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第1章 転生王女
第5話 専属護衛
セレスティアは小さな胸の鼓動が速まるのを感じていた。王宮の大広間に差し込む朝の光が白い床を照らし、荘厳な空気が張りつめている。その中心で、少年騎士ルークが片膝をつき、静かに頭を垂れていた。
王命が告げられる。
「勇者の末裔ルーク。今日よりセレスティア王女殿下の専属護衛騎士に任ずる。」
周囲がざわめき、セレスティアの胸に温かいものが広がった。外面は落ち着いた微笑みを浮かべたまま、自らを律する。だが内心では穏やかではいられない。
(やっと……推しが私の隣に立つのね。)
彼女は深呼吸して心を落ち着かせ、優雅に歩み出た。視線を上げたルークと目が合う。少年の表情は真剣で、どこか誓いを口にする前の緊張が滲んでいた。
「ルーク。これからもよろしくお願いいたします。」
柔らかい声音で告げると、ルークは一瞬だけ目を見開き、深く頭を下げた。頬にわずかに赤みが差す。声は低く、誠実さがそのまま形になったようだった。
「命をかけて、殿下をお守りいたします。」
その言葉は、まだ幼さの残る顔立ちには似つかわしくないほど強い決意を帯びていた。
セレスティアは微笑んだ。唇の端にだけそれを乗せ、感情を抑えた穏やかさを保つ。
「私も、あなたを信じております。」
ルークの肩がわずかに震えた。誓いの言葉を受け取った緊張と、胸の奥に湧いた何かを押し殺すような仕草だった。
侍女のカミラが、後ろで小さくため息をついた。微笑ましいものを見る時の穏やかな気配が背後から伝わってくる。
「殿下とルーク様は、相変わらず距離が近いですね。」
小声のつもりなのだろうが、セレスティアにはしっかり聞こえる。思わず視線をそらしそうになったが、なんとか外面の王女を維持した。
(距離が近いのは……仕方ありませんわ。だってこれは、あの悲恋へと繋がる大切な工程なのだから。)
そこに胸が痛むどころか、むしろ甘い期待すらある。自分の内側に宿る“転生者の黒い歓喜”を押し込み、上品さを崩さずに彼を見つめる。
ルークは立ち上がり、静かに彼女の後ろに位置取った。その動作は迷いがなく、王女を守るための最適な場所を熟知しているかのようだった。
「殿下、これからのご予定をお知らせいただけますか。」
声音は落ち着いているが、どこか緊張が残っている。彼がまだ幼いことを思えば、その一生懸命さが愛おしいほどだった。
「ええ。今日は書庫で学びがございますので、ご同行いただけますか。」
お願いする形で告げると、ルークは静かに頷いた。
「もちろんです。どこであれ、私は殿下をお守りいたします。」
その声を聞いた瞬間、セレスティアの胸の奥に小さな灯がともる。
(ああ……この子が、あの“誰よりも深く傷つく勇者”になるのね。)
未来を知る者だけが抱く複雑な胸の甘さを噛みしめながら、彼の後ろに立つ気配を楽しむ。
侍女は微笑ましそうに二人の様子を見ていた。
「本当に仲がよろしいのですね、殿下。」
セレスティアは穏やかに笑み返し、控えめに首を振る。
「私はただ、ルークを信頼しているだけです。」
ルークはその言葉に視線を落とし、そっと息を吸い込んだ。感情を抑えようとするほど、胸が熱くなっているのが分かる。
そのわずかな震えを、セレスティアは見逃さなかった。
(大丈夫よ。あなたはこれから、もっと私を求めるようになる。)
外面の王女は静かに歩き出す。
内側の転生者は──推しとの未来が動き出す音に震えていた。
この日、王女専属の護衛騎士となった少年は、まだ知らない。
自分が生涯を捧げる相手が、すでに“推しとして心を寄せている”存在だということを。
王命が告げられる。
「勇者の末裔ルーク。今日よりセレスティア王女殿下の専属護衛騎士に任ずる。」
周囲がざわめき、セレスティアの胸に温かいものが広がった。外面は落ち着いた微笑みを浮かべたまま、自らを律する。だが内心では穏やかではいられない。
(やっと……推しが私の隣に立つのね。)
彼女は深呼吸して心を落ち着かせ、優雅に歩み出た。視線を上げたルークと目が合う。少年の表情は真剣で、どこか誓いを口にする前の緊張が滲んでいた。
「ルーク。これからもよろしくお願いいたします。」
柔らかい声音で告げると、ルークは一瞬だけ目を見開き、深く頭を下げた。頬にわずかに赤みが差す。声は低く、誠実さがそのまま形になったようだった。
「命をかけて、殿下をお守りいたします。」
その言葉は、まだ幼さの残る顔立ちには似つかわしくないほど強い決意を帯びていた。
セレスティアは微笑んだ。唇の端にだけそれを乗せ、感情を抑えた穏やかさを保つ。
「私も、あなたを信じております。」
ルークの肩がわずかに震えた。誓いの言葉を受け取った緊張と、胸の奥に湧いた何かを押し殺すような仕草だった。
侍女のカミラが、後ろで小さくため息をついた。微笑ましいものを見る時の穏やかな気配が背後から伝わってくる。
「殿下とルーク様は、相変わらず距離が近いですね。」
小声のつもりなのだろうが、セレスティアにはしっかり聞こえる。思わず視線をそらしそうになったが、なんとか外面の王女を維持した。
(距離が近いのは……仕方ありませんわ。だってこれは、あの悲恋へと繋がる大切な工程なのだから。)
そこに胸が痛むどころか、むしろ甘い期待すらある。自分の内側に宿る“転生者の黒い歓喜”を押し込み、上品さを崩さずに彼を見つめる。
ルークは立ち上がり、静かに彼女の後ろに位置取った。その動作は迷いがなく、王女を守るための最適な場所を熟知しているかのようだった。
「殿下、これからのご予定をお知らせいただけますか。」
声音は落ち着いているが、どこか緊張が残っている。彼がまだ幼いことを思えば、その一生懸命さが愛おしいほどだった。
「ええ。今日は書庫で学びがございますので、ご同行いただけますか。」
お願いする形で告げると、ルークは静かに頷いた。
「もちろんです。どこであれ、私は殿下をお守りいたします。」
その声を聞いた瞬間、セレスティアの胸の奥に小さな灯がともる。
(ああ……この子が、あの“誰よりも深く傷つく勇者”になるのね。)
未来を知る者だけが抱く複雑な胸の甘さを噛みしめながら、彼の後ろに立つ気配を楽しむ。
侍女は微笑ましそうに二人の様子を見ていた。
「本当に仲がよろしいのですね、殿下。」
セレスティアは穏やかに笑み返し、控えめに首を振る。
「私はただ、ルークを信頼しているだけです。」
ルークはその言葉に視線を落とし、そっと息を吸い込んだ。感情を抑えようとするほど、胸が熱くなっているのが分かる。
そのわずかな震えを、セレスティアは見逃さなかった。
(大丈夫よ。あなたはこれから、もっと私を求めるようになる。)
外面の王女は静かに歩き出す。
内側の転生者は──推しとの未来が動き出す音に震えていた。
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どうぞよろしくお願いいたします。