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ぼっちと幼女と邪神
ぼっちと決着
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「悪いが、ここからは加減無しの全力だ」
そう口にしたところで、今の娘には届いていないだろう。
龍王の娘は完全に覚醒状態に入り、理性より本能が前に出ている。
まずは、いつも通り全身に身体強化を施す。
筋肉の一本一本に魔力を通し、骨の芯まで補強していく。その作業を進めているうちに、違和感に気づいた。
――魔力の下に、もう一層ある。
皮膚の内側、血管や神経の隙間をを縫うように、別種の力が張り付いている。
魔力にまとわりついた殻のようにも見えるそれは、外へ出たいとでも言うように、じわじわと滲み出そうとしていた。
クレバスが言っていた神気。多分、これだ。
俺の中の魔力を豆腐とするなら、神気は鋳鉄の塊だ。
柔らかい中に、やたら固くて重い何かが押し込まれている状態。そりゃあ、流れも詰まる。
とはいえ、扱えないと決まったわけじゃない。
魔力と同じ要領で意識を向け、そっと掬い上げるように動かしてみる。
……動いた。
「のじゃ……? 神気の供給が無くなったのじゃが……?」
後ろでクレバスがぽかんと口を開ける気配がする。
これまでは、漏れ出た神気をクレバスが吸い上げていたわけだが、その供給が止まったのだろう。
掬い上げた神気を、そのまま魔力のように流してみる。
全身へと巡らせ、身体強化に組み込んだ瞬間――
ドン、と目に見えない衝撃波が周囲へ広がった。
地面がわずかに沈み、近場の木々の枝葉が震える。
体の芯から力が湧き上がる感覚は、魔力のそれよりも一段階、質が違う。
「神気を自力で神力に昇華させおった!? もう何が起きてるのか分からんのじゃ……」
「儂も分からん……」
「にーに、もえてる!」
「……かっこいい」
どうやら外から見ても変化は明らからしい。
視線を落とすと、体の輪郭に沿うように淡い光が揺らめいている。炎というより、薄い膜のようなオーラだ。
何なのか分からないが、邪魔ではない。今はそれでいい。
「まあ、ヨシっ!!!」
ひとまずそう結論づけたところで、娘が再び口元に光を溜めた。
「【――――――】」
短い詠唱と共に、さきほどと同じブレスが吐き出される。
さっきよりも質量が上がっているのか、空間が微かに軋んだ。
迫りくる光線を、今度は魔力ではなく神力で包み込む。
拳を握るように意識を収束させると、ブレスは音もなく霧散した。
強力な力だ。用途を間違えなければ、これ以上なく便利だろう。
踏み込む。
一歩で間合いを詰め、腹部めがけて拳を叩き込む。
肉を貫いた手応えと同時に、娘の身体が大きく吹き飛んだ。
「ちっ、ガードされたか」
吹き飛びながらも、腕を差し込んで衝撃を殺したようだ。
神力の糸を伸ばすように意識を向けると、娘の身体がそちらに引き寄せられる。
折れた腕が、ぶらりと不自然な角度で揺れていた。
それでも立ち向かって来ようと、瞳の奥にはまだ火が残っている。
その腕に触れた部分は、さっきのように分解されていない。
この世の理から外れた力は、龍王の分解特性の対象外らしい。
検証は後だ。今は目の前の暴走を止める。
「……死ぬなよ」
小さく呟き、虚を突くように踏み込む。
防御の隙間を縫って、全力の回し蹴りを娘の頭部に叩き込んだ。
踵が確かに命中し、そのまま地面へと叩きつける。
鈍い衝撃音と共に土煙が大きく舞い上がった。
舞い散る土の向こうで、娘の気配がふっと途切れる。
「【蘇生魔法】」
念のため、即座に詠唱する。
脳裏に、冷たい声が響いた。
『命あるものには使用できません』
生きている、ということだ。
頭を吹き飛ばすつもりで蹴ったが、龍王の娘だけあって頑丈らしい。
「【完全回復】」
次いで、回復魔法を流し込む。
折れた腕、全身の骨に入った細かな亀裂、打撲や痣――目に見える損傷をまとめて治していく。
意識だけは、そのまま刈り取っておく。
しばらくは目を覚まさないだろう。
体の周囲にまとわりついていた光を意識的に解き、神力を押し込める。
オーラじみたものが消え、周囲の空気がようやく落ち着いた。
「サイガ、終わったぞ」
土煙が晴れた先で声をかけると、龍王はほっと息をついた。
「ああ、助かった。娘に世界は広い、ということを教えることができた。感謝する」
「シュウや、後で話したいことがあるのじゃ」
「分かった」
クレバスの呼びかけに軽く頷き、そこへ飛び込んでくる小さな影を受け止める。
「急に飛び込んで来たら危ないだろ?」
「にーに! しろ、へった!」
「ぼくも……」
シロが腹をさすり、ミドリも小さく頷く。
戦いを見ていた緊張も相まって、余計に腹が減ったのだろう。
空を見上げると、森の木々の上に茜色が広がっていた。
いつの間にか、日はだいぶ傾いている。
「さて、家に帰って飯にしよう」
腕の中の二人を抱え直す。
「儂はこれで帰るとするか……」
「飯でも食ってくか?」
「良いのか!?」
「構わんぞ? ただ、うちの食事は戦争だからな」
サイガが楽しそうに笑いながら、娘の身体を軽々と抱え上げる。
龍の姿と変わらない質量を、そのまま人型に押し込めているのだから、持ち運ぶ方も大概だ。
家の床には、念のため空間固定を重ねておく必要があるだろう。
