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第3話「最も不人気な職業」

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 このゲームにはたくさんの職業がある。
 剣士、盗賊、弓使い、魔法使いなど王道はもちろんの事、スナイパーやテイマー、それに大盾使いといった変わった職業もあるのだ。

 理由としては、数年サービスが続いてきた故のプレイヤーを飽きさせないための策だろう。
 そしてこのゲームは一風変わった仕様が含まれている。
 今までリリースされていたゲームでは職業ごとに決まった固有のスキルがあり、レベルアップと共に得たスキルポイントでスキルを取得するのが一般的だった。
 しかしこのゲームでは職業ごとの専属スキルはあっても、固有のスキルはほとんどない。
 スキルの取得もレベルアップで得るスキルポイントを割り振るのではなく、自身がプレイをして得た経験だったり、何かイベントをこなしたらスキルが手に入るという仕様なのだ。

 そのおかげで皆いろんな事に挑戦してみようとプレイヤーのやる気を引き出す事に成功しており、相手がどのようなスキルを持っているかわからないためプレイヤー同士の戦いでも戦略の幅が広がった。
 他にも剣士なら大剣や太刀、それに片手剣など扱う武器で戦うスタイルは変わるし、魔法使いなら得意系統の伸ばし方で使う魔法が全然違ってくる。
 テイマーなんて仲間にするモンスターで正反対のスタイルにすらなってしまう。
 要はこのゲームは、プレイヤーの個性を引き出す事に優れているのだ。

 さて、予め職業については純恋に全て説明をしたが、そんな中で彼女はいったいどんな職業を選らんだのか――。

「――んっ……これでいいのかな……?」
『はい、転職の儀式は成功致しました。これからあなたは冒険者として旅に出る事になります。危険があなたに付きまとう事にはなりますが、この世界には誰も足を踏み入れた事がない秘境や、息をするのも忘れるくらい絶景な場所もあります。冒険者としての役目を全うしながら旅を楽しんでください。それでは、これからのあなたの旅路に幸あれ』

 儀式を終えた純恋はNPCに見送られながら俺の元へと戻ってくる。
 その手には杖が握られている事から彼女は魔法使い系の職業を選んだようだ。
 
「いったいどの職業にしたんだ?」
「えっとね……テイマーってのにしたよ。かわいい子と旅が出来たらいいなぁって」

 なんというか、純恋らしいな。
 戦力重視ではなくかわいいモンスターを仲間にしたいというところもそうだが、完全に目的が戦いではなく旅になっているところがなんとも純恋らしい。
 本人的にはあまり戦いたくないのだろう。

「いいんじゃないか。楽しくプレイするのがゲームなんだから、純恋の好きにすればいい」

 逆に本人が楽しくなければなんのためにゲームをしているのかがわからなくなる。
 純恋がガチ勢になる事はないだろうし、本人のやりたいようにしてくれればいい。
 もし何か困る事があれば俺がフォローするだけだ。

「えへへ、ありがと。でも……パートナーの子もらえなかったんだけど……私これからどうすればいいのかな……?」

 テイマーは最大三体までモンスターを連れて歩く事が出来る。
 基本は戦って倒したモンスターをスカウトして仲間にするのだが、そもそも仲間のモンスターがいなければテイマーは戦う事が出来ない。
 だから純恋は不安に思っているのだろう。

「大丈夫、最初の一匹目はガチャで手に入るから」
「ガチャってガチャガチャの事? ゲームにもガチャガチャがあるの?」

 ゲームに馴染みがない純恋にはゲームとガチャガチャが結びつかないようだ。
 ソシャゲこと、ソーシャルゲームをした事がある人間にとってはガチャ機能はもう馴染み深い物になっているだろう。
 そしてソシャゲではガチャが大人気だった事から、このゲームでもガチャ機能が備え付けられている。

