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ムリョクなぼくと会議と大人
酔っぱらいの言い分
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「ただいま」
言いたくないけど、言う。
悔しい。子どもは家に帰らなきゃいけないってことだ。安全な場所は家ってことになっているけどさ。本当に安全なのか? ぼくの心の安心は家には…ないんだよね。
家に帰らないですむなら、どんなにいいだろう。けれど、行く場所がない。鍵は開いていた。いつもならきちんと戸締りしているのに…。
7時を過ぎていた。
小田切先生にコンビニ弁当をおごってもらっていたので、ご飯を食べなくても大丈夫だ。お腹が空いていたので、助かった。
リビングの扉を開けると、テーブルにビールの空き缶が何本か転がっていた。アレは、テーブルにつっぷしていた。こんなアレは見たことがない。
無視しようかと思ったけど、けど…。
しょうがない。リビングに置いてあるひざかけをアレの肩にかけた。
すると、急にアレがぼくの腕をつかんだ。
えっ、思わずアレから離れようとした。でも、ぼくの腕を離さなかった。
「ねえ、ひびき、そんなに私が悪い?」
と、お酒の匂いがぷんぷんとする息をぼくに吹きかけながら、言った。ヤバそう。
「正樹さんと岡山に一緒に行きたかった。けど、正樹さん、『東京でひびきの教育をきちんとしてほしい』って言うから残ったのに…」
こんなに酔っぱらったアレは初めて見た。父親が、そう言ったことも初めて知った。
この間まで、アレは受験勉強のことなんて言ってなかった。それに東京に残ることを選んだのは、アレじゃなかったっけ。田舎に住みたくないって言ってなかった? 自分の都合のいいように話を変えてる?
「ひびきの自慢をしちゃ悪いわけ? 子どもは大人の言うことを聞いていればいいのよ!」
何回も聞いてきた言葉。もうあきた。子どもは言いなりにならなきゃいけないのか。ぼくだって、意見くらいある。疲れた。反論する体力は、今日はもう残っていない気がする。
「何、黙ってるの! ばかにしてるんでしょう。どうせ私は短大卒で、正樹さんは大学院卒ですよ。何でお義母さんは『ひびきは、正樹に似て、由美さんに似てないわね』って言われなきゃならないわけ? 私は頭悪いですよ。だけど、何でずっとそう言われなきゃいけないの!」
正月に、おばあちゃんの家に行くと、必ず「正樹似ね」って言ってた。アレがすごく苦虫をつぶしたような顔をしていた気がする。けど、アレも否定していなかったはず。
「いい子だと思ってたひびきはどこにいったの? なぜよ!」
アレは、赤い顔でどなりちらしている。そして、ぼくの肩を数回ゆさぶった後、抱きついてきた。うざっ。勘弁して。今まで、ずっと命令してきたくせに。そう思うと、ものすごく腹が立った。いばりちらしてきたくせに。全部お金ですましてきたくせに、何だよ。今さら自分がかわいそうだと言うわけ? 自分勝手だよ。許す気もない。
「ねえ、お母さんが悪いっていうの?」
うん、悪いよ。けれど、口には出せなかった。言ったら、もっと逆上しそうだから。
だんまりを続けようと決めた。アレはぎゃんぎゃんわめいている。うんざりする。
今日は、みんな泣いてる。涙って、すごく体力を使うんだな。アレも疲れたらしく、ぼくの名前しか言わない。どれだけ飲んだのさ。
「横になって。もう寝よう」
だらしなくいすにもたれているアレを、ソファまで連れていった。寝室まではさすがに無理。むちゃくちゃ重かった。アレの酒ぐせ、こんなに悪かったのか。知らなかった。
今日は、色々ありすぎて疲れた。もう何も考えられないし、できない。風呂にも入らず、アレをリビングに置いたまま、ベッドへとダイブした。
◇ ◇
朝、起きて、リビングに行くと、寝ていたはずのソファにアレはいなかった。
寝室にこもっているのかな。テーブルには、昨日の酒くさい空き缶が残っている。
片づけることにした。疲れはまだ残っていたけど、何とかがんばれるはず。
雨戸を開け、新鮮な朝の空気を思いっきり吸いこんだ。
アレは、朝が弱いと言って起きてこないことがけっこう多い。朝食は自分で用意することが多い。牛乳を飲み、パンとヨーグルトを食べ、学校や塾に行く。いつもと同じ。お金さえあれば、一人暮らしだってできるに違いない。
そのままシャワーをあびて、自分の部屋に戻った。10時に二人と会う約束をしている。
今日一日どうなるかわからないので、たんまり出された塾の課題を始めることにした。
こんな時まで、なぜ勉強してるのかな。課題を終わらせないという体質になってしまったからか。
気合は入らないけど、もくもくと答えを記入する作業にとりかかった。
