異世界でぼっち生活をしてたら幼女×2を拾ったので養うことにした【改稿版】

きたーの(旧名:せんせい)

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ぼっちと幼女

幼女とクッキー

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 買い物から帰ってきた二日後。
 外では鳥が鳴き、森の木々がさらさらと揺れている朝――俺は台所のテーブルで、クッキー生地をこねていた。

 ボウルの中で、砂糖と卵とバターを混ぜた生地が、手のひらの動きに合わせてむにゅ、と柔らかく形を変える。
 シロとミドリも、最初は「やるー!」と張り切っていたのだが――。

 分量を計る段階で、シロが砂糖だけを「どさぁっ」と入れようとして、ミドリは粉をこぼして真っ白になりかけたところで、俺は静かに悟った。

(……任せたら台所が戦場になるな)

 よって、分量と生地づくりは俺が担当。
 いい感じのかたさになるまで捏ねたあと、テーブルの上に打ち粉をして、生地を綿棒で伸ばしていく。

 コロコロ、コロコロと均一な厚さに伸びていく薄い生地を見て、思わず満足げに頷いた。
 型抜き用の“型”は、今日の朝、家の外で作っておいたやつだ。

 ――あの、色という色を全部ぶち込んだみたいな狂った色合いの鉱石を素材に。

 昔、どこかの洞窟の最奥で拾った得体の知れない鉱石。
 一見、ガラス玉のように透き通っているくせに、中には虹色だとか黒だとか金だとか、全く統一感のない色が層になっていて、見る角度によって表情が変わる。

 試しに素手で殴ってみたとき、俺の全力の拳でもヒビしか入らなかったあの硬さには、本気で驚いたのを覚えている。……確か、七千年前くらいの話だ。

(今ならさすがに粉砕できるとは思うけどな)

 とはいえ、型抜き程度のサイズなら重さもほとんど感じない。
 硬さだけ無駄に最強クラスで、軽くて壊れないとなれば――子供に持たせるにはうってつけだ。

 星型、ハート型、動物型。
 調子に乗って、やたらとバリエーション豊富に作ってしまった。

「よし、準備できたぞ」

 声をかけると、リビングからぱたぱたと軽い足音が近づいてくる。

「なにつくるのー?」

 シロがテーブルの縁からひょこっと顔を出す。目がきらきらだ。

「クッキーだ」

「なに……それ……?」

 ミドリも椅子を引きずりながら近づいてきて、少し首を傾げる。

「甘いお菓子だ」

「やったー!」

 シロが両手を目一杯伸ばして喜びを表現する。
 無邪気ってのはこういうのを言うんだろうな。見てるだけでこっちまで楽しくなる。

「二人にやってもらいたい事がある」

「なにする……?」

「型抜きだ。こうやって……こうやればいいだけだ」

 ひとまず手本として、星型の型を生地に押し当て、ぐっと力を込める。
 型をそっと持ち上げれば、星型の生地がきれいにくり抜かれて、テーブルの上にぽとりと転がった。

 その様子を見て、ミドリの碧い瞳が、いつになくきらりと光る。

(あ、これはハマったな)

 早くやりたいと言わんばかりに、じーっとこっちを見上げてくる視線が痛い。
 焦るな焦るな、飽きるまでやらせてやる。

「ふんっ!」

「おい、シロ。そんな全力で型を叩きつけなくていいんだぞ?」

「しってる!」

 嘘つけ。
 バンッ! っていい音したぞ今。型抜きじゃなくて打撃技になってんだよなぁ。

 シロは、型を武器か何かと勘違いしたように、生地の上に叩きつけたり、くるくる回したりして遊び気味。
 対してミドリはというと――。

 無言で、生地の端から端まで丁寧に型を押し当てては、きれいな形に抜き取って並べていく。
 ひとつひとつの位置を揃え、間隔も均等で、表情は真剣そのもの。

(いい職人になれそうだな……将来有望だ)

 などと、未来の才能に思いを馳せていると――。

「型を抜き終わったやつは焼くから渡してくれ」

「やいちゃうの……?」

「焼かないとお菓子として食べれないぞ」

 焼く、という単語を聞いた瞬間、ミドリが潤んだ目でこちらを見てきた。
 完全に、これから処刑でもされるかのような顔だ。

(いや、そんな罪深いことするみたいな目で見るな……)

 少しばかり罪悪感を覚える。
 とはいえ生で食わせるわけにもいかないので、ここは心を鬼にしよう。

 「お菓子」と聞いた瞬間、シロがそれまでの遊びモードから一転、急に真面目に型抜きをし始めたのには笑った。
 食べ物が絡むと、意思の強さが段違いだ、ほんと。

 なお、現金と言えば――街から持ち帰った貨幣をテーブルに出しっぱなしにしておいたら、いつの間にか二人の「遊び道具」になっていたこともあった。

 シロは、白金貨を指で弾いてカンカン鳴らして楽しみ、
 ミドリは金貨をきっちり積み上げたり、同じ面を同じ向きに揃えて並べてニヤニヤしていた。

 そして、ミドリが慎重に積んだ金貨タワーを、シロが横から「えいっ」と崩し、ちょっとした喧嘩に発展し――数分後には、何事もなかったかのように一緒に遊びだす。
 あれはあれで、平和な光景だった。

「はいっ! やいて!」

「シロが一番のりか。どれどれ?」

 シロが得意げに差し出してきた皿を覗き込んだ俺は、思わず眉をひそめた。

 ……でかい。

 一度型抜きした生地を、もう一度丸めてまとめ直し、そのまま無理矢理「ひとつ」として型を押し当てたような、厚みと大きさ。
 クッキーというより、もはや小さめのステーキだ。

(生地、均一に伸ばしたはずなんだけどな……?)

