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間奏
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間章:静かな夜に、交わす苦味
「……ここ、空いてるんだよ。外に出入りしてる奴が少ない部署だから」
長谷川が選んだのは、都内のとあるビルの上階にある静かな個室居酒屋だった。
防衛省の中でも人事系の“裏方”に徹している彼らしい、外に漏れない場所。
扉を閉めれば、そこはまるで世界から切り離された静かな水槽のようだった。
「元気そうだな、お前」
「そう見えるなら、あなたの目が節穴ってことね」
「……安心したわ、ちゃんと毒舌健在で」
乾杯のグラスが静かに鳴った。
料理にはあまり手を付けず、代わりに酒が進む。
ふたりの間に漂う空気は、張ってはいないが、緩んでもいなかった。
「カウンセリング、続いてるんだな。
俺は正直……お前がああいうことに向いてるとは、思ってなかった」
「私もそう思ってる」
梓があっさり認めると、長谷川は吹き出しそうになった。
「……なんだよ、それ」
「でも、感情がわからないっていうのは、
案外、冷静に観察するには向いてるのよ。
“こうあるべき”に飲まれずにすむから」
「なるほどな。俺は……いまだに、“こうあるべき”で人を選んでる側だよ。
人事って、そういう部署だから。
“弱すぎる奴は、使い物にならない”。
そう判断せざるを得ないこともある」
長谷川の目が、グラスの底を見つめていた。
梓は黙っていた。
“分かる”とも、“それは違う”とも、言わなかった。
「でもな。
あの頃、隊で共にいた奴らを思い出すと、
“弱かったから”じゃなくて、“優しすぎたから”沈んでいった気もするんだ」
「優しさは脆さになる。
でも、強さにもなるはずだった。
……使い方を、教えられなかっただけで」
ふたりの声が、交互に小さく響いては、消えていく。
「なあ、梓」
「なに?」
「お前……いつまで“あのとき”にいるんだ?」
その問いに、梓はすぐには答えなかった。
代わりに、グラスに残った酒を一気に飲み干す。
「……さあ。
でも、今日を生きる理由の一部には、なってると思う」
「……なら、まあ、いいか」
長谷川の苦笑に、ふたりの時間が少しだけ緩む。
静かな夜だった。
けれど、何も起こらないその夜こそが、
言葉よりも多くの思いを交わしていた。
「……ここ、空いてるんだよ。外に出入りしてる奴が少ない部署だから」
長谷川が選んだのは、都内のとあるビルの上階にある静かな個室居酒屋だった。
防衛省の中でも人事系の“裏方”に徹している彼らしい、外に漏れない場所。
扉を閉めれば、そこはまるで世界から切り離された静かな水槽のようだった。
「元気そうだな、お前」
「そう見えるなら、あなたの目が節穴ってことね」
「……安心したわ、ちゃんと毒舌健在で」
乾杯のグラスが静かに鳴った。
料理にはあまり手を付けず、代わりに酒が進む。
ふたりの間に漂う空気は、張ってはいないが、緩んでもいなかった。
「カウンセリング、続いてるんだな。
俺は正直……お前がああいうことに向いてるとは、思ってなかった」
「私もそう思ってる」
梓があっさり認めると、長谷川は吹き出しそうになった。
「……なんだよ、それ」
「でも、感情がわからないっていうのは、
案外、冷静に観察するには向いてるのよ。
“こうあるべき”に飲まれずにすむから」
「なるほどな。俺は……いまだに、“こうあるべき”で人を選んでる側だよ。
人事って、そういう部署だから。
“弱すぎる奴は、使い物にならない”。
そう判断せざるを得ないこともある」
長谷川の目が、グラスの底を見つめていた。
梓は黙っていた。
“分かる”とも、“それは違う”とも、言わなかった。
「でもな。
あの頃、隊で共にいた奴らを思い出すと、
“弱かったから”じゃなくて、“優しすぎたから”沈んでいった気もするんだ」
「優しさは脆さになる。
でも、強さにもなるはずだった。
……使い方を、教えられなかっただけで」
ふたりの声が、交互に小さく響いては、消えていく。
「なあ、梓」
「なに?」
「お前……いつまで“あのとき”にいるんだ?」
その問いに、梓はすぐには答えなかった。
代わりに、グラスに残った酒を一気に飲み干す。
「……さあ。
でも、今日を生きる理由の一部には、なってると思う」
「……なら、まあ、いいか」
長谷川の苦笑に、ふたりの時間が少しだけ緩む。
静かな夜だった。
けれど、何も起こらないその夜こそが、
言葉よりも多くの思いを交わしていた。
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