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第4話「見た事もないモンスター」

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「じゃあこのアイコンをタッチしてみてくれ」

 メニュー画面を開いた俺は、ガチャマークが描かれているアイコンを指さす。
 これがスキルや装備を手に入れるために使われるガチャ機能だ。

 装備の中にもガチャは二種類あり、単純に戦うためにステータス補正がついている装備用のガチャと、攻撃効果などはないがキャラの見た目をよくするために使用される装備用のガチャだ。
 後者は戦うための装備の上から身に付けられる用になっており、上位陣は基本これも装備している。

 もちろんポイントでしかガチャが出来ないのであればプレイヤーは離れていくため、新規が一度ガチャを回せたように何処かの段階でガチャを回せたり、イベントで回せたり出来るようにもなっていた。
 他にも課金をしなくてもゲーム内でポイントを手に入れる方法もあるし、ガチャで出る装備と種類は違うがゲーム内のお金で装備も買える。
 それに、スキルに関してはガチャよりも経験やイベントがメインになるから、重課金をしなくても十分このゲームを楽しめようになっているのだ。

「これだね――えいっ!」

 純恋は自分のメニュー画面を開くと勢いよくガチャマークをタッチする。
 何処かはしゃいでいるように見えるのはそれだけ楽しみだという事だろうか? 
 ここ最近一緒に遊ぶ事がなかったためはしゃいでいる純恋は新鮮だ。
 これから行うガチャでいい物が出て、このはしゃぎようが継続してくれればいいのだが。

 コンマ数秒後、純恋の姿が俺の前から消え去った。
 入手した装備やスキルが他のプレイヤーにバレないようガチャ専用ステージに行ったのだ。

 俺は純恋の後を追うようにガチャマークをタッチする。
 まぁプレイヤーが鉢合わせしないよう別空間に飛ばされるから、同じガチャステージでも純恋と鉢合わせをする事はないんだけどな。

 俺にしか聞こえないガチャステージへ移動するというアナウンスが流れ、すぐに視界が一変する。
 街中だった風景はなくなり、代わりに質素な電子が渦巻く空間になっていた。
 目の前には見上げるくらい大きなガチャガチャ機が置いてある。
 確か七メートルくらいあったはずだ。

『取り扱い方法の説明を希望されますか?』

 声を掛けられたほうを向けば、スーツに身を包む二十歳くらいの綺麗なお姉さんが立っていた。
 残念な事にこれはNPCだ。
 ガチャに関する説明と使用するための手続きを行うのが彼女の主な仕事。

「いや、いいよ。はい、メダル」

 ガチャの使用方法は今更聞くまでもない。

 俺はアイテムウィンドウからメダルを取り出すとそのまま彼女に手渡した。
 このメダルは本来ならポイントで買わないといけないものだが、新規キャラクターにはゲーム開始と同時にアイテムウィンドウに格納されている。
 メダルを使ってガチャを回すあたりが如何にもガチャガチャらしい。

『それでは始めてもよろしいでしょうか?』
「あぁ、頼むよ」
『かしこまりました。では――』

 手続き役のNPCの手から一瞬でメダルが消え去る。
 それと同時に、目の前のガチャガチャ機が大きな音を立てて稼働し始めた。

 今まで何度もした事があるのに、どうしてガチャガチャをする時はこうも胸が高鳴るのだろう。
 いったいどんなスキルが手に入るのか。
 強いスキルが手に入る確率なんて高くないのに、どうしても期待をしてしまった。

 ガチャガチャ機のハンドルが三周回った時、《ガチャッ!》という音ともにガチャガチャ機は止まった。
 ゴロゴロと何かが中から転がってくる。

 ――音が大きくなるに連れて見えてきたのは、銀色に光り輝くカプセルだった。

 それを見た瞬間、安堵ともに少し落胆してしまう。
 銀色という事は当たりでも外れでもない極めて普通のスキルだという事だからだ。

 ちなみに外れは銅色で当たりは金色となる。
 銅色じゃなかっただけいいが、欲をいえば金色が欲しかった。
 金色のスキルは強くて優秀なスキルが多いからな。

 でもまぁ、金色のカプセルが出る確率は五パーセントしかないから仕方がないか。
 確か銅色が三十五パーセントで、銀色がほぼ・・六十パーセントだったはずだ。

 確率的に見ても可もなく不可もなくといった結果といえるだろう。
 さて、肝心の中身だが――。

《スキル:【コンボの盾】を取得しました》

「……なんだこれ?」

 メッセージウィンドウに表示された聞き馴染みのないスキル名を見て思わぬ首を傾げる。

 コンボという事は連続させる事によってボーナス効果がつきそうな名前だが――うん、やっぱりそうか。
 スキル説明を見たところ、予想した通り盾の防御を連続で成功させる事によって防御力が上がっていく効果みたいだ。
 一度でも防御を失敗したら防御力は元通りになってしまうようだが、思ったよりも当たりスキルだったかもしれない。
 少なくとも俺とは相性がよさそうだ。

『お戻りになられますか?』

 スキルの確認も済んだため帰還用のアイコンをタッチすると、NPCが話し掛けてきた。

「うん、元いた場所に戻してくれ」
『かしこまりました。またのお越しを心からお待ちしております』

 深く下げられた頭を眺めていると、俺の体を光が包み始め、また一瞬で景色が変わった。
 中世のヨーロッパ風の建物に囲まれている事から元の位置に戻ったのだろう。

 純恋は……まだいないな……?
 多分ガチャの説明とかを受けているのだろう。
 あまり時間はかからないだろうが、慣れていないから色々と戸惑っている姿が目に浮かぶ。

 ――数分後、辺りの空気が変わったと思ったら純恋が姿を現した。
 その腕には赤ん坊サイズの何かを抱えている。
 どうやら無事にモンスターを手に入れたようだ。

 しかし……なんだ?
 純恋が抱えるモンスターは現実でいう猫のようなものに見える。
 唯一違うのは背中に白い羽が生えている事か。

 俺は今までたくさんのテイマーと戦ってきたし、予め対策を打てるようにテイマーが扱えるモンスターはあらかた押さえている。
 もちろん全ては把握出来ていないが、ガチャで手に入るモンスターに限っては全て押さえていたはずだ。

 なのに――俺はこのモンスターを知らない。

 しかもどう見ても戦えるようには見えないのだが……いったいどういう事だろうか?
 俺は自分が見た事もない弱そうなモンスターを純恋が連れている事に疑問を浮かべるのだった。
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