龍王親子とクレバス、そして食い意地旺盛なシロとミドリ。
――いつもの三人に、厄介そうなのが二人増えた食卓。
どんな戦争になるかは、想像に難くなかった。
そう口にしたところで、今の娘には届いていないだろう。
龍王の娘は完全に覚醒状態に入り、理性より本能が前に出ている。
まずは、いつも通り全身に身体強化を施す。
筋肉の一本一本に魔力を通し、骨の芯まで補強していく。その作業を進めているうちに、違和感に気づいた。
――魔力の下に、もう一層ある。
皮膚の内側、血管や神経の隙間をを縫うように、別種の力が張り付いている。
魔力にまとわりついた殻のようにも見えるそれは、外へ出たいとでも言うように、じわじわと滲み出そうとしていた。
クレバスが言っていた神気。多分、これだ。
俺の中の魔力を豆腐とするなら、神気は鋳鉄の塊だ。
柔らかい中に、やたら固くて重い何かが押し込まれている状態。そりゃあ、流れも詰まる。
とはいえ、扱えないと決まったわけじゃない。
魔力と同じ要領で意識を向け、そっと掬い上げるように動かしてみる。
……動いた。
「のじゃ……? 神気の供給が無くなったのじゃが……?」
後ろでクレバスがぽかんと口を開ける気配がする。
これまでは、漏れ出た神気をクレバスが吸い上げていたわけだが、その供給が止まったのだろう。
掬い上げた神気を、そのまま魔力のように流してみる。
全身へと巡らせ、身体強化に組み込んだ瞬間――
ドン、と目に見えない衝撃波が周囲へ広がった。
地面がわずかに沈み、近場の木々の枝葉が震える。
体の芯から力が湧き上がる感覚は、魔力のそれよりも一段階、質が違う。
「神気を自力で神力に昇華させおった!? もう何が起きてるのか分からんのじゃ……」
「儂も分からん……」
「にーに、もえてる!」
「……かっこいい」
どうやら外から見ても変化は明らからしい。
視線を落とすと、体の輪郭に沿うように淡い光が揺らめいている。炎というより、薄い膜のようなオーラだ。
何なのか分からないが、邪魔ではない。今はそれでいい。
「まあ、ヨシっ!!!」
ひとまずそう結論づけたところで、娘が再び口元に光を溜めた。
「【――――――】」
短い詠唱と共に、さきほどと同じブレスが吐き出される。
さっきよりも質量が上がっているのか、空間が微かに軋んだ。
迫りくる光線を、今度は魔力ではなく神力で包み込む。
拳を握るように意識を収束させると、ブレスは音もなく霧散した。
強力な力だ。用途を間違えなければ、これ以上なく便利だろう。
踏み込む。
一歩で間合いを詰め、腹部めがけて拳を叩き込む。
肉を貫いた手応えと同時に、娘の身体が大きく吹き飛んだ。
「ちっ、ガードされたか」
吹き飛びながらも、腕を差し込んで衝撃を殺したようだ。
神力の糸を伸ばすように意識を向けると、娘の身体がそちらに引き寄せられる。
折れた腕が、ぶらりと不自然な角度で揺れていた。
それでも立ち向かって来ようと、瞳の奥にはまだ火が残っている。
その腕に触れた部分は、さっきのように分解されていない。
この世の理から外れた力は、龍王の分解特性の対象外らしい。
検証は後だ。今は目の前の暴走を止める。
「……死ぬなよ」
小さく呟き、虚を突くように踏み込む。
防御の隙間を縫って、全力の回し蹴りを娘の頭部に叩き込んだ。
踵が確かに命中し、そのまま地面へと叩きつける。
鈍い衝撃音と共に土煙が大きく舞い上がった。
舞い散る土の向こうで、娘の気配がふっと途切れる。
「【蘇生魔法】」
念のため、即座に詠唱する。
脳裏に、冷たい声が響いた。
『命あるものには使用できません』
生きている、ということだ。
頭を吹き飛ばすつもりで蹴ったが、龍王の娘だけあって頑丈らしい。
「【完全回復】」
次いで、回復魔法を流し込む。
折れた腕、全身の骨に入った細かな亀裂、打撲や痣――目に見える損傷をまとめて治していく。
意識だけは、そのまま刈り取っておく。
しばらくは目を覚まさないだろう。
体の周囲にまとわりついていた光を意識的に解き、神力を押し込める。
オーラじみたものが消え、周囲の空気がようやく落ち着いた。
「サイガ、終わったぞ」
土煙が晴れた先で声をかけると、龍王はほっと息をついた。
「ああ、助かった。娘に世界は広い、ということを教えることができた。感謝する」
「シュウや、後で話したいことがあるのじゃ」
「分かった」
クレバスの呼びかけに軽く頷き、そこへ飛び込んでくる小さな影を受け止める。
「急に飛び込んで来たら危ないだろ?」
「にーに! しろ、へった!」
「ぼくも……」
シロが腹をさすり、ミドリも小さく頷く。
戦いを見ていた緊張も相まって、余計に腹が減ったのだろう。
空を見上げると、森の木々の上に茜色が広がっていた。
いつの間にか、日はだいぶ傾いている。
「さて、家に帰って飯にしよう」
腕の中の二人を抱え直す。
「儂はこれで帰るとするか……」
「飯でも食ってくか?」
「良いのか!?」
「構わんぞ? ただ、うちの食事は戦争だからな」
サイガが楽しそうに笑いながら、娘の身体を軽々と抱え上げる。
龍の姿と変わらない質量を、そのまま人型に押し込めているのだから、持ち運ぶ方も大概だ。
家の床には、念のため空間固定を重ねておく必要があるだろう。
龍王親子とクレバス、そして食い意地旺盛なシロとミドリ。
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