不要とされた私が、拾われた先で人生を立て直すまで

藤原遊

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第18話 季節が移る

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夏の終わりは、はっきりとした区切りを持たない。
ただ、水車の回る音が少し低くなり、朝の空気にわずかな冷えが混じり始めた頃、セシリアは畑に立つ時間が長くなっていることに気づいた。

水路沿いを歩いていると、ロイが帳面を抱えて近づいてくる。
夏の間に使っていたものとは違う、新しい帳面だった。

「そろそろ、準備を始めようと思って」

そう言って、彼は表紙を軽く叩く。

「収穫の、ですか」

「はい。今年は、ちゃんと残します」

去年のように、終わってから感覚だけで振り返るのではなく、量として残す。その意図は、説明されなくても伝わった。
ロイは帳面を開き、畑の名前を書き込んでいく。まだ白いページが多いのに、迷いはなかった。

少し離れた場所では、木材を運ぶ人たちが動いている。
倉の一角を広げ、仕切りを作る作業だ。

「ここは、税として納める分を置く場所にしましょう」

ロイが声をかけると、誰も驚かなかった。

「じゃあ、こっちは村で使う分だな」
「粉にした麦は、別にした方がいい」

自然に役割が分かれ、作業が進んでいく。
誰かの指示を待つ様子はない。

セシリアは、その流れを少し離れた場所から見ていた。
自分が細かく決めた覚えはない。それでも、必要な場所に必要な準備が整っていく。

「動きが早いですね」

そう声をかけると、ロイは肩をすくめた。

「夏の間に、だいたい分かりましたから。どこが詰まりやすいかとか、どこを先に片づけた方が楽かとか」

経験を重ねた者の、静かな言葉だった。

水車小屋の前には、粉を詰めた袋が並び始めている。
量はまだ多くないが、置き場所はきちんと決まっている。

「去年は、この辺り、結構混んでましたよね」

「ええ」

「今年は、そうならないと思います」

言い切りではない。けれど、確かな手応えがあった。

夕方になると、畑を渡る風が少し冷たくなる。
空は高く、雲の動きもゆっくりだ。

「もうすぐ、秋ですね」

ロイの言葉に、セシリアは静かに頷いた。

夏は、大きな変化を見せずに終わっていく。
けれど、帳面が用意され、置き場が決まり、人がそれぞれの役割を理解して動いている。その積み重ねが、次の季節を迎える準備になっていた。

夏は、確かに終わりへ向かっていた。
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