隣の部屋から、ごそごそと音がし始めたので、急いで荷物を持って、外に出た。今は9時半、約束の時間より少し早いけど、許してもらおう。光岡の家に向かうことにした。
言いたくないけど、言う。
悔しい。子どもは家に帰らなきゃいけないってことだ。安全な場所は家ってことになっているけどさ。本当に安全なのか? ぼくの心の安心は家には…ないんだよね。
家に帰らないですむなら、どんなにいいだろう。けれど、行く場所がない。鍵は開いていた。いつもならきちんと戸締りしているのに…。
7時を過ぎていた。
小田切先生にコンビニ弁当をおごってもらっていたので、ご飯を食べなくても大丈夫だ。お腹が空いていたので、助かった。
リビングの扉を開けると、テーブルにビールの空き缶が何本か転がっていた。アレは、テーブルにつっぷしていた。こんなアレは見たことがない。
無視しようかと思ったけど、けど…。
しょうがない。リビングに置いてあるひざかけをアレの肩にかけた。
すると、急にアレがぼくの腕をつかんだ。
えっ、思わずアレから離れようとした。でも、ぼくの腕を離さなかった。
「ねえ、ひびき、そんなに私が悪い?」
と、お酒の匂いがぷんぷんとする息をぼくに吹きかけながら、言った。ヤバそう。
「正樹さんと岡山に一緒に行きたかった。けど、正樹さん、『東京でひびきの教育をきちんとしてほしい』って言うから残ったのに…」
こんなに酔っぱらったアレは初めて見た。父親が、そう言ったことも初めて知った。
この間まで、アレは受験勉強のことなんて言ってなかった。それに東京に残ることを選んだのは、アレじゃなかったっけ。田舎に住みたくないって言ってなかった? 自分の都合のいいように話を変えてる?
「ひびきの自慢をしちゃ悪いわけ? 子どもは大人の言うことを聞いていればいいのよ!」
何回も聞いてきた言葉。もうあきた。子どもは言いなりにならなきゃいけないのか。ぼくだって、意見くらいある。疲れた。反論する体力は、今日はもう残っていない気がする。
「何、黙ってるの! ばかにしてるんでしょう。どうせ私は短大卒で、正樹さんは大学院卒ですよ。何でお義母さんは『ひびきは、正樹に似て、由美さんに似てないわね』って言われなきゃならないわけ? 私は頭悪いですよ。だけど、何でずっとそう言われなきゃいけないの!」
正月に、おばあちゃんの家に行くと、必ず「正樹似ね」って言ってた。アレがすごく苦虫をつぶしたような顔をしていた気がする。けど、アレも否定していなかったはず。
「いい子だと思ってたひびきはどこにいったの? なぜよ!」
アレは、赤い顔でどなりちらしている。そして、ぼくの肩を数回ゆさぶった後、抱きついてきた。うざっ。勘弁して。今まで、ずっと命令してきたくせに。そう思うと、ものすごく腹が立った。いばりちらしてきたくせに。全部お金ですましてきたくせに、何だよ。今さら自分がかわいそうだと言うわけ? 自分勝手だよ。許す気もない。
「ねえ、お母さんが悪いっていうの?」
うん、悪いよ。けれど、口には出せなかった。言ったら、もっと逆上しそうだから。
だんまりを続けようと決めた。アレはぎゃんぎゃんわめいている。うんざりする。
今日は、みんな泣いてる。涙って、すごく体力を使うんだな。アレも疲れたらしく、ぼくの名前しか言わない。どれだけ飲んだのさ。
「横になって。もう寝よう」
だらしなくいすにもたれているアレを、ソファまで連れていった。寝室まではさすがに無理。むちゃくちゃ重かった。アレの酒ぐせ、こんなに悪かったのか。知らなかった。
今日は、色々ありすぎて疲れた。もう何も考えられないし、できない。風呂にも入らず、アレをリビングに置いたまま、ベッドへとダイブした。
◇ ◇
朝、起きて、リビングに行くと、寝ていたはずのソファにアレはいなかった。
寝室にこもっているのかな。テーブルには、昨日の酒くさい空き缶が残っている。
片づけることにした。疲れはまだ残っていたけど、何とかがんばれるはず。
雨戸を開け、新鮮な朝の空気を思いっきり吸いこんだ。
アレは、朝が弱いと言って起きてこないことがけっこう多い。朝食は自分で用意することが多い。牛乳を飲み、パンとヨーグルトを食べ、学校や塾に行く。いつもと同じ。お金さえあれば、一人暮らしだってできるに違いない。
そのままシャワーをあびて、自分の部屋に戻った。10時に二人と会う約束をしている。
今日一日どうなるかわからないので、たんまり出された塾の課題を始めることにした。
こんな時まで、なぜ勉強してるのかな。課題を終わらせないという体質になってしまったからか。
気合は入らないけど、もくもくと答えを記入する作業にとりかかった。
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