 いや、俺はちゃんとやった。悪いのは再形成した誰かだ。

「やり直しだな」

「えー!?」

 シロの抗議を軽く受け流しつつ、テーブルの上に生地を戻し、魔力で物理的圧力をかけて、全体を再び均一な厚さに戻していく。

 本来なら風魔法でもいいのだが――最近、シロとミドリの持つ魔力量が目に見えて増えてきていて、その放出を手伝っているうちに、家の中には常に濃い魔力が漂うようになった。

 彼女たちが放出した魔力は、一度俺の魔力に変換してから外に逃している。
 自分の中に溜め込むこともできるが、せっかく大気中にあるものをまた吸収しても仕方ないので、こうやって日常の魔法に利用しているわけだ。

「ミドリみたいに型を抜いたままの状態で持ってこないと、美味しく焼けないぞ」

「むー! わかった!」

 口を尖らせるシロ。
 その横では、ミドリがすでに別の皿の前で険しい顔をしていた。

 どうやら、自分で抜いたクッキー生地を、何か独自の基準で「選別」しているようだ。

「これはだめ……」

「これはいいや……」

 ぽつりぽつりと呟きながら、生地を一枚一枚見つめては、焼く皿に乗せたり外したり。
 さながら、ひよこのオスとメスを素手で見分ける職人のような真剣さだ。

(……最終的には全部焼くんだけどな?)

 心の中でそっとツッコミを入れておく。

「できた!」

 ミドリの審査を眺めていると、シロが型抜きした生地を持って戻ってきた。

 さっきよりは、だいぶマシになっている。
 厚さもサイズも許容範囲。うむ、これなら焼いてもクッキーとして成立するだろう。

「よし、焼こうか」

「じかんかかる?」

 シロが縁に指をかけ、期待に満ちた目で見上げてくる。

 魔導加熱式オーブン――俺が錬金術と魔法で作った、魔力伝導式のオーブンだ。
 火を起こす必要もなく、魔力を流せば、魔力の量に応じて内部温度が一定に保たれる優れもの。

「そうだな。あと二回ぐらい型抜きしてれば焼きあがる」

「えー!?」

 どうやら、型をひとつ抜いたら即座に焼き上がって口に運べると思っていたらしい。
 シロは、食うこととなると期待値が高すぎる。

 とはいえ、あまりにしょんぼりしているので、少しだけお楽しみを先出ししてやることにした。

「仕方ない。試し焼きしたやつだ。一枚やるから型抜きしてろ」

 皿に乗せておいた、試し焼き用のクッキーを一枚つまみ、シロの手のひらに乗せてやる。

 シロは、しばらくそれをじーっと眺めてから、ぱくり、と小さく齧った。

「おいしい!」

「それを焼いてるんだ。待ってればもっと食べれるぞ?」

「わかった! まつ!」

 現金に切り替わったシロは、口いっぱいにクッキーを頬張りながら、再びテーブルへ戻っていく。

 その様子を、ミドリがじっと視線で追う。
 クッキーを咀嚼する音が聞こえるたびに、喉がこくり、と小さく動いている。

「やいて……?」

「やっと持ってきたか」

 ミドリが大事そうに両手で持ってきた皿には、綺麗に抜かれた生地が二十枚ほど並んでいた。
 足元の辺りには、まだ「選別前」の生地が五十枚ほど控えている。つまり、審査を通過した精鋭たちというわけだ。

 目で「クッキー…」と訴えてくるので、試し焼きクッキーを一枚渡す。

 ミドリも、シロと同じくしばらく観察してから、そっと歯を立てる。

「あまい……すき……」

「もっとたべたいねー?」

「はっ……!? おねーちゃ……こっち……」

「なにー?」

 クッキーの甘さに頬を緩めたその瞬間、ミドリの目に「閃き」が宿った。
 ひそひそ声でシロを呼び寄せ、そのまま俺から少し離れたところでコソコソと作戦会議を始める。

 ……だが残念なことに、全部聞こえてるからな?

「ぼく……おにーちゃ……つれてく……」

「それでー?」

「おねーちゃ……はんぶんもってく……」

「ふんふん!」

「おにーちゃ……きづく……おねーちゃ……ほういく……そのとき……ぼくが……のこり、もってく……」

「なるほどー!」

 クッキー強奪二段作戦である。
 ミドリが囮、シロが回収役。役割分担まで完璧だ。

(発想の方向性が完全に怪盗団なんだよなぁ……)

 作戦会議を終えた二人が、「いざ」と言わんばかりにこちらへ歩いてくる。
 試し焼きクッキーの皿は、俺の右斜め後ろ――つまり、俺が少しだけ体をひねらないと見えない位置にある。

 面白そうなので――ここは、あえてわざと引っかかったふりをしてやることにした。
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