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恋する猫はRTAの夢を見るか⑦
しおりを挟む安眠のためと理由をつけても寝台を共にしたという事実を作るわけにはいかない。
予約やテイスティングと言葉を変えても行為が先にある初歩を踏み出してしまえば、自分たちの倫理観はもろくなってしまう。
打開案として、衝撃対応用のトークンゲルをいくつか生成し、シーツをかけて簡易ベッドを作ったのだが、ヴィユのベッドと高さがそろってしまったのは誤算だった。
同じベッドではないとはいえ、寝転んだ状態で姿が見えるのは落ち着かない。
合宿での同室だと思いこめば済むだけなのに、そこにいると考えると眠気はいつまでも訪れてくれなかった。
ルウェリンの祖父たちが孫に気を遣わせるほどの親密さを醸し出していたのもこの状況を整えるための布石だったのかと疑いたくもなる。
経験もないだろうに、大人のヴィユを騙した孫より上手なら、手段なんて選ばないだろう。
人を誑し込み思うままに動かすノヴァクが恋人にだけ見せた純粋さは本物だった。
年を経ても愛しい人の前では感情の制御が難しくなる。それだけのことだと思いたかった。
「それ俺が聞いても良かったの?」
笑いながら両手の人差し指を俺に向けてくるラザリオに、前日の酒の影響はまったくない。
ルウェリンの転移の件に関わっているか確かめるだけのつもりだったのに、喋りすぎたのは親友の話術のせいだ。
「お前に話せるってことは、何もなかった証明だろ」
「へぇ~、何もなかった……ねぇ?」
転移で部屋にルウェリンが来てからの顛末は話して聞かせたけれど、言いたくないところはもちろん省かせてもらっている。
賢く勘もいいラザリオが、どこまで見抜いているかはわからないけれど。
「年下の彼氏って『待て』が聞こえないイメージなんだけど、ヴィユのワンちゃんは随分お利口さんなんだな」
含みのある言葉は取り合わず、ヴィユは今日の予定を確認する。
「その件はもういい。見学会は午前だけしかやってないんだろ。そろそろ出ないと間に合わないんじゃないのか?」
どれだけ食べてもブランチは定額というサービスがあるため、休日でも早朝から客が並ぶベーカリーレストランは、ラザリオのお気に入りだ。
専任のスタッフが淹れてくれるコーヒーが最高だと言う理由で、来店スタンプをどんどんためているので、ヴィユもその恩恵に預かっている。
障害物タイムアタックがどの程度の難易度か想像でしかわからないが、今日のラザリオは動きやすさを重視した装いをしてきていた。
就業中は規定のデザインの中から、一番装飾が少ないものを選んだだけのヴィユと違って、他の教員は刺繍や仕様の変更で個性をちゃんと表現している。
こだわりもなければ、自分を表現しようとする欲もないヴィユの今日の服装は、このまま鍛錬ができそうなものだった。
ラザリオにコーヒーを受け取ってもらう際、担当者は恥じらうような様子を見せていた。
渡されたコーヒーが美味しいのは、彼の気持ちがこめられているからなのだろう。
気づいてないだけで、親友の全方向いい人ビームは広範囲に届いている。
いずれ何かの火種になりそうだが、今は静観していて良さそうだった。
「俺はヴィユと組んで参加したいけど、あんまり乗り気じゃなさそうだよな」
「学校のイベントなら中継は入らないだろうけど、新聞とかには載るんだろ?」
顔や名前を外部に知られるのはあまり喜ばしいことではない。
ソロ討伐でそれなりに名が広まった弊害を思い出し、ヴィユはため息をつく。
「優勝は確実だって思ってないと言えない台詞だぜ?」
「……ふたりなら負けないって言ったのお前だろ」
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