届かない声のそばで ― 元自衛官カウンセラー・篠原梓の傾聴録

藤原遊

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第46話 “何かを残さなきゃ”と思ってしまう(前半)

「なんだか、“今年も何もできなかったな”って、そればっかり考えてしまって」

三谷 直哉(みたに・なおや)、38歳。
都内のIT企業に勤める中間管理職。
真面目で、責任感が強く、周囲からも「信頼できる人」と評されている。
けれど、彼の言葉には、どこか追い詰められたような疲労感がにじんでいた。

「部署の成果も、自分の評価も……別に悪くないんです。
 でも、“これが自分の人生に残るものか?”って思うと、
 どうにも、空っぽな気がして」


“何も残せなかった”という感覚は、
ときに実際の成果とは関係なく、人をむしばむ。
それは、誰かと比べた結果ではなく、
“自分の中の基準”に届かなかったという、静かな自己否定だった。

「“何かを残さなきゃいけない”と感じるのは、どんなときですか?」

「……年末とか、誕生日とか、節目になると特に。
 SNSで“今年の成果”をまとめてる人を見ると、
 自分はただ“過ぎただけの1年”だったなって、焦ってしまって」


三谷は、「できていない自分」を、
誰かが責めてくるわけでもないのに、
自分自身の内側から、絶えず責められているように感じていた。

「“ちゃんと生きてる”って、どこで証明できるんでしょうか。
 仕事もしてるし、家庭も壊れてないし、大きな失敗もしてない。
 でも……何か、大事なことをずっとやり残してる気がして、
 そのことに、もう何年も苦しくなってるんです」


「“何かをしていないと、存在している意味がない”」
そんな言葉が、彼の背後に見え隠れしているようだった。
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