 本来は課金をする事でガチャを回せるものなのだが、新規作成キャラは特別に一回だけ無料でガチャを回す事が出来るのだ。
 ガチャを回して手に入るのは基本何かしらのスキルになるのだが、テイマーはスキルの代わりにモンスターが手に入る。
 理由は言わずもがな、初心者テイマーに必要なのはスキルではなく戦ってくれるモンスターだからだ。

 課金をして回すものなだけあってガチャの中身もピンキリとなっており、運がよければかなり強力なスキルやモンスターを手に入れる事が出来る。
 何より、ソシャゲ同様リセマラが出来るようになっているのもいい要素だと思う。
 無課金プレイヤーでも頑張れば最初から強いキャラで始める事が出来るのだ。

 ちなみに俺とアテナはこのリセマラを凄く頑張った。
 いったいどれだけキャラを作り直したかなんて今ではもう覚えていない。
 というか途中から数えるのがめんどくさくなったのだ。
 それだけ何度も何度もキャラを作り直して苦労した。

 でも今回は、俺はリセマラをするつもりはない。
 サブだからというのもあるが、純恋は絶対にリセマラをしないだろうから待たせるような事はしたくないのだ。

「ガチャってどうすればいいのかな?」
「あぁ、それはちょっと待ってくれ。俺も転職をしてくるから」

 どうせなら一緒にやったほうが手間にならなくていい。

「あっ、うん、わかったよ。いってらっしゃい」
「うん」

 俺は純恋に頷くと、入れ替わるように集会所の受付嬢の元へと向かう。
 彼女は基本クエスト受注の手続きをするのが役目だが、転職の仲介役も行っている。

 ――さて、俺はどの職業にしようか。

 メインは素早さに特化した盗賊で、デュアルブレイドを武器とする所謂斬り族というのを使っている。
 だから、盗賊系統の職業を作るのが無難ではあるな。

 さすがに同じデュアルブレイドのキャラを作ってしまったら味気がないからしないが、他の盗賊系統の職業なら武器以外の昔作った強化装備を使い回す事が出来る。
 昔メインで使っていた強化装備を使い回せる職業でサブを作るというのはよく使われる手だ。
 費用がかさむ事なく高火力のキャラを作成出来るため、楽なのと楽しいというのが主な理由。

 しかし、今回は純恋がいるから火力に拘るのはよくない。
 ここで強化装備を身につける俺と一緒にプレイをさせてしまえば、あまりの火力の違いに純恋は楽しくなくなってしまうだろうからな。

 となると、盗賊職は避けたほうがいい。
 ちなみに、盗賊職を作って装備は昔の物を使い回さないようにするという手はなしだ。
 絶対にプレイしている途中で火力を求め始めて、最終的には昔の装備をサブに移動すると思うからな。
 今までサブを作った事はないが、火力を求め始めるのは目に見えている。

 自分の事は自分がよくわかっているのだ。 
 伊達にゲーム歴は長くない。

 人気職で考えると剣士や魔法使い系統がいいが、あまり人気職はプレイしたくない気持ちがある。

 ……別に性格がひねくれているとか、そういうわけではない。
 ………………本当だぞ?

 ……俺はいったい誰に言い訳をしているのか……。
 まぁ今はそんな事どうでもいい。
 それよりも今ここで考えないといけないのは純恋とプレイをする以上、彼女のスタイルに合わせる必要があるという事だ。
 テイマーは仲間にするモンスターによって攻撃特化型にも防御特化型にもなれるし、変わった能力を持ったモンスターばかりを仲間にする特殊型テイマーも存在する。

 今後純恋がどんなモンスターを仲間にするかはわからないが、彼女の性格上見た目のかわいいモンスターばかりを仲間にするだろう。
 先程もかわいい子と旅をしたいって言っていたしな。

