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第36話 透明な日々のなかで(前半)
「……怒ったり、泣いたり、そういうのが、もう何年もないんです」
村井 啓介(むらい・けいすけ)、37歳。
中堅の製造系企業に勤める総務担当。
穏やかで常識的な物腰の、いわゆる“ちゃんとしている人”。
「ちゃんと仕事して、家に帰って、飯食って、寝る。
休みの日は掃除して、洗濯して、買い出しして……
でも、何してても“ふーん”とか“まあ、そんなもんか”ってしか思えなくて。
驚いたり、嬉しかったりすることが、もうほとんどないんです」
梓は、彼の顔を見ながら静かに相槌を打つ。
「毎日が“無事”には過ぎていくんですけど、
“生きてる感じ”がしないというか……
たぶんこれが鬱とかだったら、もうちょっと自覚あると思うんです。
でも俺、ちゃんと寝れてるし、食べれてるし、仕事もできてる」
「……それなのに、空っぽな感じがするんですね」
「そうなんです。
……なんていうか、“透明な水槽の中”にいるみたいな感覚です。
まわりは動いてるのに、自分だけ止まってるみたいな」
“静かな絶望”とでも呼ぶべきその語り口は、
誰にも迷惑をかけず、誰にも助けを求めず、
ただ、淡々と語られる。
「最近、誰かと話してても、“それ、楽しいの?”とか思ってしまって。
俺だけ、みんなとズレてるんじゃないかって……
でも、“つまらない”わけじゃないんです。
ただ、“何も起こらない”感じ」
梓は、少しの沈黙のあと、そっと口を開く。
「“感じなくなっている”ということに、
気づけているのは、とても大切なことだと思います」
村井は、少しだけ目を細めた。
「……怒ったり、泣いたり、そういうのが、もう何年もないんです」
村井 啓介(むらい・けいすけ)、37歳。
中堅の製造系企業に勤める総務担当。
穏やかで常識的な物腰の、いわゆる“ちゃんとしている人”。
「ちゃんと仕事して、家に帰って、飯食って、寝る。
休みの日は掃除して、洗濯して、買い出しして……
でも、何してても“ふーん”とか“まあ、そんなもんか”ってしか思えなくて。
驚いたり、嬉しかったりすることが、もうほとんどないんです」
梓は、彼の顔を見ながら静かに相槌を打つ。
「毎日が“無事”には過ぎていくんですけど、
“生きてる感じ”がしないというか……
たぶんこれが鬱とかだったら、もうちょっと自覚あると思うんです。
でも俺、ちゃんと寝れてるし、食べれてるし、仕事もできてる」
「……それなのに、空っぽな感じがするんですね」
「そうなんです。
……なんていうか、“透明な水槽の中”にいるみたいな感覚です。
まわりは動いてるのに、自分だけ止まってるみたいな」
“静かな絶望”とでも呼ぶべきその語り口は、
誰にも迷惑をかけず、誰にも助けを求めず、
ただ、淡々と語られる。
「最近、誰かと話してても、“それ、楽しいの?”とか思ってしまって。
俺だけ、みんなとズレてるんじゃないかって……
でも、“つまらない”わけじゃないんです。
ただ、“何も起こらない”感じ」
梓は、少しの沈黙のあと、そっと口を開く。
「“感じなくなっている”ということに、
気づけているのは、とても大切なことだと思います」
村井は、少しだけ目を細めた。
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