【完結】前世で教祖(ペテン師)してましたが、転生後「聖女」になって崇められてます

藤原遊

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第2話:信じる者が救われて、信じさせた私は困ってる

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それは、午後のことである。

お告げ三件、癒しの祈祷が五件、子供たちの「花が咲かないからどうにかして」案件が一件。
正直、午前中で脳のメモリはいっぱいだった。神経じゃない。完全に物理的なキャパの話だ。

祈っただけで奇跡が起きるとか言われるけど、祈る側の疲労とか無視されてるよね。信仰以前に人権の話では? などと考えていた時だった。

 

「……マリア様、少しお時間をいただけますか?」

 

声の主は、クラリスだった。

今日はめずらしく筆記用具を持っていない。手は膝の上、姿勢は正しく、でも、どこか不安げだった。

ああ、これは何かあるパターンのやつだ。前世の経験が教えてくれる。そういうときに限って面倒事は2倍、時に3倍になる。

でも、ここで無視するとあとが怖い。信仰は信頼と紙一重。私が軽く扱えば、クラリスは自分を“罪深い者”だと思って床に伏すだろう。マジで。前科あるから知ってる。

 

「うん、いいよ。どうしたの?」

 

すると、彼女は少しだけ目を伏せた。

 

「……私……今日、ひとつ気づいてしまって……それが、間違いじゃないかどうか……確かめたくて」

 

……なんだろう、それ。嫌な予感がする。

こういう「気づき」は、たいてい宗教が一度崩れるときに起きる。
布教って、思考停止とセットじゃないと維持できないから。

 

「私……」

彼女は、言葉を探すように一度呼吸を整えた。

 

「……マリア様のお言葉を、すべて神の導きだと思っていました。
でも、今日……その“お言葉”が、誰かを苦しめているかもしれないって、初めて……思ったんです」

 

……ああ。なるほど、そう来たか。

 

「先日、お告げを受けた少年がいたでしょう? “焦らず進め”とおっしゃったあの子です」

「ああ、うん。なんか緊張してた子ね」

「彼、お告げを守りすぎて、村の競技会でまったく走らなかったんです。
“焦っちゃダメだ、ゆっくり歩け”って……皆の足を引っ張って、今、すごく落ち込んでいて……」

 

……いや、うん、うん。そりゃそうだよね。
私もそれ聞いて思ったもん。**“それはやりすぎ”**って。

 

「……私、何を信じればよかったんでしょう。
“お言葉”を信じたのに、誰かが傷ついて……それでも、間違ってなかったって思うべきなんでしょうか……?」

 

クラリスの声が、震えていた。
純粋な目が揺れていて、でも、それでも崩れまいと踏ん張っていた。

 

その姿に、私は――ちょっとだけ、心が痛んだ。

正直に言えば、「お告げ」はただの適当だった。
前世で培った話術と、間の取り方と、言葉の“強弱”で組み上げた、ハリボテの慰め。
中身は空っぽ。奇跡が起きたのは偶然か、あるいは……誰かの“勘違い”の力だ。

でも、クラリスはそれを本気で信じていた。
私を、神の代弁者だと思っていた。

 

「クラリス」

私は声を落として、彼女の目を見る。
教祖時代の“視線の合わせ方”を意識して、でも、言葉は……少しだけ本心を混ぜた。

 

「私は、神じゃない」

 

彼女の目が、見開かれる。

 

「“お言葉”はね、全部が全部、正解じゃないかもしれない。
だから、迷った時は……信じた自分を、信じていい。
信仰は、誰かにすがるだけじゃなくて、自分を認めることでもあるんだよ」

 

――あ、これ、うまいこと言ったな。
ちょっと感動的な空気が出てしまったけど、まあ、いいか。

 

クラリスはしばらく沈黙したあと、ほっと息をついて、涙をこぼした。

 

「ありがとうございます……マリア様……。
やっぱり、私は……信じていいんですね……!」

 

うん。
……たぶん、クラリスが信じてるのは、私じゃなくて、「信じられる自分」なんだと思う。

 

だけど、それでいい。
誰かの中で、“信じること”が前を向く力になるなら。

 

──まあ、私は今も“聖女”の座を降りたくて仕方ないけどね。
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