 となると攻撃特化型でも防御特化型でもなく、バランス型か特殊型になる可能性が高い。
 その点を踏まえるなら、俺が選択しないといけないのは防御に特化した職業だ。

 なぜ防御に特化した職業にする必要があるのか。

 正直言うと、純恋はバランス型になる可能性が極めて高い。
 理由は、変わった能力を持つモンスターは仲間に出来る確率がかなり低いと言われているからだ。
 もう三年もプレイをしているが、特殊型のテイマーはほとんど見かけていないからその噂は本当なのだろう。
 となれば、ゲーム初心者の純恋が特殊系のモンスターを手に入れられるとは思えない。

 結論、バランス型になるだろうという事だ。

 しかし普通に考えると、純恋がバランス型になるのならわざわざ防御に特化した職業を選ばなくてもいいと思える。
 さてここで忘れてはいけないのが、純恋がゲーム初心者という事だ。
 防御特化ならまだしも、バランス型となればある程度の攻撃は喰らってしまう。
 そんな中ゲーム初心者の純恋がモンスターと戦ったとしたらどうなるか?

 ――めちゃくちゃ攻撃を喰らって即死するのが目に見えているだろ?
 だから防御特化の職業にして守ってやる必要があるのだ。
 それにもし俺の読みが外れて純恋が特殊型や防御特化型になったとしても、俺が防御特化になっている分に関してはさほど問題はない。

 特殊型テイマーなら逆に防御特化のパートナーとは相性がよくなるし、防御特化型のテイマーなら狩りに時間がかかる事になってしまうが安定した狩りを行う事が出来る。
 純恋はほのぼのとゲームをプレイしたいみたいだし、狩りに時間がかかっても別に気にしないだろうから、ここは防御特化の職業を選択するのがベストなのだ。

 ……とはいえ、防御特化の職業はあまり人気がないせいでかなり限られてくる。
 選択肢としては三つだろう。

 一つ目は純恋と同じテイマーを選び、防御特化型の道を選ぶ事。
 二つ目は魔法使いの中でも回復をメインとするが多彩な防御魔法やバフも持つプリースト。
 三つ目は本当に防御のみに特化した大盾使い。

 防御型のテイマーは職業自体が純恋と被るから避けたほうがいいだろう。
 プリーストに関しても俺のギルドには一人いるため、今後の事を考えると避けたほうがいい。

 ……まぁ彼女はプリーストなのにちょっと特殊過ぎる育て方をしているが、防御特化を目指すなら彼女をお手本にしたほうがいいため、絶対に被る事になる。
 多分彼女の性格上職業が被っても嫌がるどころか喜びそうな気もするが、ギルドのバランスを考えるとやめておくべきだ。

 となると最後の大盾使いだが……このゲームの中で、最も人気がない職業だ。

 理由は扱いがかなり難しいのと、攻撃スキルが皆無という事。
 一応通常攻撃で殴る事も出来るが、通常攻撃が通じるのは最初の5レべくらいまで。
 それからは通常攻撃だけで戦おうとすれば気が遠くなるほどの時間を使わなければならなくなる。

 だから通常大盾使いが狩りをする時は誰かのパーティに入れてもらうしかない。
 ソロ狩りをする人も多い中一人で戦えない職業はどうしても辛くなってくる。
 プリーストでさえ一応の攻撃スキルは持っているのに、どうして大盾使いには攻撃スキルがないのだろうか?

 ……もしくは大盾使いを選択する人が少なすぎて、攻撃スキルを誰一人として手に入れる事が出来ていないだけという事も考えられるが――あまり期待しないほうがいいだろう。
 いくら人気がない職とはいえ、このゲームは多くのプレイヤーがいるため攻撃スキルがあるなら誰かしらゲットしていそうだもんな。

 まぁでも、このキャラを使うのは純恋がプレイする時だけだろうし、彼女を守る事を目的にするなら大盾使いも悪くはない。
 それにマイナーで扱いが難しいというのはゲーマーとして燃える部分がある。
 となればだ、他の二職を避けたほうがいい以上俺が選ぶ道は一つしかないだろう。

「よし、大盾使いになろう!」

 ――自分の進む道が見えた俺は、このゲームで最も不人気な職を選ぶのだった。
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