的な行為を楽しめるほど、ヴィユは開放的な人間ではない。
教員寮で二人きりという時点で、言い逃れができないのに、さらに窮地にはまり込む行為は慎むべきだ。
「ベッドに座って僕もあなたと同じことをしていいですか? この枕から向こうへは行きません」
いいと言ってもないのに、ベッドへもう一人分の体重がかかる。
ベルトを外し、ボトムを引き下げたとわかる物音がやけに大きく聞こえてくる。
「たくさんキスしながら、触り合ってる間に、先生の声がすごくかわいくなって……」
イメージプレイを始めていくルウェリンは、掛布をかぶっている現実のヴィユに触れることはしない。
「ちゃんと、してます?」
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