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十回目
第2話 遭遇
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俺はいつもより早く家を出た。
鞄も持たずに。
俺は三回目の九日を終えたあの日から、授業に出ていない。
同じ授業を、そして、同じ休憩時間を迎える苦痛は経験していない人間には計り知れないだろう。
そして、六回目からは学校にすら行かなくなった。
なにせ学校は逃げ場が少ないから。
それでもあいつは俺の元へ現れる。
かくなる上は、この町から逃げ出すか……。
そんなことを考えながら足の向くまま歩いていると、自分が歩道橋の手前まで来ていたことに気付き、慌てて踵を返した。
思い出したくないのだ。あの日の苦痛を。
俺の横をものすごい勢いで駆け抜けていくトラックに軽い嫌悪感を覚えながら、通りの向こう側に目をやった。
――あいつが、いた。
あいつはこちらを見て笑っていた。
あの憎々しい目を細め、口をいびつに歪めて。
俺は何も言えずに立ちすくみ、あいつに目を奪われてしまう。
嫌だ。目をそらしたい。
なのに……それができない。
ただ呆然と立ちすくむ俺の前を、今にも止まりそうな軽自動車がゆっくりと通り過ぎる。
車がいなくなった時、あいつの姿が忽然と消えていた。
どこへ消えた? 右か? 左か? それとも後ろ?
辺りをきょろきょろと見回す俺を、通りすがる人々が訝しげに見つめているのがわかった。
それでも俺は、あいつの姿を探さずにはいられない。
「やあ、おはよう」
声を掛けられて隣を見れば、そこにはあいつがいた。
「……!」
――来た。
慌ててジーンズのポケットを漁り、携帯を探す。
時刻は、十時七分。
「早い……」
あまりにも接触が早かった。
昨日の「今日」までならあいつと出会う時間は、必ず放課後の四時過ぎだったはずだ。
「ちくしょう……!」
反射的に駆け出していた。本能的な恐怖が俺の体を支配する。
足がもつれ、何度も転びそうになった。
あいつは追ってきているのだろうか。
振り向きたい気持ちと振り向きたくない気持ちで板挟みになる。
そんな俺に応えるように、耳元で囁く声が聞こえた。
「なあ、逃げなくてもいいじゃないか」
――いる。薄笑いを浮かべたあいつが、真後ろに、不自然なほどに、ぴったりと。
「くそ……ッ、付いてくるなよ!」
どこかないか。
何か、いい隠れ場所は。
人気のない場所は、確実に殺される。
人通りの多い通りに行けば、車が走っている。
突き飛ばされれば終わりだ。
ならば、どこに……――。
「家……!」
俺に残された安息の地は、自分の部屋だけだ。
そうとなれば、俺の行動は早かった。
気休めにしか過ぎないとわかっていながら、あいつに足払いを掛ける。
驚いたように目を見開いて地面に突っ伏したあいつを尻目に、俺は全速力で入り組んだ路地へ駆け込んだ。
こうしてあいつを撒けば、そう簡単には追いつかれまい、と。
せめてそうであって欲しいと願いながら。
しかし、あいつは思いのほか早く体勢を立て直したらしく、足音がだんだんと近付いてくる。
再び縮まる、俺とあいつの距離。
振り向きたい。
振り向けない。
振り向いてはいけない。
――だけど、振り向きたい。
「くすっ」
笑い声が、妙に近くで聞こえた。
鞄も持たずに。
俺は三回目の九日を終えたあの日から、授業に出ていない。
同じ授業を、そして、同じ休憩時間を迎える苦痛は経験していない人間には計り知れないだろう。
そして、六回目からは学校にすら行かなくなった。
なにせ学校は逃げ場が少ないから。
それでもあいつは俺の元へ現れる。
かくなる上は、この町から逃げ出すか……。
そんなことを考えながら足の向くまま歩いていると、自分が歩道橋の手前まで来ていたことに気付き、慌てて踵を返した。
思い出したくないのだ。あの日の苦痛を。
俺の横をものすごい勢いで駆け抜けていくトラックに軽い嫌悪感を覚えながら、通りの向こう側に目をやった。
――あいつが、いた。
あいつはこちらを見て笑っていた。
あの憎々しい目を細め、口をいびつに歪めて。
俺は何も言えずに立ちすくみ、あいつに目を奪われてしまう。
嫌だ。目をそらしたい。
なのに……それができない。
ただ呆然と立ちすくむ俺の前を、今にも止まりそうな軽自動車がゆっくりと通り過ぎる。
車がいなくなった時、あいつの姿が忽然と消えていた。
どこへ消えた? 右か? 左か? それとも後ろ?
辺りをきょろきょろと見回す俺を、通りすがる人々が訝しげに見つめているのがわかった。
それでも俺は、あいつの姿を探さずにはいられない。
「やあ、おはよう」
声を掛けられて隣を見れば、そこにはあいつがいた。
「……!」
――来た。
慌ててジーンズのポケットを漁り、携帯を探す。
時刻は、十時七分。
「早い……」
あまりにも接触が早かった。
昨日の「今日」までならあいつと出会う時間は、必ず放課後の四時過ぎだったはずだ。
「ちくしょう……!」
反射的に駆け出していた。本能的な恐怖が俺の体を支配する。
足がもつれ、何度も転びそうになった。
あいつは追ってきているのだろうか。
振り向きたい気持ちと振り向きたくない気持ちで板挟みになる。
そんな俺に応えるように、耳元で囁く声が聞こえた。
「なあ、逃げなくてもいいじゃないか」
――いる。薄笑いを浮かべたあいつが、真後ろに、不自然なほどに、ぴったりと。
「くそ……ッ、付いてくるなよ!」
どこかないか。
何か、いい隠れ場所は。
人気のない場所は、確実に殺される。
人通りの多い通りに行けば、車が走っている。
突き飛ばされれば終わりだ。
ならば、どこに……――。
「家……!」
俺に残された安息の地は、自分の部屋だけだ。
そうとなれば、俺の行動は早かった。
気休めにしか過ぎないとわかっていながら、あいつに足払いを掛ける。
驚いたように目を見開いて地面に突っ伏したあいつを尻目に、俺は全速力で入り組んだ路地へ駆け込んだ。
こうしてあいつを撒けば、そう簡単には追いつかれまい、と。
せめてそうであって欲しいと願いながら。
しかし、あいつは思いのほか早く体勢を立て直したらしく、足音がだんだんと近付いてくる。
再び縮まる、俺とあいつの距離。
振り向きたい。
振り向けない。
振り向いてはいけない。
――だけど、振り向きたい。
「くすっ」
笑い声が、妙に近くで聞こえた。
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